東方半獣録   作:幻想郷のオリオン座

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畜生界の造形神

ここが霊長園…何だか外とは雰囲気が違うなぁ…

少しだけ辛気くさいような雰囲気があるよ。

 

「全く…今日は来客が多すぎるわね…」

「あ、こんにちは」

「え? 随分とフレンドリーな子ね…見た感じは動物霊みたいだけど

 雰囲気は人間の様に見える…そうね、半獣と言った所かしら?」

「はい、私は半獣です。名前はフィル」

「正直、あなたがフレンドリーで私は助かってるのよ。

 実を言うと、あなたの前に立つと何故か本能が逃げろと叫ぶ。

 神である筈の私が、ただのあどけない少女に怯えるなんて前代未聞。

 ただでさえ連戦でボロボロだというのに、あなたと戦うのは避けたいわ」

「ははーん、賢明だね神様。さて、口調が変れば大体驚くから

 先に僕の方の自己紹介をさせて貰うよ。僕はフェンリル。神殺しの狼さ」

「……フェンリル。なる程、私が怯えるのはそれが理由か」

 

フェンリルは神殺しの狼。北欧神話において主神である戦いの神

オーディーンを捕食したとされる世界を飲み込む狼。

主神クラスを殺している存在なのだから、並の神であれば怯える。

並じゃなかろうと怯えるだろうね。主神クラス以上の存在じゃ無いとさ。

 

「…で、そんな神殺しの狼がこんな場所に何のご用で?

 ここは畜生界。あなたのような存在が来るような場所では無いと思うけど?」

「先に先客が来てたって言ってましたよね、私はその人達を追ってるんです」

「あぁ、大鷲とカワウソに憑かれてた子達ね。この奥にいるわ。

 私と2人がかりで戦ってたけど、私としてはあなたの存在の方が気になってね。

 もう少しで来るとは思うけど」

「待て! この邪神! 敵前逃亡なんて恥ずかしいぞ!」

「でも、弱ってるって証拠。このまま攻めれば…って、新しい仲間?

 ふっふっふ、これは勝った!」

「あ、お二人とも口調全然違いますね」

「あ、あれ? 何か雰囲気違う…?」

 

露骨に2人の表情が変った様な気がするけど…

 

「っと、フィルまで来たんだな。動物霊とか憑くのか? お前」

「いや、私はそう言うのは憑いてませんよ。迎えに来ました」

「え? 何これ、話が訳分からないんだけど…援軍じゃ無いの?」

「動物霊の援軍ではありませんね、迎えに来ただけですし。

 妖夢さん、幽々子さんが心配してましたよ? 探してきて欲しいって」

「え!? 幽々子様が!?」

「うぅ、は、話が訳分からない事に…ど、どうして援軍以外が…

 で、でも、見た目そんなに強く無さそうだし、2人で挑めば!」

「人は見かけにはよらないって言うじゃ無い? 動物霊共」

「え!?」

 

背後から何度か聞いたことがある声が聞えたと思って振り向くと

そこには霊夢さんの姿があった。

 

「霊夢さん!?」

「マジか、霊夢まで来やがったぜ…」

「ったく、動物霊が騒いでるから対処するために来たけど

 全く面倒な事よね。また無駄な争いに巻き込まれるって訳だし癪よね。

 まぁ、最近の異変と比べれば可愛いもんよ、こんな異変」

「だなー、月人の襲来とかもあるが、ちょっと前はハードだったしな」

「その…ごめんなさい」

 

ちょっと前の異変はきっと、私が起した異変だよね…うぅ。

 

「ちょっと待ってくれ! 状況が理解できない!」

「き、吉弔様-! どう言う状況なのー!?」

 

あ、妖夢さんと魔理沙さんから動物の幽霊みたいなのが出て来た…

取り憑いてる状態から出て来たら、あんな風になるんだ…恐い。

 

「吉弔だっけ、そいつはもう扱いてきたわ。今は伸びてるわよ」

「え!?」

「まぁ、おいたが過ぎたってね。流石に現世に手を出したのはやり過ぎ。

 畜生界の問題は畜生界だけで解決すれば良いのに、面倒を巻き起こした罰よ」

「そ、そんな…じゃあ作戦は…」

「全部無駄になったという事だ、残念だったな、動物霊諸君」

「まぁ、あんたについても多生は自重して欲しいのよね。

 このまま制圧してたら、どうせまた動物霊出してきそうだし。

 私は面倒事は嫌いなのよ。地獄通ってくるのしんどいし」

 

不意の名指しで袿姫と言われていた人は少し驚いた表情を見せた。

 

 

「え? いやしかしだな、これは人間霊の保護のために」

「力あるなら交渉なり何なりして平和的な解決しなさいよ面倒くさい!

 どうしてもそう言うのをやらないってなら、フィルぶつけるわよ!」

「えぇ!? 私を当たり前の様に巻き込まないでくださいよ!」

「ほら、相手神っぽいし、あんた特攻でしょ?」

「うぅ、確かにこの子をぶつけられるのは私としてもよろしくない…」

「お? 何だ? そんな弱そうな奴に怖じ気付くんだな

 実体があって面倒だと言うだけで、その実は大して強くないって事か」

「やっぱり動物は駄目ね…勘が鈍いと言うか何と言うか」

「まぁ、フィルはパッとみ弱そうだしね」

 

確かにあまり強そうとは言われないなぁ。

神様とかが相手だったら結構分かるみたいだけど。

 

「ただまぁ、あなたと戦うのは私としても避けたい。

 今回は大人しく引き、動物霊達との交渉を試してみよう」

「それで良いわ。じゃあ、魔理沙と妖夢は連れ帰らせて貰うわね」

「いやまだだ! まだ我々は諦めてないぞ!

 袿姫もギリギリまで追い込めたんだ! あの破壊神を倒し!

 我々は人間霊(どれい)達を解放する!」

「はぁ……面倒な動物共だね。良いよ、そっちがその気なら…

 フィル、マフラーとってよ、これは僕の意思ではちょっと取れないし」

「マフラー? どうして?」

「マフラーを外せば僕は本気を出せる。ただの霊魂を食い殺すなんて造作ないよ。

 人の願いや憧れとかの抽象的な存在である神を食い殺すことが出来るんだ。

 魂やら霊魂やらの存在程度、容易に喰らい、消すことだって出来る。

 それが僕だ、それがフェンリルである、僕の力だ。

 勿論、輪廻転生の輪からその存在を消すんだ。出来れば使いたくは無いね」

「……」

 

フェンリルお姉ちゃんの言葉にはハッキリとした殺意があったからなのか

動物霊達が総じて口を塞いだ…いや恐いよ、私の口を動かして威嚇するの恐い。

 

「……うぅ、こ、これは不味そうだ…大人しく引き下がろう…」

「うぅ…あと1歩だったのに…」

「ははぁ、しかしフェンリルの方が言ってた事が本当なら

 魂がすぐに肉体を作り、不死になってる蓬莱人も殺せるって事か?」

「その魂を取り込み、僕の一部にする事も出来るかもね。

 蓬莱人がどう言う存在かはあまり知らないけどさ」

「話を聞く度にフィルさんの存在がどれ程規格外か分かりますね」

 

うぅ…何だか私自身が私自身に怯えてしまいそうな気がするよぅ…

で、でも何とか事件は解決出来たし…う、うん、これ以上は考えないでおこう。

とにかく今は問題を解決出来たことを喜ぼう。


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