東方半獣録   作:幻想郷のオリオン座

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月への憧れ

「久しいわね、ここに来るのも」

「そう何度も来られたら面倒よ」

「しかし、ここに来るとあの衝動が蘇ってくるわ。

 もう一度、月に殴り込みに行こうかしら。

 今度はフィルも連れて」

「完膚無きまでに敗れたのに懲りてないのね」

「あれは手加減してたからよ…まぁ、最初から勝てるとか思って無かったけど」

 

レミリアお嬢様が珍しく弱気な発言をした。

普段はこれでもかと言うくらいに強気な人なのに。

そんなに凄いところなんだ…月って。

 

「でもまぁ、実際もう一度行くとなると、パチェに頼まないと行けないし

 霊夢も引っ張ってこないと行けない、後者が鬼門ね

 あの霊夢がもう一度月に行く、なんて言うかしら

 絶対に挑発しても乗ってこないでしょうね。

 負けたのが悔しくないのかと言っても、別に、としか帰ってきそうに無いわ」

 

霊夢さんはあまり積極的な様には見えなかったからなぁ。

 

「その内、もう一度行くことになるんじゃ無いの?

 あの八雲紫が大人しく引き下がるとも思えないし」

「あ、そう言えば紫さん」

「あの妖怪は神出鬼没だし、出て来なくてもしょうが無いわよ

 そもそも、今までフィルに対して妙に干渉してたのがおかしいんだから」

「…八雲紫が?」

「えぇ、そうよ、この子に弾幕の出し方を教えたのも

 スペルカードルールを事細かく教えたのも彼女よ」

「お陰で私はフィルと戦えて嬉しかったよ」

「あなた達の圧勝だったでしょうね、この妖怪が弾幕を撃てたところで」

「いやぁ、それが負けちゃったんだよね、本当に強いよ」

「…ま、負けた?」

 

銀髪の女の人が驚いた表情を見せた。

ま、まぁ、私はいつも見た目弱そうって言われてるし…

 

「あれはたまたまですよ」

「嘘だぁ、擦っても無かったじゃん」

「私は避けるのだけは得意でして」

「……」

 

銀髪の女の人が何かを考える様な素振りを見せた。

そして、私の体をマジマジと見た後、ポケットを見て顔の動きが止まる。

 

「…あなた、何を持ってるの? そのポケット」

「え? あ、はい、これです」

 

私はポケットの中に入れていた気味の悪いボールを取り出す。

確かオカルトボールだったかな。

あはは、そう言えばこのボールの正体を探してるんだった。

兎の事で完全に忘れてたよ。

 

「オカルトボール、うどんげ、確かあなたも」

「あ、はい、えっと」

 

そう言って、うどんげと言われた大きな兎さんは

自分のポケットから私の持っているボールと同じ物を出した。

 

「あ、うどんげさんも持ってたんですね!」

「うどんげって何よ馴れ馴れしい!」

「え? お名前じゃ無いんですか?」

「…そ、そう言えば、あなたに名前を言ってなかったわね

 ごめんごめん、忘れてたわ。

 えっと、私の名前は鈴仙・優曇華院・イナバ、元は玉兎

 あなたに分かりやすく言えば月の兎、今は地上の兎だけどね」

「その流れだと、私も自己紹介をしないと駄目ね。

 私は八意永琳 月の民よ…正確にはだった者、かしらね」

「つ、月の兎!? 月の兎さんは人間の体になるんですか!?」

「地上の兎もなるよ、私、因幡てゐは地上の兎なんだから」

「え!?」

 

う、兎さんって人間の姿になるんだ、し、知らなかったよ。

 

「それで? あなたは何者なのかしら?」

「あ、はい、私の名前はフィルと言います。

 自分の素性は知りません…私、自分の記憶が無くて」

「記憶が無いの?」

「はい…ただ今は紅魔館でペットをさせて貰ってます」

「ペットって…まぁ、ここも似たような物だけどね

 兎のペットが2羽も居るし」

「ペットじゃありません!」

 

やっぱり力がある人って、人型のペットって居るんだなぁ。

さとりさんもお空さんとお燐さんをペットって言ってたし。

じゃあ、紫さんと藍さん、橙さんも同じ感じなのかな?

 

「さて、それじゃあ、本題に戻りましょうか。

 そのオカルトボール、何故あなたが3つも持っているの?」

「えっと…決闘で勝ったら勝った人にボールが勝手に移動するらしいです。

 私は霊夢さんと決闘で勝った魔理沙さんに決闘で勝って貰った分2つと

 自分が最初から持ってたボールを合せて3つです」

「…どうも怪しい気配がするのだけど」

「そう言えば、霊夢もそんな感じの事を言ってた気がするわね

 やっぱり見た目通り、怪しいボールなの?」

「流石にそこまでは分からないわね…でも、そうね…

 どうも神聖だけど、何処か禍々しい気配。

 今の私の見解だと特別な力を持った石って所ね

 それも、特別な場所で入手した石。

 例えば幻想郷とか、そこら辺の」

「幻想郷で手に入った石なんだから当然でしょ?」

「…違うわ、恐らくこれは…幻想郷の物じゃ無い」

「え!?」

 

げ、幻想郷の物じゃ無い? 幻想郷以外の場所から入手した石って事!?

でも、仮にそうだとして、どうやってこの場に?

 

「噂では7つ集めれば願いが叶うそうよ」

「願いがねぇ、確かに特別な力を持っているのは間違いないでしょうけど

 流石に願いを叶えるほどの力は無いと思うけど…

 まぁ、試しに集めるのも一興でしょう。

 と言う訳でうどんげ」

「はい、何でしょう」

「その子から石を奪いなさい」

「え!?」

「…え?」

「決闘で勝てば石が移動するのでしょ? なら、ここで戦いなさい」

「ですが…永遠亭で戦うとなると」

「安心しなさい、私がこの空間を隔離してあげるから

 私が動いても良いかも知れないけど、八雲に目を付けられると面倒だし

 それに…そこの子犬の実力がどれ程か若干興味も湧いたわ」

「い、いや、いきなり戦いって…それはちょっと」

「安心して、無理矢理奪いに行くだけだから」

「向こうがその気なら全力で潰しなさい。

 最初に命令したわよね? 負けは許さないわよ」

「うぅ、わ、分かりました…」

「しかし、師匠も人が悪いですね。

 こんな妖怪が私の相手になるとは思えません」

「あなたは波長と容姿だけで相手を見る癖があるわね

 意外と見た目に反する実力者というのもいるわ。

 少なくともこの子はそこの吸血鬼を撃破して

 霧雨魔理沙も撃破したと言っている。油断するのはよくないわよ」

「分かりました」

 

鈴仙さんは少しだけ悪い笑みを見せた。

う、うーん…戦わないと駄目なのかな?

でも、お嬢様の命令だし…やるしか無いよね。

 

「わ、分かりました…お互い、ご主人様の命令ですし引けませんよね

 相手をします」

「因みにフィルは空を飛べないから」

「空を飛べないのに、霧雨魔理沙に勝ったと?」

「そうよ、そして、フランにも勝利した。

 油断はしない事ね、油断してたら一瞬で首、取れちゃうわよ」

「ふん、何であれ、私の相手じゃ無いわ!

 空を飛べないというなら、余計にね!

 さぁ、月の兎である私の目を見て狂わずに居られるかしら?」

「狂うって言うのがどういうことか分かりませんけど

 それはお互いに不味いことです…脅しじゃありません

 私が本当に狂えば…多分あなたは死ぬから」

「ふん、口だけは達者ね! 試してみる!?」

 

…我を忘れないように頑張らないと。

あの時みたいな事になったら…大変だから。


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