東方半獣録   作:幻想郷のオリオン座

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お化けなんて…

う、うぅ…お、お化けなんてないさ…お、お化けなんて…

「いるわよ~」

 

「にゃぁああぁああぁ!!!!」

「…叫びすぎよ」

「ひゃへ!? ゆ、紫さん!?」

「いやぁ、やっぱり面白いわ~」

「え!? あ、あ、え!?」

 

誰? 誰この人…何で私に後ろから抱き付いてるの!?

というか、冷たい…すごく肌が冷たい…だ、大丈夫かな?

病気とかだったりしないの?

で、でも、かなり元気そうだし…違うのかな?

じゃあ、冷え性? すごく重度の冷え性だったりするのかな?

 

「あ、あの…えっと…」

「ふふ、初めまして、でいいのかしらねぇ? フィルちゃん」

「え? あ、わ、私の事を…」

「えぇ、私は覚えてるわよ~、あなたは知らないけど」

「え!?」

「あらあら、やっぱり覚えてない? じゃあ、初めましてね」

 

……この声、どこかで聞いた気がする…そ、そうだ!

 

「お、思い出しました! いきなり後ろから声をかけてきた!」

「え? あ、そ、そっち?」

「い、いぃ、い、い、悪戯だったんですね!?

 や、や、やめてくださいよ! 私、幽霊とか大の苦手で!」

「あらあら、悲しいわね~」

「え?」

 

…この何処かで聞いたようなしゃべり方…ちょっと前に、私はこの人と…

 

「も、もしかして、階段の下で私に話しかけてきた」

「へぇ、思い出してくれたのね、その通りよ、また会ったわね、お嬢さん」

 

そうだ! 間違いなくあの人だ! こ、この人が!

 

「ふふ」

 

ピンク色の髪の毛に水色の帽子をかぶっている。

帽子には三角頭巾みたいな物がついていて、その中心には渦の様なマークがある。

服は水色の綺麗なフリルの付いた服、その服には何か所に桜の模様がある。

 

「あ、あなたが…」

「さて、一応名前は教えてあげないとね、私の名前は西行寺幽々子

 見た目は普通の女の人に見えるでしょう? これでも人とは違うのよ」

「え?」

「まぁ、考え方をちょっと変えれば人なのだけどね…いえ、違うわね

 正確に言えば、人だったもの…かしら?」

「……ぇ?」

「なんとなく感づいてるでしょう? 私が抱きしめたときとかね~

 まぁ、妖怪も大体体温は低いけど、私は別格だったでしょう?」

「……」

「あらあら、青ざめたわね~、理解してくれたかしら?

 そう、私はあなたが嫌う幽霊、厳密にいえば亡霊よ」

「……あ、え? あ、い、いや、あ、あはは、

 か、からかわないで…く、下さいよ、ゆ、ゆ、幽々子さんには

 あ、足があ、ありますし、ゆ、幽霊なんて、じょ、冗談でしょ?」

「冗談じゃないわよ? ねぇ、紫?」

「えぇ、幽々子は亡霊、幽霊よ」

「え、え、え? え、え!?」

 

ゆ、ゆゆ、ゆうれ、幽霊!? い、いや、いや、そ、そんな、そんな訳…

あ、で、でも、ゆ、紫さんもそう…も、もしも、そ、そうなら…

も、もしかして、あ、あの白髪の…人の隣で飛んでたあの白いのも…

ゆ、ゆう、れい? あ、え? え!? えぇ!?

 

 

 

 

 

「ゆ、ゆう、幽霊、幽霊なんて…い、いるわけ…が…」

「いるのよね~、それが沢山、特にこの場所はね~」

「…ぇ?」

「ここは冥界、言っちゃえば幽霊の住処よ?」

「…………あ、え、あ、えと…め…い?」

「そうよ、冥界、いうなれば天国かしらね~」

「………私、いつの間に死んで…」

「ちょ! 何泣いてるのよ!」

「だ、だって、私、死んで…お、お嬢様にお礼も言ってないのに…うぅ…」

 

(や、やばいわよ紫、この子、すごく単純なんだけど!)

(いや、これは詳しいことを知らなかったら泣くわよ、流石に!)

(え!? 説明してなかったの?)

(ま、まぁ、詳しい説明はしてなかったわ)

(な、慰めた方がいいんじゃないかしら?)

(そ、そうね)

「えっと、フィル…ま、まぁ、詳しい事を説明しなかったのは悪かったと思ってるけど

 えーっと、あなたは死んでないわよ?」

「…え?」

「そ、そうそう、死んでないわよ!

 そもそも、あなたはそう簡単に死ぬような妖怪じゃないわ!」

「で、でも…天国って…」

「ま、まぁ、私の力があれば生者を冥界に連れてくることなんて造作ないのよ

 私の境界を操る能力なら天国と現世も簡単に行き来できるわ」

「そ、そうなんですか?」

「えぇ!」

「じゃ、じゃあ、私はまだ…死んで無い?」

「そ、そうよ、死んで無いわ、全然元気よ、あなたがそう簡単に死ぬわけないじゃない

 電車に激突されても生きてるくらいなんだから」

「…え? ま、まぁ、轢かれたような記憶はありますけど…

 あ! その時に死んだんじゃ!」

「いや、超元気だったわ、ケロッとしてたわよ」

「え? ま、まさかぁ、曖昧な記憶ですし、多分何かの間違いでしょう?」

「いえ、事実よ、まぎれもない事実」

 

実際はもっとえげつないことをしたけど、生きてたしね。

まぁ、大丈夫だって確信があったからやったことですけど。

 

「や、やっぱりそうですか? そうですよね、藍さんも怪我をしてましたし…

 うぅ、わ、私のせいで、あ、あんな事に…あ! そうだ、藍さんのお手伝いを!」

「藍なら大丈夫よ、妖夢と一緒に台所で料理作ってるわ」

「妖夢? えっと…」

「あぁ、そういえば、紹介してなかったわね、妖夢も名乗ってなかったし。

 白髪の剣士よ」

「…あ、あの人、よ、妖夢さんっていうんですか!?」

「そうよ、妖夢、この白玉楼の庭師、まだまだ半人前だけど」

「そうなのよね~、まだ大して生きてないのにあの子ったら

 すぐに一人前になろうとするんだから、ごめんなさいね

 いきなりあなたに斬りかかったのも焦ってたからね

 あの子の代わりに謝るわ」

「え!? いえ、わ、私の方こそ、怪我をさせちゃって…」

「あれはあの子の自業自得よ、気にしないでいいわ」

「…原因、あなたでしょ?」

「何の事かしらね~?」

 

はぁ、幽々子が妖夢にフィルの事を伝えていればそれでよかっただけの話なのに。

ちゃんと話していなかったから、妖夢はフィルを侵入者と勘違いして攻撃したのよね。

面白そうだし、なんていつも通りの理由なんでしょうけど。

 

(まぁ、なんにせよ、話を逸らせてよかったわ)

(そうね、上手くいってよかったわ、後は食事が来れば)

(完全に話を逸らすことが出来るわね、さて、楽しみ!)

(2人は怪我をしてるんだから、手加減してあげなさい)

「うぅ、で、でも、どっちにしても私が悪いんです!

 わ、私もお料理を手伝わないと! あの、台所は」

「あなたはお客様なんだから、ゆっくりとしてなさい」

「いえ! 私もまだまだとは言え! 紅魔館で料理の手習いは受けています!

 怪我をさせたお2人が料理を作っているのに、私が何もしない訳にはいきません!」

「…はぁ、分かったわよ、ほら」

「え?」

「この隙間をくぐれば台所よ、行ってきなさい」

「あ、はい!」

 

案内してもいいんだけど、道中で別の幽霊に出くわしても面倒だしね。

これ以上泣かれても困るし、ここはこうしておきましょうか。


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