東方半獣録   作:幻想郷のオリオン座

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地獄の関所

自分から地獄へ行っちゃうなんて、何だか変な感じだよね。

出来ればそんな恐い場所へは行きたくないのに

だけど行かないとだめ…うぅ、分かってるのに不安は募るよ。

 

「地獄へ行こうとしているのはあなた…ですか?」

 

小町さんの船に乗せて貰っていると

不意に鶏みたいな人が出て来た。

髪の毛凄いなぁ…赤い部分がトサカみたい。

 

でも、やっぱりボロボロの姿になってる。

きっと先に地獄へ向ってるあの2人とも戦ったんだ。

 

「えっと、そうです」

「庭渡久侘歌(にわたりくたか)だったっけ? 地獄や鬼の国とか、異界の関所の番人。

 んで、鬼と人間を見分けてそれぞれの居場所に振り分けるって言う」

「はい、怠け者と聞いていましたがよく知ってますね、小町さん」

「あぁ、映姫様に聞かされたのかい? いやぁ、まぁ否定はしないね。

 で、そんな番人様があたい達になんの用だい? と言っても

 そのボロボロの姿から察するに地獄へ行こうとしてる奴らの力試しかい?」

「お察しの通りです。そしてお察しの通り閻魔様から

 容赦無く、貴方を試しなさいと指示を受けております」

「その割に、震えてるね?」

「そもそも、何故あなたは怯えないのですか?」

 

何に対して怯えてるのか…うん、それは分かってる。

私だ、私に対して怯えてるんだ。

私は言わば神の天敵。殆どの神様は私に対し本能的に怯える。

それはフェンリルお姉ちゃんから聞いた話でもある。

 

だけど、死神である筈の小町さんは私に対して怯えていない。

そう言えば、貧乏神である紫苑さんと疫病神である女苑さんも怯えてなかった。

何か差があるのかな? そこは私にはよく分からないけど。

 

「さぁね、あたいも良く分からないけど、まぁ怯える様な相手でも無いしね。

 そんなに好戦的でもないし、こっちから危害を加えなければ問題無いさね」

「私も出来れば怯えたくはありませんが、本能が怯えているのです。

 彼女は何もしていない。それなのにそんな相手に怯えている。

 そんな自分が私は恥ずかしくあります」

 

怯えているはずなのに、そんな風に私の事を思ってくれるなんて。

それも、本気で落ち込んでいるような表情で。

彼女は恐らく本心でそう言ってるんだ。

 

そんな風に相手のことを思えるなんて。

正直、そんな人は早々居ないと思う。

 

「そうかい。なら怯えなければ良いだけだと思うけどね?

 と言っても、フィルに怯えるのは言わば神の本能なんだろうけどね。

 あたいも詳しい事は知らないけどね」

「では、何故あなたは怯えてないのですか? その差は?」

「さぁね、格とかの違いじゃないかな? あたいは死神だけど

 そんなに力がある神って訳でも無いからね。

 深い信仰で生まれた訳でも無い訳だし、種族は死神だからね。

 神では無く、死神。そこの違いなんじゃないかな?」

「そんな種族的な部分でですか? よく分かりません」

「まぁ多分だけどね、怯える怯えない関係なく

 神である地点でフィルに能力は効果無さそうだけどね。

 でも、きっと怯えるのは深い信仰で生まれた神だけなんだろうね」

 

うぅ、私自身でも私の能力が分からない…

どんな神様に怯えられるのかも私には分からないしね。

 

「はぁ、なる程。一応、私も信仰で生まれた神ですからね。

 だから怯えてると。とは言え、確かに私は怯えはありますが

 このまま閻魔様の指示に従わず、あなた達を通すつもりはありません」

「と言う事は、フィルと戦うって事で良いのかい?」

「はい、確かにフィルさん。あなたの実力であればですね

 試すまでもなく地獄で通用することは分かっています。

 ですが、私は閻魔様から地獄へ向う者達を容赦なく試せと指示を受けています。

 例え怯えていようとも、この指示を守らないわけにはいきません」

「いやいや、試さないで通しても良いと思うよ? 分からないだろうし」

「小町さん! そんなんだからあなたのサボり癖は直らないんですよ!

 例えバレないとしても、指示された事はしっかりやらなければなりません。

 …あ、そう言えば今気付きましたけど、あなたは動物霊に憑かれてないのですね?

 でも、狼みたいな気配ありますし、狼の動物霊に憑かれてたりします?」

「あ、狼の動物霊って言うか、半分狼と言いますか

 と言うか、心の中で狼と共存してると言いますか」

「……え?」

 

う、うーん。フェンリルお姉ちゃんやテュポーンお姉ちゃんの事どう説明しよう。

 

「ま、まぁとにかく幽霊ではありません!」

「そ、そうですか。しかし話で聞いてたより凶暴では無いんですね」

「少なくとも今は大丈夫ですよ。暴走したりはしませんから」

「暴走したらどうなるんです?」

「あまりハッキリとは覚えてませんけど…危険みたいです」

「……そうですか、でも、今は大丈夫なんですよね?

 では、私の与える試練を超えてみてください!」

「あ、でも私、空を飛べなくて」

「……え?」

 

あ、やっぱり驚かれた。これ言うといつも驚かれるんだよね。

 

「そ、空を飛べない…こ、これは地獄へ向ってはならないのでは…」

「あ! いや、一応飛べるんですよ!? この永琳さんから貰った

 空を飛べるようになるお薬を飲めば!」

「そんな薬があるのかい。なら最初から飛べば良かったんじゃ?」

「すみません、自分で飛ぶと絶対に迷いそうでしたし。

 それに、空を飛ぶ事ってあまり慣れてませんから」

「はぁ、それならきっと大丈夫ですね。

 それに私としても、先に行ったあの2人が心配ですし。

 でも、あなたの事も心配なんですよね…大丈夫ですか?」

「大丈夫かどうかを試す為に戦うんじゃないのかい?」

「…そうですね、では試練を始めます!」

「は、はい!」

 

永琳さんから貰った薬を飲んで…よ、良し飛べた!

うぅ、やっぱり空を飛べるようにならないと不便かなぁ。

 

「行きますよ!」水符「水配りの極級試練」

 

ランダムにカラフルな弾幕を展開する攻撃。

攻撃自体に規則性はないけど、それはつまり

私の方に飛んで来る弾幕だけを避ければ良いって事だ。

 

「全く動揺しないし、飛んで来た弾幕を正確に避けてますね」

「私、弾を避けるのは得意なんです! 後、攻撃させて貰いますね」

「構いません構いません、これはそう言う試練です」

「痛かったらすみません!」

 

紫さんから教わった通常の弾幕。解決側のショットの攻撃。

私の場合は見た目としては、細かい斬撃を飛ばす感じなのかな。

 

「いでで!」

「あ! ご、ごめんなさい!」

「あ、言え大丈夫です。流石神特攻…凄く痛い…

 で、ですが試練は続きますよ! 必要無い気がしますけど

 言われたことはやらなくては!」光符「見渡しの極級試練」

 

私の背後で破裂するレーザー、破裂した後、周囲に小さい弾を飛ばして

私の方角へ中粒の弾幕を飛ばしてくる。だけど、私を狙った弾じゃない。

 

「これなら…いやでもこれは」

 

少しずつ間隔が狭まってきている。

つまり倒すのが遅くなればなる程不利になっていく弾幕。

出来るだけ速く倒さないと駄目だ!

 

「うぅ、さ、さっきより激しくしてきましたね。

 さ、流石にこの攻撃力は…うぐぐぅ」

「時間を掛けると不利になるみたいなので」

「流石ですね、では次です!」鬼符「鬼渡しの獄級試練」

 

魂魄のような物がゆっくりと移動をしながら弾を出してきている。

 

「これだけなら攻撃も…あ!」

 

魂魄を攻撃すると3方向に広がった赤く早い弾が飛んできた。

そう言う事か! あの魂魄は破壊されたときカウンターをしてくる。

他の魂魄が行動を制限して攻撃されたときのカウンターで相手を倒す。

かといって、多少は倒さないと捌ききれないほどに弾が増える。

 

「自分の攻撃が自分自身に害をなすのがこの弾幕。

 さぁ、どのように捌きますか?」

「全部砕いて攻撃します!」

「えぇ…」

 

あの行動を制限しようとする3列の弾幕だけど

あれ位なら簡単に避けられる。それより軌道が読めない魂魄の方がいやだからね。

そのまま力でゴリ押し! 飛んで来る3列の弾幕も避けるのは簡単だからね。

 

「うぅ、お、お見事です…」

「だ、大丈夫ですか? もうすでにボロボロなのに…」

「いえ、問題ありません。流石に連戦で着替える余裕がありませんでしたが」

「すみません、ゆっくりお休みください…あ、そう言えば1つ良いですか?」

「はい、なんでしょう?」

「その頭の上に乗ってるひよこさんは…まさか子供!?」

「あ、いえ違います。姉妹ですね」

「えぇ!?」

「冗談ですよ、と言ってもまぁ姉妹に近い所はありますけど」

 

神様の頭の上に居るって事は…あのひよこさんも神様なのかな?

信仰で身体を形作ったときに一緒に出来たって感じ?

神様のどうこうはよく分からないけど…うーん。

 

「後1つ…食べないでくださいね、私を」

「食べませんよ!?」

「ふぅ、良かった。少し食べられるかもと思ってまして」

「何でですか…」

「そりゃ多分、あんたが狼であっちが鶏だからじゃないかい?

 よりにもよって、鶏で神様って感じだしね」

「あ、確かに鶏って美味しいですからね」

「鶏を食料としないでください!」

「そ、そんな事言われても、食べないと死にますし…」

「ま、まぁ鶏たちの地位向上に関してはなんとか考えるとして

 とにかく合格です。最初から分かりきってた事ですけど問題ありませんね。

 ただ、この先は地獄です。油断してはなりませんよ。

 と言っても、あなたに幽霊が憑く心配は無さそうですけど」

「どうしてですか?」

「それはですね、あなたに守護者が居ると思うからです。

 では、どうぞ…お気を付けて」

「はい、ありがとうございます! 小町さんもここまでありがとうございます!

 絶対に妖夢さんと魔理沙さんを連れ戻してきますね」

「あぁ、行ってらっしゃい」

 

ここから先は地獄…ゆ、油断しないようにしないと!

 

 

 

 

 

「いやぁ、そろそろ私も服を着替えないと…もうかなりボロボロですよ」

「良くあんたも身体持ったもんだね」

「まぁ、これでも一応神ですからね」

「ねぇ、地獄はこの先で良いんだっけ? 地獄なんてろくな思い出ないんだけど」

「げ、あんたは…」

「うぅ、休ませて欲しいのですが仕方ありません。

 その通りです、この先が地獄です!

 閻魔様から話は聞いています。容赦無く、貴方を試しなさいってね!」

「そのボロボロの状態でやろうっての? 無茶は良くないわよ?」

「いえ、任された仕事はしっかりとこなさなければなりませんからね!」

「そう、苦労してるわね。まぁ良いわ、来るなら来なさい。付き合ってあげるわ」


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