東方半獣録   作:幻想郷のオリオン座

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大事な親友

お嬢様と妹様にお掃除を教えて、家事も色々任されるようになって来た。

何だか最近、紅魔館でメイドさんをして居るのにもかなり慣れてきた気がするよ。

部屋が多すぎてまだ完璧に把握は出来てないけど、大体は覚えてる。

だけど本当思うけど、紅魔館は外観と実際の広さ全然違うよね。

確か咲夜さんの能力で色々と拡張してるって聞いたけど

 

もし咲夜さんがいなくなったりしたらどうなっちゃうんだろう?

この図書館とかも異常な程に広いしね。地下にあるのに

高さは完全にこれ地上より高い位置にあるだろうし。

でもなー、やっぱり高過ぎるよ。空を飛べない私にはちょっとしんどいかも。

 

「っとっとと、パチュリーさん! この本ですか!?」

「ん」

 

あ、小さく頷いてくれた…て言うか見えてるのかなこれ。

多分大丈夫かな、とりあえず降りよっと。

 

「っとっとと」

 

一気に飛び降りても良いんだけど、埃とか舞っちゃうかもしれない。

でも、本棚の上を階段みたいにして降りるのも駄目かな?

ま、まぁ、もうすでにやっちゃってるんだけど…空飛べないと不便だよ。

 

「はい、どうぞ」

「ん、確かにこれね。良くこれだけの本をすぐに覚えられるわね」

「いえ、予想してるだけです」

「あなたの予想能力どれだけ高いのよ…でも全くもって不思議よねあなたは」

「え? そうですか?」

「えぇ、能力的には確実に私達よりも上なのに何故あなたは空を飛べないの? 

 いや、違うかしら。あなたの場合はなんで飛ぼうとしないの?」

「それは私が空を飛べないから…何じゃ?」

「いや、あなたの吸収率は凄いわ。まさに何でも飲み込む能力と言っても良い。

 だけど、あなたは空を飛ぶ術を学習しようとしていない。

 あなたなら、本気で飛ぼうと学習すれば空を飛べるでしょうに」

「そう…でしょうか?」

 

私は空を飛べない。ずっとそんな風に考えていたけど…

確かにパチュリーさんの言うとおり、私は空を飛ぼうと思って無かった。

 

「理由を予想するとすれば、いくつか出てくるわね。

 まず1つ、そもそも空を飛ぶ必要性がないから。

 あなたほどの能力があれば、移動で空を飛ぶ必要も無いし戦闘でも飛ぶ意味は無い。

 

 もう1つは空を飛ぶという慣れない環境が嫌だから。

 戦闘面でも移動面でもあなたは地上で優れている。

 空を飛べばバランスも変るし中々しんどそうだしね。

 

 で、もう1つは空を飛ぶという行動に無意識でトラウマがあるのか。」

「少なくとも3つ目はないと思います。

 あの1件で私は記憶を取り戻してますけどそんなトラウマはないですし」

 

半獣異変、私が自分の記憶を取り戻して暴走した、あの異変。

あの時、私は確かに記憶を取り戻している。

お父さんの顔もお母さんの顔もハッキリと思い出した。

そして弾丸の荒波も、空から降り注ぐ雨あられも

それだけの攻撃を受けても、傷1つ付けることなく完封した記憶も。

 

「外の世界にいる軍隊に襲われたのに?」

「はい、だって怪我1つしてないですし」

 

私が弾を避ける事に関して異常に得意だったのはこれが理由。

どれだけ複雑な弾幕を張ろうとも、私はその弾幕を全て避けてきた。

幻想郷で主流とされてる弾幕ごっこで使われる遅い弾よりも

圧倒的に早く、純粋に相手を殺す為の異常な物量による弾幕。

その弾幕を全てかいくぐってきた…それは避けるのも得意になるよね。

 

「…そう。じゃあ、きっとあなたは空を飛ぶ事を羨ましがってるけど

 その実、必須とも思って無いんでしょうね。

 空を飛ぶ必要は無い。あなたは空を跳べるのだから」

「あはは、言われてみればそうですよね

 だって私、空を跳ぼうと思ったら跳べますし

 図書館の中でやっちゃったら大変な事になりますけどね」

「そりゃまぁ、空気を蹴る訳だしね」

「はい、それに図書館では静かにって言いますからね」

「この図書館には基本、私とこぁ位しか居ないからね」

「少なくとも今は私も来てるけど」

 

レミリアお嬢様がパチュリー様の隣に座った。

 

「あらレミィ、最近早いわね、最近までは寝坊助だったのに」

「ハッ! いつの話をしてるのよ、1年くらい前じゃない」

「私達に取って1年なんて最近だと思うけどね」

「言えてるわね、実際私は500年生きてるし」

 

やっぱりレミリアお嬢様も吸血鬼なんだよなぁって思うよ。

だって500才だからね、凄い長寿。

私はどうだろう。まだ高校生位だったと思うからまだほんの17年位?

いやぁ、全然違うなぁ、フランお嬢様も495才だから全く違うよ。

 

「何? その頃と比べて、今は早起きしたくなるほどに毎日楽しいの?」

「……まぁね、こっちに来てからは全く退屈しないわ」

「今じゃ毎日笑ってるしね、あなた。こっちに来る前はどうだったかしら。

 毎日毎日しかめっ面で、話し掛けてもろくに返事もしなかったわね。

 こうやって、私の図書館に来ることもなかったし

 長く変化しなかったのにちょっと環境が変っただけで変るわね」

「少なくともパチェには言われたくないわ。

 多分、こっちに来て1番変ったのはあなたじゃない?

 本を毎日読んでるのはあまり変らないけど読んでる本は違うしね。

 

 そして、私と会話をする事も…いや、誰かと会話をする事も無かったあなたが

 無関心で常に自分の世界だけと向き合ってた筈のあなたが、今じゃどう?

 私とこうやって話しもする。自分から私に声を掛けることもある。

 他者に興味を抱く。そして、食事時に姿を見せるようになる」

「……昔と比べて、あなたが丸くなったからよ」

「ふふ、馬鹿ね昔のあなたならそもそも私の変化に気付くわけ無いでしょ?

 だって、あの頃のあなたは自分の世界だけに価値を見出していたのだから」

 

昔のパチュリーさん…一体、どんな感じだったんだろう。

そして、昔のレミリアお嬢様…私は最近来たばかりだから

昔の皆さんを知らないけど…でも、話を聞いてて分かったのは

この幻想郷に来て…皆、良い方向に変ったって事かな。

 

「……最初はあなただったわね、私の世界をかき回したのは」

「あぁ、あの頃か。ま、私も恩は返したいと思うたちだからね」

「あの時の私は全く馬鹿な事をしたと思うわ。

 何で見ず知らずのあなたに手を貸そうと思ったのか不思議よ」

「あのまま放置してたら、自分にも被害が出ると思ったからじゃないの?」

「かもね、でもそれからあなたが来るとは思わなかったわ」

「受けた恩は必ず返す。それが私のポリシーだからね」

「そう。…ねぇ、レミィ。これは普段なら絶対に言わないわ

 でも今まで言えてなかったから昔の話を思い出したついでに言うけど」

「前置きが長いわね、言いたいならすぐに言えば良いじゃ無いの」

「……ありがとうね、レミィ。私はあなたに会えて良かったと思ってるわ」

「んな!」

 

れ、レミリアお嬢様の顔が真っ赤っか! うん、だって嬉しいもんね。

大事な親友にそんな風に言って貰えたら絶対に嬉しいもん!

でも、レミリアお嬢様の場合は嬉しいと同時に恥ずかしいもありそう。

 

「な、なな! 何をいきなり言い出すのよ! 頭でも打ったの!?」

「な、なんでちょっとお礼を言っただけでそんな風に言われないといけないのよ!」

「い、嫌だって、あなたがそんな風に素直にお礼とか言うなんてあり得ないわ!」

「くぅ…ぜ、絶対にこんな反応すると思ったから今まで言わなかったのよ…」

 

パチュリーさんの言葉を聞いたレミリアお嬢様は

少し驚いた表情をした後に、小さく笑った。

そして目を瞑り、少し長い深呼吸をした後、ゆっくりと目を開けた。

 

「……ふふ、で、でも素直に言って貰えて、私も嬉しいわ。

 こ、これも私は普段なら絶対に言わないし、多分もう2度と言わないと思うけど

 ……私も、あなたに会えて良かったと思ってるわ…あ、ありがとうね、パチェ」

 

レミリアお嬢様…やっぱり恥ずかしいんだろうなぁ

パチュリーさんの方を見ないように、少し小声でお礼を言ってる。

パチュリーさんは聞えない振りをしているつもりなんだろうけど

ちょっとだけ口角が上がって居るのを、私は見ていた。

 

お互いに何だか素直にはなれないけど

お互いの事を大事にしてる…やっぱり親友だね。

そんな2人を見ていると、私も無意識に笑ってしまった。

 

「あ! フィル! 何笑ってるのよ!」

「あぁ! 笑ってません! 笑ってませんよ!」

「よ、良くも笑ってくれたわね、これは罰を与えないと」

「パチュリーさんまで!? ま、待ってください! 笑ってません!」

「問答無用!」

「ひぃー! 恥ずかしいからって私に当らないでくださいよぉ-!」

「誰が!」

 

うわぁあ! まさかレミリアお嬢様とパチュリーさん

この2人に追いかけられることになるなんて!

 

でも、何だか2人とも楽しそうだし少し嬉しい。

だけど追いかけられるのはやっぱりいやかなぁ…あはは


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