東方半獣録   作:幻想郷のオリオン座

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大事な思い出

紅魔館で過ごす時間は何だか凄く落ち着く。

とてもゆっくりと……時間が進んでるような気がする。

でも、たまにタンスを開けてみる時、少しだけ寂しい気がした。

私の部屋に前まであった、大事な服が無いからね。

 

(フィル、何か悩んでる?)

「い、いや、そんな事は」

 

フェンリルお姉ちゃんの声が頭の中で響いた。

流石に常に実体化させてって訳にもいかないからね。

私としてはずっとでも良いんだけど、お姉ちゃん達が

ずっと僕達を出しておくのは危険だよ? って、言ってたから。

 

(……ごめんね、僕がちょっと調子に乗っちゃったせいで

 さっさと月を滅ぼしてたら、こんな事には)

「あの、お姉ちゃん……こ、恐いよ?」

(でも、僕が速攻で月を落としてたら、あの服は燃えてないからね)

 

私が何でちょっと寂しい思いをしてるのか、お姉ちゃんは分かってる。

その時の記憶は殆どないから分からないけど

確か月で私が菫子ちゃん達に選んでくれた服が焼けちゃって。

 

(じゃあ、外の世界に行くかい?)

「そ、外の世界へ? でも、どうやって?」

(宇宙から)

「宇宙から外の世界へ!?」

 

あ、でも出来るかも知れない。

 

「そうだね、確かに宇宙からなら!」

「待ちなさいって……」

 

ずっと視線みたいなのは感じてたけど、やっぱり紫さんが居たんだ。

 

「紫さん、やっぱり聞いてたんですね」

「ま、まぁね。野暮用も終わったし、ちょっと見守ろうかと思ってね。

 と思ったら、何か宇宙から外の世界へって言う物騒な言葉が聞えてね」

「やぁやぁ、盗み聞きとは良い趣味してるじゃ無いか」

 

不意にフェンリルお姉ちゃんが前面に出て来た。

 

「あなた、どうせ私が聞いてること理解した上で言ったんでしょ?」

「勿論だよ。まぁ、幻想郷の為だね。僕達はフィルの味方だ。

 フィルが外の世界へ行きたいと言うのであれば、外の世界へ送るさ。

 フィルがやりたいことを全力で支援したいからね。でもまぁ

 僕達は規格外だからね、外の世界へフィルを送る方法となると

 宇宙からの降下か、博麗大結界を壊して出るしか無いんだ」

「止めなさいよ、幻想郷が滅ぶわよ……それ」

「まぁ、小さく破壊して出ることは出来るよ? でも、それも嫌だろ?

 だから、君に協力してもらおうと思ってね」

「協力って、拒否権無いでしょ…それ」

「勿論、拒否権は無いよ。いや、拒否しても良いんだけど

 その場合、僕が強行突破するだけだからさ」

「あなた達の様な規格外が強行突破したら一大事でしょ」

「だね、でも出来るんだ。と言う訳で八雲紫、協力してよ」

「分かったわよ」

 

紫さんが少しだけ呆れた表情を見せた後、スキマを開いてくれた。

 

「フィル、あなたは既に記憶を取り戻してるから覚えてるでしょうけど

 外の世界はあなたにとって、相当辛い環境よ。

 あなたを否定した人類、そしてあなたを殺そうとした人類。

 

 そんな秩序が取れてるように見せかけて、取れてないような

 表面的な秩序で成り立ってる人類が過ごす世界。

 全てを受入れる事で存在してる幻想郷とはほぼ反対で

 殆どの事象を否定することで成り立ってる世界よ」

「知ってます。でも、私を受入れてくれた、大事な親友達が居る世界です。

 ごめんなさい、紫さん……私のわがままで」

「そう、まぁ私は構わないわ。ま、私に何かを言うよりも前に」

「はい、いつも通りお話ししてきます」

 

私はレミリアお嬢様のお部屋へ移動した。

お昼だけど、今日のレミリアお嬢様は起きてた。

フランお嬢様と一緒に何か勉強をしている様子だね。

 

「あらフィル、どうしたの?」

「はい、じ、実は……」

「……表情から分かるわ」

「フィル、また何処かに行くの?」

「はい、外の世界へ、私の親友に会いに」

「……あぁ、あの時の人間達ね」

「はい」

「……ふふ、なら止めるわけには行かないわね」

 

レミリアお嬢様がクスリと笑い、手元にある紅茶を啜った。

 

「行ってらっしゃい、出来るだけ早く帰ってきなさいよ?

 また地底の姉妹とすれ違うことになりそうだしね」

「さとりさんとこいしさんが来てたんですか?」

「えぇ、何度か訪問してたわ。大体あなたが居なかったけどね。

 ま、良い話し相手にはなるけどね。この紅魔館も千客万来よ。

 大体があなた目当てだけど、人気よね、あなたも」

 

凄く嬉しかった。私の事を心配してたり大事にしてる人が沢山居る。

それはとてもとても素晴らしくて、嬉しい事だよ。

 

「と言う訳で、出来るだけ早く帰ってきなさいな。

 あなたという人気者を独り占めというのは結構酷いしね」

「はい、ありがとうございます!」

 

その後、私は紫さんにお願いして、外の世界へ移動した。

外の世界は相も変わらず、あまり良い匂いもしない。

いい音も良い声も聞えない。やっぱり何処か孤独感がある。

でも、安心感もあった。私の居場所がここにはある。

 

そして、私の居場所は私の心の中にもある。

私は1人じゃ無い。そう確信出来るんだ。

それだけの事で、私の心はこの重い空気を跳ね返せる。

 

きっと、大事なのは心だったんだ。

怨むだけじゃ駄目。それを私はハッキリと知った。

 

「……うん」

 

菫子ちゃんと蓮子ちゃんの部屋、汚いし鍵掛ってない。

せめて鍵は掛けようよ! あっさり入れちゃったよ!

居るって勘違いしたけど、やっぱり居なかった!

 

「……料理、やっぱりしてないんだね」

(うわぁ、汚いなぁ、これ……)

(クソ汚ねぇ、やっぱあの館は綺麗だったんだな)

「さ、咲夜さんも居るからね……まぁいいや、掃除しよう」

 

あはは、ま、まさか最初にやる事が挨拶じゃ無くて掃除なんてね。

勝手に上がって良いのかちょっと悩んだけど

サプライズだね、きっと驚いてくれるはずだよ、うん。


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