文さん、椛さん、紫さん、藍さん
この4人と一緒に、天狗の里へ向った。
天狗の里は意外な事に誰も居ない。
「誰も居ませんね」
「天魔様の指示でしょうね」
天魔、天狗達の長だったね。
私が暴れた異変の時に姿を見せてた様だけど
私はその時の記憶があまり無いんだよね。
どんな妖怪だったのか、どんな容姿だったか。
そう言うのを殆ど分かってなかったし
そもそも、誰が天魔という存在なのかも
理解できてなかった。
(まぁ、見た目だけは威厳があるよ
僕に負ける程度だから、雑魚だけど)
(フェンリルお姉ちゃんが低度なわけ無いよ)
(僕はティルーダ4姉妹で最弱だし)
(最弱と言っても、
地球を美味しく頂けるっすけどね)
(食べてないけどね、食べたかったけど)
神話のフェンリルは最終的に地球食べてないしね。
まぁ、それでも主神クラスの神様を食べる程には
とんでもない存在なんだけど……
正直、当たり前すぎて忘れがちだけど
神様食べるって凄い事だよね。
神様って事は、神奈子さんも
簡単に倒せるって事だし。
「天魔様は大分フィルさんを警戒してるようですね」
「許可を取りに行ったときも
あまりいい顔はしてなかったわね。
勝手に行動したのはあの子だろうに」
「紫さんも理解して下さい
天魔様も天狗という組織を指揮してる立場です。
何とかフィルさんを止めたかったのですよ」
「と言うか、あの行動は紫さんの要請では?」
「私はあの子に協力して欲しいとは言ったけど
天狗の全員を動かして欲しいとは言ってない。
私が動かして欲しかったのは
あなた達2人だけよ」
「え? 何故我々を?」
「理由は単純、あなた達はフィルと交流を持った。
他の天狗達が距離を取ってる中
あなた達だけは何の偏見も無く彼女に接した。
だから、あなた達を動かして欲しいと
そう天魔に伝えたのよ」
「そ、そうだったのですか」
でも、天狗の皆は全員で動いたんだね。
正確には天魔って人と、大天狗って人達が。
……いや、人じゃないか。
でも、つい人って言っちゃうんだよね、あはは。
「ま、その行動のお陰で結果として時間を稼げた。
何も悪いことばかりでは無かったわ。
1番時間を稼いでたのは、あなた達2人と
もう1人の烏天狗、はたてだったかしら。
あの子とあなた達だったけどね」
「あまり覚えてませんけど、
あの時は本当に済みませんでした。
そして、ありがとうございます!」
「いえいえ、当然の事をしたまでですよ」
「えぇ、私もフィルさんのお陰で
楽しい休日も過せましたし
当然ですよ、これからもよろしくお願いしますね」
「はい!」
「……そう言えば、その話で思い出しました」
「何をですか?」
「いえ、はたてとの約束……
確かあの時、今度フィルさんと一緒に
4人で幻想郷を巡ろうって言ってたような……」
「言ってましたか?」
「あれ? 椛は覚えてないのですか?
うーん、そうなると少し自信が
……言ったような、言ってないような…
まぁ、椛も覚えてないのなら
きっと言ってないのでしょう
いやぁ、済みませんね、変な事言って!」
「ちょ!」
文さんがそこまで言うと、変な音が聞え
同時に、誰かの叫び声が聞えた。
その方向に目を向けると、木陰に隠れてる天狗さんが。
「はたて? 居たのね」
「えぇ! 居たわよ!
フィルが天狗の里に来るって聞かされたから!
文との約束の話しも無いし
少しハッキリとフィルの姿を見ようと思って!
普段家にこもってるのに、久々に出て来たのに!」
「天魔様の指示とかは?」
「えぇ、出来れば会うなとは言われたけど
私は会いたかったから会いに来たわ」
「天狗なのに、上の指示を聞かないのね」
「だって、出来ればだし、絶対にじゃ無いしねー」
「……」
この人、何だか幻想郷っぽく無いね。
どっちかというと、外の世界みたい。
髪型もツインテールだし、
服装は文さんに似てる気もするけど
手に持ってる道具はカメラじゃ無い。
携帯電話だ、外の世界ではガラケーだっけ。
蓮子ちゃんが持ってたね。
メリーちゃんと菫子ちゃんはスマホだったけど。
蓮子ちゃんはガラケーも使ってた。
で、私が滞在してる間は
そのガラケーを持たせて貰ってた。
全く使ってなかったけどね。
「凄いですね、その道具」
「え? 道具? 私のカメラ?」
「はい、ガラケーですよね。
幻想郷にもあるなんて驚きです」
「……ガラケー? 何それ」
「え?」
「え?」
……似た道具だけど、違うのかも知れない。
「外の世界の道具ね、ガラケーというのは
確か一世代前の携帯電話を指す言葉ね。
とは言え、まだ幻想郷に入ってくるほどに
外の世界から忘れ去られたわけでは無いわ。
だから、あの天狗が持っている道具は
外の世界から入って来た物では無い。
恐らく河童が作った道具でしょう」
「そうそう、これは河童に作って貰ったのよ。
にとりに何か可愛いカメラ頂戴ってお願いしたら
外の世界の道具を参考にして作ったっていう
この可愛らしいカメラをくれてね。
どう? 可愛いでしょ、このカメラ
色々と機能があってね、ほらこれ
ここ、メニューってあるけどここを押すとね
パノラマ機能も使えたりするのよ」
はたてさんが嬉々として私に色々教えてくれる。
カメラ機能がこの真ん中のボタンなんだね。
私が知ってるガラケーとは結構違う。
蓮子ちゃんに貸して貰ってたガラケーは
数字があって、そこで番号を選んで電話をかける。
だけど、このガラケーは数字があまり無い。
カメラ機能と数字が書いてあった場所には
数字では無くあかさたなが書いてある。
五十音だね、あの部分を押す度に
ア行が切り替わって入力できるんだろうね。
「で、ここを何度も押すとほら、文章がね」
「そうですね、後ここを押すと」
「おぉ!? 何これ新機能!?
動画撮れるんですけどー!」
「やっぱり動画モードもあるんですね」
「うわ! マジで最高じゃんこれ!
マジでテンション上がるわ!
エモ! マジでエモいんですけどー!」
よく分からないけど、はたてさんは嬉しそうにしてる。
「うーむ、やはり私も河童にカメラを
とは言え、今更相棒以外は私の手に馴染まないわね」
そう言いながら、文さんは自分の一眼レフを撫でる。
文さんはあの道具にかなりの思い入れがあるみたいだ。
はたてさんは新しい物を喜ぶ若い人間っぽいけど
文さんは古い物を慈しむご高齢の人間の様だった。
そのどっちにもどっちの価値があるんだろうね。
新しい物をドンドン作ったり、開拓していく事には
当然だけど、価値はあるだろう。
古い物を徹底的に慈しみ、当然を解読し続ければ
いつしか表面を見てるだけでは
到底気付けない事に気付けるかも知れない。
優劣なんて物は、やはり無いんだと思う。
「しかし、姫海棠はたてか。
あなたとは随分と雰囲気が違うわね。
同じ烏天狗でも、ここまで差があるとは」
「人が千差万別である様に
私達天狗もまた、同じ種でも千差万別。
私は古き物を好み、はたては新しい物を好む。
私は清く正しいがもっとうですが
はたてはそう言う訳では無いでしょう」
「あなたが清く正しい? 寝言は寝て言いなさい」
「酷いですねぇ、紫さん。
私は清く正しくあろうとしてますよ?」
「清く正しい者が記者など出来る筈も無いわ」
「出来ます出来ます、個人ならね」
文さんと紫さんの会話。
あまり濃い会話では無い様に聞えるけど
その会話は結構深い会話なんだろう。
あの2人が意味の無い会話をする様には思えないしね。
「はぁ、新聞記者の事は
よく分からないんですよね
私はほら、哨戒天狗ですからね。
見張りだけですし」
「あなたもその内変わることでしょう。
あなたは私に目を付けられてるのだからね」
「え!? わ、私如きに!?」
「勿論よ、あなたはフィルの友人。
私が気に掛けるのは当然よ。
そして、あなたの後輩にも興味はある」
「か、花楓にですか?」
「えぇ、今度会いに行くわ」
「え!?」
「ま、今は黒幕の大天狗ね、フィル」
「あ、はい!」
「行きましょう、やるべき事があるわ」
「わ、分かりました。
じゃあ、私は行きますね、はたてさん」
「もち私も行くわー!」
「……そうね、一緒に来たいなら来なさい」
「ありがとー!」
「あやや、随分と寛大ですね、紫さん」
「えぇ、私は今でもフィルには色々な子と
仲良くなって欲しいと思ってるからね。
あの子が仲良くなれそうな子が居るなら
当然、共に来ることを拒む理由はないわ」
「……そうですか」
文さんは少しだけ怪訝な表情を浮かべる。
何か疑問に思ったのかも知れない。
だけど、その疑問を紫さんに伝えることは無かった。
恐らくは理解してるからだ。
その疑問に紫さんが答えてくれるはずが無いと。