東方半獣録   作:幻想郷のオリオン座

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地の底の明るい街

真っ暗だった地底、その1番下にあった橋を渡った先には。

 

「…凄い」

 

真っ暗闇とは対極的な、温かい光りが見えた。

沢山の明かりの灯ったお家。

その家々からは楽しそうな笑い声や楽しそうな会話の声。

 

「……」

 

大きな愚痴をこぼしている声、その声を慰めている優しい声。

喧嘩をしている様な声も聞こえてくる。

でも、その沢山の声の全ては全部、何処か楽しそうで。

心の底から落ち込んでるような声や言葉は聞こえない。

そして、何人もの人々が口にする言葉、勇義(ゆうぎ)と言う名前と萃香(すいか)と言う名前。

一体どんな人なんだろう、凄く気になるなぁ。

 

「よぉ、お嬢さん」

「は、はい?」

「初めて見る面だな、一緒にどうだ?」

「え?」

 

私に話し掛けてきたのは薄茶色の長い髪の毛を先っぽの方でまとめていて

後ろの方で大きな赤いリボンを着けている。

赤い瞳、そしてかなり大きな角が2本生えていて、左の角に青いリボンを付けている。

服装は白のノースリーブで胸元にも赤いリボンが付いている、リボンが好きなのかな?。

スカートは紫色のロングスカートで先端が白くなっている。

そして、腰には金属で出来た様なベルトがしてあり、そこから鎖が出ている様だ。

その鎖は両手の先にも付いていて、その鎖の先には三角、四角、丸の飾りが付いていた。

で、右手に紫色の瓢箪を持っているけど、なんだろう、あの瓢箪。

それにしてもかなり背が低い気がする、フランお嬢様と同じくらいかな。

 

「えっと、あの…」

 

ただいきなり話しかけられたせいで、どう反応すればいいかわからない。

一緒にどうって言って、手をクイッとする動作をしたけど、あれはどういう意味?

 

「困ってるようじゃないか、もう少し誘い方を考えなよ」

「勇義(ゆうぎ)も来たのか」

 

今度は背が高くて金色の長い髪の毛で赤い大きな角が生えていて、その角には星のマーク。

服装は白い体操服の様な服を着ていて、各終端が赤くなっている。

下はロングスカートで…よ、よく見ると何か半透明!? スカートの意味は!?

う、うぅ、でも、薄く見えるけど、したには何か履いてるみたいだし…

ファッションだね、この半透明なスカートは。

で、下駄を履いてる、特徴的なのは角と半透明のスカート。

跡目に止まったのは両手両足の枷みたいな奴かな。

 

「えっと…」

「もしかして緊張してる感じかい?」

「あ、は、はい、ここはその…初めてでして」

「あはは、何、緊張することは無いさ、じゃあ、こう言えば安心してくれるかな? フィルちゃん」

「…な、何で私の名前を知ってるんですか?」

「まぁ、八雲紫に話を聞いてね、あいつが直接動くほどだ、よっぽどなんだろう。

 それも地上の妖怪をこの地底へとは、ま、半分だけみたいだけどね」

「……」

「まぁ、安心しなよ、別にとって食おうって訳じゃないから

 私達はただあんたと一緒に酒でも飲もうと思ってね」

「え、あ、お酒? あの、私、お酒を飲んだことがなくて」

「大丈夫だよ、ほら、行こう」

「え、えぇ!?」

「まぁ、ゆっくりしようや、お、そうだ、自己紹介しないとね、私は星熊 勇義(ほしぐま ゆうぎ)

 山の四天王って言われてた時期はあったが、まぁ、あんたは知らないだろうけどね」

「で、私は伊吹 萃香(いぶき すいか)っていうんだ、よろしくね」

「よ、よろしくお願いします」

「まぁ、酒を飲みながら色々と話そうじゃないか」

「は、はい…」

 

私はその2人に連れられ、お酒を飲むことになってしまった。

お酒って飲んだことないんだよね…美味しいのかな?

あまり美味しいイメージはないけど。

 

「ぷはぁ! やっぱ酒は良いね!」

 

この2人は凄く美味しそうに飲んでるし、多分美味しいんだろう。

 

「どうしたの? 早く飲みなよ」

「あ、は、はい…」

 

ん、んん…んー、別に問題無いかもしれない。

ちょっと胸が焼けるような感覚はあるけど、これ位なら別に問題は無い。

 

「お、言い飲みっぷりだね、こいつを一気に飲むとは

 しかもまだ全然酔ってないようだし、あんた酒強いね」

「え? そ、そうなんでしょうか」

「あぁ、こいつは人間にはキツい酒だからね、人間の酒豪じゃ

 5杯くらいでぶっ倒れるんじゃないか? まぁ、私らは問題無いが」

「ぶ、ぶっ倒れるんですか、お酒って怖いですね」

「ははは! ま、それも面白いさ! ほら、ドンドン飲みな!」

「い、いや、流石に倒れたくはないので」

「大丈夫だって、ほらほら!」

「むぐぐうぅ!」

 

え!? お猪口に入れてくれるんじゃないの!? 本体直接なの!?

ちょっと待って! このお酒、お猪口5杯でお酒を飲む人でも倒れるんだよね!?

それを一気に!? 無理! 倒れる! 倒れちゃうよ!

 

「…ぷ、ぷふ」

「おぉ、こいつを一升瓶丸々飲んじまうとは、大したもんだね」

「うー、あ、あぅ…し、死ぬかと思いました」

「しかもまだまだ行けそうじゃないか、こりゃ、相当だね」

「いや、本当に勘弁してください、私、倒れたくないです」

「酔いつぶれるまで飲むのがルールみたいなもんだからね、ほら、もっといきな!」

「いや! 待って! 無理ですって!」

 

これ以上飲んだら本当に倒れちゃうと思った私は

勇義さんがお酒を飲ませようとするのを全力で止めた。

凄い力……何でこんなに力があるの!? 止めるだけで精一杯!

 

「お、おぉ、へぇ、結構力あるんだね、お嬢さん」

「うぅ! 無理です! 私はもうお酒飲めません! 倒れたくありません!」

「折角なんだ、沢山飲みなよ」

「むぐぅ!」

 

あぁ! 2人がかりはズルい! 苦しい!

 

「いやぁ、一升瓶10本行っても酔わないのか、こりゃ、大した物だ」

「ケプ、お腹がお酒でいっぱいなんですけど…」

「いやぁ、ここまで飲んでくると、飲み比べしたくなってくるねぇ」

「とんでもない量をもう飲んでるじゃないですか! まだ飲むんですか!?」

「まぁね、後もう一つやりたいことも生まれたね」

「え?」

「フィル、1度私とやってみようじゃないか、あんたの力、試したくなってきたよ」

「えぇ!? 私、弱いですよ!?」

「はは、怪力の勇義の力を少し押さえつけてたくらいだ、弱いわけないだろう」

「いやいや! 無理です!」

「まぁ、弾幕勝負も良いけど、あれは時間が掛かるし、腕相撲でもしようかね」

「え? ま、まぁ、それ位なら」

 

う、腕相撲か…凄い力だったし、私、すぐ負けそうだけど。

 

「よし、じゃあ、始め」

「ふん!」

「い、いぎ、いぎぎぃ!」

「お? 良いね」

「へぇ、勇義相手に10秒以上持つとはかなりの怪力だね」

「面白くなってきたよ、ほら!」

「あ、あぅ、ま、負けません! 大人しく負けるのは何か嫌ですし!」

「お、お? 少し押し返すか、大した怪力だ」

「おい! あの子スゲーぞ! 勇義の姐さん相手に30秒も持ってる!」

「にゅ、にゅぅうう!」

「少し押し返しやがった!」

「はは! 予想以上に力があるね、ほらほら!」

「ああぁ! ふ、ふんにゅぅう!」

「土壇場で耐えた!」

「へへ、ふん!」

「あぁ!」

「おぉ! 1分以上耐えやがったぜ!」

 

ま、負けた…それも全然本気じゃなかったみたいだし、とんでもない怪力だよ。

うぅ、腕が痛い…本気でやったせいかな。

 

「お嬢ちゃんスゲーな!」

「ほえ?」

「くはは! 最高に熱い勝負だったぜ!」

「よっしゃ! 良いもん見せて貰ったし! 酒を奢ってやる!」

「あぁ、そうだな、もっと酒だ! 酒持って来な!」

「あ、あれ? あれー?」

「勇義相手にあれだけやれるのは鬼の中でも珍しいからね

 誇りなよ、フィル」

「いや、あれは勇義さんが本気を出してなかったからで」

「それでも相当だよ、さ、もっと飲みな!」

「いや、私、もうお酒は、むぐぅ!」

「ははは! じゃんじゃん飲め飲め!」

「むぐぅぅう!」

 

お酒…嫌いになりそう。


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