東方半獣録   作:幻想郷のオリオン座

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悲しき人形

夢子さんと戦って、私は彼女に勝つ事が出来た。

そして、客人として迎えて貰えることになった訳だけど。

 

「そこ、まだ汚いわ」

「す、すみません!」

 

手伝いますと言ったら、凄く扱き使われちゃった…

咲夜さん見たいな雰囲気があるけど

咲夜さんより厳しいよ、この人!

 

「夢子ちゃん、その子は客人よ?

 もう少し優しくしても良いんじゃ無いの?」

「しかし、手伝いたいと言ってきたのは彼女の方です。

 手伝うというのであれば、徹底的にこなさねばなりません。

 神綺様には常に晴れやかな気持ちで過ごして貰わねばなりません。

 一瞬であれ、汚いと思わせてしまうわけにはいかないのです」

「私に対して凄く忠実ね、あなたは」

 

さっきの言葉を聞いて、咲夜さんと夢子さんの決定的な違いが分かった。

夢子さんと咲夜さんは主に対する忠誠の格好が違うんだ。

咲夜さんはきっとレミリアお嬢様が暴走すれば止めるけど

夢子さんはきっと止めようとはしない…忠実な部下と言うよりは

忠実すぎる手足…と、言う方が正しいという印象を抱いた。

 

まるで人形…そんな感じ…まるで忠誠を強制されてるかのような

あまりにも狂信的な忠義…ちょっとだけ、悲しい感じがした。

だって、咲夜さんはレミリアお嬢様からしてみれば家族だけど

この人は神綺さんからしてみれば…どう思ってるかは分からないけど

何だか、家族と言うよりは…操り人形って…感じがする。

 

だけど、神綺さんの雰囲気からはそれをあまり良しとは思って無い見たい。

それを良しとして思ってるなら、困ってるような表情は

一瞬だって見せるはずが無いんだから。

 

「おや、私の顔を見て何を惚けているのですか?」

「い、いえ…その、すみません…えっと…」

「……」

「…す、少しだけ夢子さんが私の知り合いに似てると思いましたけど

 ついさっき…決定的に違うところに気が付いて…」

「ほぅ、どう違うのですか?」

「主に忠実なところはそっくりで、戦い方もそっくりで

 扱う武器もそっくりで、性格も何だか似ていましたけど…

 でも、その……や、やっぱり何でもありません。

 す、すみません! 変な事を言って…掃除、再開しますね」

「気になる止め方をしないで欲しいのですがね。

 まぁ良いでしょう。掃除をするのであれば文句は言いません」

 

言えないよね…そんな、簡単に言えるわけが無いよ。

私はまだ、夢子さんの事をあまり詳しく知らないんだ。

最初の印象がそうだってだけで、実際その通りとは思えないし。

 

「フィル、遠慮する必要は無いと思うわよ?

 あなたの代わりに言ってあげるわね」

「何よ、博麗の」

「あなたって咲夜に似てるけど、何か決定的に違うわよね。

 あなたって、まるで人形みたいよね、神綺の操り人形」

「れ、霊夢さん! そんなハッキリと!」

 

た、躊躇いなく言った…正面から…一切の躊躇も無く…

 

「……そんな事を言うために、わざわざ私の前に来たの?」

「そうよ、あなたは操り人形にしか見えない。

 忠義と言うか、狂信的で盲目的な信仰に近い気がするわ。

 ま、あいつも魔界の神なんだし、信仰が正しいのかもね」

「……言いたいことはそれだけ? 言っておくけど

 操り人形だなんて言葉、私には貶し言葉にもならないわ。

 私は神綺様に仕える、意識無い人形で良い。

 あの方に仕えるのであれば、どんな形だろうと関係ないわ。

 それに、神綺様の操り人形だなんて、至極名誉な事よ」

「何かさ、あんたって神綺が作ったんでしょ?

 家族みたいなもんじゃないの? そんな雰囲気が無いのよね。

 あいつは主に作られた訳じゃ無いのに、まるで家族みたいな関係よ?

 ま、紅魔館の主従関係が異常ってだけかも知れないけどね」

 

本当に…霊夢さんは凄いよね…私も同じ事を考えてるって気付いて。

それを一切の躊躇いも無く、霊夢さんは自分が思ったことを言った…

そんなにもあっさりと言えるだなんて…

凄く羨ましい…あんな風に自分の思いを言えたなら…

 

「ならば後者でしょう。部下は主に絶対服従なのよ。

 上下関係はしっかりした方が良い。主に仕えたいと

 部下が近付いてきたのであれば、対等であって良いはずが無い」

「あたしもそれが正しい姿だと思うけどねぇ。

 上に立つ奴と下に立つ奴が混ざってちゃ示しが付かないからね。

 だけど、最近はそれだと上がしくじった時

 全部終わる気がすると思うのさ」

「……」

「あなたは主にとって、操り人形以外の価値があるのかしら?」

「黙りなさい。それ以上口を開けば、その口を縫い合わすことになるわ」

「け、けけ、喧嘩は止めてください!

 し、神綺さんも喧嘩は望んでませんよ!」

「止めないで、あの失礼な奴らを更生させるわ」

 

夢子さんが何処からか沢山の短刀を取りだし、構えた。

不味いよ…このままじゃ、喧嘩になっちゃうよ!

 

「夢子ちゃん、リベンジマッチは無しと言ったでしょ?」

「神綺様!」

 

臨戦態勢になってた夢子さんだったけど

神綺さんが止めてくれたお陰で何とか刃を収めた。

霊夢さんと魅魔さんは全然戦闘をする様子はなかった…

こうなることが分かってたのかな? 動こうという素振りも無かった。

 

「夢子ちゃん、残念ながら彼女達が言った事は

 私も思ってたことなのよ…あなたは私に忠実すぎる」

「し、しかし…わ、私は神綺様により作られた魔界人!

 主であり、母でもある神綺様に忠実なのは当然で!」

「私は確かにあなたを強く作った。

 でもね、私は道具を作ろうとしたわけでは無いのよ?

 私はあなたを作りたかったの。あなたという1人の魔界人を。

 

 ただの道具が欲しかったのなら、私はあなたを作ったときに

 あなたに心は与えてないし、あなたに名も与えてないわ。

 ただ私に付きそうだけの、優秀な人形を作ってたでしょうね」

「……わ、私は」

「ほら、完璧じゃ無くても良いのよ?

 あなたは1番優秀な魔界人だけど、完璧では無いのだから。

 私が完璧じゃないのに、完璧な何かを作れる筈が無いわ。

 

 だからほら、そう気を落とさないで? 今までよりも

 少しだけ砕けて私に接してくれればそれで良いのよ?

 あなたは悲しい人形なんかじゃ無いわ。

 私が作った、とても素晴らしい1人の魔界人なんだから♪」

「……」

 

神綺さんの言葉を聞いた夢子さんが手に持ってた短刀を消した。

そして、しばらくの沈黙の後、私達にいつも通りの表情を向ける。

 

「今回は退くわ…神綺様にまで言われてしまえば、認めるしか無い。

 何故か戦う気力も削がれたしね…喧嘩は止めましょう…」

「あたしとしては、喧嘩をしても良いんだけどねぇ?

 久々に鈍ってるからね」

「駄目よ」

「わ!」

 

ゆ、夢子さんの方を見てたら、後ろから抱きしめられた!

 

「今回はこの子の修行がメインなんだから」

「あぁ、そう言えばそうだったわね。フィルの修行がメインだっけ」

「そう言う事よ、でもそのついでに、

 私達が抱えるちょっとした問題を解決してくれて、ありがとね」

「私は本来、言うつもりは無かったんだけどね、面倒だったし。

 でもまぁ、フィルが何か言いたそうだったから、代弁したまでよ」

「わ、私は自分が思ってたことも言えなかったんです…」

「それで良いのさ、あんたは随分と優しいからねぇ。

 こう言う、ハッキリとした正論を言うのは

 こいつみたいな鬼畜だけで十分なのさ!」

「誰が鬼畜ですって? 私は巫女よ」

「神をなぎ倒す巫女ってどうなのかしらね?」

「異変を起した奴が悪いのよ! 私の平穏な時間を邪魔する奴は

 例え神だろうが悪魔だろうが容赦なくなぎ倒す。それが博麗の巫女よ」

「おぉ、恐いねぇ。流石は鬼畜巫女だ」

「魅魔、追い出すわよ」

「ごめんごめん、からかっただけさね、そう本気にならないでおくれよ」

「ったく、博麗神社が妖怪だらけなのは、全部あなたの仕業なのかしら」

「どちらかというと、妖怪みたいな鬼畜巫女の仕業だろう?」

「何か言った?」

「いやいや、何でも無い何でも無い」

 

博麗神社に色々な妖怪が集うのは、きっと霊夢さんの影響だろうね。

自分達に恐怖せず、ハッキリと物を言ったり、受入れたり。

そんな霊夢さんが居る博麗神社だから、色々な妖怪達が集う。

…全てを受入れる幻想郷の巫女はやっぱり霊夢さんが相応しいね。


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