東方半獣録   作:幻想郷のオリオン座

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式神の日常

最初の修行は何て事は無い物だった、ただの瞑想だった。

精神力を鍛え、魔力とかを強化していけば弾幕が扱えるらしい。

ひとまずは弾幕を出す事が出来るだけの特殊な力を覚える。

 

霊夢さんなら霊力、魔理沙さんなら魔力、お嬢様とかなら妖力。

後、出会った事は無いけど、神様とかなら神気とからしい。

分類的に人間は霊力を、魔法使いとかは魔力を、妖怪は妖力を

神様は神気を扱う事が出来るらしい。

 

その力を扱うことで弾幕を張ることが出来るようになる。

だから、ただの人間は弾幕を張るのが難しいそうだ。

咲夜さんの場合はナイフでの弾幕、自身の能力の応用であり

物理的な攻撃手段が咲夜さんの弾幕らしい。

時間を操ることが出来ない私には扱うことの出来ない攻撃方法だ。

 

それと使い魔とか、そういう物から弾を射出する方法もあるらしい。

後は斬撃とかも手と聞いた、1番私に可能性があるのは

この斬撃、素早く爪で空を切って斬撃を飛ばす。

だけど、これはあまりお勧めできないとのこと。

だって、それだと弾幕にはならないから。

 

解決側として相手を攻撃する手法としてなら良いけれど

攻撃側としてスペルカードを使う場合はあまり使えないという。

やっぱり魔力とかの特殊な力をマスター出来ないと駄目なんだなぁ。

 

「ふぅ、瞑想は終わり」

「良く出来たわね、まぁ、これ位は出来ないと話しにならないのだけど」

「あはは、そうですよね…所で紫さん、1つ聞きたいことがあります」

「何かしら?」

「あの…私はどの力に1番近いんですか?」

「あなたに1番可能性がある力は恐らく妖力ね

 分類的には妖怪ですもの…多分ね」

「えぇ…何でそこで自信が無さそうな返事を…」

「まぁ、あなたは妖怪であり人間ですもの、力が一貫してないのよ」

「じゃあ、私は妖力と霊力を扱えるかも知れないと言う事ですか?」

「まぁ、そうね、その2つを扱う事も出来そうね」

「おぉ!」

 

2つの力を扱えるって、何だか凄そうだなぁ! 何か格好いい!

でも、私に操る事なんて出来るのかな?

何の才能も無さそうなのに…でも、きっと修行をすれば扱えるんだ!

そうじゃないと、紫さんがわざわざ教えてくれないもん!

紫さんって幻想郷の偉い人らしいし、その人が教えてくれるって事は

私に才能があるからなんだよね! …多分…きっと同情とかじゃない筈!

…だと思いたいけど、うぅ…い、いや、やれば出来る筈だ!

 

「よ、よーし! やってやるぞー!」

「後ろ向きだけど、向上心はちゃんとあるのね、安心したわ…」

「は、はい! 頑張ります!」

 

そして、瞑想の後は何故か爪研ぎをすることになった。

最大の武器を強化した方が良いと言うことだ。

でも、私の最大の武器って爪なのかな? 狼だし牙じゃ無いのかな?

だけど、紫さんが爪を研げと言うのだし、そうしよう。

牙を鍛えようとしても、どう鍛えれば良いか分からないしね。

 

「よいしょよいしょ……でも、爪研ぎって何だか猫みたいですね」

「そうね、まぁ、狼も爪で攻撃するし問題は無いでしょう」

「そうなんですか?」

「一応ね」

 

だったら、やっぱり爪を研いでいた方が良いんだろうなぁ。

うん、扱いやすさは牙よりも良いし、やっぱり爪は大事かも。

牙って攻撃よりもトドメに使う方が良さそうだし。

 

「さぁ、そのまま鍛えるのよ」

「は、はい!」

 

そのまま爪を鍛えていると、紫さんから今日の修行は終わりだという言葉を聞いた。

そこまで厳しい修行とかは無かったけど、何故か疲れた気がした。

 

「さて、それじゃ、今日は終りね、のんびりしましょうか」

「は、はい…でも、あまり何もやってないような」

「成果を急いだら駄目よ、何事もゆっくりと確実にね」

「は、はい」

 

うー…まぁ、紫さんの言うとおりにしようかな。

私は自分の事も分からないんだから。

だったら、私の事を知ってる紫さんに従う方が良いよね。

 

「それじゃあ、藍、お願いね」

「はい、お任せください」

「じゃ、こっちの家で休もうか」

「は、はい」

 

私は藍さんに案内されて、マヨヒガの1軒の家に入った。

そこは広く、人などいないはずなのに妙に綺麗な建物だった。

部屋は完全な和室、調理器具も和式の物だった。

ああいうのは確か釜戸って言うんだよね、下の方に薪を入れて

その薪を燃やして料理をするんだっけ。

紅魔館は完全な洋式だったから少し新鮮かも。

後、囲炉裏が大きな和室の中心にあって何だか温かい。

囲炉裏の火が付いているからかも知れないけど。

 

「少し部屋を見て回ると良い」

「はい!」

 

藍さんに言われたとおり、私はこの建物を回ってみた。

囲炉裏がある部屋以外にも部屋はあり、炬燵もあったり

お風呂もある、トイレもしっかりと完備されている、和式だ。

お風呂は薪を使って暖めるタイプだったけど、炬燵は電気だった。

何で電気なんだろう…昔から電気ってあったのかな?

後、台所には冷蔵庫も置いてある…時代がよく分からないなぁ。

まぁ、冷蔵庫は紅魔館にもあったし、あってもおかしくないのかな?

うん、きっとそうだね、冷蔵庫は便利だから。

 

「うーん」

 

…それにしても、少しだけ温かくなって来ているのに炬燵なんだね。

…ま、まぁ、ここはまだ少し寒いし…入ろうかな。

遠慮する必要は無いよね? う、うん、しばらくお世話になるんだし。

 

「よいしょ」

 

私は炬燵の中に足を突っ込み、暖まろうとした。

 

「えい!」

「あだ!」

 

炬燵に足を突っ込んだら、いきなり足を噛まれた!

誰!? 何だか声も聞こえたし、誰!?

 

「ここは私の楽園よ! 部外者は出ていって!」

「ほえ?」

 

炬燵の中から緑色の帽子を被り、藍さんや紫さんに似た

少し中華風の赤い服、白い蝶ネクタイをした橙色の瞳をした

小さな女の子が姿を見せた。

その頭には帽子を突き抜けた猫の様な耳にイヤリングが付いていて

背中には2本の尻尾、形状から多分猫科の尻尾。

でも、耳から考えてみて、きっと猫の尻尾だ。

普通は尻尾は1本なのに2本…いや、うん、藍さんも9本だしあり得るのかな?

 

「え、えっと」

「ふーむ、あなた犬? 何でここに? 道に迷ったの?」

「あ、いえ、紫さんに連れてきて貰って、藍さんに案内して貰ってここに」

「ゆ、紫様と藍様に!? じゃあ、あなたは客人!?

 嘘! え!? 見た感じ、ただの妖獣なのに!?

 紫様と藍様がわざわざ!? え!?」

「あ、知り合いなんですね、そうだ、えっと自己紹介をしないと

 私はフィルと言います、名字は覚えてません、しばらくお世話になります」

「あ、えっと、私の名前は橙(ちぇん)、藍様の式神で…えっと

 さっきはごめんなさい、外敵だと思って」

「いえ、中で誰か休んでないかを確認しないで足を入れた私が悪いんです」

「うぅ…あの、足、大丈夫? 怪我してない?」

「あ、はい、もう治ってます」

「え?」

 

少しだけ血が出た痕跡はあるけど、傷はもう完全に治っている。

私は回復能力だけは妙にあるからなぁ。

 

「へ、へぇ、妖怪でもそんな一瞬で治らないと思うんだけど…」

「あはは、怪我の治りは早いんですよ」

「そ、そうなんだ…はぁ、少し安心したかも。

 もしも客人に怪我をさせたって藍様にバレたら怒られちゃうし」

「フィルの叫び声が聞こえたと思って来てみたら、橙」

「ら、藍様!?」

「炬燵を独占するなと言ったのに、少々お仕置きが必要だな」

「ご、ごめんなさい藍しゃま!」

「やはり焦ると噛むんだな、まぁ、それは良い、さて、お仕置きを」

「た、助けてフィル!」

「あ、えっと、藍さん、あの、私の怪我は大したことないので

 そんなに怒らなくても…」

「いいや、また問題を起すと困るからな、もしも紫様に

 噛み付いたりしたら紫様にご迷惑だ、しっかりと躾けなくては」

「ひぃ! あの長いお説教は嫌だよぉ!」

「待つんだ橙!」

「ひぃ!」

 

……ど、どうしよう、止めようかな? でも、止まりそうに無いし…

 

「橙! 素直にフィルに謝ったところは素晴らしいことよ!?

 でも、自分の失敗に対する仕置きから逃げるのは許さないぞ!」

「ご、ごめんなさい藍しゃまぁ!!」

「謝罪する暇があるなら止まりなさい!」

「ごめんなさい!」

 

しばらくの間、藍さんと橙さんの鬼ごっこは続いた。

藍さん、本気を出せばすぐに橙さんを捕まえられるだろうに

何でわざわざ少しだけ遅い速度で追いかけていたんだろう。

 

「うぅ、捕まった…」

「さぁ、大人しくしなさい、良い? 炬燵の中が気持ちいいのは分かる

 程よいぬくさで、過ごしやすいように感じるだろう。

 だが、独占しては駄目だ、独占しないのであれば自由にしても良いが

 独占し、すぐに入ってきた誰かに危害を加えるのは駄目よ?

 そんな事をすると、他の誰かが温もる事が出来ないでしょう?

 まぁ、すぐに謝罪をしたのは良いことだ、自分の非を認めることは大事だ。

 だが、その認めた非から教訓を得なければ、立派な式神にはなれないぞ?

 やはり…………で………よ、……良い? ……だから」

 

それからも非常に長い時間、橙さんは藍さんのお説教を受けた。

でも、藍さんのお説教…怒るときよりも何だか褒めるときの方が多い気がする。

 

「う、うぅ…」

「分かったか?」

「はい…」

 

橙さんは少しグッタリとしながら答えた。

あはは…まぁ、その……うん、あんなに長い間お説教されてたらグッタリするよね。

 

「…おっと、そろそろ夕暮れ時か、早く料理を作らないと

 良い? 橙、さっき言ったこと忘れたら駄目だぞ?」

「はい…」

 

藍さんはそそくさと夕食の準備を始めた。

橙さんは解放された安心感か、疲労かで

その場にグッタリと倒れた。


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