東方半獣録   作:幻想郷のオリオン座

37 / 245
孤独な橋姫

「じゃあ、ここから先結構色々居るけど頑張ってね」

「あ、はい!」

 

ヤマメさん達は私にそう言った後、空を飛んで上に帰って行った。

いいなぁ、やっぱり空を飛べるのって、凄く便利だよね。

穴とかに落ちてもすぐに上がれるし、落ちそうになっても地面に激突しないし。

本当、私も空を飛べ…れ、ば……あ、あれ!? そうだった!

わ、私! 私空飛べないじゃん! これどうするの!?

どうやって帰るのこれ!? ここ穴の下だよね!?

確か山で文さんに案内して貰ってたときに見せて貰った穴だよね!?

上から底も見えないほどの深い穴の底から空を飛べないでどうやって帰るの!?

……その事に気が付いたからかな、全身から妙な冷や汗が。

う、うぅ、暗いからかな、何だか刺すような視線が。

 

「……」

 

な、何か居る! 何かこっちめっちゃ見てる!

視線だけで私を殺そうとしてるの勝って思うくらいに恐ろしい形相!

誰あの人! 金髪で緑の目? 何か緑の目が光ってるみたいに見える。

茶色い服装…白い帯から下は青くなっている。

その下に青く白い模様のスカート、服の各終端は青く白い模様が走ってる。

スカートと服の各終端は同じ模様。

でも、スカートの終端は黒くなり赤い糸の様な物が付いている。

靴は足の甲が見える様に開いている靴、でも、靴下を履いているから足の甲は見えない。

 

「……と」

 

どうしよう、話し掛けた方が良いのかな? でも、何か怖いし。

明らかに敵意みたいなの感じるし…凄く見てるし!

と、とりあえずちょっとだけズレて。

 

「……」

 

駄目だ! 完全に私を見てる! 目が追ってきてるもん!

緑色に光る目が明らかにこっちを追ってきてるもん!

しかも表情は変わらず険しいままだし! 怖いんだけど!?

どうしよう…に、逃げる? でも、背中は壁、上には逃げられない。

進む道は正面の橋しか無い…そもそも地底深くに何で橋が!?

あ、あの人、橋から動いてない…もしかして橋を守ってる?

じゃあ、近付かなかったら無害…なのかな?

でも、あの橋しか道は無いよ? 渡るしか無いよ?

この橋の先に何があるかは分からないけど、あの橋を渡らないと

私は間違いなくここでお腹を空かせて倒れちゃう。

で、でも…でも!

 

「……」

 

あの人が怖くて進めない! 何か怒らせるような事したかな!?

騒がしかったから!? 騒がしくしたからかな!?

そうだよね、こんな地下深くにいるくらいだもん、きっと静かなのが好きなんだ!

じゃあ、謝らないと…でも、本当にそれで怒ってるかも分からないのに?

も、もし違ってたら余計怒られるんじゃ…だ、だけど、このまま考えてても仕方ない。

 

「あ、あの…」

 

とにかく声を掛けてみよう、そうすれば。

 

「…妬ましいわ」

「ほえ!?」

「あなたからは一切の嫉妬を感じない、妬ましい」

「え!?」

「すぐにヤマメたちと仲良くなったのも妬ましい

 こんな状況なのに明るく振る舞うのも妬ましい

 あなたに恨みは無いけれど、あなたを討つ理由はいくらでも作れるわ」

「えっと、それはどういう」

「こういうことよ、私は4枚使うわ」

「そ、その流れ、何だか嫌な予感が!」

「嫉妬「緑色の目をした見えない怪物」」

「やっぱり私の意見は無視なんですか!?」

 

わぁああ! 私を追っかけてたまが飛んでくる!

何処から出て来てるの!? 何も無い所から出て来てるんだけど!?

ちょっと待って! 空も飛べない私にこれは難しい!

 

「ひゃぁああ!」

「避けるのが随分と上手いのね、妬ましいわ」

「いやいやいや! 妬ましいって、危ない!」

 

あ、ま、不味い! 壁際に追いやられた! こ、こうなったら!

 

「これで」

「ま、まだまだ!」

 

私はその場で飛び上がり、背中の壁を蹴って場所を素早く移動した。

 

「逃げ足が速いわね」

「まだ来るんですか!?」

 

その後も私はその弾幕と追いかけっこをして、何とか時間制限まで逃げ切った。

は、はぅ…空を飛べない私にはキツい攻撃だった。

それにこの狭い空間、狭い空間で危なかったとも狭い空間で助かったとも言える。

 

「…次」花咲爺「シロ灰」

「え!?」

 

今度は自分を中心に多方向へ1直線の大きな弾幕を何発か飛ばしてきた。

これだけなら回避は簡単、でも、その弾幕は通った後に花の様な弾幕を残す。

その花の様な弾幕はその場に残り、しばらくの間滞在。

結構1個1個の隙間があまり無いから少しずつ厳しくなる。

それに弾幕の滞在時間は長く、展開された弾幕が消えるまで時間が掛かる。

この弾幕はほぼ間違いなくゆっくりと逃げ場を奪っていく弾幕だ!

 

「あぶあぶ! は、花咲爺さんって、優しいおじいさんですよね!?

 何処にも優しい要素がないんですけど!?」

「…知らないわ」

「そうですよね、名前ですし、危ない!」

「本当に避けるのが上手いわ、妬ましいほどに」

「わ、私もただで負ける訳にはいきません! 反撃します!」

 

このままだと追い込まれる、そう判断した私は弾幕をあの人に放った。

その甲斐あってか、弾幕に逃げ道を奪われる前に撃破が出来た。

 

「…まだまだよ」舌切雀「大きな葛籠と小さな葛籠」

「ぶ、分身した!?」

 

スペルカードを宣言すると同時にあの人は2人に分身した。

そして、左右で大きさの違う弾幕を飛ばしてくる。

片方は小さな小粒弾幕、もう片方は大きな弾幕だ。

何で2人に分身したのか分からないけど、とにかく攻撃しないと。

でも、どっちに攻撃すれば良いの? どっちが本物?

う、うぅ…大きな弾を飛ばしている方が本物かも。

やっぱり本物の方が攻撃力を強くして攻撃してくるはずだし。

でも、待てよ? 確か舌切雀って…えっと、確かお爺さんが。

 

「わぁ!」

 

う、うぅ、か、考えてる暇は無いかも…だったら、大きい方へ。

でも、やっぱり引っ掛かる、確かお爺さんは大きい方の葛籠を選んだっけ?

で、中身は金銀財宝がざっくざくで…いや、でも、大体昔話って

欲張りが失敗するよね、さっきの花咲爺さんも確か隣に住む

欲張りなお爺さんお婆さんは散々な目に遭ってた。

だったら、舌切雀も欲張りじゃない方が得をする筈。

なら、小さい方だ! だから、小さい方!

でも、大きい葛籠から出たのは確か妖怪とかだったよね?

じゃあ、妖怪が居る方って事で、やっぱり大きい方が正解だ!

多分だけどあの人も妖怪だし!

 

「えい!」

「…外れ」

「ひゃぁあ!」

 

大きい方を攻撃したら沢山弾が飛んできた! 外れた!

違うの? 妖怪が中身だから大きい方って考えは違うの!?

もしかして、普通に小さい方だった!? か、考えすぎた!

 

「あばばば!」

 

私はかなり焦りながらだったけど、その弾幕を回避することが出来た。

あ、危なかった、こ、今度からは小さい弾を飛ばしてきてる方を狙おう。

 

「えいや!」

「く…」恨符「丑の刻参り7日目」

「危ない!」

 

今度は小さな弾幕を連続して私に向って撃ってきた。

私以外の方向にも6箇所の方向に同じ様に弾を飛ばしている。

でも、私を狙っているのは1箇所の弾だけ。

それに身を躱しているのにさっきまで私が居た場所へ向けて撃っている。

これだけなら避けるのは簡単だ、少し動けば良いだけ。

だけど、そんな簡単な弾幕は無い。

 

「ひぇ!」

 

7方向へ向けて放たれた弾幕が壁に当たると、そこから別の弾が四散する。

凄い速さで飛び散ってくる、でも、かなり脅威なのは間違いないけど

その四散している弾は比較的遅く、この場に長らく滞在する。

四散した弾が消えるよりも前に弾幕は私を狙って飛んでくる。

こっち以外の6方向にも当然ながら弾が飛び、同じ様に四散する。

ゆっくりとゆっくりと四散した弾に追い込まれていく。

このままじゃ不味い! 時間が月につれて避ける道が無くなる!

早く倒さないと避ける道が無くなって弾に当たる!

 

「うぅ、えりゃあ!」

 

私は弾幕をあの人に向けて放ちながら7方向へ飛ぶ弾幕と

四散した動きの襲い弾幕を回避していく。そして。

 

「うぐぅ…」

「な、何とかなった」

 

逃げ道を完全に断たれるよりも前にあの人を倒すことに成功した。

あ、危なかった…あと少し遅かったら倒せなかった。

 

「……ね、妬ましいわ、ここまで強いなんて」

「あ、あの、何でいきなり…」

「……ここから先はとんでもなく強い妖怪ばかりよ、私を倒せないならあなたはすぐに死ぬ

 それを試そうと思ったの…まぁ、妬ましいからなのが主な理由だけど」

「……あ、あの、その…えっと、ありがとうございます、私の事、心配してくれて」

「……し、心配なんてしてないわ、ちょっと妬ましいから倒そうとしただけ」

「あの、もしよかったらお名前、教えてください、私はフィルって言います」

「…ぱ、パルスィ、水橋パルスィ(みずはし)」

「ありがとうございます、パルスィさん!」

「…い、良いから行きなさい、どうせこの先に用があるんでしょ?」

「はい、あの、また会いに来ます」

「……ふん、もう来るな」

「え? その、何か悪い事を」

「あんたみたいな嫉妬心の欠片も無い奴は苦手なのよ!」

「え? あ、は、はい」

 

何だか嫌われてるようだし…でも、嫌ってるのかな?

私の事が嫌なら、私がこの先に行っても大丈夫かなんて試さないんじゃ…

でも、ああ言ってるし、速く行かないと。

 

「…本当に眩しくて、素直で…妬ましいわ」

 

そんな小さな言葉が私の耳に聞こえた。

私はその言葉を聞いて、何となくだけどパルスィさんは素直になれてないだけじゃ無いかって

そう思った、素直になれない不器用な優しさ…私の勘違いだったら悪いけど

その内、もう一度ここへ来てみよう、その時は一緒に何かをして楽しもう。

ヤマメさん達も誘って、4人で…楽しみだなぁ。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。