東方半獣録   作:幻想郷のオリオン座

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外の世界の不平等

外の世界での生活、私の事を知っても受入れてくれる人。

私は自分の記憶がない、だから、私に何があったかは分からない。

だけど、私は外の世界が嫌いで…でも、今は楽しい。

 

「さて、フィルがこっちの世界に来てから、そろそろ1ヶ月ね」

「そうですね」

 

もうそんなにも時間が経っていたんだ。

肌に合わないこの世界で1ヶ月かぁ。

 

「そう言えば、菫子さん、幻想郷にこの石はもう送ってないんですか?」

「うん、あなたがこっちに来てからはね。

 多分、向こうの石ももう無いと思うよ」

「なる程」

 

だから、誰も幻想郷からこっちには来てないんだ。

早く迎えに来て欲しいと思うけど、まだ来ないんだなぁ。

紫さんの力ならすぐに来れそうだけど…

でも、紫さんは何処にも姿を見せなかったし

多分、今は幻想郷には位無いのかも知れない。

 

「で、とりあえず1つ疑問に思ったことを聞くけどさ」

「なんですか?」

「そのマフラー、ずっと付けてるけどなんで?

 家の中でも付けてるし、ただのファッションだと思ったけど

 やっぱりずっと付けてるのは疑問に思いだしてね。

 お風呂の時は取ってるみたいだから、取ることは出来るんでしょ?」

「はい、このマフラーはお父さんお母さんから貰ったマフラーです。

 私は記憶がないので、そこら辺はハッキリとは分からないんですけど

 でも、マフラーを付けてると、何だか落ち着くんです」

「へぇ、だからその赤いマフラーをずっと付けてたんだね」

 

赤いマフラー、私の大事なマフラー。

付けているだけで、何だか優しい気持ちになれる、そんなマフラー。

 

「ありがとう、長年の疑問が解けたわ」

「待ってください、まだ1ヶ月です」

「気分的に1ヶ月は長年なのよ」

 

長年って…1年だって経ってないのに、なんだか面白い人だなぁ。

 

「そうだフィル」

「はい、なんでしょう」

「私達が学校の日って、何だか暇じゃない?」

「そうですね、外にも出られませんし、話し相手も居ません。

 テレビって言うのを見ても、ちょっとよく分かりませんし

 インターネットって言うのをやっても、やり方が分かりません」

「そうよね、私としたことが失敗したよ。

 何も知らないあなたがパソコンを触れるわけがないし」

 

多分、何か教えて貰っても触れない気がする。

色々と複雑で何も出来ないと思うよ、流石にあれは。

 

「だからさ、ここは1つ面白い事をしようかなって思うんだ」

「面白い事ですか?」

「そう、あなたを学校に」

「が、学校…」

 

何も知らないはずなのに、身体から血の気が引いたような感覚になった。

 

「…か、顔色が悪くなったわね…もしかして、学校はいやだ?」

「は、はい、そうみたいです…」

「うーん、そうかぁ、だったら仕方ないわね。

 うん、確かに勉強って面倒くさいからね」

「勉強は…あまり関係ないと思うんですけど」

 

暇なときに色々と触って良いって言われていた本を見て

勉強はしているからね、外の世界の色々な事を知るために。

 

「あぁ、そうか、そう言えば、私でも読むのがしんどいと思うような

 広辞苑とか読んだ跡があったわね、国語辞典とか。

 しかも、もう全部読んでいるという」

「色々と勉強になりました、法律って言うのは大変なんですね。

 でも、何カ所も疑問を抱いた点はありましたけど。

 法の上の平等とか、と言うか、20歳になった場合

 その人物にいくらか旅立つ物としてお金を渡せば良いと思いました。

 テレビとかでも色々な話がありますし、あの生活保護とか。

 20歳になった時に旅立つ物を与えて、それを無くしてしまったら

 特になんの支援もしないって事にすればお金の消費減りそうですけどね。

 で、そのお金は親でも触れる事が出来ない、と言う事にすれば」

「色々と難しいんじゃないかな、そう言うのってさ。

 やっぱりほら、毎年大量のお金を投下することになるし」

「うーん、でも、そうすれば平等になりそうですけどね

 お金が一定額以上ある家庭の子供には渡さないとか」

「平等…になるのかしらね」

「だって、どの親から生まれたかで持ってるお金が違うって可哀想ですし

 もしくは、勉強とかで消費するお金を無料にしたり。

 そうすれば、お金から学びによる不平等はなくなります」

「まぁ、お金を国民からむしり取っていかないと国が成立しないし」

「うーん…そんな物なんですかねぇ」

 

平等、平等…そう書いても、結局平等じゃない。

それは分かってることだけど、あまりにもアンバランスすぎる気がする。

 

「…じゃあ、交通弱者とか、そう言うのはなんなんでしょうね」

「あぁ、あれ? あれは私もない方が良いと思うわ」

「ですよね、渋滞の車と車の間だから左右確認もしないで

 自転車が出て来たら、車は対処出来ませんしね。

 どう考えても原因は自転車ですし、車なんの罪もありません」

「あれは絶対無理よね、あれでしょ? 前テレビでやってた」

「はい、あのニュースです…あれ、どう考えても親が悪いです。

 それなのに車の人が捕まるのは本当に可哀想です。

 だから、交通弱者って無くせば良いんじゃないかなって」

「思うわ…でもまぁ、政治家って頭固いからね。

 でもまぁ、フィルが色々と勉強をしてるのは良く分かったかな」

「後、いじめも撲滅して欲しいです、いじめを撲滅して欲しいです!」

「うん、私も思う」

 

…外の世界は色々と発達しているけれど、でも、なんだろうなぁ

あまり発達していない筈の幻想郷の方が幸せで楽しいと感じる。

色々と遊びを効かせた新聞とかも沢山あるし

殺人事件とかもあまり無い、いや、あるけどあれは仕方ないこと。

里の人間達も、それは仕方ないことだと受入れている。

でも、外の世界は…何だか、仕方ないと受入れてない。

自分達が絶対で、自分達が正しくて、それ以外は間違ってる。

そんな風に感じてしまう。

後、動物愛護もよく分からないし、外の世界の人達は

何だか自分達の事を神様か何かと勘違いしてるように思う。

幻想郷の神様だって、そこまで自分勝手じゃ無いと思う。

いや、結構自分勝手な気もするけど。

 

「ねえ、あなた話を聞いてて思ったんだけど」

「はい」

「あなたって、迫害とかそう言うのは嫌いなんだね、後は不平等」

「勿論です」

「そうよね、私も迫害は嫌いだし、不平等も好きじゃない

 でも、どっちも仕方ないと受入れるしか」

「外の世界の人達は自分勝手だと私は思います。

 何にしても、受入れようとしないような人達が多いと感じます。

 なのに、そう言うのは仕方ないと受入れるんですね。

 自分達が行なう変えようがない事は仕方ないと受入れるんですね。

 自分達以外が起す仕方ない事は全部否定するのに」

「……あぁ、そうね、言われて気付いたわ、確かにそうだ。

 作物を動物が荒らす、それはその動物が生きるために仕方ないこと。

 でも、人間はその動物を殺す、つまり、否定する。

 それなのに自分達が起すことは変えない…考えもしなかった」

 

外の世界の人達と幻想郷の人達の大きな違いは多分そこ。

幻想郷の人達は自分達よりも上の存在がいると言うことを知ってる。

神様だったり、妖怪だったり、だから、自分達以外が起す事を

仕方ないと受入れて、それでも必死に生きている。

でも、外の世界の人達はそう言うのを受入れようとはしない。

だから妖怪は消えて…神様も消えて…自分達が最上位と勘違いしてる。

それだから、自分達以外の仕方ないを受入れない。

 

「でも、何だか良い事を聞いた気がするわ。

 今度、私の高校で論文を書いて発表する授業があるのよ。

 その授業であなたが言ったことを論文に書いてみるわ。

 それで何が変わるかって訳じゃないでしょうけど

 少しは何か影響を与えられるかも知れないから、任せて!」

「え? あ、は、はい」

「本当、あなたに会えて良かったわ、ありがとう、フィル」

「…私こそ、私の話を聞いてくれて…ありがとうございます」

「よーし! 論文書くわよ! なんか気付いたら遅刻だけど

 そこら辺はもう良いわ、今日は休んで論文書くわよ!」

「あ! ご、ごめんなさい! 話しすぎて!」

「良いの良いの、学校の勉強なんかよりも

 あなたと話してる方が、人生の、いや、人間性の勉強になるから。

 どうせ、学校の勉強なんて決ったことしか教わらないんだから。

 変えようのない、決まり切った事しか教えられない。

 だけど、あなたと話してたら、別の何かを作り出せそうだしね」

「でも、お勉強はした方が…大学とか」

「大丈夫、私、こう見えても成績は1位なんだから」

 

わぁ、やっぱり菫子さん、頭良いんだなぁ。

 

「因みに2位は蓮子よ、負けないように踏ん張ってるから」

「蓮子さんも頭が良いですしね」

「因みに私達って頭良すぎるらしくて、大人位しか話しに付いてきてくれないの

 だから、友達居ない」

「えっと、頭が良いって言うのも考え物なんですね」

「でもまぁ、蓮子にはメリーが居るし、私にはあなたが居るから

 別に気にしてないんだけどね」

「…わ、私…ですか?」

「そう、あっと、そうか、言ってなかったね

 じゃあ、コホン…私と、友達になってください」

「……喜んでお受けします!」

 

菫子さんが差し出してくれた手を、私は掴んだ。

友達…何だか、凄く良い響き。

 

「ふふふ、じゃあ、今度からは敬語無しで、菫子って呼び捨てにしてよ

 でも、何だかフィルの感じからして、呼び捨ては苦手かも知れないから

 ちゃん付けで良いよ、ただし、さんは駄目だからね、距離感じるから」

「えっと…じゃあ、す、菫子…ちゃ、ちゃん」

「いやぁ、良いわねこう言うの! 憧れてたの!」

「じ、実は私も…」

「きっとその内、あなたは元の世界に戻ることになるかも知れない。

 だけど、私の事は忘れないでね」

「…うん」

「ふふ、なーんてね」

「え?」

「あなたが元の世界に帰ったとしても、私はあなたに会いに行くから」

「で、出来るの?」

「私を誰だと思ってるのよ、初代秘封倶楽部会長よ! 2代目は蓮子になる予定」

「あはは、なら、大丈夫かもね」

「勿論、私に不可能は結構ないわ!」

「あるんだ」

「不可能がないとかあり得ないしね」

 

本当、面白い人だなぁ…私の、友達は。


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