普通がいいと思うのですが!?   作:ニュイン

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前回のあらすじ!

一夏「ほら、見ろよ見ろよ!」
暁人「やめてくれよ……」

箒「いいよ! こいよ!」
暁人「まずいですよ!」

千冬「クラス代表やってくれよ~、頼むよ~」
暁人「えぇ……(困惑)」

多分こんな感じだった。


Action2 若さゆえの過ち

 人というのは第一印象で大体決まる。

 内面的な部分を見るという人もいるかもしれない。だが、そんなもの初対面でわかれというほうが無理な話である。

 付き合う中でその人の性格等を考慮した距離感という目には見えない不確かなものに頼らねばならない。

 するとどうだろう?

 人間関係の取捨選択を間違うだけで面白くもなく、ただただ苦痛な喜劇の出来上がりである。

 

「あぁー……」

 

 昼休みの教室。

 普通なら友人と食事をしながら会話に花を咲かせ、午後の授業を迎えるための小休止に使う時間。

 

「うぁー……ぅぐっ」

 

 憂鬱。

 ただその一つの感情だけが重い枷となり、身体の自由と心の余裕をガリガリと食い潰していく。

 

「あーきーとっ!」

 

「うびゅっ」

 

 机に突っ伏して現実逃避をしていたというのに自分を呼ぶ声した後、何かが背中にのし掛かってきた。

 

「暁人。項垂れてないで一緒にお昼ご飯食べようよ!」

「そうだぞ暁人。午後からの授業が学園内の施設説明とはいえもたないぞ?」

 

 自分が好きでこうしていると思っている変態二人。

 一夏は背中に抱きついたまま、箒はというと弁当箱を手にしている。

 普通にしていればまともに見えるのだから厄介極まりないことこの上ない。

 

「暁人? ……あー! やっぱり僕の隠しきれない魅力に声も出ないんでしょ?」

「あ、暁人……。無視は酷いぞ。いや、これは俗にいう放置プレイというものか! ふふっ、これは……なかなかクルな……」

 

 俺が黙っているのを自分の魅力に言葉を失っていると思っている女装変態野郎と、一種のプレイと勘違いして興奮で身体をクネクネとよじっているドMサムライガール。

 何故こうも自分に都合のよい方向に解釈ができるのか不思議で理解できない。

 

「そ、そんな暁人。駄目だよ、僕達は親友で男同士なんだよ? え! それでもいいって……もうしょうがないなぁ」

「放置プレイの次は亀甲縛りからの目隠し拘束プレイだと! 胸が熱いな……」

「……俺、学食で済ますから」

 

 妄想の世界へと旅立った変態達に別れを告げて教室から出るという賢明な判断をする。

 

 

 

 普通。安寧。

 どれだけ求めても手に入れることができなかった理想。

 簡単だったではないか。

 ひどく遠回りしたがそれだけ達成感はあるというものだ。別にあの二人が嫌いというわけではない。幼馴染であり、大切な友人であるのは間違いない。

 原因は自分にあるのは認めよう。負い目を感じ軌道修正はした、何度も何度もだ。初期よりも酷くなるのはどう考えてもおかしい。

 

「クソがっ!」

 

 自分の不甲斐なさ、ぶつけようのない苛立ちを吐き出すように握り拳をテーブルに叩きつける。

 折角学食のおばちゃんが作ってくれた旨い食事に、水を差すわけにはいかないと頭をふり気持ちを落ち着かせる。

 

「……それでオルコット。何でお前は俺の目の前にいるんだよ」

「お気になさらなくて結構ですので。さぁ、わたくしのことは居ない者として食事を続けてください」

 

 無視するのは到底無理というものだ。

 オルコットはテーブルを挟んで自分の対面に座っているのにも関わらず塩と水を持ち、俺のミックスフライ定食を涎を滝のように垂れ流しながらガン見しているからだ。

 

「なぁ、オルコット。一口食べるか?」

「よよよよ、よろしいんですの!?」

 

 別に哀れみで譲渡するわけではない。ただ、あまりにも血走った目で見ていて怖かったからだ。

 カツを一切れオルコットの目の前に持っていくと淑女とは思えない程の大きな口を開けて待ち構える。

 涙を流しながらモキュモキュと頬を膨らませて咀嚼する様は可愛いとは思う。だが、それでいいのか英国貴族。

 

「お嬢様、私はとても悲しい気持ちで一杯です」

「んぐ! んぐぐぅ!」

「弁明は後程伺います。お仕置きが終わったら、ですが」

「んぐぐ! んぐ、んぐ、んぐぐー!」

 

 金髪のハムスターは突如現れたメイドのブランケットに首根っこを捕まれドナドナされていった。

 

「ねえねえ~ちょっといいかな~?」

「はい?」

 

 呼ぶ声に振り返ると袖がだいぶ余った制服を着た女生徒が一人ケーキセットを持って立っていた。

 

「ここ、いいかな~?」

「あ、ああどうぞ……」

 

 自分の隣に座ると持ってきたケーキセットを食べ始める。

 残すはショートケーキの苺だけとなったころ、隣の女生徒が不意にこちらに身体ごと向く。

 

「そういえば私達って~同じクラスだよね~」

「そ、そうだったけか?」

「む~。酷いよ~」

 

 ぷくー、と頬を膨らませて怒ってますという意思表示をするがどうにも名前がわからない。

 自己紹介の時は一夏と箒に加え、職業が不明だった千冬さんが担任だったことがショックでまともに聞いていなかった自分が悪いのだから仕方ない。

 

「布仏本音だよ~。ちゃんと覚えてよ~これからよろしくするんだから~」

「あはは……悪い……」

 

 なかなか名前を言ってこない自分に痺れを切らした布仏が自己紹介してくれたが、本当に困った。

 そっぽを向いたままの彼女はまだ怒っているだろう。

 

「あー……布仏ってショートケーキの苺は最後に食べる派なのか?」

「ん~。……最後に食べるっていうより~そのまま見るだけかな~」

「え! そのまま……見る? 食べないのか」

「うん~そのまま~。大事に大事に見るかな~。友達は変だよって言うんだけどね~」

 

 上手く彼女の意識をそらすことができた。なんとも狡いがあのままというのも致し方ない。

 けれど、布仏本音という少女は自分の周りで見れば普通の女の子だ。苺を最後に食べるのではなく見るだけで満足する点を除けば、だが。

 山田先生を含め、久しぶりのまともな人物との邂逅で油断したのだろう。

 ましてや同年代の異性ということもあって間違ってしまったーー己の選択で起こることをーーそれは蟻地獄に落ちていくように。

 

「いや、変じゃないだろ。可愛いと俺は思うけどなぁ」

「本当かな~?」

「本当だって。女の子らしくていいし、布仏みたいな可愛い子が“彼女”だったら俺は嬉しいけどな! ……なあんてな!」

「…………」

 

 昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。

 周りを見るとぞろぞろと他の生徒は席を離れて教室へと向かっている。

 

「布仏。チャイム鳴ったし俺達もーー」

「本音」

「え? 布仏どうした……っ!」

 

 最後まで言葉を言い切れなかった。

 彼女の瞳を見て身体が金縛りにあったような感覚に陥る。

 

「あ、や、えっと……」

「“本音”って、名前で呼んでアキくん?」

「痛っ!」

 

 痛みを感じた右腕を見ると、爪が食い込むのではという程に布仏の両手がっしりと捕まれていた。

 

「何をしている七星。もし遅刻してみろ楽しい個人指導が待っているぞ?」

「す、すんません織斑先生! 先に行ってるからな布仏!」

「…………」

「ん? 布仏、貴様も遅れないように急げよ」

「……はい」

 

 千冬さんの個人指導が嫌で、無理やり腕の拘束を抜けて俺は教室に向かった。

 後ろを振り向かずに一直線に。

 

 

 

 放課後。

 長く、とてつもなく濃い一日。後は暖かい布団の中で現実逃避をしたくてたまらない。

 

「暁人! 放課後だ、部活だ、剣道場に行くぞ!」

「ちょっと箒! 暁人は僕と一緒に放課後デートの約束してるんだから邪魔しないでよ!」

 

 一夏と箒は俺の目の前で取っ組み合いの喧嘩を始める。

 何で現実はこうも残酷なのか。

 不幸中の幸いなのは二人が午後の授業開始までトリップしていて、千冬さんの鉄拳によって昼休みの記憶が飛んだことで急に居なくなったのを追及されずに済んだ。そのせいか二人の記憶は自分に都合のいいものへと書き換えられていた。

 

「今日は疲れたから二人とも今度な、今度」

「うー……わかった」

「ふむ……仕方ないな。では暁人、明日の朝に剣道場で稽古だからな」

「了解」

 

 二人の喧嘩が終わったので教室から出た瞬間、千冬さんと山田先生に鉢合わせする。

 

「織斑くん、七星くん! まだ帰ってなくてよかったです」

「どうかしたんですか山田先生?」

「それはですねーー」

「諸事情により貴様ら二人は自宅通学ではなく、学園内の寮に入ってもらう。……生活用品などは既に部屋に届けておいたから安心しろ」

 

 千冬さん、山田先生の言葉を遮ってまで言わなくてもいいじゃないっすか。

 ほら、山田先生を見てください。涙目でプルプルしながらスカートを掴んでるから!

 

「千冬姉ーーじゃなくて織斑先生!」

「何だ織斑?」

「僕は暁人と同じ部屋ですか?」

「違う。……それと篠ノ之、お前でもないぞ。というより織斑と篠ノ之が同室だからな」

 

 一夏と箒がああだのこうだのと、いまだに抗議しているがラッキーだ。

 俺は小さく誰にも見えないようにガッツポーズをする。

 想像しよう。

 どちらかでも一緒の部屋になっていたら十中八九いや、確実に発狂していただろう。

 

「あの、七星くん?」

「はい! 山田先生何ですか?」

「これが七星くんの部屋の鍵ですので無くさないでくださいね。それと、くれぐれも同室の人には迷惑をかけないこと以上です。それじゃあまた明日」

「はい! ……はい?」

 

 それだけを言うと山田先生は去っていき、一夏と箒は千冬さんに引きずられながら遠くへと消えていっていた。

 

 

 渡された鍵に記された番号の部屋に来てみたが、正直不安しかない。

 一人部屋だと思っていたのにまさかの同室の人がいる。

 ここはIS学園。俺と一夏を除けば他は全員女子というハーレムのような状況。

 

「ヤバい……冗談抜きでヤバい」

 

 思春期男子の性欲を舐めないでほしい。

 下手をすればドアの鍵穴でも欲情できるどうしようもないエロの魔神だというのに。

 

「マジでどうすっかな。……とりあえず入るか」

 

 部屋に足を踏み入れると、部屋は電気が点けられておらずまだ同室の人は帰っていないと予想する。

 手探りで進むと左手にスイッチらしき感触があったので押すと部屋に電気が点いてよく見える。やはりというか自分の他には誰もいなかった。

 

「待ってたよ~ア・キ・く・ん」

「っ!?」

 

 誰もいなかった。

 確認もしたーー自分以外の人間はいない筈だった。

 声が聞こえた。

 自分の背後から最近聞いたことがあるーーやけに間延びした少女の声を。

 

「んぐぐ!」

「暴れてもだめ~。でもビックリしたよ~同室の人がアキくんだなんて~」

 

 反応なんてできなかった。

 気づけばベットの上に押し倒されていた。さらに口の奥までハンカチを捩じ込まれ、両手を頭の上で拘束されている。

 全力で抵抗しているのに彼女ーー布仏本音は左手一本で押さえつけている。

 

「私ね~嬉しかったんだよ~。周りからは変わってるとか言われてるのにアキくんは私を肯定してくれた」

「んぐ、んぐぐ! んぐぐぐ!」

「それに~アキくんは言ってくれたでしょ~?」

「ん、んぐ!?」

「私を~『彼女』にしたいって~」

 

 見てしまった。彼女の瞳を。

 どこまでも暗く、淀みきった眼を。

 それは俺の存在しか映していない。

 

「ふふふ~。ア~キ~く~ん」

 

 彼女は俺の上に乗りながら右の人差し指で円を描くように胸板をなぞっては笑みを浮かべるだけ。

 男というのはどうしようもない生き物だ。

 女の子特有の甘い香り、柔らかさによって微弱な電流が終始身体を駆け巡っている。

 ふと、冷静な部分が答えを出してしまった。

 彼女にとって今の俺はショートケーキの苺なのだと。




七星暁人……ショートケーキの苺。

織斑一夏……ホモではない。ただ暁人が好きなだけ。

篠ノ之箒……放置プレイ、拘束からの目隠しプレイもバッチこい。

セシリア・オルコット……強く生きろっ!

チェルシー・ブランケット……拷問はしません。ただO☆HA☆NA☆SIするだけです。

織斑千冬……愛の鉄拳制裁。

山田真耶……チワワ。小動物。可愛い。

布仏本音……綺麗な花には棘がある。

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