東方半獣録   作:幻想郷のオリオン座

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満月の夜

久し振りの人里を沢山堪能した。

繁盛してるって言う蕎麦屋さんにもいってみたり

色々な事をして時間を潰す。

そして5時頃、そろそろ夕暮れ時だ。

本来、こんなにも長い間人里を観光してた理由は

英子さんのお狐モードを見たかったからだと思いだした。

そして、最後は英子さんのお店、もふもっふに移動した。

 

「はい、ここが私のお店だよ」

「わぁ、ペットが沢山…」

「ふふん、僕の自慢のカワイ子ちゃんはこの子だよ」

「ほぅ、非売品ですか?」

「まぁ、僕のペットだからね、名前はイヴちゃん、可愛いよ?」

「にゃー…」

 

ふ、普通の猫だった、うん、特に何も無く可愛らしい猫ちゃん。

 

「普通の猫ちゃんですね」

「普通以外の猫が何処に居るのさ」

「橙さん見たいに尻尾が生えてる猫さんとか。

 お燐さん見たいに人にも猫にもなれる猫さんとか」

「何それ凄く魅力的! 絶対可愛いじゃん!」

「こんな人がそんな猫を飼っていたら問題だと思いますけどね…」

「あはは、酷いなぁ、いやらしいことはしないよ。

 ただ尻尾をもふもふしたりするだけだし」

「……」

「し、信用してないよね、その目は」

「むしろ、信用される要素があなたにあると思いますか?」

「い、いやはや、本当に容赦ないなぁ」

 

実際、初対面の私に対してあんな事もしたし

椛さんに対しても散々したし…言われるのは仕方ないかな…あはは。

 

「ま、まぁしばらくの間は可愛いペットを愛でておいてね、僕は着替えるから」

「着替える?」

「あはは、そろそろ時間だからね、お狐モードの僕はこの服装を好まないからね。

 まぁ、どっちも僕なんだし、僕が僕に気を利かせるって意味分からないけど

 性格が違うから仕方ないのさ、と言う訳で、奥の部屋で待ってるよ」

「は、はぁ…」

 

私達は1時間の間だ、そのペットショップで過ごした。

普通ならお客さんが来そうな物だけど。

どうやら今日はお休みにしていたようだった。

満月の日は夜に働くから、休みにしてるって感じなのかな。

そして、1時間が経過した後。

 

「さて、そろそろいってみましょうか」

「そうですね…どんな感じなんでしょう」

「それは見てからのお楽しみですね」

「…より酷くなってなければ良いですが」

「大丈夫だと思いますけどね」

 

私達は少しの不安を抱きながら、ゆっくりと部屋に入った。

 

「やれやれ、部屋に入るときはノックくらいするのじゃ、礼儀であろうに」

「……あ、はい、申し訳ありません…し、しかし、英子さん…ですよね?」

「うむ、儂が儂以外の何に見えると言うのじゃ」

 

慧音さんを彷彿とさせる真っ白く長い髪の毛。

その頭頂部には私と同じ様に耳が生えている。

でも、私の耳よりも長く、狐の耳だというのは分かった。

そして、9つの白い尻尾…藍さんと同じ九尾…

服装は赤と白の和服っぽい服装ではあるけど、和服と違って

確かつましただったかな、その部位が非常に短かった。

長さで言えば霊夢さんと同じ程の長さだった。

でも、腋は出てない。

 

「いやぁ、ふ、雰囲気が全く違いますね…人間時と比べると」

「あの時の儂は暴走気味じゃからな、自分に対しこう言うのは妙じゃが

 落ち着きのない妹の様な物じゃ、しかし、人間の時の儂が

 今の儂と遭遇すれば、すぐに儂の尻尾に抱きつくじゃろうなぁ9本もあるからの。

 おぉ、そうじゃ、尻尾と言われると臭いイメージがあるかも知れぬが

 儂は尻尾の手入れを欠かしておらぬからな、良い匂いがするし肌触りも良いぞ?」

「……ら、藍さんと同じ九尾だったんですね」

「ほぅ、儂以外に九尾が居たか、それはそれは会ってみたい物じゃな」

 

藍さんと英子さん、どっちが強いのか、若干興味があるけど。

 

「しかし、なにやらここまで尻尾ばかりだと、私が場違いという感じがしますね。

 私だけですからね~、尻尾が無いのは」

「お主がその様な事を気にするたまか? 烏天狗よ」

「あやや、自己紹介もしていないのに私が烏天狗とよく分かりましたね~」

「ふん、お主はお主で有名人じゃろ? 文々丸新聞じゃったかな?

 その著者、まぁ、儂は新聞など興味は無いのじゃがな」

「それはまた酷い告白ですねぇ、あなたの事も記事にしようと思ったのに。

 どうです? これを機に私の新聞の愛読者になると言うのは」

「くく、お断りじゃ、俗世で何が起こっておるかなど儂は興味が無いのじゃ。

 儂は儂の狭い世界で生きていくのじゃからな、この狭い幻想郷。

 その更に狭い世界を儂は儂だけで作りだし、そこで過ごす。

 儂はそれで良いのじゃよ、人の里も元より狭いしのぅ。

 ふふ、お主のその新聞も、どうせ世界の真実など記すまい。

 どれもそうじゃ、何処でもそうじゃ、知らぬ方が良い真実は5万とある。

 いや、もっとかのぅ」

「…あやや、性格も価値観も随分と変るのですね」

「そもそも、自分の世界を作らぬ人などおるまい。

 世界的な、等と嘯こうとも結局は狭い己の世界のみが全てじゃよ。

 くく、広き世界など手に余るだけじゃしのぅ。

 管理者を気取っておる主らとて、同じじゃろう? 天狗諸君?」

「やはや、ここまで雰囲気が変るとは予想外ですね」

「くくく、まぁ、儂は正直、主らよりもそこの狼に興味があるがのぅ。

 儂と同じ半獣、さて、お主はどっちじゃ?」

「え?」

「望んで生まれたか、望まれて生まれたか…ただ生まれただけか」

「……」

「さて、どっちじゃ?」

「わ、私は…」

 

私は…どっちだろう…望んで生まれた? この世界に?

誰かに…望まれていた? いや…そんな事は…だったら、私はきっと…

 

「うむ、意地悪じゃったかな? 謝罪しよう。

 どちらにせよ急ぐ質問ではないからのぅ。

 そもそも、考える必要すら無い質問でもある。

 決まり切ってる問い、ただ気付けていないだけの簡単な問い。

 気付けるか否かはお主次第じゃろう、考えるのも一興かの」

「は、はぁ…そ、そうですか」

「回りくどい…ですね」

「ふふ、人の際は直球過ぎるからのぅ。

 この姿の時位は回りくどくやっていこうと思っておるだけじゃ」

「よく分からない言い方ですね」

「儂の事が分かる方がおかしいのじゃ、安心せい」

 

うぅ…何だろう、話しにくい、すごく話しにくい。

 

「さてさて、今日は満月じゃしな、少しくらいは夜道を歩こう。

 人里の警備というのも一興、儂からして見ればただの戯れじゃがな。

 して、天狗2人よ、お主らが夜の街を闊歩というのは不味いじゃろう?」

「まぁ、確かにそうですね」

「は、はい」

「なら、お主らはここで休んでおれ、儂はそこの狼、フィルじゃったかな。

 こやつと夜の街を歩き回ろうと思う、警備じゃからな、一応は」

「あやや、それはそれは、ありがたい申し出ですね、しかし夜分遅くは」

「今日は泊まれば良い、人の儂が散々かき回した訳じゃからな。

 それ位の責任は最初から取るつもりじゃ、のんびりしておれ」

「では、お言葉に甘えさせていただきますよ」

「うむ、さ、行こうぞ、フィル」

「は、はい、わ、分かりました」

「き、気を付けて」

「まぁ、フィルさんが居れば大体何とかなりそうですがね」

「うぅ…」

「くく、楽しもうぞ、夜空でも拝みながらのぅ」

「は、はい」

 

この状態の英子さんなら…まだ大丈夫かな。


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