東方半獣録   作:幻想郷のオリオン座

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改めての自己紹介

紫さんの隙間を通って、厨房が見えた。

そんな私を最初に出迎えてくれたのは白い饅頭。

 

「わぁあ!」

 

あ、あぅあぅ…い、いきなり目の前に出てくるなんてぇ…

 

「ん? あ、あなたは!」

「ほえ?」

「私達の背後から出て来たと言う事は紫様に連れてきて貰った感じだな」

「あ、は、はい…紫さんの隙間を通ってきました…」

「やはりそうか、何故普通に案内しなかったのだろうか…

 …あぁ、そうか、そうだろうな」

「ど、どういう事でしょうか?」

「そうだな、お前は幽霊が苦手だろう? 妖夢の半霊を見た時の反応で予想は出来る」

「あ、はい、お、お化けは大の苦手で」

「あ、奇遇ですね、私もお化けは苦手です」

「そ、そうなんですか!? でも…と、隣にお化けが」

「え!? どこですか!?」

「お前の半霊の事を言っているんだろう」

「え?」

 

妖夢さんは藍さんが半霊だと言っている幽霊を引き寄せ

少しだけ撫でた…よくこんな事、当たり前のように出来るなぁ。

というか触れるの!? 幽霊って触れるの!?

は! 考えてみれば幽霊って人に危害を加えるとき

大体触ってるような…人の方は触れないのに

何で幽霊の方は触れることが出来るのか疑問に思ったことはあるけど

そうか! 触れるんだ! だから物を動かしたりできるんだ!

……でも、手を触れずに物を動かすことは幻想郷だと

結構な人が出来そうだし…あれ? 意外と幽霊って大したことない?

 

「この子は私の半身ですよ、この子は私と同じような物。

 まぁ、若干違うんですけどね、この子はこの子で意思がありますし。

 そうですねぇ、言ってしまえば妹? 妹みたいな感じなんでしょうか。

 指示を出したらその通りに動いてくれますし」

「じ、自由に動かせるんですか!?」

「えぇ、あ、考えてみればこの子と一緒に食事を作った方が

 効率的なのでは!」

 

幽霊と一緒に料理なんて作れるんだろうか。

というか、手とかあるの? 触れるみたいだけど…

物をつかむような手とかはないし…うーん。

 

「ひとまず試してみましょう」符の壱「二重の苦輪」

 

妖夢さんがスペルカードを宣言すると

妖夢さんの周りに浮いていた幽霊が半透明の妖夢さんの姿になった!

え!? 何これ凄い! 双子!? 双子だったの!?

 

「よーし! これでより腕によりをかけて料理が出来ます!」

「今のギャグは3点ね」

「幽々子様!?」

 

私を連れてきてくれた隙間の中から幽々子さんが顔を出し

ニコニコと笑いながら妖夢さんのギャグに点数を付けた。

私が思うに、今のはギャグで言ったわけじゃないと思うんだけど…

 

「い、今のはギャグで言った訳では!」

「いやいや妖夢、口から出たといいうことはギャグよ」

「意味が分かりません」

「まぁ、いいわ、それよりもフィルに自己紹介をしなくていいわけ?

 一応、もうあなたの事は教えたけど、やっぱり自分で言った方が良いと

 私は思うわよ~」

「は! そ、そうですね、え、えっと、フィルさん!

 先ほどは失礼しました! あなたを侵入者と勘違いし

 刃を向けてしまい!」

「え? い、いえ、あれは」

「この魂魄 妖夢、一生の不覚!」

「え、えっと…」

「斬新な自己紹介ね、普通に名乗ればいいのに」

「紫様まで!?」

「まぁ、心配だからね、ほら、普通に名乗りなさい」

「は、はぁ、分かりました、えっと、私の名前は魂魄妖夢です

 この白玉楼の庭師を務めさせていただいております。

 まだまだ全てにおいて半人前ですが、どうぞよろしくお願いいたします」

 

妖夢さんが頭を下げると、隣にいた半透明の妖夢さんも

少しだけきょろきょろとした後にハッと反応し

妖夢さんと同じように頭を下げた。

 

「えっと、よ、よろしくお願いします! わ、私の名前はフィルです

 記憶を失い、紅魔館でペットとして働いています。

 今は紫さんに連れられ、幻想郷を巡っています!

 どうぞ、よろしくお願いします!」

 

私も同じように頭を下げてみるけど、どう動くか気になる。

どのタイミングで頭を上げたらいいんだろう。

妖夢さんの方をちらちらとみてみるけど、頭を上げる気配がない。

その代わり、後ろの半透明の妖夢さんは何度か頭を少し上げ

私と普通の妖夢さんが頭を上げてないのに気が付くと

焦ってまた頭を下げている…ど、どうしようかなぁ。

頭を上げた方が良いんだろうか、こっちが先にあげてもいいのかな?

でも、それはなんだか失礼な気がするし…

だけど、このままだとずっと頭を上げることが出来ない気がする。

 

「どんだけ長いことお互いに頭を下げてるのよ」

「妖夢~、なんだか焦げ臭いにおいがするわよ~?」

「え!? あ! 本当だ! すみません!」

 

幽々子さんの一言で素早く頭を上げ、鍋の方へ駆け寄った。

多分だけど…焦げた、長い間お辞儀をしていたから焦げちゃった感じだ。

 

「うぅ! また失敗を…」

「やれやれ、やはりドジだな、妖夢」

「うぅ、申し訳ありません…」

「藍、なんで火を止めてあげなかったわけ?」

「…いえ、その…えっと…」

「あなたも忘れっぽいわね、妖夢の事を言えないわ」

「も、申し訳ありません!」

 

ら、藍さんが謝っている…は、初めて見た気がする。

あまり一緒にはいなかったし、見る機会がないのはわかるけど

なんだか謝っている藍さんを見るのは新鮮だ。

 

「まぁ、そこまで気にしてはいないのだけどね~

 それよりも早く料理を作って頂戴、お腹すいたわ~」

「は、はい! ただいま!」

「あ、私も手伝います!」

「しかし…フィルさんはお客様で」

「お腹すいたわ~! 妖夢~、早く作って頂戴よ~!」

「う、うぅ…わ、分かりました、すみませんフィルさん

 時間がないようなので、協力をお願いします」

「はい!」

 

咲夜さんに料理は教わったし、地霊殿でも料理はした!

最初よりも料理は上手になっているはずだ! 頑張らないと!

早く作らないと幽々子さんが怒りそうだし!


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