東方半獣録   作:幻想郷のオリオン座

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受入れてくれる人

私の身体能力は外の世界だと相当凄いというのが分かった。

テニスというのをしても、非常に簡単にこなせてしまう。

実際、私は妖怪だし、人間とは身体能力も比べものにはならんだろうなぁ。

きっと、そんな私を見たら、誰だって私の事は。

 

「いやぁ、凄いね! はは、ここまで派手にやられるとむしろ清々しいわ!」

「…えっと、私の事、恐くないんですか?」

「ん? 何言ってんの?」

「だって、私はおかしいくらいに運動神経も良いし

 あなた達とは全然違う。

 耳もあって、尻尾もあって…」

「それが? それだけでなんで怖がる必要があるのさ」

「え? でも、私は」

「結構気に病んでるの? 妖怪って言うのも大変ね。

 でもまぁ、正直私達3人はそこらへんどうでも良いのよ。

 あなたがどれだけ私達と違っていると思っても

 私達はそんな事は思っちゃいないわ」

「…でも、私は妖怪です…人間の部分も半分だけで、半分は獣です」

「そんなの気にしなくても良い良いの、そもそもちょっと違うだけで

 怖がったりするはず無いしね、そりゃあ、性格が恐ろしかったら

 流石に怖がるけどね、実際話してみれば普通だし」

「そうそう、見た目しか興味無い連中なんて無視すりゃ良いのよ

 そいつらが何を思おうとあなたはあなただしね」

 

…見た目だけ、私は身体能力も相当だと思うけど。

でも、やっぱりこの人達はそんな私を見ても、怖がったりしない。

 

「…あ、あの、ありがと」

「おぉ! 聞えてきた! よしよし、全力で歌うわよ!」

「蓮子、空気を読みなさい」

「ん?」

「もう良いわ、あなたって空気読まないしね」

「で、この歌はアニメソングね」

「さぁ、私の歌声に酔いしれると良いわ!」

「いや、あなたって音痴じゃないの」

「音痴じゃないし! えー、おほんおほん」

 

…カラオケって言ったっけ、なんだか楽しいかも。

そのまま、3人は歌を歌った、私には分からない曲が多い。

 

「さて、次はあなたの番よ!」

「えぇ!? わ、私、歌なんて歌ったことないです!」

「大丈夫よ、多分、とりあえず選んでみなさい」

「え、えっと…じゃあ、これを」

「ほうほう、東方楽曲ね、良いセンスだ」

「とにかく歌ってみます! 

 出て来た字幕をリズムに合わせて歌えば良いんですね!」

「そう、あ、始まったわ!」

「はい、えっと、リンゴと蜂蜜」

 

聞いたことが無い曲、歌ったことだってある筈もない曲。

本来、あり得ないような状況だし、歌なんて歌ったこともない。

鼻歌さえ私は少しも歌った記憶が無い。

それでも、私は歌った、聞いたことが無いリズムに合せて

聞いたことも無い歌詞を歌う、それでも何だか楽しかった。

1人でやっても、きっと楽しく無い筈なのに…ふふ、面白いかも。

 

「ふぅ」

「はぁ、歌を歌ったことが無いと言うけど、結構合せるわね」

「大した物ね、流石、それに歌声可愛いし!」

「ありがとうございます」」

 

…えへへ、初めて…今日初めて、外の世界が楽しいと思えた。

その日はずっと遊んだ、気付いたら真っ暗になる程に遊んだ。

 

「いやぁ、遊んだわ」

「遊びすぎたわ…まぁ、明日は休みだから良いんだけど」

「いやぁ、帰るのは夜の3時くらいになりそうね」

「遊びすぎでしょ、私達」

「いやだってさ、フィルも混ぜたら本当に楽しくてね」

「そうよね、この子と遊ぶのも楽しいし、それと4人で丁度良いからね」

「ふふ、何だかんだで一番楽しんでたからね、メリー」

「な! い、いぃ、1番は蓮子でしょ!?」

「ゲームコーナーで高校生にもなって本気でシューティングを

 遊んでいる姿は、本当に面白かったわー」

「言うなぁ!」

「あはは! 面白かったし仕方ありませんよ!」

「いやぁ、でもあれは異常でしょ」

「何よ、良いじゃないの」

 

あはは、ここまで遊んだのは初めてだよ。

 

「はぁ、もう眠いわ」

「姉さんって夜に弱いよね、ふぁぁ」

「そう言うあなたもね」

「しかし、眠い状態だと結構面倒なのよね」

「頭が正常に働かないから?」

「そうそう、結構ボケーッとすると」

「……」

「ん? どうしたの? フィル、私達の前に出て来て」

 

…暗闇の中から何人もの男の人が出てくる。

 

「げ…これはヤバいんじゃ…」

「こんな時間に、こんな家も何もねぇ場所で

 可愛らしい女の子が出歩くってのは感心しねぇなぁ」

「女だけじゃ不安だろ? 俺達が一緒に居てやるよ」

「に、逃げれば大丈夫かな…」

「いや、囲まれてるけど…」

「ね、姉さん、得意の超能力で何とか出来ない?」

「無理無理! こんな眠い目で使えるわけ無いし、集中できないし!」

「何をぼそぼそと話してるんだ? 俺達も混ぜてくれよ」

「…えっと、ご親切に私達の心配をしてくれている事には感謝します。

 ですが、私達は私達だけでも大丈夫なので安心してください。

 だって、4人も居るんですよ? 問題ありませんって

 なので、心配には及びません」

「ちょ、フィル…」

「おいおい、連れないことを言うなよ、折角の親切なんだしよぉ」

「大丈夫ですよ、時間を取らせてしまう訳にはいきませんので」

「…は、マジで言ってるわけじゃねぇのは分かるがよ

 本当に俺達が親切で言ってると思うのか?」

「……まぁ、この状況ですし、分からない筈は無いのですけど…」

 

でも、相手は人間…本気でやったりして、居場所がなくなるのは…恐い。

だけど、このまま黙ってたら、酷い目に遭うのは分かりきってる事。

だったら、だったら、私は大事な方を選ぶ。

 

「……一応、忠告します」

「あぁ?」

「死にたくなければ消えた方が身のためです。

 死にたい人だけ、どうぞ前へ」

「……く」

 

男の人達は全員、1歩だけ仰け反った。

あまり戦いに身を投じたことが無い人達って言うのは

基本、相手の殺気というのは感じる事が出来ない。

霊夢さん達みたいに戦いに身を投じている人達なら

些細な殺気にも反応できるのかも知れない。

だけど、この人達に些細な殺気は感じることは出来ない。

だから…本気の殺気をぶつけた。

平和な世界でぬくぬくと過ごすことしか出来ない

蛙よりも頭が悪く、身の程も知らない連中でも分かるように。

 

「……く、よ、4人で何が出来るってんだ! やれ!」

「…はぁ、良いですか? 怪我では済まないかも知れません。

 それでも…私達に近付きますか?」

「……うぅ!」

 

なんだろう、こっちの世界に来て…私の心は荒んでいる。

菫子さん達と過ごしていた1週間は本当に楽しかった。

心も少しだけ晴れていた、でも、今は違う。

今は…その幸せな1週間をくれたこの人達のために…獣になろう。

 

「後悔はしないでください、いやそもそも、後悔をする暇さえ無いかも知れません。

 数揃えりゃ良いと思わない事ですね」

「やれ! あの女どもを引っ捕まえろ! 相手は4人だ!」

「はん、力でどうにか出来ると思うなよ!

 全部があんたらの思い通りに行くと思うな!

 テメェらの勝手な事情に僕達を巻き込むな! この屑共が!」

 

一瞬だけ記憶が飛んだ、何があったかは私にも分からない。

何だか頭の中が混乱している…でも、事実は、現実は分かる。

私の前で伸びてる男の人、そして、周囲の男の人達を見れば分かる。

どうやら私は、記憶が飛んだ一瞬の間で男の人達を全て倒したみたいだった。

…外の世界に出てから、どうも私は不安定だった。

最初に菫子さんと出会った時の記憶もあまりない。

外の世界には私の何があるんだろうか、覚えてない。

だけど、身体は覚えてるみたいだ…この大っ嫌いな世界を。

 

「……い、一瞬で」

「……ごめんなさい、やっぱりわ」

「いやぁ! ははは! いや凄いね! やっぱ凄いわ!」

「へ?」

「いやぁ、この状況で男達を全員なぎ倒す姿、本当に格好良かったよ!」

「え?」

「うん! 格好良かったよ! 流石フィル!

 可愛いし格好いいとか最高じゃん!」

「で、でも、私が暴れたのを見たんですよね!?」

「あれはほら、仕方ないことだし、でもあれね

 あなたって怒らせると恐いタイプなのね。

 で、怒る相手も大体分かったわ、数に物を言わせる奴が嫌いなのね。

 まぁ実際、数で攻めてくる奴らってイラッとするしね。

 後、力で周りを押さえつけようとする奴もウザいわよね」

「えっと、私、暴れたんですよ? それなのに」

「何言ってんの、仕方ないことだしね」

「それじゃ、さっさと家に帰って風呂入って寝ましょうよ」

「そうね、あ、メリー、今日は泊まって行きなさい」

「最初からそのつもりよ、もう家族にも伝えたし」

「まぁ、そうだよね、さ、帰りましょうか」

「はい」

 

…私は私がそんな風になったかは分からない。

きっと恐い私になっていたんだろう。

それでも…私を受入れてくれる…嬉しい……かも。


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