東方半獣録   作:幻想郷のオリオン座

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幸運の兎

「うぅ…お嬢様…もう無理ですぅ…死にますぅ…うぅ…」

「はぁ、寝言を…それにしても本当何処に行けば良いのかしら」

「ねぇお姉様、早くご飯を作った方が良くない?」

「そうは言ってもね…考えてみれば私達、料理出来ないわよ」

「あ、そうだった」

 

う、うーん、あ、あれ? 私、生きてる?

 

「うぅ…」

「あ、フィル起きた?」

「あ、はい…えっと、これはどう言う状況でしょうか…」

「お姉様がフィルを背負ってくれてるんだよ?」

「全く、ご主人様の背中の上で寝息をたてるとは大したご身分ね」

「ご、ごめんなさい…あ、も、もう大丈夫です」

 

お嬢様の背中からおりて、自分も歩く事にした。

でも、あまり力が入らない…

 

「歩くペースが随分と遅いわね」

「あ、えっと…あはは、あまり力が出なくて…」

「もしかしたらお腹が空いてるから?」

「あ、そうかも知れませんね!」

 

そう言えば、お腹が凄い空いてるのを忘れてた。

お腹がグーグーと…

 

「お腹が空いたから力が出ないなんて、食いしん坊ね」

「ご、ごめんなさい…」

「一応、筍ならあるんだけど」

「本当ですか!?」

「涎が酷いわよ?」

「あ、す、すみません…お腹が空いてた物で…」

「でも、調理道具も無いし」

「うぅ…そうですよね、流石に洗わないで食べるのは…」

「…ん? ねぇお姉様、あそこに女の子がいるよ?」

「女の子? あ、あいつはいつぞやの兎ね、丁度良いわ」

 

お嬢様は走っている女の子に目を付け、接近する。

 

「久し振りね」

「げ! いつぞやの吸血鬼!」

「逃がすと思う?」

 

お嬢様は逃げ出そうとした女の子の前に素早く移動して彼女を捕まえた。

流石お嬢様…動きが素早い…あの子も結構早かったと思うけど、それ以上だなんて。

 

「くぅ…この鬼!」

「実際鬼だし」

「いやまぁ、そうだけど…それで、今回は何の用よ」

「実は私達迷っちゃってね」

「はぁ? 何で迷いの竹林にわざわざ来たのよ」

「家のペットが兎天国に行きたいとか行ってね、結果こんな感じなんだけど」

「ペット? ん? あの狼っぽい子? あんな子をペットなんて言うなんて

 あなたよっぽど鬼畜なのね、流石吸血鬼」

「いや、何処が鬼畜なのよ」

「あれでしょ? あの子に首輪を着けてお散歩させるんでしょ?」

「しないわよそんな事!」

 

そ、そんな事されたら…もう恥ずかしくて外を出歩けないなぁ…

 

「と、とにかくよ、私達は迷ってね、かれこれ8時間は迷ってるのよ」

「迷いすぎでしょ」

「私とフランはフィルの血を吸えば食事には差し支えないから良いのだけど

 フィルの場合はそうは行かなくてね、かなり食いしん坊だから」

「あなたはペットを非常食だと思ってる感じ?」

「ペットで非常食なのよ」

「酷いですよお嬢様!」

「事実だし…まぁ、非常食にしては極上なのは間違いないわ

 携帯食なんて大体不味いって相場が決まってるのに」

「け、携帯食…」

「容赦ないわね、流石吸血鬼、鬼畜ねぇ」

「うっさい、それでまぁ、あの子にご飯が欲しいからあそこに案内しなさい」

「いやいや、何で自分達の家に鬼畜な吸血鬼御一行を案内しないと」

「案内しなさい! あなたの血も吸うわよ?」

「お好きにどうぞ、どうせ大したことないんでしょ?」

「ほぅ、良い度胸ね、フラン」

「はーい! 死なないように頑張るよ!」

「え? 死ぬようなことなの?」

「試せば分かるわ」

「あ、ちょっと体調が悪くなったから今は」

「もう遅いよ!」

「あぁあああ!」

 

あの女の子の首元にフランお嬢様の牙が差し込まれた。

うへぇ、絶対痛い…いや、考えてみれば私も何度もやられてた。

 

「ま、待って! キツい! 予想の何十倍もキツい!」

「まだ全然飲んでないよ? おかしいなぁ、フィルの時はもっと深く、むぐ!」

「うさぁああああ!」

 

少ししてあの女の子が少しだけグッタリしてきた。

 

「フラン、そこまで!」

「ふぁーい、でも、まだ飲み足りないなぁ

 フィルの血を飲む時はもっと飲んだんだけど…」

「あ、あの子…見た目の割に…が、頑丈なのね…」

「フィルは2人同時に吸血を受けても問題無いわよ」

「死に掛けますけどね…」

「私もフィルからは兎さんから貰った血の2倍くらいは貰ってるよ」

「よ、良く死なないわね…わ、分かった、分かったわよぅ…

 あ、案内するから…もう血は吸わないで…」

「最初からそう言えば良いのよ」

 

かなり強引だったけど、あの女の子は人がいると事に案内してくれるみたいだ。

 

「はぁ、死ぬかと思った…そうそう、そこの…狼ちゃん」

「あ、はい、何でしょう?」

「名前は…フィルであってるわよね」

「あ、はい」

「私の名前は因幡てゐ…一応、こんな姿だけど兎よ」

 

何となく分かっていた、癖っ毛の短めな黒髪と、ふわふわしてそうな大きな兎の耳

そして、見るからにもふもふしてる小さな可愛らしい兎の尻尾があった。

服は桃色で、裾に赤い縫い目のある半袖ワンピースを着ている。

首には人参の首飾りを付けている…やっぱり兎って人参が好きなんだなぁ。

で、靴は…履いてない、裸足? 足は痛くないのかな?

 

「そうマジマジと見られるとちょっと照れるうさ」

「あ、ごめんなさい、可愛かったので」

「お? 告白うさ? これは私も色々と見せないと」

「ちょっと! スカートに手を伸ばして何するんですか!?」

「こううさ!」

 

な、何でスカートをたくし上げたの? あ、ドワーフだ。

 

「うさうさ! 何も履いてないと思った?

 裸足だしそう感じる人もいるかなーと自分でも思ってたうさ~

 でも、実際は履いてるうさ~、反応が面白いうさね」

「…いや、そんな事してると本当に大変な事になるんじゃ…」

「大丈夫、女相手にしかしないわよ、流石に」

「男の人に対してやってたら、完全に痴女です」

「痴女なんて失礼な、でも、フィルも相当妙よね~

 私を見て可愛いなんてしれっと言っちゃうなんて」

「実際可愛いですし」

 

あのもふもふの耳、触りたいなぁ…あのふわふわしてる小さい尻尾も触りたい~!

どんな手触りなのかな? きっと気持ちいいんだろうなぁ…

 

「うぅ…何か本当に照れるうさ」

「兎、フィルに可愛いとか言われて頬を赤らめるって…大丈夫なの?」

「赤らめてないわ!」

「フィルは真っ赤にしてるけど」

「あ…」

 

もふもふ…ふわふわ…うぅ! 可愛い! 触りたいなぁ!

 

「う、うぅ…」

「ふふ、タジタジね、詐欺師様も色恋沙汰には勝てないの?」

「色恋沙汰なんてしてないわよ!」

「あ、あの…」

「な! 何よ!」

「…えっと…その…撫でてみても良いですか?」

「な、何言ってるの!?」

「撫でさせてください!」

「う、うぅ…わ、分かったうさ、少しだけなら」

 

てゐさんは私に頭を向けてくれた。

あぁ…良いって事だよね? どんな感じなんだろう…

恐る恐る手を伸ばして、てゐさんの耳を撫でた。

 

「はぇ!?」

「あぁ! もふもふ! もふもふです! もふもふぅ!」

「み、耳!? 耳の方!?」

「かなり幸せそうな表情をしてるわね、フィル」

「うん、今までに見たこと無い程の満面の笑顔だね」

「こ、このぉおお!」

「あ!」

「あ、頭を撫でるって感じじゃ無いの!?」

「え? いや、それは流石に恐れ多いと言いますか…」

「…ふん!」

 

あ、あれ? 怒らせちゃった?

 

「フィル、あなた女の子で良かったわね」

「え?」

「男の子だったらきっとあなた朴念仁って奴だったわ」

「え? え? どう言う意味ですか?」

「まぁ良いわよ、ほら、さっさと着いていくわよ、見失うわ」

「あ、はい」

 

…何か悪い事したかなぁ? 耳を触ったのが不味かったのかな?

うぅ…謝れるなら謝りたいけど…何が悪かったのか分からないと謝れないよ。

はぅ…どうしよう…とにかく考えないと。


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