東方半獣録   作:幻想郷のオリオン座

87 / 245
鈴奈庵へ

「では、行きましょうか」

「いらっしゃいませ!」

 

のれんを潜ると、そこには赤っぽい髪の毛を

鈴の髪留めで2箇所止めていて、赤い瞳。

薄黄色っぽいエプロンを着けていて

その下に白と赤のチェック柄の着物を着ている。

スカートは緑で、白いフリフリが付いていた。

見た目からして、明るい女の子だというのが分かった。

 

「あ、文さん…今日は妖怪さんを引き連れてと言う感じですか?」

「あやや、いやぁ、私に対しても遠慮無しになって来ましたね」

「あ、どうも、フィルです」

「……」

「やーやー、初めまして、英子だよ」

「あ、ご丁寧にどうも、私は本居小鈴です! あ、私は人間ですよ」

 

人間の女の子かぁ、見た感じは普通の女の子に見えるけどなぁ。

 

「はぁ、でも、変わった品揃えが多いですね、あ」

 

私が見付けたのは国語辞典だった、幻想郷にもあるんだ。

えっと、確かこっちは広辞苑だ、へぇ、そんな物も置いてるんだ。

 

「おやおや、その広辞苑を手に取るとは、外の世界に興味が?」

「あ、いえ、見覚えがあるだけです」

「え!?」

「あはは、この広辞苑を読むのに3週間掛かったのを思い出しました。

 やっぱり、毎日1時間だけだと、時間掛かりますね」

「な! そ、外の世界の本を読んだことがあると!?

 それに、た、確かその本は、私でも読むのに1ヶ月は…」

「私の場合は流し読みでしたから、本気で読んだらもっと時間掛かってますし」

「…ふむふむ、なる程、フィルさんは頭が良い類いに入るのでしょう」

「うへぇ、僕だったらこんな本、手に取るだけでもしんどいや」

「わ、私もこの厚さは…読むどころか開ける事すら億劫ですね」

 

でも、分厚い本が沢山置いてあるなぁ。

パチュリー様の図書館にもこのサイズは沢山あった気がするけど

本が沢山ありすぎて、読むどころか探す気力さえ無かったけど。

 

「お?」

「おや、それに手を伸ばすとは、流石妖怪さんですね!

 その本は妖魔本! 妖怪が書いた本です!」

「おや…その文字は…古代天狗文字…」

「地獄植物に関する書物です」

「はぁ…」

 

うーん、開けても何が書いてあるのかさっぱり分からないよ。

でも、文字の形から考えて…今の言葉との共通点を探して。

そして…その色々な可能性から、文になる言葉を探す。

タイトルはこの文字で地獄植物との事だから、そこを入り口にして

 

「えっと、じごくそば、しょうこうそう、えっと」

「え!? 読めるんですか!?」

「いえ、読めませんよ?」

「で、でも! その単語は確かに、その書物に…」

「えっと、完全に想像と予想で読んでますし、読めるとは違いますよ。

 それに、あなたも読めるんですよね? なら、読めるのは当たり前では」

「……小鈴さんの場合は能力で読んでいるのですよ」

「の、能力…ですか」

「は、はい、書くことは出来ませんけど」

「そうなんですか、便利な能力ですね」

「フィルさんの場合は一文字でも分かれば後は全部分かりそうですね」

「想像力には自信があります!」

「何処か抜けてますよね」

 

あ、あはは…やっぱり変かな。

 

「妖怪なら読めるのかな…でも…読めないみたいだし」

「彼女が異常なだけですよ、妖怪でも読めない言葉もあります」

「じゃあ、なんでも読めちゃう私は…」

「ある意味、妖怪よりも妖怪かも知れませんね~」

「な、何だか嫌ですね…それ、でも、やっぱり私って特別なんですね!」

「やれやれ、特別であるという事は何も良い事ばかりという訳ではありませんよ。

 仲間外れ、蚊帳の外、迫害、普通が1番楽ですよ?」

「……う、うーん」

「特別な者の中には普通に憧れる奴も居るんだよ?

 まぁ、普通ではなく、特別にもなりきれてない君には分からないかもね」

「うぅ……」

「あ、あまり責めないでも…特別も悪い事ばかりでは……では」

 

……何故だろう、ハッキリと言い切れない。

何が私の言葉を詰らせてるんだろう。

 

「まぁ、小鈴さん、特別になりたいというのなら

 それ相応の覚悟をする事ですよ、普通から特別になる。

 それはきっと、あなたの想像を遙かに超えるほどに酷な事です。

 望まず特別に生まれる程ではありませんがね」

「……でも、私は!」

 

小鈴さんが強く机を叩いた。

それだけ彼女には重要な事だったのかも知れない。

 

「私としたことが、少し入り込みすぎてしまいましたね。

 つい感情的になってしまいました、記者としては失敗ですね。

 まぁ、あなたの道ですからね、ただ博麗の巫女が動くようなことには

 ならないでくださいね?」

「…はい」

「さて、それじゃあ、私達は次に行きましょう」

「あ、はい…でも、その前に…小鈴さん」

「な、なんでしょう」

「特別になりたい、そう思うことは悪い事じゃありません。

 誰かの特別になりたいって、きっと誰でも思いますし、私も思います。

 そして、あなたは誰かの特別です…あなたがあなたであるだけで

 きっとあなたは誰かの特別なんです。

 だから、無理に特別になろうと思う必要は…きっとありませんよ」

「……ありがとうございます!」

「あはは、では、また来ますね、今度は本を借りに来ます」

「はい! お待ちしてますね!」

「あやや、ハッキリと言いますねぇ」

「ハッキリと思ってることですから」

「思ってることを言えるのは素晴らしい事ですよ」

「ありがとうございます、文さん」

「ふふ、ますますあなたに興味を惹かれましたよ」

「うーん、可愛い!」

「わぁあ!」

「あた、あた! 痛ぁい! 尻尾でビンタされた!」

「も、もう抱きつかないでください!」

「いやぁ、なんとか我慢するから許してよ」

「抱きつかないでください!」

「わ、分かってるよ、代わりにこっちの方をもふも」

「首を」

「嘘だって!」

「本当、ネタに尽きませんねぇ」

 

うぅ、あまり嬉しくないよ…


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。