いつも通り授業を終えたその日の帰り、不思議な夢を見て警戒をしていたレンはわざわざ夢で出た公園の林を避ける道を選んで帰っていた。
いつもとは違う道、もう3年はこの海鳴市に住むレンだったが、そこまで土地を網羅しているわけではなく今歩いている道は見覚えがなかった。
この道を選んだこと自体は悪くはなかったはずだ。しかし初めての道、レンは猫のように散歩して自分の領土を増やそうと思ってしまった、それが悪かった。
帰り道、レンはその途中に立っていた電柱の元に青い宝石が落ちているのに気付き、興味本位で拾ってしまった。
その青い宝石は長径3cmくらいで中には何か書いてあるようにも見えるがうまく読めない。
気になるレンはまだ昇っている太陽に宝石をかざしながら、その宝石を片目で覗く。
(魔力反応? いや、別のエネルギー体だな)
バシュン!
そんなことを考えた途端、レンの手から宝石が消えた。
「え!?」
周りを見渡すが、誰もいない。いたのは…………。
「カァー!」
黒い、太陽の逆光でさらに黒いカラスだった。彼(彼女?)は見事に青い宝石を爪で掴み空高く飛んでいた。その姿はまるでイカロス。しかしそれじゃあ、あのカラスは落ちてしまうのでやっぱりイカロスではないみたいだ。
「あちゃあ……これはもう無理だな。うん、しょうがない、よし、帰ろう」
魔力反応でなくても、エネルギー体、確実に面倒事に巻き込まれるに決まっている。レンは棒読み気味で諦めてその場を立ち去ろうとした。
「ガァ!!」
しかし、振り返った瞬間、後ろからカラスの苦しむ鳴き声が聞こえた。
(これは、手遅れか)
恐る恐るもう一度振り返る、すると巨大なカラスの口ばしが目の前にあった。
「うおっ!?」
レンは人間とは思えない反射神経で横に転がり、それを避けた。しかし、それでもぎりぎりだったらしく、レンの頬には赤い血が伝った。
(さっきの宝石をカラスが取り込んだ? いや、宝石がカラスの体を奪ったか)
とうとういよいよ面倒事に巻き込まれるしかないとレンは決め込んでポケットから白い勾玉を取り出した。
「ヘラ! 何なんだ、あれ!?」
『正確には分からないよ。でもあれは危険! また来るよ、レン』
レンしかいないはずなのに、レンの声とは別の声がその場に響いた。
ヘラと呼ばれたその声の言う通り、カラスの化け物はまたレンに向かい、降下してきた。
「ヘラ、戦うぞ」
『うん』
カラスの突撃を避けてバックステップをするとともに勾玉が剣に変わり、服装も聖祥の制服から赤いジャケットとジーパンになった。
カラスはもう一度上空へ行き、旋回をしてからまたレンに向かってきた。
「くそ、なんでそんな好戦的なんだよ」
レンは真正面からカラスに斬りかかった。本能的に危機を察知したカラスはそれを躱すために三度上昇する。
「飛ぶ敵、面倒だな」
そう言いながらレンは地面を蹴る。するとレンの体は重力を無視したかのように浮き、カラスの後を追うために飛んだ。
カラスのスピードは鳥ながら早いものだったが、レンはそれに平気な顔で追いついた上に上からカラスの背中を斬りつけた。
「ガッ!」
大ダメージを負ったカラスは落ちていく。しかし、レンの攻撃は止まない。落ちていくカラスの背中――しかも傷の部分に蹴りを入れ、地面に叩き付けた。
短い悲鳴を上げるカラス、レンは追撃の手を緩めず再度、カラスの背中に蹴りを入れる。その顔は特に楽しんでいるわけでもなく、ただ無表情だった。
「これで、終わりだ」
剣を逆手に持ち替え、レンはカラスの首を貫いた。
「ヘラ、これどうしたら元に戻るんだろ?」
『とりあえず壊そう』
「だな」
引き抜いた剣を肩で担いだレンはカラスをじっと見る。その目には悲しみも悦びもなく、唯々その作業を行うだけだと言っているようだ。
数秒、カラスを見つめたレンは一度大きく息を吐き、手に力を入れ、カラスの背中を再度斬りつけた。しかし、その斬撃はカラスの背中だけには止まらず、カラスの胴体を真二つに、地面のアスファルトに深い傷跡を刻んだ。
さすがにアスファルトまで斬るつもりはなかったようで、舞い上がってしまった砂煙に口を押える。一寸先も見えない砂煙の中でレンは目を細めてカラスがいるであろう場所を見る。
「カァ」
砂煙が少し晴れ始めた瞬間、先ほどまでの化け物カラスではなく、最初に宝石を盗もうとした普通のカラスが砂煙から飛び出し空高く飛んで行った。
「カラス自体は死ななかったか、良かった」
空を見上げてカラスの安否を確認したレンは深い傷跡が刻まれた地面を見る。そこには、レンが拾い、カラスに一度奪われた青い宝石が、光を失い、2つに斬られていた。
次々話の『天皇寺雄輝』もしくはもう少し後の話でアリサ、すずかの魔法少女化する予定だったので、次話『黒峰大地』はでき次第投稿します。
魔法関連の説明はまた後日。