東方半獣録   作:幻想郷のオリオン座

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天使の様な寝顔

フランお嬢様に挨拶とは言ったけど

フランお嬢様のお部屋とレミリアお嬢様のお部屋は

完全に隣同士なんだよね。だから、ちょっと歩くだけ。

 

「しかし、もう1人の方も最初は地下室だったのに

 今じゃ最上階だ。まぁ、当主の妹なら当然かな」

「レミリアお嬢様とフランお嬢様が和解できた理由。

 それは、フィルと共に居るあなた方も知ってるでしょう?

 その当然が、実は非常に尊いことだと言う事もね」

「あぁ、知ってるよ」

 

フランお嬢様は地下室に495年間も居たんだ。

それは、レミリアお嬢様の指示だったと聞いた。

きっと、私達には知られたくない理由がある。

 

レミリアお嬢様が無意味にフランお嬢様を

地下に幽閉するはずが無いのだから。

 

「フランお嬢様はとてもとても強く、脆かったの」

「ん?」

「彼女はあまりにも強大で、そしてあまりにも脆かった。

 ありとあらゆる物を破壊する能力。

 非常に危険であり、忌み嫌われる能力よ。

 

 能力の制御も満足に出来ず、無意識に使ってしまう。

 だから、レミリアお嬢様はフランお嬢様を幽閉した」

「でもよ、年齢の差は5歳なんだろ?」

「えぇ、5歳の時に判断したと言う事になるわね。

 最も495年も前の記憶を正確に覚えてるとも思え無いけど」

 

そうだよね、495年なんて歳月、私には想像出来ないよ。

それ位の前の話を覚えていられる自信も無いよ。

私なんて、きっと1年前の簡単な事は思い出せないしね。

 

「私も全てを知ってるわけでは無いからね。

 所詮はレミリアお嬢様からお話しされたことだけよ」

「ふーん」

 

そうだよね、咲夜さんは人間、長く生きてるとは思えない。

私よりも長く生きてることは確定してるけどね。

 

「でもまぁ、495年も掛ったけど、仲良くなれてよかった。

 私は本当に幸せ者よ。あの方達の歴史的瞬間に立ち会えた。

 私は一生死ぬ人間だからね、奇跡の瞬間を見られた。

 それはとてもとても幸福な事よ」

「それは、そんなに価値がある事なのかな?」

「私には確かな価値があるのよ。短い時しか生きないし

 短い時しか生きるつもりが無い、私の様な人間にはね」

 

咲夜さんが微笑みながら答えてる。

その微笑みに一切の曇りは無い。

本心で言ってる言葉。咲夜さんはきっと、いや間違いなく。

自分が人間であると言う事に誇りを持ってる。

 

「さぁ、私の話はこれで良いでしょう。

 フランお嬢様に挨拶してらっしゃい。

 と言っても、フランお嬢様も眠ってるでしょうけどね」

「今はお昼ですからね……」

「フィル? どうしたの?」

「……いや、何でもありません。ただ、頑張ろうと思った。

 それだけです。これからも、今まで以上に!」

「そう、なら期待するわね。フィル」

「はい!」

 

私は今まで、大きな別れを経験していないと思う。

いや、経験はしてるんだ……だけど、実感できてない。

お父さんとお母さんの最後。私はそれをまだ実感してない。

確かに記憶は取り戻した。だけど、お父さんとお母さんの最後は

全く覚えていない……いや、きっと別れなんて無いんだ。

私はまだ、お父さんとお母さんと本当の意味で別れてない。

 

私の首に巻かれてる、このマフラーの中には

色々な思い出と共に、お父さんとお母さんの思いもあるんだ。

だから、お別れなんてしてない。今だって守ってくれてる。

その事を理解し、同時に理解したことだってある。

 

私は……これからもきっと、本当の意味でお別れをすることは無い。

例え何があったとしても、想いが消えない限りお別れじゃ無いんだ。

 

「よーし、フランお嬢様」

 

ちょっとだけ覚悟を決めて、私はお部屋の扉を開けた。

そこには天使の様な幸せそうな笑顔で眠ってる

フランお嬢様の姿があった。大事そうに抱いてるぬいぐるみ。

そのぬいぐるみはレミリアお嬢様のぬいぐるみだった。

 

「随分と可愛らしい笑顔だな」

「そうね……愛おしいわ」

「君、ちょっと雰囲気変わった?」

「ま、まさか、そこまで愚かではないわ。

 しかしながら、レミリアお嬢様のぬいぐるみは正解だったわね。

 次はフィルのぬいぐるみを用意しましょう」

「そう言えば、姉の方にはあのぬいぐるみ、渡してないのか?」

「まさか、私がそんなヘマをする筈が無いでしょう?

 同時に渡したわ。レミリアお嬢様は恥ずかしがって

 抱きしめては居ないけど、枕元には置いてるわ」

「そんなのあったか?」

「隠れて見えなかったのよ。出来れば見えないように

 ちょっと隠しておいてるからね、レミリアお嬢様は」

 

やっぱり恥ずかしがり屋さんなんだね、レミリアお嬢様。

でも、何だかそうだよねって感じがするよ。

 

「イメージ通りだな、あのお嬢様」

「あぁ、表面上は格好付けたいんだろうね」

「殆ど隠せてないけどね、レミリアお嬢様。

 でも、格好いいときは本当に格好いいよ」

「格好いいかぁ? そんな風には思えなかったが

 まぁ、よくあの状態のフィルに挑もうと思ったなとは思う。

 意思が凄いって感じるな、あれ」

「あぁ、勝算は0だったのに、引き分けに持っていったからね。

 実際無謀と言えば無謀だけど、一概に無能とは言えないね」

「あれは驚いたな。祈りを繋げた鎖なんて驚いたぜ」

「うん、あんな事を考え付くなんて、本当に凄いよ…

 本当に嬉しかった、本気で私を助けようとしてくれてる。

 それがハッキリと分かって…凄く、嬉しかった」

「あなたは私達を助けてくれたからね。

 だから皆、あなたを救いたかった。

 だからこそ、あの無謀な挑戦に賭けることにしたのよ。

 レミリアお嬢様もフランお嬢様も素晴らしいのは間違いないわ。

 でも、1番はきっとあなたよ、フィル」

「そんな事ありませんよ、私はただわがままを言っただけです」

「そのわがままが引き裂かれてた絆を繋げた。

 誇りなさい、フィル。あなたが私達を大事にしてると言うなら

 私達の言葉を信じなさい」

「そ、その言い方は卑怯な気がしますよぅ。

 でも、ありがとうございます、咲夜さん!」

 

咲夜さんが私の言葉を聞いて小さく微笑んだ。

凄く静かに、そして誇らしく微笑んだ。

その微笑みからは確かな自信と気品を感じる。

やっぱり、私も咲夜さんみたいになりたい。

あんな風に静かにクールな格好いい大人に……

 

「咲夜、私を差し置いて随分と楽しそうに話してるわね」

「レミリアお嬢様」

「フィル、その……」

「素直になってください、レミリアお嬢様。

 大丈夫ですよ、隠さなくても誰も幻滅しません」

「くぅ、知った風な口を…そうね、まぁ今更よね。

 フィル、私ともお話ししなさいな。

 何だかあなたとの交流が最近無いからね。

 と言っても、あなたはずっと引っ張りだこで

 致し方ないとは思うのだけど」

「はい! 色々とお話ししましょう! レミリアお嬢様!」

「……えぇ」

 

久しぶりに色々とお話しをしよう。

でも、フランお嬢様に挨拶できなかったのは勿体ないね。

だけど、眠ってるところを起すのは心苦しいし仕方ないよね。

フランお嬢様が目を覚ましたら、一緒にお話ししようかな。


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