東方半獣録   作:幻想郷のオリオン座

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夜明けの騒動

長い話しも終えて、私達は英子さんの家に戻ろうと歩き出した。

周りは少しずつ明るくなってきている、夜は早いなぁ。

 

「ま、不味いのぅ、は、話しすぎたのじゃ」

「どうしたんですか?」

「い、いや…ちょっとな」

 

英子さんの尻尾と耳が薄くなり始める。

目の色も変り始め、目も眠たそうに細くなっていく。

眠いって事かな。

 

「え、えっと…」

「ふ、普段なら…家で元の姿に戻るのじゃが

 どうやら、お主との話が楽しすぎて…時間を忘れてしもうた」

「えぇ!? じ、時間までに戻らなかったらどうなるんですか!?」

「ね、眠る…元の姿に戻り、その場で眠ってしまう。

 目が覚めるのは後日と言う程に長くな…不味いのじゃ…

 しかも、その間は何があっても起きぬ…て、貞操の危機じゃぁ…」

 

周りが更に明るくなり始め、英子さんの尻尾と耳がより薄くなる。

足取りもフラフラと不安定に進んでいて、真っ直ぐ歩くのも出来ていない。

 

「うぅ、ね、眠いのじゃ…目の前が霞む…ぐぬぬぅ、こ、このままではぁ…」

「だ、大丈夫ですか?」

 

私が肩を叩こうとすると、英子さんはその場に崩れ落ち

地面に四つん這いになってしまった。

 

「う、うぅ…は、早う家に戻らねばぁ…しか…しぃ…」

 

必死に目を開けようとしているが、どうやら限界だったようで

そのまま地面に身体を預け、目をゆっくりと瞑った。

同時に尻尾と耳から光りが発生し、ゆっくりと天に向ったけど

光りがすぐに英子さんの中に入り、また耳と尻尾が生え目を開けた。

 

「ぐ、ぐぬ、ぐぬぬ、ぐぬぅ、こ、こんな場所で、ね、眠ってはぁ…うぅ」

 

だけどやっぱり無理だったようで、再び地面に身体を預けて

同じ様に耳と尻尾が消え、光りが出て来て、やはり自分の仲に戻る。

しかし、次は目を覚ますことも無く、尻尾と耳が再び生えてくることも無かった。

どうやら、完全に眠ってしまったみたい。

 

「……大丈夫ですよ、私が居ますから」

 

私は人間の姿に戻った英子さんを背負って、もふもっふに向って歩き出した。

英子さんはとても軽い、やっぱり女の子なんだなぁ。

私を見る目は変な感じだけど、やっぱり女の子だ。

 

「うぅ、もふもふ…」

「……はい」

 

私は自分の尻尾を動かして、英子さんを包んでみた。

これでも結構大きい尻尾だからね。

流石に藍さん見たいに沢山の尻尾があるわけじゃ無いから

布団にすることは出来ないけど、少しは暖まるはずだよ。

 

「うへへ!」

「にゃ!」

 

せ、背負ってたのに私の尻尾の方に抱きついてきた!

じ、実は起きてるのかな…でも、これは離れないよ。

かなり強く抱きしめてるし…でも、そうだなぁ、これはこれで良いかも。

このまま英子さんを尻尾に付けて家に戻ろう。

 

「ただいま戻りました」

 

そのまま尻尾に英子さんを引っ付けたまま、私はもふもっふに戻った。

で、部屋に戻ると、そこには椛さんの尻尾を抱き枕にしてる文さんと

嫌そうな表情のまま背を向けて眠っている椛さんの姿があった。

 

「やっぱり尻尾って魅力的なのかな」

 

ちょっとだけ自分の尻尾を触ってみようかと前の方に向けたら

英子さんの顔が目の前に出て来た…すごい場所にいるなぁ。

私は少し動揺しながらも英子さんを自分の尻尾から剥がした。

寝ているはずなのにかなりの力で抱きついては居たけど

結構あっさりと剥ぎ取ることが出来た。

だけど、尻尾から離れた後もジタバタして、往生際が悪いよ。

とにかく、英子さんの布団を引いて、布団の仲で眠らせた。

 

「ふぅ、これで、うわ!」

 

英子さんを布団に寝かせ、部屋を移動しようかと思ったら

英子さんは私の尻尾に飛びついていた。

うぅ…本当に寝てるのかな、この人。

何をしても起きないって言うから、私はちょっと英子さんの頬をつねる。

 

「うへへぇ…」

 

だけど、涎を流し、何だか嬉しそうにしているだけだった。

でも、こんな事をされている間も尻尾を離そうとはしない。

どんだけ尻尾が好きなんだろう、でも、人1人が全身を使って

抱きしめられるほどの尻尾ってすごいなぁ、意外と大きいかも知れない。

尻尾を縦にしたら、もしかしたら私よりも大きいかも?

なんて思ったけど、冷静に考えてみればそんなに大きくは無かった。

自分の身体より大きな尻尾って、それじゃあ、狼じゃ無くリスだもんね。

ふふ、でも、私がリスの妖怪だったらどんな感じなのかな?

ドングリ大好きだったりするんだろうか、何だか幸せそうだよ。

……もし、私が人畜無害の妖怪だったら、きっと…ん? ん?

うーん…何だろう、何か思い出しそうな…う、うーん…うぅーん。

 

「もふもふもふぅ…」

「あはは、あまり撫でないでくださいよ」

 

不意に撫でられてちょっとビックリして、私は英子さんをまた引き剥がした。

…何か考えていたような気がするけど、不意に現実に戻されたからなのか

何を考えていたのかはもう思い出せない。

やっぱり難しい事を考えたりすると、不意に現実に戻ったとき

何が何だか分からなくなっちゃうところがある気がする。

そう言えば、眠ってるとき、たまに夢を見たまま動けることがある。

でも、しっかりと目を覚ましたと同時に色々と忘れちゃう。

そんな感じなのかな。

 

「…ゆっくり眠ってくださいね」

 

私はそのまま英子さんを布団に寝かせ、今度は後ろを見せないように

ゆっくりと下がって行き、そのまま別の部屋に移動した。

別の部屋に移動しても、そこには文さんと椛さんが居る。

 

「うーん」

 

とりあえずどうしようかな、この状態のままで良いのか。

それとも、一旦離して…でもなぁ、起したらどうしよう。

うーん、考えてみれば今は明るくなってきてるし起きても問題無いかも知れない。

きっとそうだ、とりあえず文さんを椛さんの尻尾から離して。

 

「尻尾…獣臭いですね…」

 

……ね、寝言かな? 寝言だよね、と言うか、獣臭いって。

自分で抱きついててそれは無いんじゃ無いかな、流石に。

 

「ふぁ、あ、こっちの方が良い匂い」

「な!」

 

さ、さらっと私の方の尻尾に!?

 

「あ、文さん」

「……文さん」

 

す、すごく嫌なタイミングで椛さんが起きた!

多分聞えてた! 文さんのさっきの寝言聞えてたよね!?

 

「も、椛さん…その、お、おはようございます」

「おはようございます、しかし今はフィルさんでは無く

 あなたの尻尾に抱きついてる変態烏天狗の方に用があるので」

「あ、あの…もしかして聞えてました?」

「えー? 何がですか? 私の尻尾が獣臭いとか

 そんな訳の分からない寝言が聞えるわけありませんとも」

 

聞えてる! どう考えても怒ってる!

そ、それはまぁ、怒るけど!

あ、何か尻尾に抱きついてる力が強くなった気がする。

そんな気がして、チラッと文さんの方を見ると

…薄めが開いてるのが分かった、動揺もしてる。

 

「……おはようございます、文さん」

「お、起きてません、寝ています」

「ほぅ、それはそれは、ではその言葉は何ですか?」

「ね、寝言ですよ、寝言」

「……往生際が悪いんですよ! 文さん!」

「あやや! ご、ごめんなさいごめんなさい!

 け、獣臭いなとは思ってましたが!」

「人の尻尾に抱きついていながら獣臭いと!?」

「いえ! ほ、ほら、あ、当たり前の事と言えば当たり前で!

 生まれたてのフィルさんの尻尾は良い匂いでも

 生まれて時間が経ってる椛の尻尾が獣臭いのは当たり前なのですよ!

 そ、そもそもですね、フィルさんは半獣で半分は人間なのですよ!

 それに対し、椛はほら、真性の白狼天狗ですから!

 体臭というか、その重要な部分である尻尾が少し獣臭いのは当然で」

「より酷くなりました! 言い訳のせいで私はよりあなたに怒りを覚えました!

 全然言い訳にもなってないし私のフォローにもなっていない!

 誰の体臭がキツいですかぁ! 毎日お風呂も入っていますし!

 毎日尻尾の手入れもしているんですよ!」

「……いえ、あなたあまりお風呂入っていないでしょう?

 訓練訓練で汗かきまくって、家に戻ってお風呂入ろうと準備をした後に

 いつも待ってる間に寝てるじゃないですか」

「な! 何故それを!」

「毎日あなたを見ているのです! と言うのは冗談で

 他の白狼天狗情報です、あなたの部屋が明るいから

 不審に思った白狼天狗があなたの家を調査してたら

 大体お風呂からお湯があふれ出し、あなたが寝ていると」

「だ、だから水道代が…って、そうじゃ無くて!」

「有名なのですよ! 知らないのはあなたくらいですとも!」

「うぅ! わ、私の体臭を否定してください!」

「いえ、昨日もお風呂入ってませんし、おとといも入ってな」

「言わないでください!」

「ごふ!」

 

……椛さんの強烈な一撃で文さんが沈んだ。

 

「ふぅ…ふぃ、フィルさん」

「ひゃい!」

「こ、この事は言わないでくださいね!」

「あ、体臭がキツいってはなしで」

「キツくない!」

 

私に飛んで来たこぶしを反射的に掴んだ。

 

「……あ、は、はい、すみません」

「…は、反射神経良いですね、文さんでも避けられなかったのに」

「む、無意識で…」

「わ、私も無意識で…その、ごめんなさい」

「あ、いえ」

 

…お、怒ると恐いなぁ、椛さん、あはは。


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