東方半獣録   作:幻想郷のオリオン座

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文の取材

文さんに山の道案内をお願いしたわけだけど。

どうも取材が多い気がするなぁ。

 

「で、何故幻想郷に?」

「えっと、気が付いたら幻想郷にいたんです」

「ほうほう、気が付いたら幻想郷へ…ふーむ

 偶然迷い込んだ訳では無く、恐らく…ふふ、やはり興味がわきますね」

 

うぅ、取材って言うのがどういう物か分からないけど。

とりあえず、聞かれたことに答えれば良いって言われたしそうしよう。

 

「では次です、あなたのスペルカードは?」

「えっと、まだ幻想郷に来て浅いので、まだスペルカードは1枚です」

「どんな名前なんですか?」

「束縛「小さな鎖」って名前です」

「何故束縛なのですか?」

「スペルカードの元にしたフランお嬢様のスペルカードカゴメカゴメが

 確か相手の動きを拘束し、動きにくくするスペルカードだったんで」

「ふむ、あの悪魔の妹の…流石紅魔館にすんでるだけはありますね」

「ま、まぁ、結局大したスペルカードじゃ無いんですけどね」

 

私の言葉を聞いた文さんの表情が明らかに変わった。

何か、少しだけ神剣に悩んでいるような感じ。

しかし、その感じはすぐに治り、再び笑顔に戻る。

 

「なる程です、それでは次ですね、その首に巻いてる赤いマフラーは何ですか?」

 

やっぱりこのマフラーのことを質問された。

大体私に始めてで会う人は、このマフラーのことを質問してくる。

 

「このマフラーは両親から貰ったマフラーらしいです」

「らしいとは? それに記憶が無いのに何故?」

「はい、紫さんから聞きました」

「紫さんから?」

 

私の答えを聞いた文さんは再び表情が変わる。

 

「……と言う事は、八雲 紫は彼女の記憶の事を知っている…

 だが、それを彼女に教えていない、一体何故?

 そんなにも重要な事なのだろうか、彼女の記憶が。

 それに、何故マフラーの事だけは話した?

 そんなどうでも良い記憶を話す必要性は薄い、つまり……」

 

私の答えの後、文さんはブツブツと独り言を話し出す。

本気で考えている時は、つい口に出てしまうタイプなのだろうか。

それに恐らくだけどこの独り言が私には聞こえていないと思っている。

でも、私は狼、これでも耳はそこそこ良いから普通に聞こえている。

確かに文さんの言うとおり、何でマフラーの事だけは話したんだろう。

それも、かなりマフラーの事を気にしていた。

やっぱりこのマフラーに何かあるのかな?

だけど、パチュリーさんが調査したときも変な力は無かったと言ってたし。

でも、何でも無いマフラーを紫さんがあそこまで気にするだろうか。

もしかしたら、私の両親にこの事を話して欲しいと紫さんに言ったのかな?

自分達の事を忘れないように……

 

「フィルさん、そのマフラー」

「あ、駄目ですよ! 持っていったりしたら!」

「持っていきませんよ、ただ調べるだけです」

「えっと、無駄だと思います、パチュリーさんも調べましたけど

 このマフラーには別に何かがあるという訳でも無かったそうです」

「おや、そうなのですか…では何故、紫さんはそのマフラーの事だけを?」

「分かりません、分かっているなら、私はこんなにも悩みません」

「…では、次の質問です、何故紫さんは妖怪の山の妖怪達と出会わせようとしているのですか?」

 

…私がこの幻想郷から出て行かないようにする為、と、言えば良いんだろうか。

だけど、自分も何故そうなのかはハッキリと分かってない。

どうも紫さんは少し建前を使っているような気がする。

私が幻想郷から出て行かないようにする方法は沢山ありそうなのに。

何で幻想郷の住民と仲良くさせる方法で? よく分からない。

 

「…よく分かりません、紫さんは私が記憶を戻した後、

 幻想郷から出て行かせないようにする為にと言ってましたけど」

「……なる程」

 

やはり文さんの表情は再び険しくなる。

 

「…何故? 何故記憶が戻ると彼女が元の世界へ戻ると言い出すと思ったのだろう。

 確かに戻りたいと言い出す可能性はある、幻想郷は来る物を拒まず、去る者を許さない。

 だけど、他に方法がある筈、そもそも自分が外へ返さなければ

 彼女は元の世界へは戻れないはず…それなのに仲良くさせる事で

 彼女が外へ戻る気を失せさせようと考える? そんな面倒な手をどうして…

 それも、あの八雲 紫が直接介入して…本当、彼女はよく分からないわね」

 

また独り言だ、やっぱり深く考えるとつい口に出てしまうタイプなんだろう。

でも、本当にどうして紫さんは私なんかにあそこまで気を掛けるのかな?

私はあまり力も無いただの半獣、確かに弾幕を避けるのは何故か上手いけど

私にはそれ位しか取り柄が無い。

それなのに紫さんは自分から動いて、私を見守っている。

周りの話を聞いていると、紫さんが凄い人なのは分かる。

そんな人がどうして私なんかに気を掛けるのか…本当大きな謎だよ。

 

「…っと、とと、取材ばかりになってしまいましたね

 ひとまず、少しは案内をしましょう、はい、こちらに穴がありますね」

「あ、はい」

「この穴の下は地底と呼ばれる場所に繋がっていて、色々な妖怪が居ます

 しかし、忌み嫌われて隔離されている妖怪ばかりなので

 紫さんの指示が無い場合は入らない方が良いと思います。

 相互不可侵という約束事もありますし、まぁ、最近は緩くなりましたが」

「へぇ!」

 

この日の光さえも呑み込む暗闇の底に地底という場所があるんだ。

絶対に暗いんだろうなぁ、もし行くってなったら暗闇で動けない気がする。

 

「それでは次へ向いましょうか、のんびりと取材をしながら」

「はい!」

 

次に私が案内された場所は川だった、滝の向こう側の川。

 

「たまに河童がここにいるんですよ」

「河童?」

「おや、河童に出会ってないのですか?」

「あ、はい、そんな人には出会ってません」

「下流にいたのに、ふむ、なる程、すぐに椛に襲われたからですか」

「うぅ」

「なんだい、河童をお探しかい?」

 

川の中から青い髪をツインテールにして緑色の帽子を被り

青いつなぎの様な服を着て、胸元には鍵のような飾り。

下は青いロングスカート、その先端にはいくつものポケットがある。

そして緑色の大きな鞄を背負った女の子が姿を現した。

 

「あやや、にとりですか」

「どうも、天狗様…それで、そこの女の子は獲物ですか?」

「獲物!?」

「ある意味では獲物かしらね」

「獲物!?」

「あ、取材対象という意味です、新聞記者的には獲物ですしね」

「あ、食べちゃうとじゃ無いんですね」

「食べませんよ」

「しかし、天狗様が取材するほどの妖怪とは思えませんけどね」

「この幻想郷、見た目以上に強い人など沢山居るわ」

「そうですね、山の神様だって、片方は見た感じ強そうじゃありませんし」

「片方?」

「はい、妖怪の山の神社、守矢神社には2柱の神様がいます。

 正確には3柱なのかも知れませんが、1柱はまだ完全では無いそうなので

 今は2柱とカウントしています」

「…その、柱ってどういう意味ですか?」

「神様を数えるときの単位ですかね」

 

へぇ、神様って柱で数えるんだ、知らなかった。

 

「それじゃあ、そこの妖怪も本来は強い妖怪って事ですか?」

「私はそう睨んでるわ」

「ま、まさかぁ、私なんかが強いわけありませんよ」

「そういう人ほど、実は強かったりすることがありますよ」

「いや、私は本当に」

「ふーん、それで何で天狗様がその子を? あ、まぁ、その前に

 自己紹介をしておいた方が良いかな、私は河城(かわしろ) にとりさ」

「あ、私はフィルです、名字は分かりません」

「分からない? これまた奇異な事を言う」

「記憶が無いらしいの」

「ほえぇ、そりゃまた難儀な事で」

「あ、あはは…」

 

何か適当に言ってるように感じたけど…気のせいだよね。

 

「それじゃあ、にとり、私はこの子を守矢神社まで案内するから」

「はいはい、頑張ってくださいね」

 

守矢神社…一体、どんな場所なんだろ、どんな人が居るのかな?

少し怖いけど、楽しみではある。


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