東方半獣録   作:幻想郷のオリオン座

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幸せの記憶

博麗神社にはまぁ、行けたとして

守矢の所には行けないだろうね。

ま、僕としてもあの連中は嫌いだし

多分、テュポーンも嫌ってるだろう。

 

僕達が姿を見せてる状態で

あの場所に赴くのはあまりにも危険だ。

となれば、まぁリスクが少ない場所。

僕達が1番行っておいた所へ行こう。

 

「さて、博麗神社の後は何処に行きましょうか。

 直接招待したい相手と言えば

 そこそこの数はいるのだけど」

「じゃあ、人里なんてどうかな?」

「そうね、確かに人里は良いわね。

 あの僧侶もいるし、あの半獣もいるわ。

 あの子にはあの時世話になったし

 是非招待したいわよね」

 

僕達が行くべき場所は人里だろう。

それはまぁ、確定と言える。

この姿で活動する必要があるのは

そう言う、買い物とかが必要な時だしね。

 

レミリアお嬢様やフランお嬢様としても

僕達が一緒のお昼に赴く方が進みやすい。

夜は吸血鬼の時間で、そんな時間に

この2人が人里に赴くのはあまりにも危険だ。

 

襲撃に来たんじゃ無いかと誤解されかねない。

ならば昼に赴くしか無いからね。

 

「さて、人里で招待状を渡すべきは

 あの寺と、後はあの半獣よね。

 フランは何度かフィルと人里に来たのよね?」

「うん、だから色々と知ってるよ!」

「じゃあ、半獣は何処に居るの?

 まずはあの子に渡しておきたいわ」

「じゃあ、こっちだね、もふもっふっていう

 ペットショップで過ごしてるんだよ」

「そ、じゃあ向いましょう」

 

僕達はそのもふもっふへ向う。

道中、人里の人間達は僕らを見て

不思議そうな表情を見せて

僕らの中に、誰かの面影を見てるようだった。

そんな時、小さな少女が僕に駆け寄る。

 

「ねぇ、お姉さん達」

「なんだい? お嬢さん」

「お姉さん達、フィルちゃんの知り合いなの?」

 

彼女の言葉は

人里の人間全員が聞きたい言葉だったのだろう。

駆け寄ってきた少女を追いかけてきてた母親も

娘の言葉を聞いて、少しだけ動きが鈍くなった。

 

同時に、周囲の視線が僕らに向いたのが分かる。

彼女の言葉が聞えたであろう人間達は全て

僕らに興味を向けたのが分かった。

 

「……あぁ、そうだよ、僕らはフィルのお姉ちゃんだ」

「本当!? やっぱり!

 少しフィルちゃんみたいだったから!」

 

僕の言葉を聞いた周囲の人間達と彼女の母親は

その一言で表情から緊張が無くなったのが分かった。

幻想郷縁起で僕らの事は記載されてただろう。

 

フィルを守る人格、その人格は凶暴だと。

だけど、周囲の人間達は僕らの正体が

フィルのお姉ちゃんだと知って安心した。

 

理由は分かるよ、だってフィルの姉なんだ。

あのフィルのお姉ちゃんが悪い奴である訳がない。

僕らはフィルがこの人間の里で何をしてたのか

それを全て知ってるんだ。

 

そしてこの子も、僕はよく知ってる。

何度も何度もフィルに声を掛けてた少女だ。

 

「君も元気そうで安心したよ、智百合(ちゆり)ちゃん」

「あ、知ってるんだ私の名前!」

「あぁ、フィルから話は聞いてるからね。

 それに、君のご両親が作る蕎麦も

 美味しいって良く聞いてたからね」

「そうなんだ! えへへ、自慢なんだよ!

 お父さんお母さんのお蕎麦は世界一美味しいの!

 私もいつか、美味しいお蕎麦を作るんだよ!

 ねぇ! 食べていかない!」

「ち、智百合、あ、あまり…」

「蕎麦ね、ふふ、中々興味深いわね。

 確かに丁度小腹も空いてきた事だし

 ちょっと寄っていきましょうか」

「お嬢様がそう言うのであれば」

「やった!」

 

少しだけ嬉しい気持ちになった。

あの蕎麦、僕はこの体で食べたことが無いんだ。

フィルの味覚を通して味は知ってるけど

フィルは何でもかんでも美味しいと感じて食べてる。

 

辛い物が苦手なだけで、あの子は何でも好きだしね。

辛い物でも、相手からの愛情1つでもあれば

あの子は笑顔で食べるだろう。それがフィルだ。

でも、僕は美味しい物は美味しいと感じて

不味い物は不味いと感じるからね。

この体では感じる味が違うかも知れない。

 

「ふふ、本当にあの子は愛されてるわね」

「あぁ、よく分かるぜ」

「そうッスね、フィルちゃんの名前が出て

 一瞬で周囲から感じてた不安が取れた感じだ」

「えへへ! 早く早く!」

「あぁ、じゃあ、蕎麦屋の女将さん。

 僕達に美味しいお蕎麦を出して欲しいんだけど

 休憩時間とかだったりするかな?」

「いえ、すぐに用意しますね!」

「ん、ありがとう、楽しみにしてるよ」

 

僕達は蕎麦屋に向って進んでいく。

本当に、ここの連中は人間とは思えない。

だが、分かる事は1つあるのは確かだ。

 

「えへへ、美味しく食べてね! 私も手伝うもん!」

「あぁ、楽しみにしてるよ」

 

人間も捨てた物じゃ無い。

少なくとも、小さな子供に悪意は無い。

子供は無邪気だ、子供には悪意が無い。

当然、悪意無く邪悪なことをするのが子供だ。

悪意無く残酷な事をしてしまうのも子供だろう。

 

だが、その子供を黒く染めてしまうのは

本人では無く、周りの大人達なのだろう。

彼女は僕らに恐怖を感じては居なかった。

 

他の大人達は僕らに対し不安を抱いていたが

彼女は僕らがフィルみたいだから

悪い筈が無いと思って駆け寄ってきたんだろう。

 

……そうだ、それが普通なんだろう。

フィルの友達も皆、本来は彼女と同じだった。

フィルに恐怖は無く、友達として接して

彼女を愛して、彼女に寄り添ってたはずだ。

だが……その子供達を染めたのは周囲の大人だ。

 

……はは、暗い事を考えてしまった。

僕は本当、中途半端に頭が良いんだから。

今は今で良いし、この世界はそうはならない。

それは人里の人間達が見せた態度で理解できる。

 

「じゃ、待っててね!」

「楽しみにしてるぜ、お嬢さん」

「あ! 大盛りっすよ-! 大盛りー!」

「はい、お任せください」

 

女将さんが笑顔で僕らの注文を受けてくれた。

そして、店の奥で元気な親父さんの声が聞えた。

 

「っし! じゃ、腕によりを掛けるとするかな!

 智百合も、しっかり手伝ってくれよ!」

「うん! 任せてお父さん! 美味しいお蕎麦を作るよ!」

 

……僕は耳が良い、今までそれを怨んだことは多い。

怨嗟の声も、憎悪の声も、不平不満や不平等。

そう言った、ろくでもない声が四方から聞えた。

本当にろくでもないような思い出ばかりだ。

僕の耳が良くなければ聞えないような声。

 

でも、今は耳が良くて良かったと思える気がする。

あの後から聞えてくる色々な声の中には

誰1人として、フィルを悪く言う声は無かった。

 

(よかった、あの人達がフィルちゃんのお姉さんで)

(あぁ、落ち着いてるような感じで良かった)

(あの吸血鬼は紅魔館の姉妹だったかな)

(そうだったはずだ、恐いって聞いてたが

 はは、いざ見て見たら、紳士的で落ち着いてて

 凶暴ってのが嘘みてぇだ)

(フィルちゃんが仕えてるご主人様だし

 恐いはずが無いんだけどな、はは!

 それに、仮に恐くても、

 あの子なら逆に落ち着かせそうだ!)

(昔よりも穏やかになったのぅ、

 妹も最近は良く姿を見せておる。

 彼女は話で聞いただけじゃったが…

 ふふ、あの子が来てから色々と変わった。

 長生きはする物じゃな)

 

誰もフィルを嫌っていない、まさに楽園だ。

フィルが持つ善意をいくら発揮しても良い。

人間って言うのは、本当に環境で変わるのが分かる。

 

「お待たせしました!」

 

智百合ちゃんが蕎麦が乗ったお盆を持って

少しフラフラしながらだけどこっちに来た。

彼女は凄く嬉しそうに笑ってる。

 

その後ろから、女将さんも着いて来て

智百合ちゃんが持つお盆を持ち上げ

レミリアお嬢様とフランお嬢様の前に運んだ。

 

「中々質素ね」

 

言葉だけを聞けば不満を言ったと感じるだろう。

だが、表情を見ればほぼ照れ隠しなのが分かる。

当然、咲夜の料理と比べれば味の質は落ちる。

あのメイドはレベルが違うだろうからね。

 

でも、レミリアお嬢様はきっと美味いと食べるだろう。

当然、フランお嬢様も美味しいと言ってその蕎麦を食べる。

それが彼女達だと言う事を、僕は知ってる。

 

「蕎麦って言うのは

 何処か質素だからこそ上品なのさ」

 

彼女が照れ隠しをしてる事に気付かない振りをして

彼女の言葉に僅かに相づちを残す。

 

「俺には普通に上手そうに見えるぜ。

 ありがとよ、嬢ちゃん」

「おぉ、何て優しい表情!

 意外と小さい子好き何っすかー?

 テュポーンせんぱーい?」

「うっせ!」

「あだー! て、照れ隠しパンチ反対!」

 

テュポーンは乱暴そうに振る舞ってるが

その実、フィルの姉である事は変わらない。

彼女が小さな子を可愛がるのは当然だった。

 

それは僕もだ、あの純真さに幼いフィルが重なる。

フィルは今でも純粋で純真だけどね。

 

「あはは! 仲良いね!」

 

その会話の後、今度は僕らの蕎麦が来た。

僕らの蕎麦を運んでくれたのは

親父さんだった。

 

「多いわね!? かなり!」

 

親父さんが持ってきた蕎麦の量は

普段フィルが食べてる量だ。

そりゃ、フィルの姉なんだしね。

フィルと同じで大食いだと思ったんだろう。

 

あのサイズは確か10玉だとか。

ここの店の最大サイズは特盛りだが

あれはその特盛り以上の量だ。

 

実質フィルしか頼むことが無いから

名称は無いが、

もし名前を付けるとすればフィル盛りだね。

とは言え、あのサイズでも満腹にはならない。

 

「いやぁ、流石フィル盛り…多いっすねぇ」

「……」

「あれ!? 何で少し嫌そうな表情を!?」

「いや、何でも無い」

 

まさかガルーダとネーミングが被るとは。

正直、ちょっと恥ずかしい気がする。

 

「っと、普段フィルちゃんが頼むサイズだからな。

 フィルちゃんのお姉ちゃん達だから

 同じ位食べるかと思ったんだけど、多すぎたかい?」

「いえ、全然大丈夫ですよ、僕は」

 

だが、テュポーンとガルーダは

ちょっと食べきれないかもって表情だ。

 

「……フェンリル、半分食べてくれ」

「お、同じくっす…多分、うちは食べきれない」

「なんだい、君達はやっぱり少食だね」

「フェンリル先輩とフィルちゃんの胃袋が

 異常なだけッスよ、自覚して欲しいっす!」

「無理して食べたら美味い物が

 美味いと感じ無くなるんだよ。

 それが俺はどうも嫌でな。

 食い物は美味いままで食い切りてぇ」

「ふふ、そうだね、それが心理だ。

 美味しい物は美味しいままで食べたのは当然。

 じゃ、女将さん、親父さん、智百合ちゃん、

 遠慮無く食べさせて貰います。

 では、いただきます」

 

蕎麦に手を付けて、その味を堪能した。

深い味わいの中に、愛情の味を感じた。

……どんな料理の中で、1番好きな味だ。

僕が知る中で、1番の調味料、愛情。

 

例え黒焦げでも、例えグチャグチャだったとしても

この調味料1つで、僕はどんな物でも

美味しいと感じながら食べる事が出来るだろう。

……地球なんかよりも、遙かに美味しいだろう。

ま、僕は地球を食ったことはないけど

もう、そこまで興味も無いかな。

 

「どう!? 美味しい!? 美味しい!?」

「あぁ、凄く美味しいよ、ありがとうね」

「えへへ! 良かった!」

 

智百合ちゃんの笑顔を見て、また1つ幸せを感じた。

……本当に、フィルには感謝してもしきれない。

ありがとうね、フィル。僕らを変えてくれて。

僕らを受入れてくれて……やっぱり僕は君が大好きだ。

 

心の中で僅かに思い浮かんだ笑顔のフィル。

僕らはその笑顔を守る為に、幸せを守り続けよう。

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