彼女が手に持ってるスプーンを振り回す。
変わった武器だ、殺傷能力無いだろうに。
「さぁ、喰らえ!」
大地を削り取るような動作と共に
周囲に石油の攻撃を飛ばしてきた。
弾幕勝負という形なのか?
はたまた、肉弾戦の戦いなのか。
今回はお互いにルールの確認をしてないな。
「そう言えば、ルールってどうするんだい?」
彼女の攻撃を軽く避けながらそんな事を聞く。
今回の僕は比較的冷静だしね。
この忌々しい黒い水は嫌いではあるが
まぁ、今は冷静に対処しておこうかな。
「ルール等必要無いだろ?
これは奪い合いだぞ?
ルールの上で戦うなんて
そんな上品なもんじゃ無いからな!」
「ルールってのは結構重要だよ?
弱者が強者に挑むためにもね。
まぁ、挑戦者側である君が
ルール不要って言うなら何も言わないが」
正直、僕が本気を出せば相手では無いからね。
僕らは相当な規格外だからね。
とは言え、大人げなく殲滅するのも面白く無い。
一応は僕も幻想郷の住民だからね。
戦いってのも楽しみを用意しないと。
まぁ、あの神相手には大人げなかった気もするが。
「しかし、サッパリ当る気がしねぇな」
「避けるのは僕らの得意分野だからね。
攻撃もしてあげよう」
「うぉ!」
彼女に向けて爪の斬撃を放つ。
今回はそのまま斬撃を飛ばすわけでは無く
攻撃して一瞬だけ空間を歪め
彼女のいる空間を引く裂くような攻撃だ。
本来なら一瞬で可能だが
今回は技を発動させて攻撃が発生するまでに
結構なタイムラグを発生させるようにしてる。
そこがゆっくり歪んでいるように見せてね。
勿論、攻撃力は圧倒的だろう。
だが、避けられるように放った。
「随分と見え見えな攻撃するな!」
「あぁ、見えないと危ないだろ?
この攻撃、当ったら痛いじゃ済まないよ?」
「そんなの、見りゃ分かる!
さぁ、これでどうだ!」
採取「世界のあり方を変える黒い水」
足下に黒い石油が漏れ出したね。
で、そこから一気に弾幕を放つか。
足下からの奇襲狙いの弾幕攻撃。
とは言え、遅い、あまりにも遅い。
そうだ、折角だし色々と試そう。
折角フィルに体の主導権を久々に譲って貰ったんだ。
今回はルール無用の戦いみたいだし
弾幕を消すってのも一興かな。
「じゃ、試しに使わせて貰おうかな」
捕食「世界を喰らう暴食の片鱗」
周囲に展開させた歪んだ空間。
その空間に当った弾幕は消える。
そして、空間の中で弾幕が何度も反射。
「なんだそれは」
「見ての通り」
弾幕がある程度たまったのを見て
僕は自分の指を鳴らす。
同時に、空間が弾けて大量の弾幕が放たれた。
「な! ぐわ!」
「反撃系の弾幕だよ?
安心しな、威力は君の弾幕と同程度だ」
「クックック流石だなぁ、フェンリル。
ならば、これはどう捌く!?」
蒸留「強引で未熟な蒸留装置」
彼女が武器を振り回すと足場が飛び出し
彼女はその足場に乗り弾幕を放つ。
あの武器を上部で振り回して弾幕を飛ばしながら
ゆっくりと浮遊というのは、何処かシュールだね。
「ふふ、性格の割に可愛い攻撃じゃ無いか。
何とも愛らしいよ、小さな子が頑張って
空を飛ぼうとしてるような雰囲気があって」
「な! き、貴様、馬鹿にするな!」
「あはは、顔を赤らめることは無いだろ?
実際、君の容姿は幼いしね。
弾幕を放とうとしてるときの動きと
今のゆっくりと浮遊してる足場ってのが
絶妙にマッチしてるよ?」
「舐めるなよ! この狼!」
自分はゆっくりと浮遊しながらの弾幕。
拡散してるとは言え、地上は僕の得意分野。
避けるのにはなんの苦にもなりはしない。
「今回は攻撃しないよ?
君はその動きに恥ずかしさを感じてるなら
君に恥ずかしい思いをさせる為に攻撃はしない」
「お前性格悪いぞ!」
「それがいやなら当てて見なよ、その弾幕」
「こ、後悔しろ!」
そのまま彼女は弾幕を濃くしてきたけど
まぁ、全然当ることなんか無かった。
「う、うぐぐ」
「もう終り? もうちょっと頑張れば良いのに。
顔も真っ赤だよ?」
「ふざけるな! この、後悔させてやる!」
剛欲「この世に存在してはならない暴食」
彼女が口を大きく開けて周囲の石油を吸う。
僕も彼女に吸い込まれそうな雰囲気は感じた。
「ふふ、この世に存在してはならない暴食……か
中々、僕を刺激するスペルカード名だね。
なら、僕も対抗してやろう」
暴食「世界を喰らう終焉の牙」
とは言え、彼女のように口を開けるのは
フィルの体でやるのは可哀想だからね。
今回は僕が周囲を吸い込むんじゃ無い。
僕を中心とした捕食空間により周囲を吸い込む。
「な、なんだ、こ、これは……す、吸い込まれる……
ば、馬鹿な、この私よりも強力な吸い込み!」
「この可愛らしい姿で大口を開けるのは
あまり可愛くないだろう?
だから、手加減して
僕の周辺を辺りを喰らう空間に変えた。
ふふ、この空間に触れたら……消えるよ?」
僕に引寄せられた周囲の石油は消滅する。
完全に周囲を喰らい尽くすような危険な暴食空間。
「う、うぐ、ぐぅ!」
饕餮が僕が展開した空間に触れる直前に。
「反転」
「ぐぁ!」
今度は吸い込むのではなく吐き出した。
彼女は吹き飛ばされ、結構なダメージを食らった。
「まぁ、君を食らうわけにはいかないからね。
最初にも言ったけど、あまり美味しそうじゃ無いし」
「全く……ここまでからかわれるとは思わなかった。
だが、周囲に刺激を与えすぎじゃねぇか?」
彼女がそこまで言うと、石油の雰囲気が変わる。
大きくひび割れ、周囲が血の池に変化した。
「クックック! 最高だ! いい力を感じる!」
「石油だと思ったら血の池だったとはねぇ」
「驚いてるのか? そんなに驚くことではないだろう?
元来、石油と言うのは生物由来の生成物だ。
生命の恐怖、哀楽、憎悪、怨嗟の
全てがこの液体の正体なんだよ」
「そう言えばそうだったね。
いやぁ、石油と言うだけでイラっとしたから
ちょっとそこらへん忘れてたよ。
あの土蜘蛛の言ってたことが正しかったってわけだ」
「どうだ? 興味を無くしたか?」
「いんや、元が何だろうが関係ないんだよね。
進化の可能性はすべて排除するまでだよ」
「貴様は進化を嫌っているのか?
それは、生命の全てを否定してるのに等しいだろう?
進化の否定は欲望の否定だ。
欲望の否定は生命の否定だ。
全ての生命は欲望と共になければならない」
彼女がかなりにこやかな笑みを浮かべてる。
かなりうれしそうな雰囲気だね。
「全ての生命は欲を満たすために進化する。
全ての生命は欲を満たすために成長する。
全ての生命は欲を糧に進化を続けていく。
欲のない生命など、生命とは呼べないのさ」
「僕は進化の先を知ってるし
身の程を知らない欲望の終焉も知ってる。
進化の全てを否定するつもりは僕もない。
だが、劇的な進化なんて不要なんだよ。
ゆっくりでいいんだ、進化というのはゆっくりで。
一瞬で成長しようとしたら駄目なのさ。
10年、100年、1000年の時を掛けて
ゆっくりとゆっくりと進化しなくちゃならないんだ。
だから、劇的な進化をもたらせかねない石油を
僕は放置するわけにはいかないんだよ。
この世界に、劇的な進化は必要ない」
「クックック、お前の話は聞いてるんだぞ?
組員や吉弔からな。
お前はこの幻想郷で最も劇的な進化をしてる。
そんなお前が劇的な成長を否定するのか?」
劇的な進化か……確かに言えてるかもね。
フィルの成長性ははっきり言って異常だ。
フィルは向上心の塊であり
ある意味では、最も強欲なのかもしれない。
フィルは人間だからね、
それも、人の中で最も純粋で最も優れた人間だ。
……だから不安なんだ。
……色々な意味で、この世界で
いや、この全ての宇宙の中で
最も僕らの力を得るべきでなかったのは
フィルだったんだろう。
フィル以外であれば、きっと僕らは生まれなかった。
フィル以外であれば、僕らはここまで強くなってない。
「確かに言えてるかもしれないね。
フィルはこの幻想郷じゃ、最も成長してる。
圧倒的な成長性と向上心」
「向上心も欲の1つさ、生命が持つべき欲望だ。
その欲の中でも、最も必要な欲だが
私はその欲はあまり好きじゃないんだ。
あまり美味い部類の欲じゃないからな。
胃もたれするんだよ、そういうのは
私とその欲は徹底的に合わないんだろう」
「僕は好きだよ? そういうのはね」
「同じ強欲な存在でありながら
私とお前では好みが決定的に違うらしいな」
「どうかな? 君が他者の好みに興味ないだけかもよ?
僕が好きなものを君も食べれば、意外と気に入るかも?」
「クックック、さっきも言っただろう?
合わないんだよ、私と向上心という欲は」
彼女が好んでる欲を考えれば分かることだ。
向上心やキラキラしたような欲は好まない。
恐怖、哀楽、憎悪、怨嗟というマイナスの感情ばかり。
四凶の一体というだけあって、そういう妖怪なのだろう。
「しかし、貴様はまだ私と戦うつもりか?
もはや貴様が求めてる石油は存在しない。
ここにあるのは、
欲を食らって生きる者でなければ
扱いきれるような代物じゃないぞ?」
「扱うつもりはないさ、封印するつもりだ。
そりゃあ、僕のお腹の中に収めれば
それで万事解決だろうが、不味そうだしね。
タバスコスープはフィルもあまり好きじゃないし」
「タバスコ? クックック、面白い表現だな。
私はタバスコも好きだぞ?
辛みというのも良い刺激だ」
「そりゃ僕も辛いのは大丈夫だけど
フィルは結構辛いの苦手でね。
辛いのは1000杯くらいしか食べない」
「私なら3000は行けるな」
「僕は一万杯は行けるよ」
「いや、間違えた、私は十万杯だ」
「じゃあ、僕は百万杯」
「いや、私は千万杯」
「じゃあ」
(お前、たまに馬鹿になるよな)
(……)
は、恥ずかしい思いをした気がする。
「ま、まぁいいや、からかわれたし」
「クックック、私の勝ちだな」
「試す?」
「よし、試そう」
(フェンリル先輩……いやその、なんというか
意外というか……ま、まぁ、良いっすけど)
(こ、子供っぽいなぁ)
(……)
「どうした? 顔が赤いぞ?
クックック、かわいらしいな」
「クソ、地味に仕返しされるとは……」
「まぁ良い、やろうというなら続きをしよう。
今の私なら貴様を食えるはずだ」
「はぁ、あんな恥ずかしい目に遭って
もう一戦とはね……正直、恥ずかしいから
瞬殺した方が良いような気がする」
(まぁまぁ、ここは試すってことで)
(そういえば、私は周りが見えないんだけど、どうして?)
(僕が見えないようにしてるからだよ。
今の光景はフィルは見てもいい気分にはならないから)
(そうなんだ)
……最悪、フィルがこの血の池地獄を見たら
怖いーとか言って血の池地獄を消しそうだしね。
フィルは割と無意識に暴走するから
今回みたいに明確に誰かに迷惑が掛からない場合は
容赦なく吹き飛ばしかねないからね、はは。
「さぁ、喰らい尽くしてやるぜ! フェンリル!」
「僕に喰われないように気をつけな、饕餮!」