周りに迷惑を掛けないように移動した。
周囲に誰かが住んでいることも無い。
迷惑が掛らないような場所。
ゆっくりと歩いて、私達はその場所へ来た。
何人か一緒に付いてきては居るけれど
戦うのは私と天子さんの2人だけだ。
「ふふ、あなたが乗ってくれて嬉しいわ」
ゆっくりと私の方へ振り向き
天子さんは変わった刀を振り抜いた。
「改めて説明するわ。
この刃は緋想の剣。
天人の秘宝と言える武器。
この剣は、相手の気質を霧に変え、
霧はやがて「天候」となる。
そして、その気質の弱点である性質を
自ら纏うのよ。
要は相手の弱点を叩き込める剣」
「それは凄く強力ですね……でもそれは、
所詮、相手に当てる事が出来たら……ですよね?」
今日は何だか色々と戦う事が多い気がする。
そして、何だかその度に私は滾ってる気もする。
どうしたんだろう……どうして私は今、こうやって
戦う事を楽しんできてるんだろう。
(おぉ、フィルのテンションたけーな!)
(うぐぐ、ま、マジかぁ……あれだね、これ。
多分これ、せ、成長してるって実感があるから)
(あー? どう言う事だ?)
(そのままの意味だよ……成長してるという実感。
自分の実力に少しずつ自信が持てて行ってるんだ。
フィルは向上心の塊だからね。
だけど、今までは成長をする事を拒んでた。
そりゃそうだよ、飛び抜けた実力があって
成長しても誰も褒めず、ただ毛嫌いされてた。
それが、この幻想郷じゃどうだい?
成長する事を喜んでくれる人々が多い
自分の善意を褒めてくれる人ばかりだ。
フィルみたいな向上心の塊である子が
フィルみたいに純粋に誰かを助けたいと
そう思ってるような子が
今まで成長したくても
周りがそれを拒んでた場所から
今まで、手を差し伸べても振り払われてた
そんな時には誰かの善意さえ否定するような
そんな救いようのない場所から
成長すればするほどに褒めて貰える
手を差し伸ばしても拒まれず
お礼をして貰って、お互いに笑える様な
そんな、自分のありのままで生きる事が出来る
幻想郷という、理想郷へ来た。
自分自身にしっかりとした自信が持っても
なんら、不思議じゃ無い)
私が少しずつ戦う事を楽しいと感じているのは
もしかしたら、そう言うことだったのかも知れない。
勿論、相手を傷付けることを楽しんでるわけじゃ無い。
お互いに楽しみながら戦う。それが重要だから。
これは戦いであって、戦いじゃ無いから。
幻想郷の戦いは命の奪い合いでも
お互いの優劣を決めるための物じゃ無い。
お互いが楽しむための戦いなのだから。
「ふふ! 良い表情するじゃ無いの!
そう来なくっちゃ! やっぱりこう言うのは
お互いに楽しみながらやるもんだしね!
さぁ、行くわよ! フィル!」
「はい! 来て下さい、天子さん!
私はあなたの攻撃全てを避けて見せます!」
「魅せてみなさい、私を!」
「はい!」
私の返答と同時に天子さんが踏み込んできた。
1歩の間合いで近付き、素早い振り払い。
確実に相手に当てる事が出来る距離。
だけど、私はその攻撃を服さえ擦りそうな
そんなギリギリで身を避けた。
「そこ!」
私が避けると同時に、天子さんは再び
緋想の剣を構え直し、私の首元を狙う。
この人達も、私は切っ先が触れるギリギリで避ける。
「流石の動きね、フィル!
最初に戦った時よりも遙かに上手い避け方!
私があなたを侮っていれば
当ったと勘違いするほどの回避ね!」
「ありがとうございます!
そして勿論、攻撃もしますよ!」
「うわ!」
天子さんの攻撃を避けると同時に1歩踏み込み
彼女に裏拳で攻撃を仕掛ける。
天子さんは辛うじて私の攻撃を防ぐ。
この一撃では吹き飛ばされることは無いにせよ
天子さんは大きく後方へ押し返されたと言える。
「う、腕が痺れるわ……ほ、本気じゃ無いのに
この一撃は見事としか言いようが無い」
「あ、気付いてたんですね」
「そりゃ気付くわよ、あんたが本気だったら
私がこんなに平気そうなわけ無いし」
「あやや、あの天人様が随分と謙遜しますね。
もしや、自らが劣ってると、そう考えてます?」
「何を当然なことを、
私は無謀じゃ無いし馬鹿じゃ無いわ
圧倒的な実力差を見抜けないほどに愚かでは無いわ」
「ですが、戦いを挑んでますよね?」
「そんなの、お互い遊びだからに決ってるわ」
天子さんに取っても、やっぱりこの戦いは遊び。
暇を潰すための、ただの戯れに過ぎないんだろうね。
「でも、楽しむためにもしっかりとやらなきゃね!
全力で戦える相手なんて、そういないわ!
さぁ、行くわよ! 地震「先憂後楽の剣」」
天子さんがにやりと笑い、緋想の剣を大地に突き立てる。
だけど、その瞬間だけには何も起こらない。
何かを仕掛けた……そんなスペルカード?
「さぁ、大地の怒りを食らうが良い!」
少しして、大きな地震が私達を襲った。
「地震!? そんな無茶苦茶な!」
反射的だったのか、私は大地を踏み付ける。
どうして踏み付けようと思ったのかも分からない。
空高く飛ぼうとしたからなのか。
だけど、その一撃で地震は止まる。
何事も無かったかのように。
「な!?」
「およ?」
(あ)
脳内から聞えた、そんな間の抜けた言葉の後
私の背中に何かが生えてきたような感じがした。
「ひゃっはー! シャバの空気は最高っすねー!」
「うぇ!?」
「え!?」
ふ、不意に口が動いた……あれ!?
(おぉ!? 何だぁ!? 変な声だな)
(やっほーっす、テュポーンせんぱーい!)
(……誰だお前!)
「くぅ! この天人! 何て事してくれたんだ!」
「え!? 何? 私が悪いの?」
「うぅ、フィルが地震を止めるために
まさか大地を踏み付けるなんて……
よ、予想以上に力が出たせいで……」
「まぁ、そう言う事っす、うちが出て来たっすよ-」
「も、もしやこれは、フィルさんの新たな人格!?」
「その通りっす、うちはガルーダ。名前は知ってるッスか?
まぁ、分かりやすく言っちゃうと、神様の乗り物っす。
なんて言っても、最高神以外じゃうちには勝て無いっす。
因みにインド神話っすね、怪鳥とか言われてるっす。
しかし、ヴィシュヌさんも変態さんっすよねー
うちに乗りたいとか、まぁ、神話なんでね。
実際は暴れたら困るからって条件呑んで貰ったっす」
「……」
「まぁ、何でも良いわ。勝負を中断はしない!」
少し呆気に取られてたけど
天子さんがすぐに私の方へ来た。
上空から大きな岩に乗って落下してくる。
「あなたがどれだけ色々な人格を持って居ても
私はあなたと戦うことに飽きたりはしないわ!」
乾坤「荒々しくも母なる大地よ」
大きな岩が大地にぶつかり、周囲の立ちが浮き上がる。
「おぉ! こりゃうちの自己紹介は後っすねー」
「さっさと引っ込めこの鶏!」
「いや、鶏じゃ無いっすよ? 怪鳥っすよ?」
「もう!」
「おぉ! 流石フェンリル先輩!
まさかうちを無理矢理押さえ込もうとするとは!」
(狼、何やってんだよ)
(君も手伝ってくれ! 僕1人じゃ辛い!)
(あー? まぁ、分かったよ。ほれ)
「あ、こりゃ無理だ」
そんな言葉の後、私は口が一気に軽くなった。
「あなたも中々面倒な生い立ちね。
でも、楽しそうで私は羨ましいわ!」
「あ、はい、楽しいですよ!」
大地を浮き上がらせた天子さんが緋想の剣を構え
一気に浮上していた私の方へ間合いを詰めてくる。
私は浮き上がった大地から少しだけ飛び上がり
飛んで来る天子さんの刃へ向けて拳を叩き込んだ。
「うぐぐ! や、やっぱり斬れない!」
「そう簡単には斬られちゃったりしませんよ!」
「うわ!」
このぶつかり合いで、勝ったのは私だった。
この結果により、天子さんは大地へ落下。
私は即座に空を蹴り、天子さんの背後に移動した。
「良いわね、そう来なくっちゃ!」
すぐに起き上がり、私に向って斬りかかってくる。
その攻撃を最初と同じ様に避けた後に
天子さんのがら空きになった腹部に掌打を与えた。
「うっつつ!」
「おぉ、か、硬いですね、
ふ、腹筋割れてるんですか?」
「え? 割れてないわよ?」
そう言って、天子さんは少しだけ服をたくし上げ
私にお腹を見せてくれた訳だけど
確かに腹筋は割れてないね。
「ね?」
「そ、そうですね。あ、因みに私も割れてませんよ」
礼儀という感じかな、私も服をたくし上げて
自分の腹部を見せた。うん、割れてないよね。
「なんで割れてないのかしら」
「き、鍛えてませんし」
「でも、グッと力込めたら出来るんじゃ?」
「どうですかね? えい!」
「おぉ! これがうわさのシックスパックね」
「あ、出来た……でも、か、可愛くないですね…」
あ、あまり可愛いようには感じ無かったなぁ。
とりあえず、力を抜いて元に戻した。
「ふふ、やっぱりあなたと戦うのは
予想通り面白いわ。だから!」
天地「世界を見下ろす遙かなる大地よ」
再び天子さんが大地に緋想の剣を突き立てた。
その突き立てた場所の大地が不意に浮き上がり
かなり高い位置へ天子さんが登った。
「そして、これで最後よ!」「全人類の緋想天」
浮上し、天子さんが手をかざした緋想の剣が
グルグルと回り始めて何かを集め出した。
そして、不意に放たれた巨大なレーザー。
いや、違う。あの攻撃はレーザーじゃ無い。
色々な弾が密集して放たれてる弾幕!
まるでレーザーに見えてしまうほどに
超高密度の弾幕を放ってるんだ!
「私もやります! こう言うレーザー系って!
やっぱりこう、打ち合ってるときが格好いいですし!
即席ですが、力をコントロール出来た今なら!」
集束「神撃の一閃」
即席で考えた、何か強そうな名前のスペルカード。
私の生い立ちとか、そう言うのを考えてみた。
この攻撃は1点集束のレーザを放つ弾幕。
「ん!? うぁ!」
私の指先から放たれた、1点集中のレーザーは
天子さんの全人類の緋想天で出て来た弾幕を
一瞬で貫き、天子さんに直撃したんだと思う。
天子さんの小さな声と同時に僅かに遅れ
天子さんが放った弾幕達が
弾幕の中心に吸い込まれる動作をした後
煙がはじけ飛ばされるかのように四散した。
「……あー、か、完敗ね」
煙が晴れるかのように消え去った弾幕の向こうで
天子さんが仰向けになって天を仰いでた。
その後、天子さんが打ち上げていた大地が戻る。
「ありがとう、最高に楽しかったわ!」
天子さんは楽しそうな笑みを浮かべ、起き上がり
私に握手を求めてくる。
私も天子さんと同じ様に笑みがこぼる。
「はい、私も楽しかったです!」
そして、天子さんの手を握った。
お互いに笑いかけながら、握手をした。
「あやや、これはこれは、いい絵が取れますね」
「あ! 烏! 何を勝手に!」
「良いじゃ無いですか、天子さん。
そんなに可愛らしい笑みを浮かべてるんです。
良いネタになりますよ」
「待ちなさいよ!」
「ふふ、ならば捕まえてみて下さい。
幻想郷最速……あ、元最速ですかね?
まぁ、幻想郷でかなり速い私に追いつけますかね?」
「あんたの肩書き、大分レベル下がったわね」
「あやや、まぁフィルさんが居ますからね。
あまり後悔もありませんし、悔しくも無いです。
ですが、あなたよりは速い自信がありますよ-」
「待ちなさい!」
そう言って、天子さんは文さんを追いかけていった。
……文さん、凄い速度で視界から消えたね。
「あ、待って天人様!」
そして、紫苑さんも天子さんを追いかけていった。
「これは凄まじい物が見れた気分じゃ」
「そうだけど……何か異常事態起こってなかった?」
「確かにフィルの口調が増えたのぅ」
「ふっふーん、ならばうちが説明するっすよ~
まー、本人が喋った方が分かりやすいっすし~」
(フィル、ちょっと僕らを召喚してよ)
「あ、うん」
「因みにうちは不要っすよ-」
そう言って、私が何もイメージしてないのに
誰かが出てくる。
赤いショートの髪の毛。
だけど、一箇所に纏まって髪留めがあった。
狼の髪留め、蛇の髪留めの2つだった。
髪の毛を纏めるためと言うよりは
ただ見せるためのアクセサリーって感じ。
服装はかなりシンプルだね。
ほぼ無地の赤っぽいシャツだけど
胸元に可愛い鳥さんが刺繍されてた。
ズボンは珍しくスカートだった。
テュポーンお姉ちゃんも
フェンリルお姉ちゃんも
私のイメージだからズボンだけど
この人は不意に出て来たからスカート?
ミニスカートだね、黒色のミニスカート。
先端は白っぽいフリフリが付いてた。
背中には大きな赤い翼が生えてる。
もしかして、あの赤い翼ってこの人の?
そして何より大きなお胸。
私より大きい……何で私の分身なのに
何で私よりも大きいの!? 酷いよ!
「あ、ごめんなさいっす」
「え? あ、え?」
ちょっと驚いた表情を見せた後
いきなり出て来た人の胸が小さくなった。
……え!? 胸ってそんなに大きくなったり
小さくなったり出来るの!?
(ビビったね、あいつ)
(なんでビビったんだ?)
(そりゃまぁ、フィルに敵意向けられたらね)
(て、敵意なんて向けてないよ)
「い、いやぁ、ゾッとしたっすよ。
胸は小さい方が良いっすね……
ちょ、ちょっと後悔」
「はぁ……」
す、少し動揺したけど、私はお姉ちゃん達を召喚する。
「いやぁ、しかし圧半端ないっすね。
胸を大きく出しちゃうと消されちゃいそうっす」
「なんで自力で具現化してるんだよ君は」
「ふっふっふー、うちは結構多芸っすからね。
まぁ、フィルちゃんがある程度力を制御してきてるから
今のうちも結構力を制御出来てるって事っす」
「おっとと、さてさて、
本題に入る前に戻って来れて良かったですよ」
不意に風が吹いたと思ったら
文さんが私達の前に姿を見せる。
「逃げ回ってたんじゃねぇのか?」
「まさか、こんな特ダネスクープの匂いを
私がただの戯れで無下にするわけありませんよ。
さてさて、あなたの取材をさせていただきますね」
「構わないッスよ~、うちは自己紹介は大好きッス」
「では、お名前をお願いします」
「さっきも言ったッスけど、うちの名前はガルーダ。
うちらの中で唯一、神と共に歩んだ怪鳥ッス」