東方半獣録   作:幻想郷のオリオン座

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21の尾

「ふん、他愛ないね」

 

予想は出来ておったが、やはり百鬼夜行程度では止まらぬか。

頭数を揃えた程度であやつを止めることは不可能。

それは、先んじて行なわれた天狗達の襲撃で明白じゃった。

 

じゃが、あやつの実力を百鬼夜行を通して理解できた。

あらゆる方向からの襲撃を、あやつは全て退けた。

呼吸1つ乱すこと無く、すました顔のまま。

 

かの人格が出ておらぬと気も実力は明白ではあったが…

ここまで突出した実力を見せられるとは思わなかったのぅ。

身体能力の面でも、儂では足下にも及ぶまい。

 

「さ、この程度かな?」

「まさか」

 

さて、困ったのぅ…儂は妖気を操る能力を持つ。

相手によっては、この能力だけで無効化出来るほどに強力ではある。

格下ならば相手の妖気を操り、無効化する事も可能じゃが…

 

あやつからは妖気の他にも、様々な気を感じる。

この気の中で、ただ妖気を封じたところで足止めにもならぬ。

しかし止めねばならない…何か手立ては。

 

「ふ!」

「っ!」

 

やはり動きが速い…じゃが、奴には躊躇いがある!

儂を殺さぬように立ち回っておるのじゃろう。

先の攻撃じゃって、本気であれば確実に当てられたはず。

じゃが、奴の動きは大きく減少。そのお陰で回避が出来た。

やはり予想通り、こやつは最初から儂を殺すつもりは無い!

 

「逃げ足だけは速いんだね」

「ふん」

 

白々しいのぅ…捉えようと思えば最初から捉えられたじゃろうに。

じゃが、この躊躇いは多少ながら利用できそうじゃな。

 

「ま、逃がさないけど!」

「罠はまだまだ仕込んでおるぞ!」

「ん?」

 

彼女を誘導し、仕掛けていた拘束の術式が発動した。

とは言え、一瞬しか拘束出来なかったが…

 

「無駄だね!」

「く!」

 

駄目じゃ、このままだと追い込まれる!

やはり儂1人では不味いか…

 

「ん? 結界?」

 

あわや儂に攻撃が届きそうになった時、彼女の周囲を結界が覆った。

儂の罠では無い。そもそも、儂は結界の術式など知らぬ。

結界にはいくつか種類があるとは言うが、このタイプの結界を扱えるのは…

博麗の巫女? それとも、幻想郷の賢者? いや違う、この結界を張ったのは

 

「全く随分と無茶をするな、単身でフィルに挑もうなんて」

「儂と同じ九尾…」

「初めましてになるかな、西居 英子殿。

 私は幻想郷の賢者、八雲紫様の式、八雲 藍だ。以後お見知りおきを」

「では、主がフィルが言っていた九尾か…」

「私の話をフィルはして居たのか、それは嬉しいな」

 

八雲 藍…幻想郷の賢者の式…儂と同じ九尾ではあるが

実力は儂より上じゃな…雰囲気や立ち振る舞いで分かる。

彼女は儂よりも力の扱いに長けておる…

 

「っと、藍さんまで出て来たか、これは予想外」

 

フィルは藍殿が展開した結界を無理矢理こじ開けた。

やはり色々と規格外じゃ、あれだけの結界に封じられても無意味か。

 

「じゃあ、2対1で戦うか、でも藍さん。また無茶をするね。

 君は暴走をしたフィルに負けているんだぜ?

 冷静さを欠いていたフィルに破れているというのに

 その時のフィルよりも強力な僕の前に立つなんて。

 君も結構な無茶だよね、身の程は知れた筈なのに」

「今までお前に挑んで来た妖怪は、全て身の程を知ってる。

 それでもなお、全員お前の為に立ち向かったんだ。

 私が身の程を知った程度で逃げる情け無い奴と思うか?」

「諦めるのも、たまには大事だと思うね、僕は」

「なら諦めるんじゃな、主が何を言おうと儂らは止まらぬぞ」

「やれやれ、あぁ本当に…馬鹿ばかりだよ!」

 

藍殿が合流してくれたお陰で、もう少し時間が稼げそうじゃ。

時間を稼ぐ。儂らにできるのはそれだけ。

僅かでも良い、時間さえ稼げれば、それだけで良い!

 

「フィル! 止めて!」

「ん? おや橙、君も来たか」

「橙、分かってるわよね?」

「はい、藍様!」

 

あんな小さな子も…そう、例え無茶でも時間を稼がねばならない。

何より、現状から考えてもフィルは誰も殺さない。

些細な戦力でも良い…足止めをするためならとにかく数を揃えるしかあるまい。

 

「無謀すぎるよ全くね!」

「くぅ!」

 

フィルの動きに対処するのは困難…ただ逃げる事すら出来ぬじゃろう。

あやつほどの速度で動ける相手、背を見せればやられる。

彼女の前に立った地点で、我らに逃走の二文字はない。

正面から攻撃を受け止める事しか出来ない。

 

「うぅ、ら、藍様…フィルが強すぎるよ…私達じゃ」

「大丈夫、紫様達を信じて!」

「何か仕掛けておるのか?」

「紫様は色々な手立てを考えてくれている。私達の補助だって手を打ってくれてる」

「補助? ぬぉ!」

「はは、少し速くなったね」

 

補助…儂らへの支援をしてくれていると?

そう言えば、彼女が来てから少しだけ力が溢れている気がする。

最初よりも僅かに速度が上がっておる。じゃが、この程度ではとても。

 

「ふん!」

「また結界か、無駄なんだよ!」

 

今度は結界を砕いて姿を見せた…やはりあの力は強大すぎる。

く、何とかして足止めをしたいが、儂の術では一瞬の足止めしか出来ぬ。

 

「また君の技か、無駄だっての」

 

当然の様に儂の術を破り、平然と動き出した。

じゃが、さっきよりも力が出て来ている気がする。

どんな手段を使っているのか分からぬが、多少は戦える!


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