東方半獣録   作:幻想郷のオリオン座

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外の世界

…不自然な明かりが煌々と辺りを照らす。

本来、動くとも思えない鉄の塊は大地を傷付ける。

その大地も本来はあるべきでは無い壁に阻害され、日に当てれない。

周りからは不自然に乾いた笑い声が響き渡る。

明るく、そして暗い世界…不自然を受入れない。

自然を蹂躙し、不自然さえも受入れない世界。

受入れるはただ自分の都合のみ。

受入れた振りをして何も受入れてない世界…

容認できない物は排除し、危害を加える物も排除する。

勝てなければ都合良く利用し、結局己が利しか見ては居ない。

それは自然だ、当たり前だ。

結局大事なのは自分で大事なのは自分達が頂である世界のみ。

同情もどうせ優位性を知りたいが為の行動でしか無い。

 

「……いやな臭い」

 

臭い、臭い…気配は無数にあるのに、良い匂いは何処にも無い。

 

「ここは…ここは」

「っと、今日も獲物が引っ掛かったわね!」

 

…1つ、奇異な匂いを見付けた、奇妙な匂いだ。

この世界とは違う、何処か私達に似た匂い。

私がみたのは…女の子だった。

 

「へぇ、耳が生えてるんだ! やはや可愛らしい!」

「…あなたは…人間ですよね?」

「そうだよ、私は宇佐見菫子、超能力者だ」

 

茶色い髪と茶色い瞳、赤い眼鏡をかけている。

黒の帽子を被り、黒色のマントに白手袋。何だかマジシャンみたいだ。

マントの裏地は赤色で、よく分からない文字が浮かび上がっている。

マントの下は、菫色のチェック柄で、Pのベストとチェック柄の長めのスカート。

インナーに白色の長袖スクールシャツを着ていた。

足下はリボンが付いた白色のハイソックスに焦げ茶色のローファーを履く。

正面の留め具には上着のボタンと同じ色の飛行機のアクセサ。

何だかロケットみたいな形だ。

 

「そう言うあなたは? 今までの人達は名前も聞けなかったけど

 あなたは好戦的という感じではないし、聞けるかしら?」

「…フィル…です」

「フィル、日本人では無いんだね、まぁ、見た目からして日本って感じじゃ無いか。

 でも、なんでそんなに日本語が上手なのかな?」

「…知りません、分かりません…私には記憶が無い」

「はぁ、それはまた…」

「でも、この世界の記憶はある、憎くて憎くて仕方ない記憶が」

「…え?」

「この世界は嫌いだ、この世界はいやだ…この世界は嫌だ…こんな世界…嫌だ」

「な、何だか雰囲気が変わって行ってる?」

 

嫌だ、なんでこんなに私はこの世界を憎んでいるんだろう。

なんで私はこの世界を…壊したいと思ってしまうんだろう。

私にはその理由が分からない、分かるのはただ憎いという心だけ。

私はこの世界が憎い、この世界が嫌い、この世界は嫌だ。

だから…だから、私は!

 

「こんな世界は…滅ぼすべきで…」

「え? あ、あれ? 何これ…身体が…震える?」

「*さぁ、行きましょう…終焉の…」

 

オカルトボールが光り始めてる…何が! でも、嫌な予感が。

 

「何!? 待って!」

「う、うぅ! 違うの…駄目だから」

「…え? 気絶した?」

 

 

 

……あぁ、何があったんだろう、私はあまり記憶が無い。

何だか凄く憎いという感覚は覚えてる。

でも、それ以上は覚えてない。

目をゆっくりと開けてみると、そこには紅魔館とは違う天井があった。

庶民的で、何だか落ち着くような…低い天井。

 

「姉ちゃん、この子何者?」

「えっと、向こうの世界の住民だって言うのは間違いないんだけど。

 何でか気絶しちゃって」

「ふーん、メリーならなんか分かるかも?」

「あの子? 確かにあの子なら少しは分かるかも」

 

うぅ…話し声が聞える…1人の声は分かる、昨日会った人だ。

でも、もう1人は分からない。

いや、そんな事は今どうでも良い…なんでこんなに身体がしんどいのかな…

 

「…しかし、他の人達はすぐに消えたのに、この子は一晩経っても消えない。

 何か特殊なのかしら」

 

私の意識が回復していると分かっているのか分かっていないのか…

でも、多分分かってない、だって細目しか開けてないから。

薄暗いけど、昨日の人の顔が私の視界を覆い隠した。

わざわざこんなに顔を近付けなくても。

 

「……ね、寝てるわよね? うん、きっと寝てるし

 いやぁ、ずっと気になってたんだけど、襲われたら恐いからね。

 ふふふ、では、早速、えいや!」

「ひゃぁ!」

「ひでぶ!」

 

み、耳を触られた! 耳を! な、何か変な感覚…

 

「う、うぅ…痛い」

「あ、ご、ごめんなさい」

「あ、ありゃ、起きちゃったか…あ、これは大丈夫だよ。

 私が悪いから、いやぁ、やっぱり耳を触るのは不味かったかなぁ」

「え、えっと…」

「ふぅ、っと、私の事、覚えてる?

 昨日の今日で忘れるとは思えないけど

 あの後すぐに気絶しちゃったし覚えてないかもだしね」

「は、はい、覚えてます…宇佐見菫子さん」

「いやぁ、覚えていてくれて嬉しいよ本当」

 

うーん、何だか昨日あったときとは雰囲気が違うなぁ。

あのマントも無いし、帽子も被ってないし。

メガネは掛けたままだけど。

 

「っと、えっと、一応あなたの素性を聞きたいなーと。

 でも、ああやってこっちに来たって事は向こうの人なんでしょう?

 その耳も尻尾も本来私達には無い物だしね」

「は、はい、向こうというのが何処なのかは分かりませんが、多分そうです」

「向こうってのは裏の世界だよ」

「…私達からして見ればこっちの世界の方が裏です」

「確かにそうね、えっと、じゃあこれは?

 こっちに来たって事はボールもあるのよね、手元にあるの」

「あ、はい、七つあります」

「じゃあ、あなたもオカルトって使えるのよね」

「…知りません、使ったことが無いので」

「ふーん、そう…でも、何だか尖った物言いね。

 そんなに私の事を警戒してるの?」

「いきなりこんな所に連れてこられて、警戒しないはずがありません」

「確かにそうだね。

 でも、あなたは昨日会ったときこっちを知ってるような口振りだったけど」

「覚えてないんです、うろ覚えで…ただ憎いって感情だけ」

「何かあったの? あぁそうか、記憶喪失なんだっけ」

「…はい」

「と言うか、昨日何かを発動しようとしてたけど、あれがオカルト?」

「え? 何の事ですか?」

 

私はそんな記憶は無い…そんな事をしようとした記憶は…

 

「まぁ、今と相当雰囲気が違ってたし…別人格?」

「わ、分かりません、私はたまに暴走しそうになるので」

「情緒不安定って、訳でも無さそうだけど、あれは明らかに別人だったし」

「…ごめんなさい、私も私の事が分からなくて」

「まぁ良いわ、今のままなら大丈夫そうだし

 お話しも色々と聞かせて貰いたいしね」

「え、えっと…」

「と言っても、問題はその耳と尻尾よね。

 私は蓮子達は大丈夫だとしても、他の人はどうかしら」

「その…蓮子さんって言うのは…」

「あぁ、私の妹だよ」

「い、妹さんが居たんですね」

「あぁ、服装も似てるからすぐに分かると思うわ

 まぁ、蓮子とのご対面も後にして、今はその耳と尻尾よね。

 耳は帽子で隠すとして…尻尾は…無理矢理ズボンに隠す?

 でも、モコっとしてバレそうよね、他に手は…」

 

……良くは分からないけど、あまり敵意は無さそうだ。

それに、何だかこの人は少し安心出来る。

…でも私、どうやったら戻れるんだろう…うぅ、ど、どうしよう。

でも、しばらくはこの人にお世話になるしか無いのかなぁ。

仕方ない…もう少し我慢しよう…我慢しないといけないや。

絶対に堪えないと…この気持ちの悪い世界を




今回、蓮子との絡みを書きたかったため
蓮子は菫子の妹で、メリーは蓮子の友人という形にしたいと思います。
原作とは大分違いますが、ご理解の程、よろしくお願いします

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