東方半獣録   作:幻想郷のオリオン座

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不死者

このボールを7つ集めると願いが叶う。

そんな噂に惹かれたのかも知れないけど

なんであのお医者さんは戦わせようとしているのかな?

あの人はこのボールにはあまり興味は無さそうだった。

一興、暇つぶしで集める…なんて言うとも思えない。

願いが叶うと思っていないなら、そもそも集める理由はないんじゃないかな?

 

「……でも、やっぱり分からない、違和感がある気がする

 あのお医者さん」

「永琳よ」

「えっと、永琳さん、あなたの狙いはなんですか?

 この石にあなたが興味を持っているとは思えない。

 それなのに戦わせる理由はなんですか?

 ただの一興と言ってたけど、信じてないなら時間の無駄じゃ」

「…ふふ、生憎だけど私達には時間はいくらでもあるのよ。

 何をしても、私達からして見れば時間の無駄なのよ。

 永遠に続く時間、その時間を埋めてくれるのはただの無駄よ。

 無駄で無駄で無意味な毎日をひたすらに過ごして

 何処かに潤いを求める。尽きぬ命はいつしか枯れる。

 枯れても命が尽きることはなく、ただ死を求める。

 そうならないためにもどんな一瞬でも、ただ潤いを求める。

 永遠に続く暇を潰してる間は私達は生きているの」

「意味が分かりません…でも、1つだけ分かった。

 その話で1つだけ…あなたは不老不死…って奴ですか?」

「ご名答、良い勘してるわね狼ちゃん。

 あの吸血鬼の部下なのが不思議なくらいに頭が良いわね」

「どう言う意味よ!」

「少なくとも話を聞いていればそれ位分かりますよ」

 

不老不死…死ぬ事が無い力。

何だか本とかで読んだような気がする。

その本に何処までも興味を惹かれたのも何故か覚えている。

だけど、どの本も最後は心が壊れていく。

大事な物を全部無くしていって、いつしか精神は壊れていく。

長い命は短い命よりも虚しいと。

だけど、その本を見て、何度か思ったことがある。

ならもし、他に不老不死の存在が居たらどうなってたのか。

もしも同じ不老不死の人間が居たなら、永遠に幸せなんじゃないか。

それとも、長く一緒に居すぎてお互いに飽きてしまうのか。

そもそも世界が滅んだらどうなるのか、とか、子供心に考えてた。

でもなんで自分が不老不死に興味を惹かれたのかは分からない。

 

「…私に不死者の気持ちは分かりませんけど…気になることはあります」

「何かしら?」

「同じ不老不死が居たら、心は壊れないんじゃないかって。

 本でよく呼んだ記憶があります、記憶が無いはずなのに

 そう言うところばかり覚えてる…奇妙な物です」

「本ね、大体そう言うのは権力者への風刺が多いからね。

 確かに同じ不死者がいれば幸せよ、それは間違いないわ。

 お互いに殺し合う仲も居るわ、当然それは無駄な事。

 だけど、さっきも言ったけど、不死の人間には無駄こそが全てなのよ。

 命ある者は幸せな環境を作りたいと感じるだろうけど

 不死者は例え幸せな環境を作ろうと、すぐに壊れるの。

 だから、最終的には考え方1つで全てが変わるようになってくる。

 だけど、あえてこれは言わせて貰うわ…私は生きていることが素晴らしいと感じてる。

 例え一瞬の幸せでも、その幸せを噛みしめる事が出来る限り

 私は生きることに絶望はしないわ」

「……師匠」

「ふふ、長い話しになってしまったわね」

「…つまり、この戦いもボールを調べて、暇を潰すための暇つぶしですか?」

「暇つぶしという点は否定しないわ、でも、ハッキリと言うとね

 私が興味を惹かれたのはその石じゃないわ、あなた自身よ、狼ちゃん」

「え? なんで私なんかに? 私なんかそこら辺に居るような力の無い」

「力の無い妖怪かどうか、それを試すためにうどんげと戦わせるのよ」

「師匠も変な相手に興味を持ちますね、こんな妖怪なんかに」

「戦えば分かる事よ、さぁ、前座はお仕舞い、始めて」

「はい! そこの狼! 玉兎の力を見せてやるわ!」

 

鈴仙さんの目が赤く光る、本当に真っ赤っかだ。

凄く真っ赤、あんな目で人が見えるのか分からないくらいに真っ赤。

だけど、あれでも見えるんだろうな、黒い部分が見えないけど。

 

「私も命令ですから…負けることは出来ません」

「……う゛!」

「でも、何だかその目は美味しそうですね、満月みたいです。

 たまにですけど私、満月の月を見て、団子見たいって思ったり。

 はは、食いしん坊さんですよね、でも美味しそうな物は」

「く!」

「ほぇ?」

 

鈴仙さんが後ろに下がった…うーん、変な事言ったかな?

やっぱり満月が団子みたいだって思うのはおかしいのかな?

デザートみたいに丸く黄色いお月様、美味しそうと思うのは自然なんじゃ?

 

「……あなたは本当に何者よ!」

「え?」

「なんで私の力が効かない!? 何よその波長!

 まるで予想できないランダム性…読むことが出来ない…

 私の能力で干渉することさえ出来ない。

 いや、正確には出来た、少しだけだけど出来た。

 だけど、その瞬間に私の背筋は凍えた。

 …まるで、捕食される瞬間のような、そんな錯覚さえ覚えた。

 あなた…なんなのよ…地上の妖怪にこんな」

 

鈴仙さんの声が震えているのが分かった。

表情も怯えている、顔は真っ青だ。

私は何かした覚えはないんだけど…

 

「あなたに干渉するのは駄目だと本能が訴えてくる。

 こんな感覚は…初めてよ…なんで師匠にさえ感じた事が無い感覚…

 そんな感覚を、私があなたみたいな地上の妖怪如きに…

 答えて! あなたは何者で! 何の為にここへ来たのか!」

「え、えっと、私が何者かは分かりません、今の私が知っているのは

 私はレミリアお嬢様のペットであるという事だけ。

 何の為にここへ来たのかというと…兎をもふもふしたくて」

「そうじゃ無いわ! なんで幻想郷に来たのかを聞いてるのよ!」

「…分かりませんよ、そんな事、ただ気付いたらここにいた、それだけです

 私は自分の記憶を知らない、記憶を知る為に色々と動いてるんです」

「そんな何も理由がないって事…いや、でも…」

「うどんげがここまで怯える相手…あ」

 

永琳さんが色々と考えていると、鈴仙さんのボールが私の手に移動した。

 

「あ、あれ? け、決闘してないのに…」

「そんな…なんで…」

「理由は間違いなくうどんげが負けを認めたからでしょうね

 戦っても勝ち目がないと、心の底から思ったから。

 だから、うどんげは負けとなり、石が動いたって所かしら」

「そんな事…私は!」

「完全に無意識な範囲で敗北を認めたのよ

 分かりやすく言えば、本能が敗北を認めた、いや、受入れたのよ」

「……」

「しかし、なる程ねただ者じゃ無いと言う事は分かってたけど

 どうやら、私の想定を遙かに超えてるようね…何者?」

「いえ、分かりません…私は記憶喪失で、つまらない事は覚えてるんですけど

 自分の事や家族の事は…まるで記憶にありません」

「そう…ただあなたには悪意は感じないわ。

 内にどれ程の力を秘めていても、悪意がないなら問題無い。

 永遠亭でお世話してあげるわ、永遠亭に来ることも構わない。

 何かあったら、ここへ来ても良いわよ。

 正し、何かあったら協力して頂戴ね」

「あ、はい」

「えー? 決闘無し? 兎さんの力知りたかったのに」

「と言うか、フィルの実力を知りたいならあなたが戦えば良いでしょうに。

 月人、あんたの実力は相当な物でしょう? 幻想郷でも指折りの実力者。

 流石のフィルもあんたが相手じゃ勝ち目はないと思うけど」

「流石に私自身がしんどい思いをしてまで知りたいとは思わないわ」

「しんどい思いをするまでも無いんじゃ無いの?」

「いいえ、しんどい思いをしないと勝てないわ。

 うどんげが怯えるほどの実力者よ? 私もそれなりの力を出さないと勝てないわ。

 うどんげに何も無しに死を覚悟させるほどの圧倒的な実力。

 今は隠れているだけでも、何かの拍子でそれが出て来たら…

 だけど、やはり妙なのよね、それ程の実力を私はこの子から感じない。

 つまり完全に隠れている…それ程の実力をどうすれば隠せるのかしら」

「私は強くなんて」

「…マフラー? そのマフラーかしら」

「え?」

「あなたの姿を見て、最初に違和感を覚えるのはそこだからね」

「…マフラー、このマフラーに何か? 

 でも、これは両親からの贈り物らしいです。覚えては居ませんけど

 紫さんから教えて貰いました、大事な物だって」

「……そう……と言う事は当たりかしら」

「え?」

「何でも無いわ、ただ下手な事はしないから」

「は、はい」

「それじゃあ、改めて、ようこそ永遠亭へ歓迎してあげるわ」

 

私達は永琳さんに案内されて、永遠亭の奥へ入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

……彼女の記憶を知っているであろう八雲紫、他の記憶を隠しているはずなのに

マフラーの事だけは彼女に伝えた…それはあのマフラーが大事だからでしょうね。

もしもマフラーが外れたらどうなるのか…ちょっと興味はあるけど

うどんげの怯え方、八雲紫が彼女を庇護している所から考えて

それをするのは間違いなく禁忌ね…

全く読めない彼女の底…私まで少しだけ恐怖しちゃうわ。

でも、少なくとも今の彼女に悪意はない…それは間違いないわね。


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