東方半獣録   作:幻想郷のオリオン座

51 / 245
舞い散る花びら

1つ、2つ、3つ…なんて数えても、階段の段数なんて分かるわけが無い。

正直、まだまだ上も見えないほどに何段にも続く階段なんてさ。

数えたところで、絶対に忘れる…とりあえず、10段までは数えてみたけど

やっぱり何となくで数えたわけだし、すぐに数えるのは止めた。

何というか、途中でやっぱり意味が無いって分かったし。

階段の段数を数えたところで、階段の数が減るわけでもない。

それに…こんな綺麗な景色の中で、階段の数を数えるなんて出来ないよ。

階段の左右には力強く、華麗に咲いている桜の木々が見えているんだから。

とても美しい景色…足下に散っている桜の花びらが

何処か儚げで、でも、やはり美しかった。

舞い散る桜の花びらたち、散り、命を落とした後も

地に落ちるまで舞い続け、地上に落ちる。

それでも、風が吹けば、再び刹那の命を取り戻し

また舞う…それは、自らの死体が朽ち果てるまで続く。

死んでは蘇り、再び華麗に舞い続けるの様は…本当に美しい。

 

「綺麗だなぁ…地上に落ちても、風が吹けばもう一度舞い踊るなんて」

「……随分と可愛らしい表現をするのね、お嬢さん

 死した後も、また再び操られ、強制的に踊らされる。

 そんな風には感じないのかしら?」

「感じませんね、だって、暗い表現ばかりしてても辛いだけですし

 マイナスに捉えても…やっぱり辛いのは自分なんですから。

 こう言う美しい光景くらい、明るく捉えたいです」

「そう、そんな風に見て貰えるなら、散った桜の花もさぞ幸せでしょう

 心が無いからこそ、その心のあり所は見た物の感性の中にってね

 死んだ後の空っぽを満たしてくれるのは、所詮他者なんだから」

「…ん? うわ!」

 

当たり前の様に会話をしたけど、違和感を感じ

私は後ろを振り返ろうとした。

だが、その瞬間に突風が吹き荒れ、私を囲うように桜の花びらが舞い上がる。

その桜の花びらに視界を遮られ、私が会話をした人物の姿は見えなかった。

 

「ふふ、好かれているわね、桜の花びらにまで好かれるなんてね

 …紫があなたを救いたがってる理由、よく分かったわ」

「待って! あなたは誰ですか!? 紫さんの知り合い!?

 と言うか! 紫さんが私を救いたがってる!? どう言う意味ですか!?」

「あらあら、少し喋りすぎたわね、お話しの続きはまた後でしましょう。

 …優しい優しい狼さん」

「待って! うわ!」

 

私が手を伸ばそうとすると、またすぐに突風が吹き荒れ

目の前の桜の花びらが飛び去り、視界が開いた。

…しかし、その先には誰の姿も無く。

ただただ美しい桜の花びらたちが舞い踊っているだけだった。

……あの人は一体誰だったんだろう…気配をまるで感じなかった。

気付いたら後ろに居た…会話はしたんだ。

でも、私の後ろにいきなり姿を現したような感じだった。

じゃ、じゃあ、あ、あ、あの人は、ゆ、幽霊!?

い、いや、お、お、落ち着け私! 幽霊じゃないって! うん!

私の気配を察知する能力は幽霊にも有効だと思うし。

幽霊だったとしても、私の背後にいきなり姿を見せることは…

いや、もしかしたら、桜の花に夢中になってたから

集中力が乱れて、気配が分からなかったのかもしれない。

う、うぅ…結局、あの人は誰だったんだろうか。

落ち着いた、綺麗な声…それに、紫さんとも知り合いみたいだったし。

……分からない、私には分からない…でも、確かあの人は

お話しの続きはまた後でって言ってた、多分、ここの関係者だ。

きっと、この階段を登っていけば、出会えるはず!

 

「よ、よーし!」

 

私は桜の花びらが舞い散るこの階段をゆっくりと上がり

ようやく建物が見える位の位置に移動することが出来た。

階段の上にあるのは大きな門だった。

まだ奥の建物は見えないわけだけど、きっとある筈。

だって、あれは門だ、木製の門。

その先に何かがあるのは間違いないはず。

 

「あと少しであの建物に」

「あなたはあの場所には行けません、だって、ここであなたは死ぬのだから」

「くぅ!」

 

不意に振り下ろされた剣、私は反射的に後方に飛び退き

その剣を回避した…その一撃には確かな殺気を感じた。

足下の階段に当った直後に大きな金属音も響き

階段に僅かながら切れ目がはいっていた。

石の階段にだ…そんなにも鋭利な剣があるの!?

 

「あ、あなたは誰ですか!?」

「侵入者に名乗る名があるとでも?」

 

私に斬りかかってきた人の姿が見えた。

髪の毛は短い銀色の髪で黒いリボンを付けてる。

眼の色は暗めの灰色で異様なくらいに白い肌、その肌色にはあまり生気を感じない。

服装は白いシャツに青緑色のベストを着ている。

下は短めの動きやすそうなスカート…後、ドロワーズが覗見えてる、スカートの意味あるの?

靴は白靴下に黒い靴を履いている。胸元には大きな黒い蝶ネクタイを付けていた。

そして、彼女の側面には白くて大きなゆ、幽霊みたいな生き物? 幽霊なら生き物じゃない?

い、いやいや、幽霊じゃない! きっとあれは饅頭だ! 空を飛ぶ饅頭なんだ!

そうだよね? そうなんだよね? ま、饅頭だよね!? きっと、あ、甘いんだよ!

ゆ、ゆゆ、幽霊を隣にふよふよさせて戦う人なんて居るわけ無いもん!

居るはず無いもん! だって、ゆ、幽霊だし! きっとあれは饅頭なんだ!

 

「あなたは侵入者、ここで排除させて貰う」

「わ、私はゆ、紫さんにこの先へ行けって言われたから来て…だからあの」

「紫様が!? そ、そんな話、私は聞いてないわ」

「あ、やっぱり紫さんと知り合いなんですね、さっきも

 紫さんと知り合いみたいな人と出会ったんですが、知り合いですか?」

「ふ、ふふ、私を騙そうとしたって、そうはいきませんよ! 侵入者め!」

「なぁ!」

 

危ない危ない! あ、当ったら真っ二つだよ!

 

「なる程、逃げ足は速いようですね、空も飛ばずに

 この私の攻撃を回避するとは、でも!」

 

彼女は私に斬りかかった直後に、すぐに階段の段を蹴り

私の方に向って斬りかかってきた。

 

「くぅ!」

 

辛うじてその攻撃は回避することは出来た。

でも、次の攻撃はどう避ける? どうすれば生き残れる?

私は左に避けて回避したんだ、次の攻撃を避けようとすると

階段の段差が邪魔で避けるのが難しい気がする。

 

「はぁ!」

 

考えてる暇は無い! 向こうは既にどうするかを考えての攻撃だ!

考えていたら、私とあの人との判断の差異は大きくなる!

考えるな、直感で動け! そう言うのは得意!

 

「うりゃぁ!」

 

私の結論が出る前に、既に体は動いていた。

私の体が出した答えは避けられないと言う物だったようだ。

だから、攻撃をして、剣を弾き飛ばすことを選んだ。

 

「しまった! 楼観剣が!」

「このまま!」

「この!」

 

あぐ…き、斬られた? 私は斬られた気がした。

気がしたんだけど…切れてな、あ、れ……?

 

 

 

 

 

 

「はぁ、これで」

「……」

「へ? あぐぁ!」

 

うぅ…馬鹿な、さっきまでとは一撃の重さも、動きも違うなんて…

おかしい、さっきと何が変わった? 私は何をした?

私は確か、あの侵入者を白楼剣で斬った、それは覚えている。

白楼剣は迷いを断ち切る剣、殺傷能力はあまりないとは言え

ダメージは多少なりとも与える事が出来たはず。

動きが鈍くなるならまだしも、むしろ速くなるなんて…

あの場面では、ああしないと私はやられていたけど…

この状況は多分…あの時よりも危険な状況だ!

 

「……」

「う」

 

嘘…一瞬で間合いを詰めた!? 結構な距離がある筈なのに

1歩だけで…そんな馬鹿な…あ、あり得ない!

こんな動き、達人でも、そうそう出来ない出来ない物じゃ!

不味い…死ぬ! こ、殺される! すみません…幽々子様…

 

「迷いを断ち切るのも考え物よね」

「え?」

 

私の目の前に、紫様の隙間空間が現われ、あの狼が呑み込まれた。

……紫様が来ていた? この白玉楼に? でも、さっきまで居なかったはずじゃ…

う、うぅ…意識が朦朧としてきた、あの時、受けた一撃が…

あ、安心したから……か…


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。