不思議な気分だ、何だか滾ってくる。
どうしてかな、やっぱりお姉ちゃんの影響かな?
「さぁ、行くわよ」
幽香さんが最初に1歩踏み出した。
僅かな1歩で一瞬で私に間合いを詰めてくる。
たった1歩でここまで間合いを詰められたのは初めてかも?
「うわっと!」
かなりの一瞬で彼女が力強く傘を振るう。
普通であれば簡単に折れてしまうであろう勢いだった。
だけど、彼女が振るった日傘は折れるどころか
歪んですら居ない。とんでもない硬度だね。
「不動、なる程。体幹も相当の様ね」
「す、凄い力ですね……」
「えぇ、力には自信がある物」
そう言い、楽しそうに笑いかけると同時に力強い拳は
私の腹部に向って飛んで来たのが分かる。
「うおわぉ!」
反射的に私は彼女の拳を受け止めていた。
でも、勢いも相当あり、少しだけ後方に飛ばされる。
「とっとと!」
後方に飛ばされながら、バク転を行ないながら
体勢を立て直し、即座に幽香さんの方に目を向ける。
目を上げると同時に、私の視界に入ったのは
もうすでに私に攻撃をすることが出来るほどに近い幽香さんの姿。
「良い反応速度だけど、まだ遅いわね」
「っ!」
彼女の攻撃を防ぐけど、最初と同じ様に吹き飛ばされる。
私を吹き飛ばすと同時に、彼女は私に向けて日傘を向けている。
最初と同じ様に傘が力強く光り出す。
「これでどう?」
巨大なレーザーが再び傘から放たれる。
だけど、この程度の太さなら避けられる!
吹き飛ばされながら、地面を蹴り、一気に飛び上がる。
同時に空気を蹴り、レーザーを掠める様に飛び込み
幽香さんの背後にまで一気に移動した。
「そこです!」
「ん?」
背後に回って幽香さんに攻撃を仕掛ける。
「いつの間に背後に、とんでもない動きね」
背後からの攻撃は流石に当った! このまま叩き込む!
何だかドンドン楽しくなってきてる気がする、不思議だ。
こんな感覚は……いや、でも……何だろう。
(フィル、普段こんなに楽しんでないのによ。
何か合ったのかぁ?)
(君の影響じゃ無いのかい?)
やっぱり、何だかテンションが上がったら好戦的になる。
妹紅さんの時もそうだったしね。
(やっぱり多少は本気を出せる相手に飢えてるのかな?)
(やっぱ俺の妹だよなぁ、お前はそんな感じ無いが)
(僕の場合は身近にヤバいの多いしね)
今回はこの綺麗なひまわり畑でちょっとテンション上がっちゃってる。
妹紅さんの時はあの綺麗な姿を見てテンションが上がったし。
「とんでもないキレね、これ程の実力者が居るとはね。
半獣異変。幻想郷最大の異変と言われてる理由がよく分かるわ」
「おわぁ!」
不意に飛んで来た傘の攻撃を受ける。
とは言え、私自身はきっと反応出来たはずだ。
何でワザと受けたのか。それはほぼ間違いなく
この攻撃を受けても何の問題も無いという確信があったから。
現に私はその攻撃を受けて吹き飛ばされても
地面に接触する瞬間に何度も大地を蹴ったり
何度も片手で大地を軽く叩いたりして
わざとゆっくりと勢いを殺しながら
無駄にアクロバティックに体勢を戻した。
正直、1度だけで容易に体勢を立て直せたと思う。
だけど、私はそれをせずあえて時間が掛る方を選んだ。
きっとあれだね、外の世界で色々と見てたからだね。
アニメとか、そう言うのを何度も見て真似したくなったんだと思う。
「もう一度、デカいのをプレゼントしてあげるわ」
体勢を立て直し、視界をあげた瞬間に
再び彼女が不敵に私へ向けて笑いかけてるのが見えた。
今までの流れから察するにあのレーザーだと思った。
魔理沙さんが使ってた、マスタースパークのような攻撃。
だけど、今回は違った。彼女の周囲には綺麗な花が5つ展開。
その展開された5つの花も最初の傘と同じ様に光っている。
あれが使い魔……そして、あの雰囲気から察するに。
「一気に吹き飛びなさい」
彼女が指を鳴らすと同時に周囲に展開していた花型の使い魔から
一斉に極太のレーザーが放たれていた。
範囲や太さは魔理沙さんのマスタースパークや
今まで幽香さんが放ってた攻撃よりも遙かに太い。
決め技として、この広範囲攻撃を使ったのが容易に想像出来た。
5つの異なる方向へに放たれてるそのレーザーは
完全に私の回避ルートを塞いでいた。
だけど、一箇所……彼女へ向う道筋だけが残されている。
でも、そこにはクスクスと笑いながらこちらにゆっくりと傘を向けてる
幽香さんの姿があった……避けさせる気、無いよね?
「避けさせるつもりが無いなら、私も避けなければ良い。
あなたの攻撃よりも速く、あなたに辿り着けば良いだけだから」
私は右足をゆっくりと後方へ下げる。
彼女が構えた傘が光りを帯びる。
それを確認した私は一気に力を込めた。
「な!? うぐ!」
彼女が反応さえ出来ない程の速度で間合いを詰める。
スペルカードに同じ様な攻撃を考えてた。
狼娘の狩りごっこ、あまり格好いい名前ではないよね。
今回はルールはあまり意味が無さそうだったし
スペルカードの宣言などは無く間合いを詰めさせて貰った。
一瞬過ぎて反応出来ないほどの速度で
私は彼女に近付き、彼女の腹部を両手の掌で力強く押した。
掌打って感じかな、今度美鈴さんに色々と教わろう。
「……ふふ」
吹き飛ばされた彼女は何度か転がり、地面に仰向けで倒れ込んだ。
そんな彼女のすぐ近くに上空へ打ち上がっていた傘が突き刺さる。
「驚いたわ、この強さ……ふふ、私もまだまだね」
「これで満足かしら? 風見 幽香。
フィルの実力は十分過ぎる程に分かったでしょ?」
「えぇ、過剰なほどにね。彼女はまるで全力を出してないでしょ?」
私に強く叩かれたお腹を軽く撫でながらゆっくりと起き上がる。
普通の人間が相手であれば、容易に死んでしまうほどの破壊力。
だけど、彼女は全然平気そうだった。子供に殴られた程度の表情。
やっぱり私達妖怪と人間では、そもそも次元が違うんだって分かる。
「流石は幻想郷の殆どが動く程の大異変を起した人物ね。
イメージよりは大分好戦的だったけどね。
私としては、その方が色々と楽しめたと言えるけど」
ゆっくりと起き上がり、彼女は地面に傘を突き刺し、引き抜く。
同時に今まで隠れていたひまわりたちが再び顔を見せた。
その行動の後、幽香さんは再び日傘を開いた。
「楽しかったわ、紅魔館の狼ちゃん。
やはり私もまだまだ実力不足だというのは間違いないわね。
とは言え、全力を出せる相手と戦えて満足よ。
あなたにもそう言う相手が出来れば良いわね。
強すぎる力は、時にどうしようも無い退屈を呼ぶのだから。
だけど、あなたは幸せそうね。
ふふ、娯楽があるのかしら。
私が花を愛でるのと同じ様に、
あなたにも気を紛らす事が出来る娯楽がね。
その娯楽を大事にする事ね、永劫の時を生きる
私達妖怪に必要なのは、魂を枯らさないための
永劫の娯楽が必要なのだから。
妖怪の先輩としてアドバイスをしてあげるわ。
ふふ、大好きな無駄を探しなさい。
魂を枯らさないためにも、永劫の娯楽をね」
私の返答を待つことも無く、幽香さんは歩き出した。
楽しそうに咲き誇る無数のひまわり達に隠され
彼女の姿はすぐに見えなくなってしまった。
「何だかんだで、何処かお節介な所があるわね。
ま、私も似たような物なのでしょうけどね。
さ、フィル。気は晴れたかしら?
どう? 久々に全力で体を動かした感覚は」
「……はい、楽しかったです!」
「そう、なら良かったわ」
私の返事を聞いた紫さんは優しい笑顔を見せてくれた。
「これから、あなたは長い長い時を生きるわ。
でもね、あなたよりも長い時を生きてる妖怪も
あんな風に幸せに生きる事が出来てるわ。
幸せに生きるためは生き甲斐を見付ける事。
それは人も妖怪も変わらないわ。
それが無ければ、人も妖怪も所詮は生きる屍でしか無い。
短い時しか生きれない人間でさえ屍になるのだから
永劫の時を生きる私達妖怪は確実に魂まで腐るでしょうね。
だから、あなたもしっかりと探しなさいね?
まだまだ未来の事だけど、避けようのない事でもあるから」
「…分かりました、私もそう言う幸せを見付けますね」
「それが良いわ。あなたには大事なお姉ちゃん達も居るから
そんなに心配することは無いかも知れないけどね」
「はい!」
長い時を生きてもなお、幸せに生きる妖怪。
もしかしたら、紫さんは幽香さんを私に合わせたかったのかもね。
だから、この場所へ連れてきてくれた。
これから長い時を生きるであろう私にアドバイスをして貰うために。
色々な妖怪達の生き様を見させて、参考にして貰うために。