菫子ちゃん達と海で色々と遊んだ。
これは、とてもとても楽しい経験だった。
「ふぅ、遊んだわね」
「そうね……もう薄暗いわ」
「じゃあ、帰ろうか」
私達は帰ることにする。波の音を聞きながら
後ろ髪を引かれる思い出はあるけどね。
何だろう……私は何を考えてるんだろうね。
この思いはどんな感情にたいしてなのかな?
……うん、楽しいからだよ。私は今、外の世界が楽しい。
友達と遊んだり、お姉ちゃん達と遊んだり。
こんな経験を、私は外の世界で1度もしなかった。
いや、正確にはしてた経験はあったんだ。
私がまだ幼い頃、生まれて間もない頃。
あの時はとても楽しかった、本当に楽しかった。
色々な友達と色んな遊びを続けてた。
楽しかった……だけど、私は受入れられなかった。
私という存在がイレギュラーであると言う事が知られて
私と仲良くしててくれた友達は皆……私から離れて行った。
だから私は深く絶望して……そして、逃げた。
「フィル-? どったの? まだ遊び足りないの?」
「あ、いや、そう言うわけじゃ無くて……あ、いや違うかな。
遊び足りないのは遊び足りないんだけどね」
「フィルは元気だね」
「元気ってよ、準備運動にもなってねぇだろ?」
「あなた達からしてみればそうなんでしょうけど
私からしてみればもう、しんどすぎるわ……」
「貧弱だなぁ」
「いやいや、あなた達が特殊なのよ」
だけど、私は外の世界で新たな居場所を手に入れた。
私の色々な異常な姿を見ても、菫子ちゃん達は私を受入れた。
もしかしたら、そんな彼女達さえ、この外の世界では
イレギュラーな存在なのかも知れない。
社会のルールや法則、常識の枠に囚われない発想を持つ彼女達。
それは排他的で、何処までも不平等で理不尽なこの世界では
嘲笑われたり、迫害されたり、不気味に思われる存在……
彼女達は可能性を見て、追いかけてるだけなのに
その行動さえ、この世界はきっと拒絶するんだと思う。
「……」
「フィル? 本当にどうしたの? 何だか表情が暗いよ?」
「うん、ごめんね……何だか、ちょっと色々な事考えて」
広い広い海を見て、私はそんな事を思ってしまう。
何かに熱中してたときは、こんな事は考えないんだけどね。
その何かが終わったら、私はどうしても色々と考えてしまう。
私の悪い癖なのか、それとも私の性格なのか。
楽しい時間の終り、その時間が来ると同時に襲いかかってくる
深い冷静な感情……この感情はもしかしたら後悔なのかも知れない。
「何か難しい事考えてるみたいだけど、深く考えなくても良いじゃん
大丈夫だって、何かあっても何とかなるって」
「な、何かあっても何とかなるって、ど、どう言う事?」
「何か隕石降ってきたりしても大丈夫だし、幽霊もドンと来いだしね!
まぁ、そんな事は早々無いだろうけど。あ、幽霊はありよ?」
「あはは、そう言うのじゃ無くて、こう、後悔って言うか」
「後悔? 変わった事言うわね、何か後悔する事あったの?
まぁ、私はフィルの事、全部知ってるわけじゃ無いけど
少なくともよ? 私は今のフィルは楽しそうに見えるし
そんなに後悔するようなことがある様には思えないけど」
「そうかな? 私、楽しそうに見える?」
「見える見える! 海で遊んでるときも楽しそうだったしね!
たまーに今みたいになるけど、本気で後悔とかしてたら
楽しい感情なんて絶対来ないと思うしね。大丈夫だって」
そうだね、私はたまに後悔をする事はある。
だけど、理解してるはずだよ……私は今、幸せだって。
私には居場所がある。それだけで、私には大きな支えになる。
「そうかな? じゃ、じゃあ、いつも通り」
「うんうん! その方が良いって!」
菫子ちゃんのお陰で、少しだけ明るくなれる。
本当に私はよく後悔する。私はそんなに頭がよくないんだろうね。
私よりも遙かに長い時間を生き、いくつもの後悔をしてるであろう
紫さん達だって、楽しそうに生きてた。長く生きてる間に気付くのは
間違いなく過去と言う存在が無意味だと言う事だ。
もしくは諦めか……過去はいつしか必ず消える。
それ故に、過去なんて物は必要無いと言う諦め。
どうなんだろうね、紫さん達は数多の過去を覚えてるのかな?
……分からない、長い時間を生きてない私にはきっと分からない。
だから、私は私が辿り着くべき答えにたどり着こう。
まだ長い時間を生きてない私が辿り着くべき答えは1つ。
過去を忘れないで、未来の糧として……価値ある未来を作る事。
それで良いよ、私は絶対に楽しく生きる!
「じゃ、帰ろうか!」
「うん!」
そして、私達は帰路についた。でも、何だろう。
「……裂け目?」
「え!? また裂け目!? 最近よく見るわね。
最高じゃないの! こんなに人目に付く場所に!」
「裂け目は色々な場所にあるけど、
確かに最近は妙に大きな裂け目が多いわね……」
「そう言えばメリー、最近夢とか見る?」
「え? あ、そう言えばあまり見て無いかも…」
「どうして?」
「そんなの私に言われても」
「夢? そんなに大事な事なの?」
「メリーの場合はちょっと特殊でね
実際に夢の世界へ行ってるのよ」
「因みに私もそう言う傾向はあるわよ。
眠ってる間に幻想郷とかに行く事あるしね」
夢……私も結構見てるけど、最近はそこまで見て無いなぁ
……そう言えば、夢世界の私ってどうなってるんだろう。
「やっぱり夢って特別なんだね」
「そりゃそうだろうね、夢の世界があるくらいだからね。
しかし、夢の世界ってのはまた斬新とも言えるよね。
あらゆる精神が眠ってる間に辿り着く世界。
ある意味では、鏡の世界の様な不思議な世界だ」
「鏡の世界ってあるの!?」
「あるよ、あるある、人ってのは凄いからね。
精神が集中することで神が生まれるくらいだ。
本来無い筈の世界を創造することだって出来る。
だけど同時に、その世界は薄れてきてるんだけどね」
「どう言う事?」
「外の人間が利口になりすぎたのさ。
そして、ロマンチストでも無くなってきてると言う事だ
いや、ある意味では馬鹿になってると言えるのかな?
折角の特権を自ら放棄し、大きな力を捨ててるわけだしね。
まぁ、共通意識を持って団結力を高めようとした結果なのかな。
その結果、自らが衰退をしてると言う自覚が無いまま。
だから、君らは本当に頭が良い人間だ」
「どう言う事?」
「非常識を非常識と受入れてないからだよ。
その結果、君らは強い能力を得たと言う訳だ。
まぁ、蓮子の場合は頭が良すぎた結果だけど」
「え? 何? 褒めてくれてるの? ありがとう」
蓮子ちゃんは凄いよね、星空を見て時間と場所が分かるんだし。
「うん、褒めてる褒めてる」
そんな会話をしてると、背後から変わった気配が増えた。
「お話し中に失礼するわね」
「な!? あ、あなたは!
やっぱり凄くメリーに似てるわよね」
「第一声、それってどうなの?」
「いや、最初に会ったときに言えなかったし」
「わざわざ言わなくても良いでしょうに」
「いやぁ、そうは思ったけど」
ゆ、紫さんが不意に出て来て、冷静にそんな風に言うなんて
やっぱり蓮子ちゃんってかなり肝据わってるよね。
「へぇ、紫さんが来たって事は」
「えぇ、お迎えの時間よ」
「……」
「はぁ、長かったけどもう終りか…寂しくなるわ」
「明日迎えに来るわ、今日はそれを伝えに来たの」
「い、今すぐじゃ無いんですか?」
「えぇ、最後の1日を楽しみなさい。
とは言え、それ以上は待てないけど」
「どうして?」
「外の世界が不安定になったからよ」
「どう言う……」
「フィル、あなたの存在は外の世界に大きな揺らぎを与えてる。
外の世界の境界がかなり揺らいできてるわ」
「はぁ!? 何よそれ! それじゃ、まるでフィルが!」
「ありがとうね、この子の為に怒ってくれて。
本当にあなたは彼女の親友よ、間違いないわ」
やっぱり、私は素との世界に長く居続けることは出来ない。
私はそれだけ、規格外な存在だって事なんだ。
分かってた事だけど、それを改めて理解するとショックだなぁ。
だけど、少しの間は外の世界で過せる。それで十分だよ。
「ありがとう、菫子ちゃん。だけど、仕方ない事だから」
「仕方ない事って……」
「それに、あまりにも長いことこの場所にいたら
お嬢様に怒られちゃうしね。えへへ」
「フィル……」
うん、明日だね。仕方ない事だよ、明日、私は帰らないと。
やっぱり後ろ髪を引かれるような思いだ。
大事な親友とお別れをしちゃうなんてね。
でも大丈夫、私が菫子ちゃん達と作った思い出は確かにある。
この思い出の他にも、菫子ちゃん達が買ってくれた服。
何着もあるけど、破らないように気を付けないとね。