取扱説明書をください   作:独辛

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劣等生とクロスさせた理由は作者が今読んでるから。


継承

人間、身の丈にあった生活が1番いいと思う。使い切らない財産があったって死んであの世に持ってけるわけないし。他者を圧倒する武力や権力があったって、結局は争いの火種となって潰されるのを歴史が証明している。そもそも、そういう力や財力なんてのは、使いこなせる能力があってこそ初めて効力を発揮するものであって常人に使いこなせるものじゃない。

 

でも望まなくても手にする人もいる。持っていたくなくても持たざる得ない人もいる。それに成り行きで手にしたら人だっているはずだ。必ずしも望んだ人の手に結果が来るとは限らない。

 

僕は願うんだ。

 

 

 

 

 

どうか、どうかせめて。

 

 

使い方を教えてほしい。

 

 

 

 

 

この世界には魔法があるらしい。なんでも世界に多く存在するわけではないが、それでも一定数存在する彼らは普通の人とは離れた特異な現象を起こす力ーーーーすなわち魔法を使うという。

魔法、なんてロマン溢れる響きだろうか。周りから、やれ愛想がないだの笑わないだの表情筋が死んでいるだの言われるが、そこはやっぱり男の子である。ファンタジーに興奮しないわけがない。

 

しかし何故今そんな話を?

 

「それはね、籠目。貴方が一族の継承者になるからよ」

 

なにそれ知らない。聞いてない。

というより一族って、え? 待ってほしい。なにその2次元にありそうな設定。少しワクワクしてきた僕を許してほしい。

けれどそんな心踊る設定をどうして今まで隠していたのだろうか。

「初代様との誓いなの。一族の血を受け継ぐ本家の十を迎えた子供。後継者に生誕の日に継承するべしってね」

 

知らない単語が多くてイマイチ理解できないが、まあいいだろう。大事なのは僕がそのナニカを受け継ぐという点のみ。なにか主人公みたいでカッコいいじゃないか。しかしそうなると最初に教えられた魔法といい、もしかしてそれ関連の特殊な力を?

 

「ふふ、それもあるわ。けど、もっと凄いものよ」

 

もっと凄いもの。そういう単語に弱い僕をどうか責めないでもらいたい。だってしょうがないじゃないか、子供なんだもの。

 

「ほら、お父さんが待ってるわ。早く行きましょ」

 

優しく繋がれたら手を握り返すと、少しだけ興奮が収まった。けれど僕の心臓は鼓動の回転を緩めることなく、これまでにないほどの速度で脈打っていた。

僕の部屋を出て廊下を真っ直ぐに歩く。その先端、普段なら行き止まりの壁しかないところに、今日は襖があった。

どうやら僕の家はからくり屋敷だったらしい。どうしよう、テンションの上昇が止まらない。

 

ゆっくりと襖を開くと、中に父さんがいた。普段着ているリーマンスーツとは違う袴姿。いつまであれば似合ってないだのと軽口を叩くのだが、今はそんな気になれないほどに似合っていた。

空気が澄んでいる。冷たく、涼しげであり、どこか心地いい。

「前に来こい。そう、そこで止まれ」

 

言われた通りに進み、止まる。その場所には白い陣のようなものが描かれていた。

「うむ、これより継承式を執り行う。とはいえ、そう形式張ったものではない。本来ならこんなこともしなくていいのだが、今日はお前の誕生日ということで頑張ってみた。どうだ?」

最高です。めっちゃわくわくしましたありがとうございます。

「そうか、そう言ってくれるとここまで準備した甲斐がある」

照れたように鼻をこする父さんを横目に辺りを見渡す。さっきこの部屋を使う必要はないとか言っていたが、であるならここはなんなのか。

 

「ああ、それか。ここは試験場だよ。ま、詳しいことは継承式を終えればわかる。とっとと終わらせるぞ」

 

そう言って何故だか父親が目の前まで歩いてきて、あまつさえ僕の顔に自分の顔を接近させてきた。

ちょっと待ってしほしい。さっきまでの高揚した気持ちが全て凍結してしまうほどに震えてくる。

「ちょ、暴れるなって。すぐ済むからさ、な?」

暴れるでしょう。暴れないとか無理があるでしょう。年を考えてほしい。これでももう小学校高学年一歩手前の思春期突入したての男児。もう親とはいえど男にチッスなんてされたくない。抵抗ぐらいするでしょう。

しかし現実は残酷かな。子供の腕力で大人に勝てるわけもなく、徐々に父さんの唇が近づいてきて…………。

 

 

目を開ける。なにやら悪い夢を見ていた気がする。

ぼんやりとした意識で起き上がると、少し服が重く感じた。それもそのはずでかなりの汗をかいており、吸収した服が重さを増していたみたいだ。

「あら、起きた?」

着替えている物音で気づいたのか母さんがやってきて僕は姿をまた後にタオルを持ってきて拭いてくれた。

「よし、これで大丈夫ね。で、覚えてるわね?」

何を?とは言えなかった。そのかわりやっぱりあれは夢ではなかったのかと絶望したくなった。初めてのチッスが父親。まぁ、みんな経験してるんだろうけどさ。

「ほら、居間でお父さんが」

ビクっ、と震えてしまった。僕は悪くない、そう思いたい。

そんな僕に苦笑いを浮かべながら母さんは優しく手を引いて連行する。

「大丈夫よ。もうアレはないから」

そう思いたい。信じていいよね? ほんとだよね?

 

「ええ、大丈夫。お母さんを信じなさい」

うん、信じたい。でもあの時貴方、笑ってましたよね?

 

 

「来たか。ま、座れ」

いつものリビング。取り敢えず年中出しっ放しにしてあるコタツに入りぬくぬくする。

「変わったところはないか?」

唇以外は。

「あ、あー。そうじゃない。なんかこう、超能力みたいなかんじかのやつ」

なにやら結構真剣な感じの顔で言われる。けれどそう言われても。あら? え? うそ?

何か、頭の中にズラリとコンソールの様なものが開かれる。こう、意識するとズラーッと。その中の1つ1つに独特なネーミングセンスの技名みたいなのが書かれているのが、理解できた。

「視えたか?」

視えた。

なんだかこう言った会話1つに溢れんばかりのロマンを感じてしまう。

しかしこれはいったいなんなのか。おそらくさっきの忘れたい記憶に関係があるのだろうが。

「お前が勘付いているように、それが一族の秘術であり門外不出の力だ」

 

なんでも父さんの話によると、初代様と呼ばれるこの一族の先祖が自らの力を後世に残すために始めたのがこの継承式らしい。その力は初代様しか使うことは許されず、他に類を見ない特異な力であったとか。

ここまできいてアレそれ魔法のことじゃない? と思ったら違うらしい。

それは”スキル”といって特出した才能や個性を超常的な位置まで昇華させたものらしい。その使い勝手はかなり良く、魔法には魔力というエネルギーが必要である。と、いったようにそもそもの原動力となるものを使用しない。強いていうならば自らの体力と相談するということぐらい。よって初代様から受け継いだこの技能を使い、一族は代々繁栄していたという。

しかしここで1つ問題が起きる。初代様から直接受け継いだ先祖は、スキルの概要を詳しく聞けた。1つ1つの能力を詳しく教えてもらい丁寧に分析したという。その人は研究者気質の人だったらしく1つのスキルをおよそ一月からニ月ほどかけて研究していた。

しかし圧倒的に時間が足りなかった。

初代様が持つスキルの総数。それは。

 

 

1京2858兆0519億6763万3865個

 

 

無理である。命がいくらあっても足りない。さらに運が悪いことに死を回避するスキルを知ることなくこの人はこの世を去る。

その後代々力は受け継がれていったが、そのスキルの使い方の知識は徐々に減っていき、今ではほぼ全てのスキルの概要が謎である。

と、言われた。

 

ちなみにであるが、代々受け継いだ者は生涯に渡り1つのスキルを生み出さなくてはならないらしい。これも初代様との約束だとか。

加えて、本来なら継承式を終えた先代はスキルを使えなくなる筈であるがこの自らが生み出したスキルのみは永続的に使用可能となる。

 

と、いうことは父さんにもなんらかのスキルがあるということでは?

 

「ああ、あるぞ。俺のスキルは〈反指令/リフレクトステートメント〉だ。ま、言ってしまえば自分が放った発言が、自分を縛る鎖になるってとこかな」

 

父さんの癖に中々カッコいい能力。侮れない。しかしどうやってスキルは作るのか。

 

「自分の人生を変える様な出会いや経験が、一族の血と共鳴した時にできる。とかなんとか言われてるけど、俺ん時は気付いたらあった」

 

そんな適当なと呆れたが、まぁそんなものかとも納得した。世に残る伝承の悉くが事実不明のものばかり、うちのもそれと同じなのだろう。歴史とは色褪せていくものである。

 

さて、ここで1つ。

 

父さんはあまりスキルに関心がなく、ほとんど先代、つまり祖母からなにもきいていないらしい。ならばと祖母に聞こうにもすでに他界している。やはり頼みの綱は父さんしかいなく、本当に知らないのかと聞くと。

 

「いやぁ、その頃母さん口説くために必死に魔法のこと勉強してたから」

全部忘れた。そうほざく父さんはやはり父さんだった。本当にここぞという時に使い物にならない。

 

僕は父さんとは違う。この力を使いたい。だって素晴らしいじゃないか。これがあれば家でギリギリまで寝れるし、登校だって一瞬でできる。もしかしたら学校に行かなくても行ったことにできるスキルもあるかもしれない。それにスキルなんてワクワクする。こんなものを手にしたら誰だって使って見たくなるだろう。

 

僕は天才じゃない。成績だってあまり良くない。

 

けれど主人公に憧れる。

 

これはいけないことだろうか。身の丈に会っってないのはわかっている。過ぎた力だと理解もしている。本当なら父さんみたいに現代に合った力を使っているのが1番なのかもしれない。けれど俺はこの力を腐らせたくはなかった。正直に言えば使いたかった。この世で僕しか持っていない唯一無二の力。憧れた才能がここにある。主人公になれるかもしれない可能性。

 

だからどうか、どうか誰か。

 

 

使い方を教えてほしい。

 

 

これは最強になれる能力を持つ普通の心根の少年の、どこか主人公になりきれない物語。




名前は 安心院 籠目 です。



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