今日の掃除の時間は終わった。
お2人は少し清々しい表情をして汗を拭った。
一杯頑張ったし、やっぱりお掃除は気持ちいいよね。
「お嬢様、妹様、お風呂の準備が出来ましたわ」
「あら、もうそんな時間なの?」
「はい、良い時間ですよ。お掃除お疲れ様でした」
「ま、良い気分転換になったわ、じゃあ次はお風呂ね」
「うん!」
あ、2人で入るんだ、えへへ、仲良くなってる。
最初はちょっと表面上は仲が悪かった2人だけど
今じゃ凄く仲の良い姉妹って感じになってる。
表面上も内面も、何処からどう見ても仲の良い姉妹。
本当に良かった…いつも仲が良さそうな2人を見てそう思う。
「フィルもお疲れ様、大変だったでしょ?」
「いえ、お2人とも飲み込みが早くて大変とは感じませんでした!」
「あらそう? 妹様を教えるのは苦労すると思ったけど」
「大丈夫でしたよ、最初ちょっと苦労しただけで
後は全然問題ありませんでした!」
「ふーん、あなたの教え方が上手いのかしら」
「いえ、私というかレミリアお嬢様の教え方が上手かったんですよ。
レミリアお嬢様もフランお嬢様に色々と教えてくれましたし」
「流石お嬢様ね…でも、今見ると本当に不思議な感じよ。
今までお互いに距離を取っていたあの2人が今じゃいつも一緒なんだから」
「はい、嬉しいです」
「本当あなたという存在はあの2人に取っては大きかったんでしょうね。
あなたがあの2人の仲を取り持ってくれなかったらこうはならなかったわ。
もし半獣異変の時…あなたがあの2人の仲を取り持ってなければ
お嬢様と妹様は敵対してたかもしれないわね」
「え? どうして…」
もしあの2人の仲が改善してなかったら、どうして敵対してるんだろう?
「それはね、妹様があなたという居場所を失いたくないと考えて
あなたを止める為に動くんじゃ無くて
あなたとの関係を壊さないようにあなたと一緒に戦おうとしたと思うからよ」
「どうしてですか?」
「依存って奴ね、今まで居場所と言える居場所を持てていなかった妹様。
そんな妹様の前にあなたという居場所が出来てしまう。
話しも聞いてくれるし、遊んでもくれる大事な相手。
その相手を絶対に失いたくないと考えてしまう。
だから、失わないようにあなたと一緒に戦ったでしょう」
「……」
「でもそうはならなかった。この結果はフィル、あなたが作ったのよ。
私達には出来なかった奇跡をあなたはあの短期間で起した。
たまにはあなたみたいに馬鹿正直に真っ直ぐ行動するってのも大事よね。
私もお2人の関係を改善しようとしても、今の状況で良いのならそれで良いと
そんな風に考えていたからね。改革は時に破滅を生むのだから」
もしフランお嬢様とレミリアお嬢様の関係が絶望的だったら
私の行動で今までの関係に確実な亀裂が入っていたかも知れない…
結果として私の行動は2人を再び繋げる事が出来たけど
……そう言う可能性があったかも知れないと言うことは覚えてないと…
安易な行動で全てが崩壊する。思いつきや負けず嫌いで無謀に動いて
結果全てが崩壊した後に後悔する…こうならないためにも後先は考えないと。
私はあの時、それが出来ていなかった。
2人の関係は確実に治ると思い込んでいた。
結果それが成功したとは言え、もしかしたらを考えるとゾッとする。
「今あなた、ちょっとゾッとしたでしょ?」
「あ…はい、もし私の行動が失敗してたら…」
「ふ、そう言う発想は大事よ、でもこれだけは覚えておきなさい。
そういう事態に陥ったとき、大事に至らないように行動するのが私の仕事。
あなたは改革を生み続ければ良い。後先考えないでね。
後先を考えるのは、私達大人の仕事よ。あなたみたいな子供は
精々自分が正しいと思う道を進み続けなさい」
咲夜さんが少し嬉しそうに笑いながら部屋の外へ歩み始めた。
私は咲夜さんの大きな背中を眺めている。
とても頼りになる凄く大きな背中…きっと私は憧れを抱いたんだと思う。
こんな風に…誰かを引っ張れるような存在になりたい。
「後悔先に立たずとは言うけど、結果も先には立たないわ。
当然、結果に伴う喜びも先に立つことはない。
結果も何も見えないのなら、精々喜びを求めて動きなさい。
大丈夫よ、失敗したら私達がカバーするわ。
それが上司の役目だからね」
扉の前で咲夜さんが微笑みながら僅かに顔をこちらに向けた。
そして、優しく包み込むような眼差しを私に向けた後
再び小さく微笑み、部屋からゆっくりと出ていく。
ずっと感じていた事だけど…咲夜さんは本当に凄い人だ。
私なんかよりも毎日大変なのに、あんな風に大きくなった。
あんな風に成長出来る人は、きっと何処か余裕がある人だ。
常に安心して何かをこなし続けている人だ。
意味がある行動をし続けていると確信出来ている人だ。
やりがいの無い事を続けていてもああはならない。
やりたい事をやり続けていても、楽しんでないとああはなれない。
何をするにしても何処かに確かな余裕を持って常に成長をしないと駄目だ。
…咲夜さんには間違いなくそれがある。
やりたいことを楽しみながらやり続けることも出来るし
どんな時にも確かな余裕を持って行動している。
現状に満足しながらも成長を続ける人間だ。
「私も…私だってレミリアお嬢様の従者。いや、ペットかな。
私だってレミリアお嬢様のお役に立ちたい。
……咲夜さん、私絶対に成長して見せますよ
咲夜さんを超えちゃうくらいに成長しますから」
私だってレミリアお嬢様の従者なんだからね。
咲夜さんの背中を追い続けるだけじゃ駄目に決ってる。
でも、咲夜さんと同じ成長の仕方じゃ駄目だよね。
咲夜さんとは違う方向に成長して、咲夜さんのカバーも出来るようにならないと。
そしていつか、咲夜さんも驚いちゃうくらいに凄いメイドさんになる!
目標は常に高く高く! 狼らしく気高く飢えないとね!
「でも、お料理は大変そうだなぁ」
「フィル、随分とのんびりしてるわね、お風呂に入らないの?」
「え? でもレミリアお嬢様とフランお嬢様が先に」
「一緒に入ろうよ、知らない仲じゃ無いんだし」
「うぇ!?」
ま、まさかそんな…ちょっと驚いたなぁ、温泉に一緒に入ったりはしたけど…
「でまぁ、戻ってきたら同時に変な事言っちゃって。
大丈夫よフィル。大変な事じゃ無いわよ料理なんて」
「え?」
「だって、1番大変なのは私達に信頼されることでしょ?
あなたはもうすでに咲夜にも私達にも信頼されてる。
後は簡単な作業をこなすだけよ。
信頼されるのは大変よ? だって行動に確かな意思がないと
その行動はただの空っぽと見抜かれてしまうんだから。
でも、あなたは信頼されている。あなたには確かな意思がある。
それだけで十分よ、時間はいくらでもある。意思さえあれば何でも出来るわ」
「…はい、ありがとうございますお嬢様! 私、絶対にいつか咲夜さんを超えます!」
「それは大変よ? 咲夜は完全に限りなく近いんだから」
「咲夜さんが完全な人なら私は余裕で勝てますね!」
「…それもそうね、完全に成長は無いんだから。既に完成してるからね。
ならあの子はまだ不完全なのかしら。ふふ、将来もっと化けるわね」
「私ももっと化けますとも! 狼ですけど」
「狐なら楽勝だったかもねー」
「化けるの意味違うけどね。ま、この話は良いわ。
未来を見るのは案外無意味な行為よ?
私が言ってるんだし、説得力あるでしょ?」
「はい、そうですね」
お嬢様の能力は運命を操る程度の能力。
実際に未来予知に近いことが出来るみたいだけど
そのお嬢様がそう言っているなら説得力は十分だよ。
未来は不安定。決定された未来は無い。いくらでも変えられる。
運命を操っても、きっと変える意思があれば運命はいくらでも変るんだろうね。
「この世界に確定された運命は存在しない。誘導することは出来るけどね」
「じゃあ、お姉様は運命を操る能力じゃ無くて運命に誘導する能力だね!」
「いやまってフラン。その能力は何か弱そうだから操るでお願い」
「大丈夫、私も大体の物は破壊できる程度の能力に改名するから」
「ありとあらゆる物から大分グレートダウンね…いやまぁ実際そうでしょうけど」
「私に壊せない物って結構あるからね。
でもわざわざ変えるのはしんどいしそのままかな」
「で、フィルは何でも飲み込む程度の能力…正直恐いわね
特にフィルの場合は実際出来そうだし」
「そんな事無いですよ!」
「いやフェンリルなら地球も飲み込めそうだし」
「そこまでじゃありません! ……多分!」
地球を飲み込もうとしたことが無いから分からないけど多分無理だと思う!
多分きっと恐らく十中八九、九分九里……ま、まぁいいや、お風呂入ろう。