東方半獣録   作:幻想郷のオリオン座

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イーグルラヴィの意地

…やっぱり弾幕勝負が始まるのは仕方ないのかな。

考えてみれば当然だけどね、指揮官だから。

相手は指揮官、中間に位置するわけだからね。

…だけど恐らくこの人は…本気を出すつもりは無いと分かる。

 

「っと」

 

私は鈴瑚さんが展開した弾幕を回避する。

あまり濃い弾幕じゃ無い、いや、結構濃いのだけど

隙間があからさまに見えて、避けるのに苦労はしなかった。

 

「そこだ!」

「うわぉ!」

 

私のショットを食らった鈴瑚さんは少しぐらつく。

でも、微かに頬をかすめただけでそこまで強打ではない。

 

「…へへ」

 

だけど、その頬から僅かに血が垂れる、殺傷能力は無いはずだけど

擦る場合だと血が出るのかも知れない。

私の弾幕は切断系なのかな、爪での攻撃なんだから。

 

「これは楽しめそうだね、地上人も侮れないや」

 

鈴瑚さんはその血を払い飛ばし、楽しそうに笑った。

あの人はこの勝負を楽しんでいる…一撃必殺のこの勝負を。

 

「そうだな、私達だけの間でルールを1つ決めよう」

「ルール?」

「あぁそうだ、あなたも私も、どちらか弾が1回でも直撃しただけで決着だ。

 接近戦の場合は防御が無く、思いっきり入った場合を敗北とする。

 負けた方は…まぁ、大人しく諦めるってのが無難かな。

 あなたが負ければ月へ向うのを諦めて地上に戻る。

 私が負ければ敗北を認め、あなたを月へ向う通路に連れて行く。

 どうだい? お互いにメリットがあるだろう?」

「…あなたの方はあまりメリットがあるようには思えませんが。

 さっき聞いた話では、あなたは月に疑問を持っている。

 そして、私を月へ送るのをやぶさかでは無いと言っていた。

 …こうなると予想できるのは、あなたは私を月へ向わせ、月の状況を調査させて

 その結果を知りたいと思っているのでしょう?

 自分で動くのは危険だからと感じて…私を利用しようとしてる」

「…良い考察だ、良い勘してるねぇ、やれやれ、侮れないや。

 清蘭とか他の玉兎なら絶対にそんな風には思わないよ。

 やれやれ、地上人ってのは察しも良くて恐いや」

「だったら、あなたにメリットは」

「だけど、何処か抜けてるね、私の場合のメリットだが

 あなたを利用しる価値があるかどうかを見定めることさ。

 利用したとしても、私程度にやられるような雑魚じゃ役に立たないしね」

「…その場合だと、メリットデメリットとか、そう言う感じじゃ無く。

 ただの試験ですね」

「そうなるね」

 

どっちにしても、メリットもデメリットも無いわけかな。

これは試験…合格できなきゃ、そもそも月へ行く資格も無いって事だ。

なら、合格しないといけないよね、合格しないと。

 

「さてさて、始めようか…一撃だ、一撃入れば勝負が決る

 当らない様に気を付けなよ! 

 元より、あなたに被弾の二文字は許されないけど!」 兎符「ベリーベリーダンゴ」

 

周囲に小粒の弾幕を2種類展開してきた、と言うか、団子なんだね。

ランダム性が高い弾幕……だけど、これは私が得意とするタイプだ。

 

「このタイプは私が得意とするタイプですよ!」

「おっと」

 

私も同じ様に弾幕を展開した。

高速で弾幕を放つのも良いけど、これはお互い一撃の勝負。

幻想郷のルールでは解決側と異変側で弾幕の種類が変る。

だけど、今は違う…今は両方異変側としての弾幕を使うんだ。

私の弾幕は今まで勉強してきた弾幕を総合した弾幕。

周囲に引掻いた様な弾幕を展開して動きを制限しての攻撃。

 

「ふふん、良いね」

「行きます!」束縛「小さな鎖」

「およ?」

 

解決側だった場合は相手を鎖で拘束しての攻撃だけど

今回は異変側、だから、この弾幕は少し変った。

私と鈴瑚さんの間に集まるように、周囲から弾幕が展開。

そして、少しの間だ沈黙する。

 

「りゃ!」

「うひゃぁ」

 

最初に展開した弾幕を断つように爪の弾幕が初期弾幕の上を走る。

その爪弾幕の狙いは鈴瑚さんだけど、その前に何処を攻撃するかを指示する。

で、爪弾幕が接触した箇所が素早く動き、ランダムに飛び散る弾幕。

フランお嬢様のカゴメカゴメを元にした弾幕だからね。

だけど、この場合は2重の行動制限になる。

カゴメカゴメはもっと行動を制限させた弾幕だけど

この弾幕との違いは素早さだ、弾幕が動く速度も

弾幕を動かすための弾幕の速度も大分違う。

フランお嬢様の場合は大きな弾幕がゆっくりと相手に向って

その間に接触した弾幕がゆっくりと動き出す弾幕。

だけど、今回の場合は最初に宣告、そこに爪弾幕が瞬時に展開。

接触した箇所が素早くランダムに散らばる。

行動制限はあまり広範囲では無いけど素早さを重視した結果でもある。

 

「ち、力強い弾幕だね、何カ所か擦ったよ、今度はこっちだ!」兎符「ダンゴインフリューエンス」

 

やっぱり団子なんだ…でも、これは中々にしんどいかも知れない。

最初に展開される弾幕の数が多い…隙間はあるけど。

 

「それ」

 

鈴瑚さんが両手を挙げると、彼女を中心にして、周囲に中粒弾幕が飛んで来た。

普通に考えれば、細かい弾幕を避けている間に攻撃をする為の弾幕。

だけど、その弾幕は通った箇所の弾幕を引っ付けて飛んで来た。

 

「っと」

 

お陰で弾幕に大きな隙間が出来た、私は中粒の弾幕を回避して

すぐにその隙間から鈴瑚さんに接近してショットを打つ。

 

「危ないなぁ」

 

だけど、私の弾幕は当らない…避けるのが上手い。

同時に後ろの方から妙な音がして振り向いて見ると

さっきまで飛んでいた弾幕はそこには無く

あるのは小粒の弾幕…もしかして、さっきの引っ付いてた弾幕が爆発した?

じゃあ、あの弾幕は…だけど、この密度なら避けられる!

 

「っととと!」

「後方に下がっていたら食らうと思ったんだけど、むしろ近付いてくるとはね

 でも、今度は下がるしか無いよ!」

 

またもう一度最初と同じ様に弾幕を展開させる。

私もさっきと同じ様に動いた。

だけど、違ったのはその後の行動。

 

「はぁ!」

 

私はその隙間から一気に鈴瑚さんに接近した。

 

「うわ!」

 

鈴瑚さんは私の攻撃を流す、今までこれは無かった!

 

「甘いね! 接近戦が得意なのはあなただけじゃ無いよ!」

 

私の攻撃を流すと同時に背後からの攻撃を仕掛けてきた。

私は空中だと言う事を利用して、そのまま身体を縦に回転させ

鈴瑚さんの攻撃を足で弾いた。

 

「げ!」

「甘いのはそっちですよ!」

 

逆さまの体勢になり、鈴瑚さんに向って全力の弾幕を撃つ。

 

「うぐぅ!」

 

鈴瑚さんはギリギリでその弾幕を回避したけど、バランスが崩れた。

 

「そこ!」

「くぅ!」

 

そのまま1回転して、鈴瑚さんに向って急接近、更に追撃を仕掛ける。

鈴瑚さんは何度か私の攻撃を防いだり流したりしている。

この動きは…何処かで…でも、私には記憶は無いはず。

そのはずなのに、私の体はゆっくりとその攻撃に対して適応していく

今まで結構成長をしていたりするけど、今回は成長とは違う感覚だった。

 

「うぅ! まさか私の格闘術にここまで速く反応してくるとはね」

「はぁ!」

「う!」

 

鈴瑚さんが流し損ねた攻撃の後、すぐに身体を捻って鈴瑚さんに回し蹴りをした。

鈴瑚さんはその攻撃を辛うじて手で防ぎ、同時に私から距離を取った。

だけど、それは私も分かってたことだし、距離を取ったと言うよりは

私が距離を取らせたという方が正しいのかもね、吹き飛ばすようにしたんだから。

 

「これでどうですか!?」狼符「狼娘の狩りごっこ」

 

このスペルカードは一気に間合いを詰めて攻撃をする追撃スペル。

解決側なら瞬間的に動いて相手に攻撃を仕掛けるスペルカードだけど

今回はまだ避けられる速度で移動する。

 

「体当たりって、能が無いね」

「ワンパターンって、ワンパターン以外があったら避けにくいんですよ?」

「な、うわぁ!」

 

異変側では相手の近くに移動してその足下から弾幕を飛ばす。

地上で着地の勢いで周囲が飛ばされるってイメージだけど

今回は地上だし、あまり迫力は無いかも知れないね。

でも、花火みたいに見えるかな。

 

「う、うぅ!」

 

鈴瑚さんはこの不意打ちを受けて、流石に回避出来なく被弾した。

同時にフラフラと仰け反り、笑いながら空中で再び胡座をかいた。

 

「あはは、負けた負けた、本当は後1枚はあったんだけど

 使う前に負けちゃったよ…でもまぁ、楽しかったね。

 しかし、結構格闘技術があるんだ、行動は滅茶苦茶だけど

 柔軟性に富んでいる…技術があれば化けるのに残念だ。

 いや、それでも負けたんだし既に1級以上の実力だね。

 玉兎の中でも最高レベルだ…ま、雑魚の兎と比べられちゃったら

 あなたも不本意かも知れないけどね」

「いえ、とても名誉な事です…ありがとうございました」

「…そうだね、君なら問題は無いだろう…もうすでに大体察しは付いてるみたいだけど

 頼むよ…月の調査、あまり好きでは無い場所だけど、一応母国見たな物でね

 まぁ、帰るつもりは無いが、ま、助けてやってくれよ。

 一応、私の同僚もいることだし」

「分かりました、私に何が出来るかは分かりませんが、やれることはやります」

「ま、同僚もあまり興味は無いんだけどね、実を言うと真実を知りたいだけさ。

 最強にして不変都市に何が起こったのか…変化を否定した都に生じた変化。

 ……ま、一介の兎如きが知るべき話では無いかもだけどね。

 それじゃあ、行ってらっしゃいな、真実、教えておくれよ!」

 

彼女がそう言うと、私の目の前が変な空間へと変化した…

さっきまで居たはずの鈴瑚さんは何処にもいない…ここは一体…

でも、進むしか無い、ゴールは知らないけど、進む以外に道は無い。


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