東方半獣録   作:幻想郷のオリオン座

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幻想郷の賢者

時間は午前2時、作戦決行の時間は8時。後6時間稼げば勝負に出られる。

でも、6時間も彼女を足止め出来るという自信は無い。

いくら私達でも彼女を相手に長時間の戦闘は不利になる。

 

とは言え、私達が切り札に近いというのは間違いない。

何とか時間を早めたいところだけど…私は遅した記憶はあるけど

加速させた記憶は無い…賭けに出るのも良いけど危険かしら。

 

「しかし紫さん、あなたも結構な無茶をするよね。

 僕に単身で挑もうなんて、今までを見てたんでしょ?」

「えぇ、その通りよ」

「じゃあ、どうして単身で挑んでくるのかな!」

 

一気に接近する、すぐに決着を着けるつもりみたいね。

彼女はそう言うのをあまりしないとは思ってたけど。

いや、きっとこれは様子見ね、でもやるしかないか。

 

「何故紫が単身だと考えていたのだ?」

「ん? おっと!」

 

私の背後から、彼女がその姿を見せる。

本来なら姿を見せるような性格ではないし

性質的な意味で姿を見せない方が良い彼女。

 

「君は?」

「幻想郷の賢者、その1人。摩多羅隠岐奈。

 後戸の神であり、障碍の神であり、能楽の神であり、宿神であり、星神である」

「……まさか、ここで僕の前に神が姿を見せるなんてね。

 分かってるのかな? 僕は神の天敵。君が神であるなら、僕には敵わない」

「ふ、しかし紫。随分と面倒な奴を幻想郷に引き入れた物だな。

 この私まで動かなければならないほどの面倒を引き込むとは正気か?」

「……幻想郷は全てを受入れる。あなたも容認したはずよ?

 例え彼女が強大でも、その存在を否定することは幻想郷には出来ない」

「お前はやはり何処か甘いな、非情な判断が出来てない」

 

彼女の言ってるとおり、私は何処か甘いのでしょうね。

だって、この期に及んでもまだ私はフィルを封印することを躊躇っている。

フィルの記憶を奪う事に躊躇いを抱いている。

レミリア達の作戦に賭ける程に、私は甘い。

 

「だが、そこがお前らしさと言えよう。お前がそんな性格でなければ

 幻想郷は全て受入れる楽園として存在することは無かったはずだからな」

「…そうかしらね」

「あぁ、間違いない。少なくとも私ではこんな選択はしていなかっただろう」

「……そう」

「お話しはまだ終わらないのかな? 折角僕の前に姿を見せたのに

 僕を置いてけぼりって酷いとは思わない?」

「いやはや、これは失礼した。昔話に花を咲かせていたのだ。

 長く生きていると、昔を思いだして仕方がないからな。

 年寄りの戯れ言だと思って聞き流していて欲しい」

「なる程ね、だとすれば歳は取りたくないね。現状を把握できなくなるんだろ?

 ま、ある意味では羨ましいかな、この状況でのんびり話が出来るほどにのんきなんだから。

 君にとって最大と言っても良い天敵が目の前にいるのに、のんきに話せるなんてね。

 いや、死ぬかも知れないから走馬燈というのが見えているのかな?」

「ふふ、いや私が見ているのは未来予想図だ」

 

隠岐奈も彼女が本気で戦うつもりが無いと言うことを知っている。

しばらくの間、彼女の動向に目を光らせていたんだから分かるに決ってるけどね。

彼女は最初からこの幻想郷を滅ぼすつもりは無いし、誰かを殺すつもりも無い。

怨みがあるのは外の世界にだけ、でもこうなると違和感がある。

何故彼女は、わざわざこの幻想郷に降りてきているのかと言う事。

 

宇宙から帰還した際に、最初に幻想郷に降り立ったのは不自然ね。

普通は外の世界に降り立つはず。でも彼女は幻想郷に直接来た。

外の世界へ降下した場合、すぐに幻想郷に連れ戻す予定だったけどね。

 

「じゃあ、無駄話はここまでにしよう。始めようよ」

「そうだな、少しだけ相手になる。紫」

「えぇ、分かってるわ」

 

隠岐奈と共闘する日が来るとは正直思わなかったわね。

でも、この作戦は彼女が居ないと成立しない作戦とも言えるし

彼女にとっても、私が居ないと成立しない作戦。

彼女の圧倒的な能力の隙間を突く、この作戦。

 

「はん、そら!」

「っと」

 

彼女の行動と共に境界を操り、彼女の背後に隠岐奈を行かせる。

私はすぐに若干の距離を取ることで攻撃を避けた。

 

「そこだ」後符「絶対秘神の後光」

「ん? 何だ、この攻撃」

 

隠岐奈の攻撃を擦らせ、何かを感じ取ったみたいね。

 

「背後にばかり気を取られてる場合?」結界「夢と現の呪」

「ん?」

 

私の攻撃を回避し、僅かに掠めたときにも何か疑問めいた物を感じた様に見える。

意外と勘が鋭いというか、感覚が鋭いのね、あの子。

 

「……まさか」

「どうしたんだ? 何か疑問でも?」

「……そうか、一撃目を擦ったとき、何処か感じた気配。

 そして紫さんの攻撃で確信した…君達、力を共有してるね」

「ほぅ、攻撃を1度受けただけで分かるのか。これは驚いたな」

「洞察力、侮れないわね」

 

その通り、今、私達は隠岐奈の力でお互いに力を訳あってる。

私の力の半分を隠岐奈に、隠岐奈の力の半分を私に平均的に分けている。

これでお互いの実力が向上するわけでは無いのだけど、こうすることで彼女に対抗できる。

 

「でも、なんで分かったんだ? 僕が純粋な神に対しては特攻を持つが

 半神などの神には特攻を持たないと言う事を」

「あなたは数ヶ月でも幻想郷を巡っているのよ?」

「……」

 

八坂の神から聞いた話し。八坂の巫女、現人神である筈の早苗

彼女がフィルを前にしても恐怖を抱いていなかったという点から可能性として見いだし

この作戦を立案し、隠岐奈に協力を仰いで彼女に戦いを挑んだ。

私の想定が無事に当っていて良かったわ。

 

「幻想郷を巡らせたのは、僕の弱点を探す為だったのか?」

「いいえ、偶然あなたの弱点が分かっただけで、本来は違う。

 あなたに確固たる居場所を作らせるためにあなたを巡らせていただけよ」

 

彼女を否定する存在を生まないために、彼女の居場所を作り出すために

私は彼女に幻想郷中を回ることを指示した。

その作戦は、正直言って成功したと言っても過言じゃ無いでしょう。

だって、彼女の為に必死に動く妖怪達があんなに出来たんだから。

 

「その狙いは成功したわ、あなたの為に動いている妖怪はまだまだ沢山居る。

 あなたはこの幻想郷に居続けても良い。だから、外の世界への復讐なんて忘れて

 この幻想郷で、一緒に生きていきましょう」

「……駄目だ、僕の存在を否定し、蔑み、大好きを奪った奴らは許せない!

 どうしても、どうしても一緒に生きたいってなら! 僕を止めてみろ!

 出来ないだろうがな! 圧倒的な力の前じゃ! 崇高な思想なんて無意味なんだよ!

 ただその力に染まることしか出来ない! それが現実じゃないか!」

「なら証明してあげるわ。圧倒的力の前に屈することが無い崇高な思想を」

「出来る訳がないじゃ無いか、圧倒的な力量差を覆す手段は無いんだ」

「そう思っている奴は少なくともお前には挑んでいないと思うぞ。

 最初、貴様に戦いを挑んだ妖精や力無い妖怪達。

 天狗達や九尾と猫又。彼女達はお前に屈すること無く挑んだ。

 

 力無い妖怪達とあの妖精は特にだ。勝ち目が無いと分かりきってても

 お前を救うために動いていた。彼女達はお前の力には屈しないだろう」

 

あの4人には例の計画すら伝えては居なかった…それでも彼女達は動いていた。

そうね、彼女達はきっとフィルの力に屈することは無いでしょう。

ん? 隠岐奈の近くに女の子が…確か彼女の二童子ね。

 

「お師匠様、御指示の通り妖怪達の潜在能力を高めてきました」

「よし、それで良い。では神の天敵、神殺しの魔狼フェンリル。

 こちらも準備は出来た、私達がお前の相手をするのはまた後だ」

「あんな事を言っておいて、さっさと消えるのか!?」

「また戦ってやる。今はその時まで我慢でもしておいてくれ、紫」

「えぇ、でも何をして…」

 

禍々しい闇が周囲を覆う…満月の淡い光りさえも飲み込む闇。

更に周囲を包む妖しく美しい歌声が聞えてくる。

まぁまぁ温かったはずの気温も、ドンドン肌寒くなってきた。

更にいくつもの羽音が聞えてくる…まさか、これは。

 

「……フィル、止めに来たのだ」

「絶対に助けるから!」

「今は力が溢れ出す。この歌声をあなたに届ける!」

「私も負けてはいないよ、皆が頑張ってるのに1人だけ休めるわけも無いからね」

 

最初、フィルに軽くあしらわれていたあの4人が…

 

「さぁ、私達は少し身を退こうじゃ無いか、紫」

「あなた…」

「彼女達の覚悟を邪魔するわけにはいかないだろう?」

「……そうね」

 

あの4人の潜在能力を上昇させてフィルと戦わせる何てね。

中々面白い事をするじゃ無いの。あの能力は便利が良いわね。

でも、フィルが戦ってきていた全ての妖怪達に掛けていたけど

 

あの子には届かなかった…あの4人に掛けたところで効果は薄そうだけど

恐らく今までの妖怪達に掛けていた分よりも強力な効果を与えてる。

しっかりと戦えるはず…8時まで時間を稼ぐためには仕方ないか。


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