東方半獣録   作:幻想郷のオリオン座

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幽霊楽団

「それでは、また来て下さいね」

「はい!」

 

美味しいご飯を頂いて、私は地上に戻る事にした。

たった1日だったけど、こんなにも良くしてくれて

私は本当に幸せだった。

とっても嬉しかった…少し、戻ることに躊躇っているけど。

…でも、私は帰らないといけないんだ、紅魔館へ。

私を拾ってくれた、大事な人の場所へ。

 

「…私は、レミリアさんが羨ましく感じます

 あなたみたいな可愛い家族に巡り会えて」

「さとりさん…」

「でも、私も幸運だったと言えます。

 あなたみたいな優しい方と巡り会えて。

 ふふ、もう諦めますよ、私はあなたの家族にはなれない。

 だから、フィルさん…今度は友人として、また、私達に会いに来て下さい

 約束ですよ?」

「うん! 絶対来てよ!」

「いつでも歓迎だからね、おねぇさん!」

「またふらっと顔を見せるかもだけど、その時、一緒に話しましょう?

 …私の事、忘れちゃ嫌だよ?」

「忘れませんよ、皆さんの事は…それでは、また会いましょう!」

 

私の中にあった後ろ髪を引かれる思いは完全に消えた。

私はまたここに来る、さとりさん達の家族になることは出来ないけど。

皆さんの友人としてここに来ることは出来る。

家族じゃなくても、私はここに来ることが出来る。

暗い暗い地の底、その底にあったのは暗い世界ではなく

明るい街に明るい家族、暗闇の中にある明るい世界。

ふふ、周りに呑まれず、明るく生きているこの地底の人達に私は憧れる。

私も同じ様に明るく生きていきたい。

 

「忌み嫌われた妖怪達と出会った感想はどうだったかしら?」

「紫さん!? い、いきなり目の前に現われないで下さいよ!

 し、心臓に悪いなぁ、ここ暗いから恐いんですけど!?

 で、でも、お化けが出て来た訳じゃなくて良かったです」

「あなたは幽霊を誤解してるのかしら?

 まぁ、ここら辺にいる幽霊は確かに化け物だけどね。

 全部が全部そうだって訳じゃないのよ?」

「幽霊に種類なんてあるんですか?」

「あるわよ、死霊、精霊、生霊、怨霊、悪霊、浮遊霊、動物霊、

 地縛霊、地霊、守護霊、指導霊、御霊、騒霊、背後霊、神霊、色情霊

 他にも亡霊、半霊、先祖霊もいるわ、この中で1番厄介なのは怨霊

 ここら辺にうようよ飛んでる厄介な連中よ」

「紫さんが厄介だって言うって、相当ですね」

「そりゃね、妖怪が取り憑かれたら死ぬわ」

「へ?」

「でも、あなたは多分大丈夫よ」

「い、いや、私も一応妖怪ですけど…」

「半分ね、あ、そうだあなた」

「は、はい」

「幽霊の別の姿、教えてあげるわ」

「へ? え!?」

 

また私の足下にあの空間が!?

え? 何処に連れて行かれるわけ!?

あ、あぁああ!!

 

「あだ…あぅ…」

 

まあお尻を打った…もうちょっと優しく移動させて欲しいなぁ…

 

「何? ここ…」

 

前方を見ると、そこには数え切れないほどの階段が見えた。

1番上が見えない、それ程に長い長い階段だった。

これは…この階段を登れば良いのかな?

疑問は多いし、本当にそうなのかも分からないけど。

こんな場所に移動させたんだし、そう言う事…だよね?

 

「うぅ、しんどそうだなぁ」

 

流石にこんなに沢山の階段を登ったことないし、しんどいかもしれない。

でも、そもそも進まないと帰り道が…後ろにはあるんだけど。

 

「んー…」

 

でも、凄く地面まで距離があるんだよなぁ…

これ、私が落ちたらどうしようも無い気がする。

あれだよね、絶対に死ぬよね? まず間違いなく。

 

「……幽霊が自殺するの?」

「ほへ!?」

 

地面を見ていると、前の方から私に対しての話し声が聞こえた。

目の前を見てみると、そこには髪はほぼストレートで金髪のショートヘア。

前髪は少し真ん中で分けている。

瞳は金色で少しツリ目気味でキリッとしてて、パッチリした目つき。

服装は、白のシャツの上から黒いベストのようなものを着て

下は膝くらいまでの黒の巻きスカート。ベストにボタンが2つあり色は赤。

スカートにも同じボタンが付いているみたいだった。

ベストやスカートの裾には円や半円を棒で繋いだような赤い模様がある。

そして、円錐状で返しのある黒い帽子を被っている。

帽子の先には赤い三日月の飾りがついていた。

 

「止めておいたら、2度も死ぬことは無いでしょう」

「え、えっと、私、死んだわけじゃ…」

「そうなの? なら、何でここに?」

「えっと、訳が分からないうちにここに…」

「……可哀想に、死んだことに気付いてないのね

 でも、大丈夫、死んでも別に何か変わることは無いから」

「いや、だからあの…」

「姉さん、どうしたの?」

 

また新しい人が来た、今度の女の子は

髪は薄い水色で明るい色。全体的に強いウェーブがかかった、ふんわりした感じの髪

髪型は何故か右半分は特に手を加えず肩くらいまで下ろし

左半分は左後頭部辺りでアップにしてまとめている

何でこんな左右非対称の特徴的な髪型何だろう?

で、瞳の色は青で、少し垂れ目気味、姉妹みたいだけど、髪の毛の色と瞳の色は違う?

いや、まぁ、うん、考えてみればお嬢様とフランお嬢様も違うし

さとりさんとこいしさんも違ったし…姉妹って髪の毛と瞳の色違うんだろうなぁ。

染めてるだけ? それともカラーコンタクト?

そもそも、元からこんな感じなんだろうか…

服装は、薄いピンクのシャツの上にこれまた薄ピンクのベストのようなものを着て

様薄ピンクのスカートを履いている。

ベストは前面ボタン閉じタイプのもの。二つあるボタンは青で、ベストやスカートの裾には

何だか視力検査で見た様な形の記号を二つ並べて棒で繋いだような形の

青い模様があしらってある。襟のふちにはフリルが着いている。

ベストの裾、スカートの端、襟のふちフリル手前、帽子の返しのふちフリル手前には黒いラインが付いている。

何だか凄く明るい雰囲気だ。

そして、円錐状で返しのあるピンクの帽子を被っている。

ここにもフリルが付いていた。

帽子の頂点もあの黒い人と同じ様に飾りがあって、青い球体に青い円柱状の棒が何本か突き立っている。

見た目的には太陽? いや、ウニにも見える。

でも多分太陽だ、ウニはを頭の飾りにするとは思えないしね…

お姉さんと言ってた黒い人も頭に月の髪飾りだしね。

「この幽霊が自殺しようとしてたから止めようと…」

「いや、幽霊じゃ無いんじゃないの?」

「冥界の結界から出て来たんだし、幽霊でしょ?」

「前も人間が私達を蹴散らして突入したじゃん

 結構冥界って誰でもいけるんじゃないのかな?」

「いや、この子が通ったところ、私見てないし」

「そう言えば、今日はずっとここら辺にいたのに見てなかったっけ

 じゃあ、やっぱり幽霊ね!」

「いや、死んでませんよ? 死にかけた事は何度かありましたけど、死んでませんよ?」

「……じゃあ、証明してよ、飛び降りて?」

「ほへ!?」

「幽霊じゃないなら、それで死ぬ! 死んだら信じてあげるよ」

「それ! どう考えても死にますよね!? 強制的に幽霊にしようとしてますよね!?」

「良いから」

「ち、近寄らないでください! 死にたくない! 死にたくないんですぅ!」

「メルラン姉さん、止めときなって」

 

私を引っ張ろうとしたこの人を止めたのはまた新しい人だった。

髪の毛の色はかなり薄い茶色。

毛先に行けば行くほど髪の毛が内巻きになっている

少しふわっとした毛質のショートヘア。

瞳の色は薄茶色。

服装は、白のシャツに赤のベストのようなものを着て、赤いキュロットを着用している。

二つあるボタンは緑。でも、何故か胸元を第一ボタン上まで開けている。

ボタンって全部しめないと駄目なんじゃないかな? だらしなく見えるし。

ベストやキュロットの裾には白い模様があるって谷側に点のあるジグザグ模様が肩フリル部にある。

他の人達と同じ帽子を被っている。色は赤色だった。で、帽子の飾り流れ星。

にしても、3人が並んでいる姿を見ると…この人だけ、妙に身長が低い…

 

「メルラン姉さんは暴走するからね、で、あなたは本当に何者?」

「えっと、幽霊じゃありません、妖怪です、死んでませんよ? 本当に」

「あぁ、いやいや、そうじゃ無くて、名前とか、何処から来たとか」

「あ、そうですね、えっと、私の名前はフィルです。

 何処から来たかと言えば地底からですね、そして、紅魔館で過ごしてます!」

「紅魔館…あの悪魔の館か」

「食料?」

「そうじゃ無いと……お、思いたいです」

 

そう言えば、最初かじられたし…意外と食料だったり…

い、いや、そ、そそ、そ、そんな事は無い…筈です!

 

「え、えっと、皆さんはその…姉妹、何ですか?」

「そうだよ、一応自己紹介としようかな

 私の名前はリリカ・プリズムリバー、幻想の音を奏でる能力よ

 どう? 凄いでしょ? 幻想の音よ? 忘れ去られた音を奏でる

 消えた音の救済者ってね!」

「…ルナサ・プリズムリバー、一応、音楽団をやってる、リーダー

 ついでにこの子達の姉、長女ね、能力は鬱の音を奏でる能力」

「ついでってどうなの? まぁ、良いけどね!

 さてさて、私はメルラン・プリズムリバー!

 次女よ、能力も言うなら、躁の音を奏でる能力よ!

 さぁ、最高にハイになりましょう!?」

「いや、良いです」

「ノリが悪いわね、さ、ほらほら」

「落ち着いてよ、メルラン姉さん」

「……あなたは楽器を演奏できる? 歌は?」

「へ? あー、やったこと無いです」

「…じゃあ、やってみて」

「そんな無茶ぶり!」

 

う…歌? 歌…何かあったかな? お、覚えてない。

 

「うぅ、ご、ごめんなさい、私、記憶が無いので…どんな歌を聴いたことがあるか」

「…そうなの、じゃあ、これ」

 

ルナサさんが私に歌詞シートを渡してくれた。

え、えっと…うーん、これを歌えって事?

 

「あの…これを歌えって事でしょうか?」

「そう、音楽は私達が奏でる、行くよ」

「はいはーい、練習だね!」

「無理矢理出会ったばかりの人を巻き込むって…まぁ、良いけどね」

「じゃあ、行くよ」

 

私は皆さんが奏でた音楽に合わせ、歌詞に書いてあった通りに歌った。

リズム感覚も音程もよく分からないけど、音の流れから

こんな風になるんじゃないかと予想して、音程を調整して歌ってみた。

歌を歌うって言うのは、何だか初めてなきがする。

いや、そもそも記憶が無いんだし初めてなんだよね。

 

「ふぅ…」

「お、おぉ! 歌がかなり上手いね!」

「ん、そう思う」

「え? そ、そうですか? えへへ、あ、ありがとうございます」

「これはスカウトするしか無いね」

「うん…一緒に演奏しよう?」

「え? い、いえ、私は」

「ほらほら! 一緒に演奏しようよ!」

「ちょ、ちょっと待ってください! お、落ちます! 落ちますからぁ!」

 

落ちる落ちる! 私、空を飛べない、あ、あぁあ!

 

「ああぁあ! お、落ちる! 落ちますぅ!」

「お、落ちないわよ」

「は、離さないで下さいね! その手、離さないで下さいね!?」

「空飛べないの?」

「飛べませんよぉおお!!」

 

な、何でこんな! 落ちる! メルランさんが手を放したら落ちる!

 

「じゃあ、一緒に演奏してくれる?」

「えぇ!?」

「どうしよっかなー、手が疲れてきちゃったなー」

「し、します! しますから! 助けてぇ!」

「よし、その言葉が聞きたかった!」

 

う、うぅ、強制だ…強制的に仲間に入れられてしまった…

 

「まぁ、そんな毎日って訳じゃないし、何かあったら呼びに来るよ

 えっと、紅魔館だったっけ? ライブの時に呼びに行くからね」

「なんて強引な手法でしょう…」

「メルラン、あの誘い方は駄目、誠意を持ってお願いしないと」

「でも、ああしないとさ」

「……じゃあさ、ライブを3回くらい経験してさ。

 それで、やりたいと感じたら参加してよ」

「え?」

「きっと楽しいよ? 何人もの人の前で歌うの。

 歌った声で何人もの人が楽しんでくれるのも」

「ん、リリカの言うとおり、大事なのは本気ですること。

 無理矢理いやいやでやっても、いい音は奏でられない。

 だから、少しだけ経験してみて、それでやりたいと感じたら

 私達と一緒に沢山ライブをしよう…それで良い?」

「え? あ、は、はぁ、分かりました」

「体験入団って奴? ま、それでも良いけどね」

「じゃあ、決まりだね、また今度」

「は、はい…また今度…」

 

そこまで言うと、皆さんは私の前から移動した。

……体験入団か…歌を歌うなんて考えもしなかった。

…お嬢様、許可してくれるかな?

でも、今はいいや、とりあえずこの階段を登らないと。


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