さて、体の主導権はひとまず僕だ。
フィルには後ろの方に下がって貰った。
流石に今回は僕の懸念が多いからね。
あまりフィルに迷惑を掛けるわけにも行かない。
マフラーの影響でそこまで力は行使出来ないが
フィルから許可が降りたことで
マフラーの拘束も少し緩くなってる。
万全ではないが神を滅ぼすなら造作ない。
「じゃあ、急いで行こうかフィル」
「うん、でも今はフィルじゃ無い。
体を動かしてるのはフェンリルの方だ」
「あら、フィルのお姉様なのね。
フィルはどうしたの?」
「少しだけ休んで貰ってるよ。
今回は僕の判断で解決したいからね」
「ふーん、そんな面倒な事なのかしら。
ただ呪われてるかも知れないお水でしょ?」
「の、呪われてるかも知れない水が
噴き出してるって、それはそれで問題だよ。
妖怪には影響ないだろうけど人間には影響大だ。
もしそうなら、僕じゃ無くフィルが解決するさ」
「あら、そうなの?」
「あぁ、フィルは人間を助けようとする子だ」
自分達を迫害して追い出した人間でも
あの子は必ず助けようとするだろうしね。
だからこそ、僕らが生まれたという訳だ。
そんな優しいフィルを助け出すために
僕らが自らの意思で目覚めたのだから。
「まぁ、そう言う訳で僕の予想だとその水は
呪いがかかった水では無いと思っててね」
「じゃあ、どんな水なの?」
「燃える水」
「ぷふー、水が燃えるわけ無いじゃ無いの」
「実際、ただの水なら燃える前に蒸発だろうね」
でも、恐らく黒い水の正体は石油だ。
あくまで聞いた話から考えた予想だけどね。
さて、そうだとすれば原因はどこにあるのか。
恐らく、旧地獄だろうね。
所詮は推測だがあのクソ神が関わってる。
僕は今の幻想郷が大好きだからね。
このまま放置なんてとてもじゃないが出来ない。
とは言え、まずは妹様のお願いを叶えよう。
あまりゆっくりとはしたくないが今は昼だ。
ちゃんと日傘を差してあげないとね。
「じゃあ、行こうか妹様」
「むー、妹様って呼ばないでよ。
私にはフランドールという名前があるわ。
どうしてフィルは私の事をちゃんと
フランお嬢様って呼んでるのに
あなたは妹様って呼ぶのよ」
「僕はあまり人の名前を言うのは好きじゃ無いんだ。
まぁ、仲間内なら名前を呼ぶけどね」
「知らないわよ、フランと呼びなさいよー」
「わ、分かったよフラン様…こ、これでいい?」
「なんか違和感あるわね、あなたに様って呼ばれるの。
フランで構わないわ!」
「……わ、分かったよ、フラン」
「よし! フィルにもそう呼ぶように説得して?」
「それは無理な相談だ。
あの子が恩人を呼び捨てするわけ無い」
(う、うん、流石に呼べないよ…)
(てか、お前結構振り回されてんな)
(距離感がイマイチ分からないッスからね。
うちらとお嬢様方って近い様でそうでも無いッスし)
あまり会話はしないからね、たまに出て会話するくらいだ。
それも言いたいことがある時しか出て来ないし
こうやって普通の日常会話をする事はレアだ。
まぁ、フィルに体の主導権を譲って貰ってる状態だし
会話の時だけフィルにってのは良くないだろうね。
「じゃ、行こうかフラン」
「えぇ! 私を日に晒したら許さないわよ!」
「晒さない晒さない、フィルに怒られるからね」
そのままゆっくりと歩いて行くことにした。
流石に空を飛びながら日傘を差すって言うのは
あまりやらないし出来ないからね。
フィルは出来るだろうが、僕には無理だ。
フィルは慣れてるからね、そう言うの。
「あなたは飛ばないのね」
「僕はフィルほど日傘を差すのが得意じゃないんだ。
そもそも、誰かの歩幅に合わせるのだって得意じゃない。
だから、空なんて飛んだら日傘が差せないんだ」
「そうなんだ、あなたはフィルのお姉様の中で
1番誰かに合わせるのが得意そうだけどね」
「そりゃね、あの馬鹿2人と比べれば」
(馬鹿言うな!)
(そうっすよ! テュポーン先輩は馬鹿っすけど!)
(んだと!)
(け、喧嘩しないでぇ!)
……今更だが、フィルの気分はこんな感じなのか。
体を動かしてる最中に
脳内で何かと喧嘩されるってなると
確かにあまり良い気分じゃ無いね。
(あががが! か、体がぁ!)
(待ってまって! 縛らないで欲しいっす!)
(え? 縛ったかな?)
……フィルは今、裏に居るからね。
ちょっと喧嘩したら即座に縛れるのか。
「ま、まぁ、フィルが合わせるのが上手すぎるんだ。
無意識に相手の実力に合わせられるくらいには
フィルは誰かに合わせるのが得意だし」
「流石はフィルね」
「それは同意するよ、フィルは凄いから。
僕の自慢の妹だ」
「うーん、私はお姉様の自慢の妹になれてるかしら」
「君の姉が君を大事にしてるなら
君は姉の自慢だろうね、見てる側からすれば
仲もかなり良い様に見える、自信もちな」
「えへへ、ありがとう!」
あまり何かを悩んでる雰囲気は無いけど
やっぱり悩み事って言うのはあるらしい。
勿論、気持ちは分かる。
大事な誰かの役に立ててる自信が無いのは普通だし
大事な誰かの自慢になれてるという自信が無いのも普通だ。
大事だからこそ、自分は役に立ててるか疑問になる。
だから努力する。多分、それで良いんだろうね。
「さて、そう言えばフラン、君は確か
流水が苦手だったと思うけど」
「そうね、流水はあまり得意じゃないわ」
「でも、噴き出してる黒い水って訳だから
流水状態になってるんじゃ無いのかい?」
「そうね、でも大した事は無いと思うわ。
そもそも、雨ほどに至る所に流水が生じる。
そんな状況でも無いだろうしね」
苦手な物をわざわざ見に行くとは酔狂な話だ。
まぁ良いさ、このままゆっくりと進むとしよう。
妹様がそれで良いって言うなら、それで良いだろう。
「さて、これが黒い水ねぇ」
「凄いわ! 本当に真っ黒ね!」
さて、匂いからして明らかに石油だね。
とは言え、こんな場所から吹き出しはしない。
予想は出来るけど……誰かが意図的にやってる。
間欠泉だったかの異変でもあったそうだね。
お嬢様の話じゃ、あの時は怨霊まで噴き出してきたとか
そう言う話を聞くが、これは石油のみだ。
なら、地獄での話では無いかも知れないが
石油が眠ってるのは地底深くと相場が決ってる。
なら当然、旧地獄に何かがあるのは違いない。
そして旧地獄にはあのクソ神がこさえたという
核融合炉があるそうじゃ無いか。
地底の姉妹達の話だから信憑性はあるだろう。
石油と核融合炉……外の世界の技術だ。
石油はまぁ、資源だから何とも言えないが
核融合炉は完全に外の世界の技術だしね。
幻想郷にわざわざ外の世界を持ち込む理由。
色々とあるのはあるが、信仰だろうね。
自分達のお陰で生活が豊かになった。
そう人間に認知させれば信仰は集まる。
……あのクソ神はそれが地雷だと言う自覚があるかな?
「フェンリル、なんか恐いわよ?」
「あぁ、ごめんごめん」
さて、これで目的地は確信に変わるね。
確実にひねり潰してやる。
僕からしてみれば、これは由々しき自体だ。
この幻想郷に、劇的な進化は必要無い。
「じゃあ、フラン。これで満足かな?
僕はこれから旧地獄へ行こうと思うんだけど」
「なら、私も行くわ」
「どうしてだい?」
「興味あるの、この黒い水を出してる奴に」
「流水だらけだよ?」
「大丈夫よ、思ってたより平気だし。
てか、全く苦手って気がしないわー」
「そ、そうなんだ」
「不思議よね、フィルが来てから
何だか苦手な物が少なくなってるのよ!」
「そりゃフィルの血を毎日の様に飲んでたらね」
「え? それが理由なの?」
「そりゃそうでしょ」
フィルの血を飲むのはとんでもないブーストだ。
フィルという圧倒的な存在の血を飲める。
普通ではあり得る事じゃ無いからね。
圧倒的な上位存在である相手から
食事を取れるなんて奇跡以外の何物でも無い。
それを毎日の様に飲めるんだし
強くなるのは当然と言えるだろう。
「じゃあ、私に血を飲ませて!」
「駄目だね」
「えりゃ!」
「駄目」
「あた!」
いきなり首元にかじり付こうとするとはねぇ。
まぁ、軽く迎撃したけど。
(あぁ! フランお嬢様! フェンリルお姉ちゃん!)
「あだだだだ!」
「どうしたの?」
(ご、ごめんフィル! そ、そんな怒らないで!
ちょ、ちょっとデコピンしただけだよ!)
(なんで攻撃してるのさ! 怒るよ!)
(え!? もっと怒るの!? 待ってしないから!
そ、それにだね! たまには迎撃しないと!)
(今度したら許さないんだからね!)
(し、しないから! 顔を押さえるだけにする!
釘を刺すが、避けたら妹様が日傘から出る!)
(そ、そうだね……でも、攻撃しない!)
(わ、分かったよ!)
う、うかつだった……デコピンでここまで怒るとは。
「うぅ、痛い…」
「なんでいきなり叫んだのよ」
「フィルに怒られたんだ……」
「え!? フィルが!? あまり無いわね」
「そ、そうだね……」
あの子はお嬢様達に攻撃すれば大体キレるからね。
軽く貶されただけでも怒るし……
本当、フィルは紅魔館のことが大好きだね。
「まぁとにかくよ、一緒に行くわ」
「そのー、出来れば紅魔館に帰ってて欲しいなぁ…」
「断わるわ!」
「はい、知ってたよ……はぁ」
変な気を起さないように祈るしか無いね。
「ふむ、即座に旧地獄まで予想するとは」
「フェンリルを止めた方が良いわよ」
「どうしてだ?」
「守矢が滅ぼされかねないし。
あの怒りを見たでしょ?」
「まさか、奴は滅ぼしはしないだろう。
それに、守矢も良い薬になるだろうしな
お前もそう思ってるから止めないのだろう?」
「そうだけど、少し不安なのよね」
「心配性だな、このまま見守って
もしフェンリルが守矢を滅ぼそうとしたら
お前が間に入り止めれば良いだろう」
「そうするしか無いか」