今日は人間の里でのお買い物だね。
咲夜さんにお願いされたのは紅茶の材料だね。
色々な素材が書かれているわけだけど
最後の方……かなり堂々と人血と書いてる。
で、隣に小文字で冗談と書いてあった。
……その後に続く分で出来るなら取ってきて。
そんな事、私が出来るわけないじゃん。
咲夜さんはそれ位分かってるけど
わざと書いたというのは分かった。
(あのメイド、結構容赦ねーな)
(冗談って書いてなかったらやってたかもっすね)
(まぁ、僕らにゃ大量殺戮とか造作ないしね)
(こ、恐い事言わないでよ……)
冗談だというのが分かってるから良いけど
これが分かってなかったら、私は後悔しただろうね。
命令をこなせなかったって、ショック受けてたかも。
「えっと、これとこれと」
私はそのまま、人里でお買い物を続ける。
人里の人達は嬉しそうに声を掛けてくれてた。
うん、やっぱりここは居心地が良いと感じるね。
「こんにちはお嬢ちゃん」
「あ、こんにち……え?」
不意に声を掛けられ、その方向を見てみる。
だけど、そこには誰も居なかった。
一瞬だけ、気配は感じたのに……誰も。
いや、この一瞬で、警戒してなかったとは言え
一瞬で……私の背後に移動が出来る何て。
「……ほほぅ、良い反応だね」
「……」
私は即座に背後に振り向いた。
そこには少し探偵の様な茶色の服を着た
私と同じ位の少女が立っていた。
少し子供っぽい橙色のハンチング帽から
白い髪の毛が僅かに見えているけど
瞳の色は吸い込まれるような緑色だった。
少しだけ子供っぽいとは言え
彼女の圧倒的な威圧感は全く隠れては居ない。
月人だとか、妖怪だとか、人間だとか
そんなちんけな存在じゃ無いと言う事は
即座に分かった。
神に近い気配ではあるけど、その威圧感は
ただの神とは一線を画してると分かった。
ヘカーティアさん以上の、異様な存在感。
神綺さんよりも、圧倒的な存在。
ただそこに立っているだけで、周囲を歪めてる。
そう感じてしまうほどに圧倒的な存在感。
私に近いけど、私とは全く違う存在。
「ッ!?」
初めてかも知れない、私は即座に臨戦態勢を取った。
咲夜さんからお願いされてた食材を
全て投げ出すほどの勢いで、背後に下がる。
「そう警戒しないで欲しいな、まだ攻撃はしてない」
「……」
私が反応した様子を見て、彼女は不敵な笑みを浮かべる。
(これはまた……)
(別格っすね)
(んだぁ? クソうぜえな、心の底からぶっ殺してぇ
そう感じるぜ、このクソ生意気そうな餓鬼!)
「君は本能的に僕の正体には気付いてそうだね。
今、僕はかなり力を抑えては居るから
この僕の存在に気付いてるのは、恐らく君だけだ」
「フィルちゃん? どうしたんだい?」
「あ、いや、なんでも……ありません」
「そこの可愛らしい子と仲が悪いのかい?」
「いえ、は、初めて会います」
「こんにちは、初めましてですね。
僕は最近、この幻想郷に来ました」
「あぁ、やっぱりそうかい、私も初めて見たしねぇ」
気付いてない……? 彼女の存在感に?
私が過剰に反応してるだけ?
それとも……彼女の気配に気付けているのは
彼女が言ったとおり、私達だけ?
「では、僕はこれで失礼します」
そう言い、彼女は私の側面を通る。
私はその場で動かず、警戒を解かないままで
彼女の動向に気を配る。
「……強大すぎる力には、いつか刃が向けられる。
圧倒的すぎる存在は、常に不自由な物だよ。
そして、君はあまりにも強すぎる……」
「……」
「絶対的存在は、あまり多くない方が良い」
私とすれ違う瞬間、彼女は私にしか聞えないほどの
小さな声で、そう呟いてきた。
「……フェンリル、ガルーダ、テュポーン。
そして、君自身……君らは危険だ。
特に君だ、フィルちゃん」
「何を……」
「君は自らの強さを自覚するべきだ
そうだ、明日、妖怪の山へ来て欲しい」
「え?」
最後の言葉に私が返事する前に
彼女は私の前から姿を消した。
……明らかに普通じゃ無かった、
あの少女は普通じゃ無い。
今まで出会ってきた、
あらゆる存在がちっぽけだと感じる程に
彼女からは圧倒的な存在感を感じた。
(なんだったんだぁ? あいつ)
(明らかにヤバそうっすよね、あれ)
(……地獄の女神が警戒してたのはあれかもね。
まだ完全に刃を向けてるって訳じゃ無いらしいが
あんまり敵対したくは無いね。
しかし、明日妖怪の山か……行くしか無いね)
危険な存在……今まで出会ってきた存在の中で
最も危険だと感じる様な存在だった。
(まぁ、あれの事は後にしよう)
(そうだね、今はお買い物だよ)
「すみません、お騒がせしました」
「いやいや、気にしてないよ」
そのまま私はお買い物をすませる事にした。
そして、後日。私は言われたとおり
妖怪の山の方へ移動することにした。
「やぁ、来てくれたんだね」
「……あなたは、一体」
「勿論、その問いに答えても良いんだけど
どうも、厄介者が来たらしい」
そう呟き、彼女は帽子を更に深く被り
にやりと笑みを浮かべた。
「ふふん、ただの人間だが中々に良い勘だ。
人である事が勿体ないと感じる程にね。
ありゃ、神に仕える様な存在か疑問だ」
「え?」
そんな言葉の後、背後から気配を感じた。
私はその方向へ視線を向ける。
そこには霊夢さんの姿があった。
「……さて、フィルが何故ここに居るのか。
そして、私の堪が不味い感じてる状況。
新しい異変だとすれば、最悪極まりないわ」
「霊夢さん? どうしてここに?」
「変な気配を感じて飛んで来たのよ。
所で、どうしてあなたはこんな所に1人で?」
「え? 1人って」
霊夢さんの気配に引っ張られたとは言え
不意に消えた気配。ただ者じゃ無いね。
「……」
分かってたとは言え、背後に目を向けると
そこにあの少女の姿は無かった。
「誰かと……待ち合わせでもしてた?」
「……はい、そしてその人は……不意に消えました」
「……そうよね、私も妙な気配は感じてたのよ?
だから、嫌な予感がしてたってのもあるけど
いざ、ここに来てみて立ってたのはあなただけ。
あなたがここで1人だけでってのは違和感だしね」
霊夢さんが私の返事を聞いて
しばらくの間、沈黙した。
「はぁ、分からないわね
仕方ない、あいつに聞くわ。
じゃあ、気を付けなさいよ、フィル」
そう言い残し、霊夢さんが飛び立った。
…本当に、あの人は…誰だったんだろう。
分からないけど…私も帰ろうかな。