外の世界の神様が作り出した結界。
その中は何と言うか、とても無機質に思えた。
「これが結界の中?」
「うむ!」
自然豊かな空間、パッと見ではそうなのかも知れない。
でも、その自然達は何と言うか非常に規則正しい風だった。
まるで絵だ、まるで誰かが描いた絵。
漫画とかアニメとか、そんな風に感じる様な空間だった。
非常に規則正しく、周囲に展開してるビルを
より際立たせるために存在している、装飾品だ。
そして何より、この絵のような自然が最も飾り付けてるのが
彼女が過ごしているという、神社だった。
神社だけは妙に豪勢というか、他がオマケと感じる程だった。
「凄かろう! 儂の結界は!」
「うーん……」
「どうしたのじゃ?」
「えっと、何だか自然とか全てが絵みたいに見えて…」
私はつい本音が出てしまった。褒めようと思ったけれど
何故だか、全然褒める言葉が思い浮かばなかった。
私の心が抱いた感想は、全てまるで絵の様だと言う感想だけ。
「うむ、儂が作ったからな」
そう言い、彼女が描いたという絵を確認する。
そこには作、シロ虎と言う名前が書いてあった。
明らかに存在してはいけない文字だと私は感じる。
「ふふん、どうじゃ凄いじゃろ!」
「うーん、何と言うか自己顕示欲凄いね、君」
「神様は存在感を示さねばな!」
「誰も見ないんじゃないの? この結界の中って」
「た、確かにそうじゃが…」
「じゃあ、必要無いと思うわよ?」
菫子ちゃん達も全員、同じ様に居心地良く感じてないみたいだ。
それは私もそうだった。完全に誰かによって作りあげられた空間。
その誰かが常々自己を強調し、他の要素には目も行かない。
まさに自分を慰めるためだけに存在してるかのような空間。
その誰かのためだけに作られたような、そんな狭くまた薄っぺらい空間。
これが外の世界に存在している神様が作り出した世界……
「なる程ねぇ、自分以外に興味とか無いから驚かなかったんだね。
まぁ、信仰で生まれたと言ってたけど、その信仰の主も多分
自分の事しか考えてないような人間だったんだろう。
神って奴は割と人間の信仰に大きく姿や性格が左右されるからね。
極一部しか信仰して無いなら、その極一部が自己顕示欲しか無い
自己中心的な信者だったって事だろう。ま、所詮は外の世界だ。
神にすがるのも、所詮は自分自身が為なんだろうしね」
「儂の大事な信者の悪口を言うでない!」
シロ虎ちゃんが凄く怒ってる。
彼女にとって、その信者達は大事な存在なんだ。
「それはどうしてだい? 彼女達が離れれば君が消えるから?」
「む? ……そうじゃな、彼女達が離れれば儂は消えてしまうのじゃ」
「へぇ、じゃあそれが嫌だから怒ったのかい?」
「む? あ、どうなのじゃろうか……そうなのかのぅ……」
自分でも何故怒ったのか、ハッキリと分かってないようだった。
無意識に怒ったと言う位に反射的に怒った。
それは信者達が大事だというのは間違いないけど
どう言った意味で大事なのか、彼女自身分かってないと言うことだ。
「へぇ、自分でも分からないんだ。でも、それってやっぱさ
かなり大事にしてるって意味じゃない? ただ気付けてないだけで」
「メガネの、それはどう言う意味じゃ?」
「メガネのって、あぁ、そう言えば自己紹介してないからね。
一応今更自己紹介、私は宇佐見 菫子よ、よろしくね」
「じゃあ流れで私も、私は宇佐見 蓮子だよ、よろしく」
「え? じゃあ私もかしら。私はマエリベリー・ハーン。
皆からはメリーって呼ばれてるわ」
「む、黒帽子のメガネが菫子、黒帽子だけが蓮子
で、金髪の方がマエリベリー……まぁ、メリーか。
そして、主らは? 主らもお揃いの帽子を被っておるな。
なんじゃ? 帽子がブームなのか? しかしあざといのじゃ。
なんじゃい、獣耳とは。儂も生えておるばわざわざ帽子を被り
獣耳を見せようとする必要はあるのかのぅ」
「まぁ、正確には見せないためにこの帽子なのさ」
フェンリルお姉ちゃんが、相手を小馬鹿にするように笑い
自分の帽子を取る。同時に私達も同じ様に帽子を脱いだ。
「な! み、耳が生えておる! ひ、人ではないのか!?」
「ふさふさでしょ? 因みに君と同じ様に尻尾も生えてるよ。
まぁ、尻尾の方は1度出すと収めるのしんどいから見せないけどね」
「えっと、わ、私達は一応、人……では、あるんですけど、半分だけで
言うなれば、半獣って言う存在です。あ、それと自己紹介。
えっと、私はフィール・ティルーダと言います。
皆からはフィルって呼ばれてます」
「僕は……まぁ、狼さんだよ、狼さん。
で、こっちは蛇だね、蛇」
「否定はしねぇが、随分と適当な自己紹介しやがるな」
「まぁまぁ、僕らは名前がドストレートだからね。
それとも、お互いに愛称でも付けるかい?
まぁ、その場合だと君はポーンになりそうだね」
「誰がポーンだ! 俺は単機で盤面全部破壊できるぞ!」
「あ、君ってチェス知ってるんだ、超意外。
君みたいな脳筋が頭使うゲームを知ってるとはね」
「んだと!? 良いか!? 脳みそは筋肉で出来てるんだぞ!?
なら、誰よりも怪力でゴリゴリマッチョが超絶頭が良いんだ!」
「ぷふー、お馬鹿キャラがよく使う台詞だねー」
「テメェ! 言わせておけば! お前だって愛称なら
ルリとかリルとか、そう言う弱そうな名前じゃねぇか!」
「良いじゃん、可愛らしい名前だしね。ポーンよりはマシでしょ」
「お、落ち着いてよ2人とも! 結界に亀裂入ったから!」
「あ、マジだ、ヤベー」
「……」
2人が喧嘩したせいで、あのシロ虎ちゃんの結界に亀裂が入る。
うん、規格外だし、そもそも神様の天敵であるこの2人が
この場で喧嘩したら……いや、正確にはちょっとテュポーンお姉ちゃんが
怒ったフリをしただけなんだけど……
「結界って、案外脆いのね…」
「蓮子、理解してると思うけどあの2人がおかしいのよ」
「いや、正確には3人じゃないかな? まぁ、今更だけどね」
「わ、儂の結界に亀裂が入るとは……す、すぐに修復せねば…」
「悪ぃな、まぁ壊さなかっただけ感謝してくれ。
一応、スゲー加減してるからさ。本気出したら一瞬で壊れるし」
「そりゃそうでしょ、僕らは規格外だからね。
幻想郷の力ある神々が作った結界だろうと簡単壊せるんだ
小さな神が作った結界なら容易に壊れるよ」
「お姉ちゃん、幻想郷を守る博麗大結界は神様の力もあるけど
紫さん達、力ある妖怪の力と霊夢さん含む力ある人間の力もあるんだよ?」
「え? あ、そ、そう言えば、そ、そうだね……」
「ぷふー、フィルに指摘されてらぁ、ざまぁねぇな!」
「うぐぐ……ま、まぁ君に負けたわけじゃないから平気だけどね。
フィルにならあらゆる面で負けようとも、何の動揺もない」
「姉として失格じゃねーの?」
「君だってフィルに負けてるところばかりじゃないか!」
「うぐ、そ、それを言われると……」
「お二人さん、また結界壊れちゃうわよ?」
「あ、そ、そうだね、ごめんごめん」
メリーちゃんの少し呆れたひと言で2人が止まった。
ふぅ、あ、危なかったなぁ、ちょっと感情的になったら恐いし。
「いやぁ、ちょっと感情的になるだけで、ビシっと音がして恐いね」
「脆すぎるよな、ここ」
「2人が異常なんだよぉ……」
そして、しばらくの沈黙の後、シロ虎ちゃんがハッとした表情を見せた。
「あ、危ないのじゃ、忘れるところじゃった。聞かねばならぬ。
メガネの…菫子じゃったか、さっきの言葉の意味を教えるのじゃ!」
「え? 何の事?」
「最初じゃ! 自己紹介の前の! 儂がただ気付けてないだけとは?」
「あ、あぁ、信者達の話か。えっと意味だっけ。
まぁ、普通ならすぐに理由がでるんだよ、自分の為ならね。
でも、言葉に詰った。それは大事だと思ってる証拠なんだって。
ただ気付けてないだけで、本心は大事にしてる。そう言う事だよ」
「……そ、そうか」
そう言えば、そんな話がスタートだったね。
ちょっと2人が喧嘩しちゃって話が逸れちゃった。
「まぁ、正直な話。信者達が大事だってならこの内装変えたら?」
ちょっとだけ小馬鹿にしながら、フェンリルお姉ちゃんが
絵の様になってる木をなで始めた。
「殆どないかもだけど、今回みたいに信者を結界内に入れたとき
こんな殺風景じゃ、幻滅も良いところだよ」
「さ、殺風景じゃと!? 何処がじゃ!
こんなにも美しく飾り付けておるというのに!」
「そうそれ、飾り付けちゃってるのさ。自然は道具なのかい?
僕が知ってる場所は、どの木々も楽しそうだし、実物がある。
でも、ここにあるのは全て絵じゃないか。殺風景な絵。
せめて心さえ感じればまだ綺麗かも知れないけど
この自然の絵には心は感じず、自己顕示欲しか感じ無い」
そう言いながら、フェンリルお姉ちゃんが触ってる木を軽く叩く。
同時にその木は一瞬のうちに塵と化し、地面に墨を残すだけ。
「な!」
「ま、ここは本来君だけが居れば良いだけの空間だ。
なら、別に深くは言わなくても良いのかも知れない。
でも、君は井の中の蛙でしか無いと言うことを理解した方が良い。
そして君自身さえ、今はただの絵に近いと言う事を理解するべきだ。
僕がさっき消した絵と、遜色ないほどに脆い絵でしか無いと言うことを」
「……な、何が言いたいのじゃ」
「君は脆いのさ、神ってのは元々脆いが、君はもっと脆い。
簡単に消えてしまうほどに薄く薄く、些細な事で墨となる。
何故なら、君には意思がないからだ。自己顕示欲はあるが
君のその心は僅かな人間に作られただけの薄い者だ。
だから、君自身が確固たる意思を得なくてはならない」
「儂は!」
「僕らが住んでる幻想郷。あそこも確かに脆い世界だが
まぁ、外の世界よりは強固だし、この空間よりは遙かに頑丈だ。
機会があれば、行こうと努力してみれば良いんじゃ無いかな?
そうすれば、自分が作り出したこの世界がどれ程薄いか分かるから」
「主らは何なんじゃ!? 何故儂に!」
「君に可能性があるからだよ。僕らを自分の空間に呼び込んだ。
そこに僅かな可能性を感じただけのことだよ」
フェンリルお姉ちゃんが少しだけ笑った後、
シロ虎ちゃんと視線の高さを同じにする。
そして、再度にこりと笑い、再び立ち上がった。
「まぁ、僕らは神の天敵ではあるが、僕らは神を仇敵とは思って無い。
君らが敵対しないのであれば、僕らは敵対しないんだよ。
むしろ、僕らの仇敵は人なのだから」
「フェンリルお姉ちゃん!」
「分かってる分かってる、もはや人さえ、今の僕らは仇敵とは思わない」
「フェンリル……じゃと」
「その通り、僕らは君らの天敵だよ。
あくまで君らが戦う気なら、だけど」
「じゃあ、そろそろ出るか? おい、お前ら3人はどうすんだ?
俺らはもう飽きたから帰るぞ」
「私達置いてけぼりね」
「まぁいつも通りよ、特にこう言った秘密に関する部分じゃね」
「秘封倶楽部なのに、秘密を前にしたら置いてけぼりって嫌ね」
「あはは、わ、私も大体おいてけぼりだけどね……
私はそこまで詳しくないし」
「……」
私達はそのまま、結界の外に出た。そんな難しい事じゃなかったね。
「主ら」
「ん? どうしたの神様」
「……シロじゃ、儂はシロ。シロ虎という名じゃが、シロで良い」
「白虎じゃないのね」
「そんな可愛くない名前ではないのじゃ。とにかく主ら。
今日は中々有意義な時間じゃと感じた……また機会があれば
その幻想郷という世界について、詳しく教えて欲しいのじゃ」
「興味出たかい? 君もこの世界を捨てる覚悟が出来たかな?」
「馬鹿を言うな、儂は神じゃ。儂を信じてくれておる者達を裏切り
別の世界に逃げる等という事はせぬ。ただ興味が出ただけじゃ」
「そうか、君は大分義理堅い部類の神らしい、珍しいね」
「ふん、また来るが良い」
そう言い残して、彼女は再び自分の結界内に入る、と、同時に。
「ぬわぁああ! 結界の修復忘れておったぁ! 最悪じゃぁ!」
と言う、叫び声が聞えて結界が閉じた。
「……よし、帰るか!」
「何も無いの!? 悪い事したとか無いの!?」
「ふ、不可抗力だからな!」
「君が感情的になったのが悪いんだよ」
「挑発してきた方が悪いんだろ!?」
「どっちもどっちでしょうに…」
「いやぁ、格好付けたこと言ってたけど、何処か残念よね」
「基本格好付けたことを言ってるのはフェンリルの方だけよ」
「いや、そこまで格好付けたこと言ってなけど…」
「フェンリルお姉ちゃん、結構格好付けたがりだしね」
「フィルまで!? そ、そんな事無いでしょ!?」
「まぁ正直、それよりも…すぐ挑発しちゃうのが」
「うぅ! は、反省する! 反省するから!
だからフィル! 嫌いにならないでおくれよぉ!」
「嫌いになる訳無いよぉ! だから抱きしめないでぇ!」
「本当規格外の存在とは思えないくらいに……可愛らしいわね」
「まぁまぁ、能ある鷹は爪を隠すとか、そんな感じよ多分」
「実際、パッと見では強いようには見えないからね、あはは」
うぅ、フェンリルお姉ちゃんも結構感情的になるんだなぁ。
普段からは想像出来ないけど、やっぱり優しいお姉ちゃんだよ。