東方半獣録   作:幻想郷のオリオン座

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竹林の狼

「いやぁ、まさか椛に殴られるとは思いませんでしたよ」

「いえ、あれは完全に文さんが悪いです」

「は、はい、反省はしています」

 

私達は人里を後にして、幻想郷の観光を再開した。

このままのんびりと幻想郷を徘徊する。

1人だと寂しくなっちゃうかもだけど、3人も居たら楽しいや。

私達はのんびりと周り、今は迷いの竹林前に来た。

懐かしいような、そうでも無いような、でも、案外そうでも無い気がする。

外の世界に飛び出した日にここに来てたからね。

 

「さて、ここら辺からは妖怪も多い地帯ですからね。

 一応、危害を加えてくる奴は居ないでしょうが警戒しましょう」

「なんでそう言いきれるんですか?」

「愚問ですね、烏天狗に白狼天狗、更には狼の半獣。

 これだけが揃っているメンバーにちょっかいを出す奴は

 精々妖精くらいですよ」

「妖精はちょっかいを出してくるんですね」

「まぁ、あいつらは馬鹿ですからね」

「ハッキリ言うなぁ…」

「事実です」

 

妖精はチルノさんくらいにしか出会ってない気がする。

そう言えば、攻撃をしてきた妖精も居たような、居ないような。

でも、あまり攻撃はしてこない。

 

「…ん?」

 

何か気配を感じ、私はその方向を振り向いて見た。

 

「どうしました?」

「いえ…ただ、そこに誰か居ますね」

「あやや、その通りですね」

「はぁ!」

 

椛さんが私が指差した場所に向けて斬撃を飛ばす。

そんな事出来るんだ、流石妖怪。

 

「うわぁ!」

 

斬撃が当った竹は斬れて、裏に隠れていた人が姿を見せた。

長いストレートの黒髪で狼の耳が小さく生えていて赤い爪が生えている。

あまり長くないから、攻撃には向かないかと思うけど鋭そうだ。

服は赤・白・黒からなる三色のドレスだった。

スカートは赤いロングスカートで縁に黒いフリフリが付いていた。

 

「うぅ、ま、まさかバレるとは」

「あやや、あなたは草の根妖怪の影狼さんですね」

「草の根って言うな! いや、確かに草の根ネットワークに参加してるけど」

「草の根ネットワークとは何ですか?」

「えっと、力があまり無い妖怪が集まって色々とする組織で」

「…力が余り無い、私も入れるんでしょうか」

「フィルさん、弱い者いじめはよくありませんよ」

「はい、全くその通りです」

「え?」

「え? その子、見た目以上に強かったりするの?」

「まぁ強いですね、もし例の異変の時彼女がいたらどうなってたのかしら」

「例の異変って?」

「確か妖怪が凶暴化して道具が勝手に動いたあの異変でしたっけ」

「そうそう、その場にフィルさんがいて、凶暴化してたら…

 何故かしら、鳥肌が止まらないわ、鳥だけに」

「文さん、あなたは烏です、そしてそのギャグは寒いです」

「…まぁ良いわ! ギャグは私のキャラじゃ無いしね。

 とりあえずその時にフィルさんが居て暴れていたら一大事ね」

「異変の黒幕よりも苦戦しそうですね」

「なんで私はそんなに評価されているんでしょうか」

「自覚をしてくださいよ、私は色々と知ってるんですから」

 

……私って、結構強いのかな。

 

「でもなぁ、この子が草の根妖怪ネットワークに参加してくれるのは嬉しいんだけど。

 だって、そんなに強いなら有事の時に色々と」

「止めてください、洒落になりませんから、巫女が動きますよ。

 後、意地でも賢者が止めに来ます」

「賢者が動くレベルなの!?」

「まぁ、動くでしょうね、彼女が動けば」

「その子、何者よ…見た目はそんなに強く無さそうなのに。

 何か姫みたく、虫も殺せそうに無いほどに大人しそうなのに」

「姫?」

「わかさぎですか?」

「まぁ、合ってるけど、姫って呼んであげて、わかさぎって魚の名前だし」

「と言うか、あの妖怪はわかさぎなのですか? 見た目はまるで違いますが」

「いや、それを言ったら烏であるあなたも原型無いわよ」

「まぁ、妖怪なんてそんな物ですかね」

 

…わかさぎって美味しそうだなぁ、そのお姫様なら大きいのかな。

大きいなら、沢山食べられるかも知れない、天ぷらにしたり刺身にしたり。

 

「……大きいんですか?」

「え? まぁ、大きいわね」

 

大きい…沢山食べられるのかな、えへへ。

 

「フィルさん、涎出ていますよ」

「あ! ごめんなさい、天ぷらの事を考えていました」

「なんで姫の話から天ぷら!? いや、私も食べようとしたことはあるけど」

「刺身にしましたか?」

「い、いや、食べてないわよ、食べてない、かじっただけ」

「美味しかったですか?」

「そうね、焼いたら美味しいかもと思ったわ」

「じゃあ、焼きに行きましょう」

「えぇ!?」

「天ぷらにして食べるのです!」

「ま、待って! 姫はあれよ!? わかさぎじゃ無いわよ!?

 妖怪よ!? 人魚! そう人魚なの! 美味しそうだけど人魚なの!」

「…じゃあ、上半身は人間なんですか?」

「そ、そうそう、人間と同じ容姿、だから食べられないわ、多分」

「そうですか…」

 

うぅ、わかさぎの天ぷらを食べたかった。

幻想郷に来て魚料理はあまり食べないからなぁ。

だから、外の世界では色々と食べられて美味しかった。

魚が食べたかったんだけど、無理な物は仕方ないかぁ。

 

「フィルさんはかなり食いしん坊ですね」

「はい、私は沢山食べますよ!」

「太りませんか?」

「……う、運動します」

「運動は自然としてると思いますがね。

 しかし、こう見ると私の場違い感がすごいですね」

「どう言うことですか?」

「いえ、狼の半獣、白狼天狗、狼女…ここまで狼が揃うと

 私の様な烏天狗は肩身が狭いのですよ」

「狼トリオですね」

「漫才でもするんですか?」

「はいはいどうも! 狼女の今泉影狼です!」

「え? あ、半獣のフィルです!」

「え? そう言うノリですか!?」

「ジー……」

「うぅ、は、白狼天狗の犬走椛です!」

「じゃーん!」

 

影狼さんに引っ張られて、同じポーズをした。

椛さんも同じく、顔を真っ赤にしながらポーズを取る。

 

「ふふふ、これはこれは」

 

そんな私達をカメラで撮影しようと何処からかカメラを素早く出す。

椛さんが反応し、それを取り押さえる前に私が取り押さえた。

 

「あやや!」

「さ、流石に…ねぇ」

「しょ、初動が見えなかったんですが?」

「え!? 何あの子滅茶苦茶速いんだけど!?」

「文さん、さ、流石にこれを撮るというのは侮辱行為ですよ」

「あ、あやや、し、新聞記者の前でその様な事をすれば

 当然反応しますよ…と言うか、異常に速いですね

 私でも反応出来ないほどに速いとは…幻想郷最速の名が泣きますよ

 しかも、椛より後に反応してこの速度ですしね」

「私が速いのは地上だけです」

「さっきまでフィルさんが居た場所は地面が抉れてます」

「…この子、自分で弱いとか言ってた癖に化け物ね」

「そりゃあもう、私でも相手にしたくないほどに強いのですよ。

 そ、それで、そ、そろそろ手を離して貰えませんか?

 ほら、私の手を見てください、少し血色が」

「あ、ごめんなさい」

 

少し強く握りすぎたみたい。

 

「おぉ、痛い痛い、もし私が人間なら骨が折れてましたよ」

「それは流石に言い過ぎです」

「自覚が無い強者というのも中々に厄介ですね

 ふふ、これはますますフィルさんに興味が湧きますよ。

 やはり何かありますね、紫さんが動く理由が」

「はぁ…どうなんでしょう」

「あなたの実力は良く分からないけど、あれね縁を持つのが良いのは分かった。

 とりあえず媚びを売るわ」

「それで良いのか狼女」

「あなたと違って私は弱いから、白狼天狗さん。

 と言う訳で、私の家に来てよ、魚は出せないけどお肉は出せるわ」

「良いんですか!? 影狼さん!」

「姫の話で料理を連想するくらいだから、かなりお腹が空いてるんでしょう?」

「はい! お腹空いてます!」

 

英子さんが寝ちゃったから、ご飯を食べてないんだよね。

人里のお料理屋さんもあいてなかったし。

 

「でも、良いんですか? その、ごちそうになっちゃって」

「良いのよ、あまりないけど食べちゃって」

「しかし、10人分も用意できるのですか?」

「10人分!?」

「フィルさん1人で7人分は行くかなと」

「大丈夫ですよ、本気を出せば100人前でも余裕でいけますけど

 少しでも全然満足できます」

「……桁がおかしいように感じますがねぇ」

「余裕です!」

「それでも出来そうなのがまた恐い…その内

 幻想郷大食い大会でも開いてみましょうかね、霊夢さんに頼んで」

「面白そうですね! その時は是非呼んでください!」

「面白い戦いになりそうです」

「私の家の冷蔵庫、大丈夫かしら」

 

私達はそのまま影狼さんが住んでるという家に移動した。

その家は竹林の中にある小さめの一軒家だった。

屋根は藁で出来ていて、人里の家と大差ない大きさだった。


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