東方半獣録   作:幻想郷のオリオン座

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永遠亭の奥へ

凄いなぁ、完全に和風って感じだよ。

沢山襖があるし、でも、薬の匂いもする。

薬師さんなのかな、うん、看護師さんみたいな格好だし。

薬とかに関係するお仕事をしているのかも知れない。

 

「そう言えばフィル」

「はい、何でしょう」

「さっき、兎とやり合ったときに満月を美味しそうとか言ってたわね」

「え? あはは、そうですね…何か団子みたいじゃないですか。

 黄粉が沢山掛かったお団子」

「団子は3つよ、3つ、1つしか無いわよ、満月」

「そうですね…じゃあ、黄粉餅とかでしょうか」

「あなた、やっぱり結構な食いしん坊ね」

「それは自分でも思います」

 

美味しい物は沢山食べたいし…やっぱり私って食いしん坊。

でも、あまり沢山食べて迷惑は掛けられないし、我慢しないと。

 

「まぁ、あなたが食いしん坊なのは分かりきってた事だけどね」

「あはは…」

「所でさ、ご飯まだ?」

「あの、フランお嬢様、私の首筋を見ないで欲しいのですが」

「ご飯まだ-?」

「いや、勘弁してください本当」

「もしかしてあなた達2人はこの子の血を吸ってるの?」

「そうよ、極上なんだから、最高級品よ」

「全然嬉しくないです」

「何よ、私がそう言うって相当よ?」

「大変な目に遭うだけですし!」

「あなたも苦労してるのね。

 正直、あなたが本気を出せばその吸血鬼2人を屠る事も容易なんじゃ無いの?」

「滅相も無い! そんな事出来る訳ありませんよ!

 そもそも! 恩を仇で返すような真似はしませんって!」

「忠実うさね、犬みたい」

「狼も犬も似たような物だと思いますし」

「それは違うと思うけど、まぁ、本人がそれで良いなら良いかしらね」

 

あはは、私がお嬢様とフランお嬢様を倒すなんて

絶対に無理だろうなぁ。

 

「とにかく、私はおふたりに危害は加えません。

 加えるとか絶対にあり得ません!」

「そう、忠実なペットを得て良かったわね、吸血鬼さん。

 ここまで忠実で力のある番犬を手に入れたのはかなり幸運よ」

「番犬って…」

「後、思ったんだけど、あなたって犬よね? 鼻が利いたりするのかしら?」

「あ、はい、犬じゃ無くて狼ですけど、鼻は利きますよ。

 例えば永琳さんがお薬に関係する仕事をしてるのも分かりますし。

 後、この屋敷にいるもう一つの気配も分かります」

「…あの子の気配が分かるなんて…直感もかなり凄いみたいね」

「私、臆病ですから」

 

臆病だから、そう言う気配に敏感になってるんだよね。

 

「そうなの? まぁ良いわ、ひとまず姫にも会わせてあげましょう」

「師匠! 良いんですか!? 姫様に会わせて!」

「敵意は無いだろうから大丈夫よ、付いてきて」

「姫様? お姫様が居るんですか?」

「えぇ、私達が仕えているお姫様よ」

「お姫様ですか、初めて会います!」

「そりゃそうでしょうね、お姫様と交流があるわけが無いでしょうし」

「ふーん、私達が来た時にはかなり厳重に保護してたのに

 フィルには随分と簡単に合せるのね」

「あの時、あなた達は敵意むき出しだったからね。

 本来なら会うことさえ出来ない筈だったのに、全く」

「扉の封印を間に合わせることが出来なかったあなた達が悪いのよ」

「まぁ、結果として今があるから私は別に気にはしてないのだけどね

 とにかくこっちよ」

「はい!」

 

私達は永琳さんに案内されて、そのお姫様が居るという場所へ移動した。

その部屋は他の部屋よりも大きく、豪華な物だった。

 

「ここよ、姫様、入りますよ」

「お客様かしら? いつぞやの吸血鬼さんと見慣れない2人ね」

 

お嬢様の背後に何か人の気配を感じた。

あの一瞬の間に1つ気配が消え、お嬢様の背後に移動したって事!?

 

「お嬢様!」

 

私は反射的に動き、その気配へ向って攻撃を仕掛けていた。

 

「待ちなさいって! 反射的に攻撃は無しよ!」

 

しかし、一瞬の間に永琳さんが目の前に立っていた。

私はすぐに攻撃の手を止めた。

 

「…あ、す、すみません、いきなり気配がお嬢様の背後に出て来たのでつい」

「ぞ、ゾッとしたわ、まさかいきなり攻撃を食らいそうになるとは」

「いきなり背後に出て来た姫様にも問題があると思いますけどね。

 しかし、かなりの反応速度ね」

「そう言うあなたもすぐにフィルとかぐやの前に割って入ったわね

 まぁ、それは良いとしてよ、なんで私の背後に立ったの?」

「驚かそうと思ったのよ」

「くだらないドッキリね」

「へぇ、凄いね、私も全く気付かなかったよ、いつの間に」

「しかし、ご主人様への忠誠は絶対って感じね。

 あそこまですぐに攻撃に移るとは」

「すみません、つい反射的に」

「いいえ、あれは姫様が悪いからあなたが気にすることは無いわ」

 

永琳さんが私とその姫様と呼ばれていた人との間から動いた。

そしてようやく、そのお姫様の姿を確認することが出来た。

 

「いやぁ、驚かせて悪かったわ、私の名前は蓬莱山輝夜

 永遠亭へようこそ、歓迎するわ、丁度暇だったしね」

 

ストレートで、腰より長い綺麗な黒髪。何だか見惚れてしまう位に綺麗だ。

服は上がピンクで、大きな白いリボンが胸元ある。

服の前には複数の小さな白いリボンであって、袖は手を隠す位に長い。

左袖には月とそれを隠す雲が、右袖には月と山が黄色で描かれている、変わった模様だ。

ピンクの服の下にはもう一枚白い服を着ている見たい。

下は赤い生地に月、桜、竹、紅葉、梅が金色で描かれているスカートで

その下に白いスカート、更にその下に半透明のスカートを重ねて履いているようである。

スカートを3つも履いてるなんて、何だか凄いなぁ。

それに、スカートは凄く長くて、地面に着いてるだけでも凄いのに、更に横に広がってる。

ここまで長いと動くときに不便だけど、お姫様はこんな感じってイメージがある。

だけど、なんと言うか着物っぽくは無い、和風仕立ての洋装? まるでドレス見たい。

でも、日本のお姫様と外国のお姫様が合わさったみたいな服装っぽい!

和洋折衷って奴かな、凄く可愛い。私もこんなドレスか着物を着てみたいなぁ。

あはは、でも、私には似合いそうにないや。

それに、いざって時に動きにくそうだし、私にはこの服は無理だろうなぁ。

もしもの時、お嬢様達を護れないもんね。

…と言うか、あの人ってさっき自分の事を輝夜って言ったよね?

輝夜って言うとかぐや姫! あの有名なかぐや姫!?

 

「えっと、あの…あなたってもしかして、かぐや姫ですか?」

「そうよ、竹からは生まれてないけどね」

「ほ、本物!」

「本物よ」

「あぁ! 通りで凄く綺麗だと!」

「ふふ、ありがとう」

「でも、かぐや姫は最後…月に帰ったと昔話には」

「そうね、月の使者も来たわよ」

「じゃあ、何でここに?」

「ここに残る事を望んだからよ、そもそも、自分達で落としておきながら

 何であの時、わざわざ迎えに来たのかしら。

 しかも半ば強制よ? 本当、月の連中って自分勝手よね。

 まぁ、私も地上に行きたいからって永琳に蓬莱の薬を作らせたわけだし

 私自身も自分勝手ではあるのだけどね」

「…え? じゃあ、何でここに」

「……私が他の月の使者を殺して、姫様を匿ったからよ」

「え!?」

「過去の話だけどね、今はその行動が正しかったと考えてるわ。

 少なくとも私の中ではね」

 

月の使者を殺したって…そんな事を。

でも、それに対して私が何かを言う権利はきっと無い。

そんな事を言っても、過去が変わるわけでも無いし

その一言で誰かを苦しめる事になるはずだから。

その人の選択に私が何かを言う事は無いだろう。

だって、私がそんな事を言っても昔は変わらないし変えられないから。

 

「…そうですか、でも、今が幸せなら」

「えぇ、今が幸せなら、私はそれで良いわよ」

「私は感謝してるわよ、永琳のお陰であの退屈な月に戻らないですんだからね

 だから、もう一度言うわ、ありがとうね、永琳」

「いえ、私の方こそありがとうございます」

 

私は何も言わない、人の過去に何かを言うことはしない。

私にそんな権利は無いし、そんな事を言うのは相手を思ってないことと同じ。

だって、私はその人じゃ無いから、その時、どんな願いを抱いていたかも

そんな選択をしたとき、どんな思いだったのかも分からないんだから。


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