東方半獣録   作:幻想郷のオリオン座

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あの力の理由

……う、うぅ、い、痛い、目が覚めた今でも、まだ体が痛い。

でも、起きないと…幽々子様にお料理を…

そ、それに、ゆ、紫様も…いらっしゃるのだから…

お、お茶と…お茶菓子をお出し、しないと…

い、いや…それよりも…あ、あの侵入者を…でも

わ、私が…勝てるのだろうか…あんな恐ろしい実力を持つ相手に。

 

「う、うぅ…」

「お目覚めかしら?」

 

重いまぶたを開け、前を見てみると。

その場に居たのは幽々子様だった。

 

「幽々子…様? 何故…こ、ここはき、危険です…恐ろしい、し、侵入者が…」

「大丈夫よ、ここは白玉楼、ここはあなたの部屋よ」

「え?」

 

確かに冷静になって周りを見てみると、ここは確かに私の部屋だった。

でも…私は桜の木にもたれ掛かって、そのまま意識を失ったはず…

 

「も、もしかして…幽々子様が?」

「違うわ、紫よ」

「ゆ、紫様が?」

 

そうか…そういえば、私をあの狼から助けてくれたのも紫様だった。

紫様の隙間が私の前に現れ、あの狼を抑えてくれたんだから。

 

「じゃ、じゃあ、今、ゆ、紫様は…あの、化け物と!」

「その点も、大丈夫よ、あの子はもう抑えた」

「え!?」

「まさか、藍と紫でも抑えるのに苦労するとは思わなかったけどね」

「そ、そんなにもあいつは! じゃあ、今、あの妖怪は!?」

「白玉楼で寝てるわよ」

「え!? あ、あんな危険な妖怪を!」

「危険…ではあるけど、そこまで危険ではないわ」

 

ど、どういう意味だろうか、あの妖怪は恐ろしく強かった。

私が敵わないのは当然としても、紫様と藍さんが2人掛でも

苦労するほどの実力を持つ妖怪だなんて…ありえない。

 

「どういう意味ですか!? あの妖怪が、そこまで危険ではないって!」

「私が説明しましょうか?」

「紫様!」

 

私と幽々子様が会話をしていると、紫様がどこからか姿を見せた。

やはりこの方は神出鬼没だ、さっきまでいなかったのに、いきなり姿を見せるなんて。

 

「あら、フィルの方は大丈夫なの?」

「えぇ、藍に見てもらってるから大丈夫よ、元の状態にも戻せたし」

「ふぃ、フィル?」

「あぁ、あなたには言ってなかったわね、あの子の名前よ」

 

フィル…それがあの狼の名前…聞いたことがない名前だ。

当然ね、姿を見たこともないんだし、名前を知ってるわけもない。

 

「あの子はフィル、最近幻想郷に流れ着いた妖怪よ

 今は紅魔館でペットとして雇われてるのよ」

「紅魔館のペットが、どうしてこの白玉楼に!?」

「私が連れてきたのよ、あの子に幻想郷を知ってもらおうと思ってね」

「え!? じゃあ、あの子が言ってたのは!」

「本当よ」

「な、何故私にその事を教えてくださらなかったのですか!?」

「幽々子がね」

「だって、面白そうじゃない、妖夢とフィルの戦い。

 まぁ、私の予想通り妖夢は負けたけどね

 でも、まさかあんな事になるとは思わなかったわ」

「面白そうって…そんな! それじゃあ、私はお客人に手を出したという事に!」

「なるわね、そして返り討ちにあって死にかけた」

「そんなぁ!」

 

う、うぅ…な、なんという…あの子は本当にお客人だったのか。

この魂魄妖夢、一生の不覚…うぅ、なんで私のことをからかうんだろう…

 

「……で、ですが、それはわかりました、でも、分からないことがあります

 あ、あの子はなぜ…突如、あそこまで強くなったのですか!?

 恐ろしいほどに強くなった、成長とは違う…あれは、一体!」

「あなたが白楼剣であの子の迷いを断ち切ったからよ」

「え?」

 

た、確かに私はあの子を白楼剣で斬った、それは間違いない。

でも、迷いを断ち切っただけで、あそこまで強くなるものなのだろうか。

 

「あなたが断ち切った迷いはフィルのセーフティーよ

 あの子は戦う間、主に回避することに専念する性格よ。

 相手を攻撃したくない、でも、攻撃しないと負ける。

 そんな感じであの子はいつも戦ってる。

 あの子の優しさよ、攻撃はしたくないけど攻撃するしかない。

 だったら、攻撃するときに手加減をしないと、って感じでね

 で、あなたが斬ったのは、その迷いよ。

 相手を倒さないといけないけど、攻撃はしたくない。

 相手を傷つけたくないっていう悩みを切ってしまった。

 その結果、あの子に残ったのは相手を倒すことだけ。

 それだけなら、一切の手加減もなしに相手を攻撃できる。

 つまり、あなたを倒したのは本能のままに相手を殺そうとする

 理性を失ったフィル…一切の手加減をしない、本気のフィルよ」

 

わ、私と戦っていたあの間、あの子は手加減をしていたの?

じゃあ、私は手加減をしていたあの子に負けそうになっていた…

自分が未熟だというのはよくわかっているけど…まさか、手加減をしている

相手に対し、剣をはじかれ、危うく敗北しそうになっていたってことに…

 

「……本当に、私は未熟者ですね…手加減をしている相手に敗れそうになるとは…」

「あなたが自分を責める必要はないわ、幽々子から聞いたかもしれないけど。

 本気のあの子は、私と藍、2人掛でも苦労するほどの実力者よ

 手加減をしていたとしても、殆どの妖怪はあの子に攻撃すら与えられていない。

 それなのに、あなたは手加減状態のフィルに対して一撃を与えた。

 十分すぎる程にいい結果だったと思うわよ」

「……あれは不意打ちですよ、不意打ち…それに彼女は動揺していた。

 確か、視線が私の半霊に向いたとき、あの子は動揺していました。

 動揺していた相手に苦戦し、一撃も不意打ちの一太刀のみ…私はまだまだです」

 

あの子が恐ろしく強いことはわかっていた。

私の剣の軌道をすべて読んだかのような動きをしていた。

私の不意を突いたと思った攻撃も回避していたのだから。

……それが、手加減をした状態だったなんて…

 

「一撃は一撃よ、結果負けても、ま、次また戦えばいいわ」

「……」

「…ところで紫、一ついいかしら?」

「何?」

「あれが正真正銘、本気のフィルなの?」

「……そうよ、あれがフィルの本気よ」

「……そうなの?」

 

ん? どうしたんだろうか、お二方の表情が少し変わった。

幽々子様がなぜそんな風に疑問に思ったのかわからないけど。

もしかして、あの子はあの強さ以上に何かを隠してる?

い、いや、そんなはずはない、紫様と藍さんが苦戦するほどの実力だ。

それ以上の実力なんてあるわけがない。

 

「まぁ、いいわ、とりあえずフィルが起きるまでは待機ね」

「そうね、あの子が起きないと、ここに連れて来た意味がないもの」

「では、私はお料理の準備をします、起きた時に食事がとれるように

 もう時間も昼過ぎですからね」

「そうね、私もお腹すいたわー」

「じゃあ、ついでに私もいただきましょうか」

「はい! では、さっそく、いた!」

 

起き上がろうとしたとき、あの子に殴られた場所が痛んだ。

やっぱり、まだまだダメージは残っているみたいだ。

 

「きついなら寝ていてもいいのよ?」

「い、いえ、大丈夫です…お客様に粗相を働き

 皆様にもご迷惑をかけたのですから、自分の仕事くらいは果たします」

「無茶したら駄目よ? あの一撃をもろに受けたんだから」

「大丈夫です…では、お料理をしてきますね」

 

よーし、今日は腕によりを掛けて作らないと!

 

 

 

 

「……本当、真面目過ぎるわね」

「えぇ、そのうち、体が壊れないかしら…さて、紫? 本当のことを教えて頂戴」

「何のことかしら?」

「フィルの事よ」

「もう全部話したわ」

「あら、私に対して隠し事ができるとでも? 侮られたものね」

「……そうね、あなたにも協力して貰おうかしら

 教えてあげるわ、フィルの事を、でも、当然これを聞いたなら」

「もちろん協力するわ、私もあの子は助けたいもの」

「一度出会っただけでそこまで?」

「えぇ、あの子は面白いわ、異常なほどの優しさも含めてね」

「そう…いいわ、話してあげる、この話をするのはあなたで3人目よ」

「まだ3人しか知らないのね、1人は藍、1人は霊夢、で、私で3人目と」

「そうよ、まるで悟り妖怪ね、私の心を読んでるのかしら?」

「あなたが信頼を置き、全てを話す相手は大体決まってるもの」

「それもそうね、私が弱みを見せる事が出来る、数少ない相手ですもの」


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