天狗の里へ向かい、私たちはとある場所へ来た。
大きな建物だ、周囲には今まで見た天狗たちの中でも
一番と言っていいくらいに厳重な装備をした
天狗と思われる人が姿を見せた。
装備から白狼天狗にどこか近いが
彼女の髪型は黒色であり
白狼天狗ではないのかもしれない。
彼女のほかにも六人の天狗がいる。
雰囲気からして、相当上位の存在。
椛さんも文さんもはたてさんも冷汗がすごい。
「だ、大天狗の皆様…」
「文、椛、はたて、君たちは」
「は、はい、し、失礼します!」
「あら、流石に彼女たちは駄目なのね」
「理解しているでしょう? 賢者様。
天魔様が彼女達に姿を見せることなど
そうそうあってはならないことです」
「えぇ、知ってるわ。
で? こっちの狐は言いわけ?」
「今回の件に無関係というわけではありませんからね。
では、椛、文、はたて、早く下がるといい」
「す、すみませんでした!」
大天狗さん達に言われて文さん達は姿を消した。
これから会う人は、妖怪の山の中で最上位の存在。
私は彼女にそこまでの印象は抱かなかった。
あまり記憶がないのもあるかもしれないけどね。
「しかし、ずいぶんと殺気立ってるわね」
「かなりイレギュラーな対応ですので」
私にはそこまでの殺気を感じなかった。
殺気に対しては敏感な私だけど
そこまで感じなかったのはなぜだろう。
(語るまでもないよ、他愛ないからだ)
(た、他愛ないって)
(所詮は雑魚だからな、
雰囲気だけは結構なもんだが
ま、偉ぶってるだけだろ)
(えらいのは間違いないっすよ
ただ、ルール外の存在には意味がないだけっす)
これは、ある意味そうなのかもしれないよね。
例えば会社でも、会社に所属してる人間なら
社長さんってすごく偉い存在だけど
その会社に関係ない人からしてみれば
その人はただのおじさんと何ら変わらない。
(組織に所属するってことは、
それだけで不自由な事だ。
入った瞬間、くだらない関係に縛られる。
上の人間だろうと下の人間だろうと
所詮人は人だ、大したことはない。
同じ人なら、いつでも殺せる。
同じ土俵に立てれば、打ち負かす事もできる。
だが、組織に入った地点で
その人間はそいつには届かない存在になる。
偽りの力をもって、上の奴らは下を抑える。
自分の力じゃない、集団の力を前に
ただの人間は容赦なく縛られ、傀儡にされる)
(だが、俺らみたいな存在はそのルールを壊せる。
絶対的な真の力をもって、
全ての理不尽を粉砕できる)
(それが、力をもって生まれた存在っすよ
偽りの力でも届かない、真の強者。
それがうちらっす)
(うー、お、穏やかじゃないよ、皆…)
(ま、実は僕らって組織って存在が嫌いだから)
(うちはそうでもないっすよ、見ててかわいいっす
弱いくせに粋がってる偉そうな態度しかできない
小鹿の様な弱者を拝むと微笑ましい気持ちになるっす)
(俺はぶっ殺そうと思うがな
雑魚のくせに偉そうにしてるやつを見ると
虫唾が走っていけねぇ、粉々に粉砕してぇ
あとはでまかせも嫌いだ、粉砕したくなる)
(だ、だからやめてよぉ!)
さ、3人が妙にピリピリしてるような気がする。
それだけ、3人は組織が嫌いなんだろう。
「本来であれば、このような事はありえません。
部外者を天魔様の元へ案内し、面会させる。
賢者様であれば、その機会はありましたが
賢者様以外の妖怪にこのような対応は初です」
「えぇ、知ってるわ。でも今更でしょ?」
「……そうですね」
大天狗さんたちが私の方を見た。
彼女たちは少しだけ表情を引きつらせ道を開ける。
「今回の異変を起こしていた大天狗である龍は
今、天魔様の前へ下ります。
紅魔館のメイドに襲撃されて多少の負傷はありますが
問題なく会話ができるかと思います」
「わかったわ、では行きましょう」
「は、はい」
紫さんに言われて、私たちはその屋敷へ入った。
屋敷に入ると同時に目に入るのは1人の天狗さん。
そして、変わった髪形をした女性だった。
恐らくだけど、彼女は神だ、気配でわかる。
「さて、あなたたちが今回の黒幕ね」
「は、はい」
「……」
天狗さんの方は答えたけど
神様と思われる方は答えない。
「本来であれば、異変を起こした存在に
私が直接出向き対話をすることはないわ。
ただ、今回はなかなか特殊だからね」
「……」
神様と思われる存在はなんというか弱々しい。
あまり大きな力を感じない。
多分だけど、かなり信仰がなかったんだと思う。
「あ、あの、八雲さん、あまりご主人を」
「私が行動しようと決めた理由はあなたよ?
あなたがフィルとあの大ムカデをそそのかし
戦わせなければ私はここまでは来てないわ」
「す、すみません……」
典さんが紫さんの言葉に謝罪し
すぐに青髪の天狗さんの方へ移動し
彼女の横にちょこんと正座で座った。
「さて、今回私がわざわざ出向いた理由だけど
この異変を何故起したのか
それに対しては、さほどの興味は無いわ。
予想は大体付くからね。
大天狗が黒幕である地点で殆どね。
おおよそ、商売をしようとしたのが理由でしょう。
アビリティカードの取得条件で予想は出来る。
で、その条件を付与したのは彼女、市場の神ね。
天弓千亦、力を弱らせてたと聞いたけど
その力を取り戻すために協力した」
「そ、そうよ……信仰を取り戻そうと思って
龍の持ってきたビジネスチャンスとやらに乗った」
「私は我々天狗達がよりよい生活が出来るように
可能な限り金銭を得て、天狗の里を発展させたかった
河童達だけでは、あまり大きな利益を得られないから」
「で、偶然見付かった龍珠とやらを用いて
アビリティカードを作り出し
商売に乗り出したと言う事ね」
「そうよ、ある程度大きな力を
容易に模倣できる何て人間は当然ながら
ちょっとしか力の無い妖怪だって
喉から手が出るほどに欲しいと思ってね」
確かに幻想郷は力が重要な部分が多いからね。
力ある妖怪の力を一部とは言え容易に行使出来る。
これは確かにあまり力の無い妖怪は欲しがる。
「とは言え、それはいくらか困るには困るわ。
人間達が妖怪に多少は対抗出来る手段を得る。
先の事を考えると、あまり良いことでは無い。
力の無い妖怪に至っても同じ事が言えるわ。
彼女達のバランスが力を得ることでは無く
金銭を稼ぐことで成り立ってしまうと
妖怪と人間の境界が更に曖昧になりかねない。
金銭を強奪売るために、必要以上の妖怪が
人間を襲い、人の被害が増える可能性もある」
「当然、それ位は理解してるわ」
「まぁ、結果としてあなた達は既に退治されてる。
幻想郷のルール上、問題無い解決となったことに
何ら変わりは無いから、そこまでは咎めない。
だけど、気になることがあるのよ」
「き、気になること?」
「えぇ、フィル。彼女のカードがあるかどうか」
紫さんが本題に入った。
紫さんがここまで来た理由はこれだからね。
私のアビリティカードが存在するか否か。
紫さんはその事をかなり気にしている様子だった。
「当然だけど、もし彼女の力を極一部とは言え
模倣する手段があるのだとすれば
バランスが確実に崩壊してしまうわ。
もし、人の手にそんなカードが渡ったら。
もし、力無い妖怪にそのカードが渡ったら。
もし、頭の悪い妖精がそのカードを得てしまったら。
そして、あなた達天狗がその力を得てしまったとすれば
それは、幻想郷のバランスに影響を与えかねない」
紫さんが私のアビリティカードを警戒してた理由
結構あったんだ……知的好奇心だけじゃ無い。
幻想郷のバランスにおいても、私のアビリティカードが
もし存在しているとすれば、かなり問題なんだ……
「そんなカードがあれば、私達は負けてません」
「それに、神である私が関わってる。
その地点で、あり得ない事は分かるでしょ?」
「……本当に? 隠しては居ない?
当然、フィルの力の模倣はかなり危険な技術。
あなた達天狗が隠していても違和感は無いわ」
「そんな物はありませんよ、断言します。
彼女の力の模倣は出来ませんでした」
「えぇ、私も龍からその様な技術は聞いてません」
2人以外の声が、奥の方から聞えてきた。
私はその声の方を向いたけど姿が見えない。
正確には姿を隠してるというのが正しいと思う。
大きなカーテンの様な物で彼女は姿を隠してる。
シルエットしか、私達の目には入らない。
「それに、もし仮にその様な技術があったとして
我々がそれを保有した程度でバランスは崩れません。
我々天狗の事も、信じていただけませんでしょうか?
フィルさんの主である、レミリアさんを信じるのと
同じ様に、我々を少しくらいは
信じてくれてもよろしいのでは?」
「……分かったわ、一応ここは信じましょう。
でも、私はフィルのアビリティカードを探すわ。
もし、そんなカードが存在してた場合
私はあなた達を信じられなくなる」
「構いません、隠すようなことはしておりませんので。
では、今回の件と2人の事を許していただけますか?」
「2人なの? この神の事もあなたは庇うの?」
「えぇ、龍が迷惑を掛けてしまったのもありますし
結果として、彼女のお陰で我々もいくらか潤った。
彼女に対しての敬意もありますので」
「そう、で、2人と言う事はそこの狐は?」
「彼女は龍の配下ですからね。
彼女の処遇は龍に一任しております。
最終的な判断は龍に行なわせますので
私が彼女の不手際を許して欲しいとは伝えません」
「そう、じゃあ彼女の処遇をどうするかは後で問うわ」
そう言って、紫さんは私に視線を向け
少しして再び龍さん達の方を向いた。
「ひとまず、今回のあなた達の回答は分かったわ。
私もその返答を聞き、今回はこれ以上何も言わない。
ただ、フィルのアビリティカードは探らせて貰うわ」
「構いません」
「フィル、何か言うことは無い?」
「い、言う事ですか……は、はい、あります!
異変の時は迷惑を掛けて、済みませんでした!」
「え?」
私の謝罪を聞いて、紫さんと藍さん以外は驚いた。
「今回も暴れてしまって、本当に迷惑を掛けてしまって
騒ぎを大きくしちゃって、本当に済みません!
暴れ過ぎ無いよう、注意しますので
これからも何度か来ても良いですか?」
「え、えぇ、構いませんが」
「あ、ありがとうございます!
これからもどうか、よろしくお願いします!」
「え、えぇ、こちらこそよろしくお願いします」
「さ、これで満足かしら? フィル」
「は、はい、ありがとうございます紫さん。
その、何も言ってないのに」
「あなたの事はいくらか分かってるつもりよ。
それじゃあ、私達はこれで失礼させて貰うわね。
これからもフィルの事を、よろしく頼むわ」
「……分かりました」
その言葉の後、紫さんが背後に隙間を出した。
「さ、フィル。私はまだちょっとお話しをするから
あなたは先に紅魔館に帰りなさい」
「はい、分かりました。でもその前に
外の大天狗さん達にも謝罪してきます」
「構わないわ」
「ありがとうございます」
すぐに外の大天狗さん達にも同じ様に謝罪をする。
皆、少しだけ驚いた表情を見せていた。
「じゃ、先に帰ってなさい」
「はい、また来ますね、
ありがとうございました」
そのまま隙間に飛び込んで、私は自分の部屋に戻って
今回の件をレミリアお嬢様に伝えた。