東方半獣録   作:幻想郷のオリオン座

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とっても良いところ

「おねぇさんは、良い所って聞いて、最初に何を考える?」

「えっと、そうですねぇ、ご飯食べ放題とか」

「…さ、最初にそれを思いつくんだね、汗をかいてるこの状況で

 もしかして、おねぇさんって、見た目に反して食いしん坊?」

「ほえ!? い、いや! そ、そんな事は…そ、そんな事は…」

 

……どうしよう、否定したいけど否定できないんだけど。

いやうん、結構食べてるからなぁ…どうなんだろう。

でも、やっぱり…うーん、食いしん坊…食いしん坊なのかも?

 

「えっと、く、食いしん坊だと…お、思います…あはは」

「いやぁ、人は見かけによらないとはよく言うけど

 妖怪も案外見かけによらないねぇ、いやまぁ

 この幻想郷。見た目に反して凶暴な妖怪は多いけどさ」

「うにゅ?」

 

お隣さんはお空さんの方を見ながら、そう呟く。

そうだよね…お空さんも見た目はそんなに凶暴そうじゃないけど

戦闘になったら、超が付くくらいの火力で攻撃してくるし。

魔理沙さんは死なないって言ってたけど、あれは当たったら死にそう。

 

「本当、あの攻撃は当たったら死にそうでした…」

「いや、当たったら死ぬだろうね、普通にあれは。

 でも、おねぇさんなら案外ケロッとしてそうだけど」

「な、なんでですか!? 普通に死にますよ!?」

「いや、だってねぇ、傷もすぐに治るし、妖怪の中でも上位レベルの再生能力でしょ?」

「そんな事は無いと思うんですけど」

 

やっぱりあの傷の治りはおかしいのかもしれない。

自分ではちょっと治りが早い程度だと思ってたけど

お隣さんが言うくらいだし、相当なんだろう。

 

「まぁ、この話は置いておいてと、おねぇさんに用意した良いところは

 残念ながら食べ放題じゃないけど」

 

お隣さんが地霊殿の奥にある扉を開けると、湯気が立ちこめてきた。

その湯気が晴れ、少しすると、その先が見えてくる。

 

「汗も酷いおねぇさんには特別コース! 地霊殿の温泉へのご招待だよ!」

「ほえ?」

「特別なお客に対する超特別コースって感じだね、これは」

「お、温泉?」

「そうだよ…でも、先客が居たようだね」

「あら、お隣、お空、それにフィルさん、どうしたんですか?」

 

タオルを巻いているさとりさんが、丁度自分にお湯を掛けていた。

 

「さとり様!」

「お空も温泉へ?」

「はい!」

「じゃあ、フィルさんと仲良くなれたのですね」

「はい!」

「ま、まぁ、お空の通過儀礼の様な弾幕ごっこをしましたし、お空的には懐いていると

 今もホラ、べったりと言う感じですし」

 

……こ、後頭部を柔らかい何かが包んでいる気がする…

…何でだろう、急に色々と虚しくなってきたというか…

なんか、凄い劣等感を感じるというか…

 

「…そ、そう…お、お空、フィルさんにあまり抱きつかない方が良いと思うわ」

「え? 何でですか?」

「いや、うん、悪気がないのは分かってるのよ? 

 でも、あなたの天然は少々他人を傷付けるというか、その…ねぇ」

 

……まぁ、良いか、成長の仕方は人それぞれだし、別にこの方が動きやすいもんね。

私は戦うとき、どうしても動き回るから、大きかったら困るし。

 

「じ、自己解決…なんというか、逞しいですね、フィルさん」

「え? あ、あぁ、そうだった、心が読めるんでしたね、あはは」

「あはは、で、そうですね、その弾幕ごっこで汗をかいたからここへ」

「はい」

「……ふむ、フィルさん、なんなら今日はこの地霊殿に泊ります?」

「え!?」

「お腹も空いているでしょう? 地上の妖怪であるあなたの舌に合うかどうかは分かりませんが

 お料理も出しますよ、大盤振る舞いで」

「ほ、本当ですか!?」

「はい」

 

う、うぅ…で、でも、迷惑なんじゃ…私、沢山食べるし。

 

「いえ、迷惑ではありませんよ、大歓迎です、お空も楽しそうですし

 お隣も何だか楽しそうですからね」

「さとり様もああ言ってるし、泊ってよ!」

「え? で、でも」

「もっと色々と聞きたいしね、おねぇさんの話」

「え? じゃ、じゃあ…お、お言葉に甘えて、1日だけ…お世話になります」

「やったぁ!」

 

う、うぅ、お空さんに強く抱きしめられた…同時に私には無い弾力が私を包む。

い、良いもん! 私は私として成長するもん!

成長すればきっとボン、キュ、ボンに!

い、いや、でも、私って食いしん坊だから、ボン、ボン、ボンになる可能性が…

でも良いもん! 好きな事して成長するもん!

 

「心の中で大分葛藤してますね、大丈夫ですよ、ボン、ボン、ボンにはなりませんから」

「あ! よ、読まれてた…」

「ボン、ボン、ボンって、あはは! おねぇさんなら大丈夫だって

 あんなに動き回ってるんだし、自信持ってよ」

「…はい」

 

だ、大丈夫、私はきっと大丈夫! きっと大きくなる! 多分…

 

「それじゃあ、えっと、温泉に入りましょうか

 地霊殿自慢のこの温泉、どうぞお楽しみください」

「あ、は、はい」

 

私は脱衣所で服を脱いで、温泉に入る準備をした。

温泉かぁ、何だか、初めて入る気がするなぁ。

でも、なんで今まで入った経験無いのかな?

記憶が無いだけで、入ったことはあるのかも知れないけど。

でも、記憶が無くなる前でも、経験したことは少し覚えてる事もあるし

もしかしたら、記憶が無くなる前から入ったことは無い?

う、うーん、記憶が無いって、本当にしんどいや。

でも、逆に考えるんだ私! 記憶が無ければ、前にやったことも

初めてやったという新鮮さになる!

新鮮なのは大事! ご飯でも新鮮な物は美味しいからね!

それに初体験は喜びが多いからね、強制された初体験なら嬉しくないだろうけどね。

…でも、広いこと意外にお風呂とどう違うんだろう。

 

「それは直接入って体験してください、新鮮な初体験を楽しんでくださいね」

「は、はい!」

 

……うん、入ろう!


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