戦士の魂は君と共に   作:影のビツケンヌ

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巣の中で ~Masters instruction~

 『先遣隊との連絡が途絶えた』

 

リキッド・スネークことイーライ――キーマンというティーネームがあるが、そう呼ばれることは嫌っている――からの無機質な報告に、聖グロ機甲部隊隊長ダージリンは耳を疑った。リキッドが市街地に送った、サーペントテイルから選出された者も含む十数名の先遣隊と連絡が付かなくなったというのだ。

 

「…攻撃を受けたという報告は?」

『ない。どの隊員も無線に応じない』

「やはり、ソリッド・スネーク…?」

『いや、奴はまだ市街地にはいないだろう。あの烏合の衆を御するのに手一杯な筈』

 

ダージリンが最も恐れていた、ソリッド・スネークこと西住ガイによるものだという線も、自他共にその最大のライバルと認めるリキッド自身が否定してしまった。今自分達が追いかけている大洗機甲部隊、その中のどこかにソリッドはいる――相手は陣形を崩され防戦一方で退却するしかないという状況で、余裕を持って戦える筈なのに、ダージリンは胸騒ぎがしてならなかった。

 

「…指示は出せないけれど、気をつけて」

『そのつもりだ。既に警戒を呼びかけている』

 

 ソリッド・スネークでないのなら、一体何者の仕業だというのか。浮かび上がる疑問を、ダージリンは恥じた。試合前、“どんな相手にも全力を尽くす”と向こうの生徒会長相手に啖呵を切ったというのに、自分の中にはまだ敵を侮っていた節があったらしい。しかしその疑問を、一笑に付すこともできないというのも事実であった。

 

「ダージリン様、ソリッド・スネークという歩兵はそんなに恐ろしい敵なのですか?」

 

無線の内容を聞いていなかった、ダージリンが車長を務めるチャーチルの装填手オレンジペコが、訝しげに尋ねてきた。ソリッド・スネークと呼ばれる以前、唯の西住ガイ(それでも西住という箔は付いている)だった頃のものも含んだ彼の活躍を、尾鰭の付いた眉唾物だとする者も一定数いる。一年生で今年から戦車道を始めたばかりのオレンジペコには、彼の伝説は信じ難いものなのだろう。

 

「そうよ。“装填の隙を突かれ砲口から手榴弾を投げ込まれて戦死判定を受けた”…その被害者が、一年生の時の私とアッサムですもの」

「あのときは肝が冷えたわ。安全装置が働いていなければ、今頃私達の頭には金属の角が生えていたでしょうね」

「えええぇっ?!」

 

砲手アッサムのブラックジョークも、あながち間違いではない。現在戦車道に使用される武器は、その部品全てに特殊なマイクロチップが埋め込まれ、戦車内部ではその攻撃力が発揮されないような安全装置が組み込まれている。ダージリンが経験したような状況では、手榴弾は不発となる代わりに、戦車内部のセンサーで乗員に戦死判定が下り、戦車も撃破された扱いとなる。そうでなければ、車内を跳ね回る弾殻で全身をズタズタにされていた――今でも恐ろしい記憶だ。

 この機能が十年前に導入されたことで、戦車内部への攻撃が限定的ながら解禁されたのだが、これを実用的な戦法とすることができるのは、ソリッド・スネークと称えられた西住ガイしかいないのだ。ある現役の陸軍将校は、歩兵が戦車と一対一で戦って勝てる方法は絶対にないと断言しており、彼の規格外ぶりを現役軍人が認めた事例としてあまりにも有名である。

 閑話休題。

 

「けれど、今市街地にいるのはソリッド・スネークではない…」

「…?」

ヘビ(スネーク)は俺と奴だけではないのかもしれん、ということだ』

 

 『スネーク』の名は、何も部隊章だけからきているのではない。ヘビが音もなく草むらの中を進んでいけるように、ソリッド(ガイ)リキッド(イーライ)も潜入を得意としていた。

 先遣隊に存在を悟られない、文字通りの暗殺。その犯人がソリッドでないのだとすれば、新たなヘビ(スネーク)の誕生をダージリンとリキッドに予見させるには十分だった。

 

 

 

 

 

 オペレーション・イントルードN313の第一次作戦は、西住兄妹の予想を大きく裏切る形での失敗となった。

 聖グロ機甲部隊がほぼ一塊になって移動していた為、キルゾーンへの誘導を担当したAチーム以外の戦車兵達は車外に出て大富豪やバレーボールに興じていられる程の余裕があり、また歩兵の一人からその報告を受けたガイが士気の維持の為敢えてそれを黙認した――勿論戦闘中は真面目にやらせることを条件として――お陰で、強豪校を相手にした初めての練習試合でも緊張することなく作戦を遂行できていた。

 …桃が‘発狂’するまでは。

 

「あんの馬鹿野郎!! 味方撃ってどーすんだよォ!!」

 

接近するIV号を前にするやいなや、突如砲撃を開始した桃につられて他の戦車、対戦車砲もAチームとα分隊に向け誤射してしまい、α分隊はタンクデサントしていたガイ以下四人を除いて一瞬で全滅。追撃する聖グロ機甲部隊に位置を悟られて予想通り逆包囲に遭うばかりか、恐慌状態に陥ったDチームが戦車を捨てて逃げてしまった為にM3も撃破されてしまった。

 半分になった一年生のδ分隊をα分隊に合流させ、火砲の多くを放棄して、生存者一同転がるように市街地に向かっているが、蒼莱の怒りと嘆きの声は止まるところを知らなかった。

 

『終わったことを嘆いても仕方ないだろう、蒼莱』

「元々失敗する作戦なんだ、()()()が重なっても許容するしかない」

「けどよぉ先輩、これじゃ木蓮が可哀想だぜ!?」

「……」

「…何も言わないようだけれど」

「こいつは残月以上に無口なんだよ!!」

 

実は試合開始直前、本来ε分隊所属の木蓮が何故か勝手にα分隊の列に並んだのだ。ガイが何を言っても無言でその場から動こうとしない木蓮に、蒼莱が冗談で「転属願いのつもりなんじゃねえの?」と呟いたところ、彼はそれを首肯した。一年生の時から度を越した主体性のなさで知られ、今でも生徒会で桃の言いなりになっている彼が珍しく自分の意思を見せたことに蒼莱が感動し、必死にガイに頼み込んだことで暫定的に受け入れられたが、そんな彼は自分が守る筈だった戦車にフレンドリーファイアされるという憂き目を見ている。尚その報いとばかりに、38tは履帯が外れて動けなくなり、護衛という名の囮を買って出た榊のε分隊共々置き去りにされた。

 しかしガイは、この状況からでも勝利することはできると確信していた。

 

『…こちら残月。トラップ設置完了。手筈通り、これから残存する全車両に誘導指示を行なう…』

 

残月とバースト通信ができるのは、志朗、英明、美玲が乗る装甲指揮車の他はガイに限られている。残月から入ったバースト通信は、通常無線よりもノイズが少なく、息を殺すような残月の声もはっきりと聞こえた。

 

「わかった。俺達(α分隊)はどうする?」

『リキッド・スネークの相手を頼む。トラップのないルートを残しておいた。それからみほにも、チャーチルを任せたい』

「ああ、伝えておく」

 

 コブラ部隊の隊員達のコードネームは、それぞれが戦場で感じる特別な感情からきている。

 至高の痛み『ザ・ペイン(the Pain)』、江草(えぐさ)駿央(はやお)

 真実の終焉『ジ・エンド(the End)』、伊坂(いさか)脩三(しゅうぞう)

 無限の憤怒『ザ・フューリー(the Fury)』、平井(ひらい)政和(まさかず)

 至純の恐怖『ザ・フィアー(the Fear)』、田村(たむら)徳人(のりひと)

 深淵なる悲哀『ザ・ソロー(the Sorrow)』、堀切隆信。

 無上の歓喜『ザ・ジョイ(the Joy)』、井下(いした)喜理恵。

 残月は隆信が存命していた時からコブラ部隊の面々と親交が深く、野生動物への対処法、カムフラージュ技術、トラップの仕掛け方、爆弾の取り扱い、霊視、近接格闘術をそれぞれから学んだ。特に彼が類い稀な才覚を発揮するIEDの作成・設置技術は、ザ・フューリーとザ・フィアーの影響も大きい。

 コブラ部隊を擁する賢人学園を相手取った黒森峰が、かの爆発事故で賢人学園が消滅するまでの三年間優勝できていたのは奇跡に近い。ザ・フィアーは一年生の時、準決勝で対峙した黒森峰の歩兵部隊にこう言い放ったという。

 

“西住の教え子よ。これから貴様らにまだ見たことのない本当の恐怖を見せてやろう――俺の(ウェブ)の中で!”

 

巣――ネスト(nest)でなくウェブ(web)を選ぶ辺り、逃がす気などさらさらないのだろう。そして、それを受け継いでいるといえる残月も同じ。彼の罠に絡め取られたが最後、恐るべき毒牙の一撃を前になす術もなく敗れ去るのだ。後に残るのは、干からびた亡骸のみ。

 

「さあ切り替えろ。二次作戦が始まるぞ。みほ、ここで一旦分かれよう」

「うん、気を付けてお兄ちゃん!」

 

 市街地の入り口でIV号が減速すると、通信手となった沙織に代わり車長となった総隊長みほに一声かけ、ガイは戦車から降り、後から来たδ分隊のジープに拾われて先を行く。IV号が再度前進し始めたのを見届けてから、彼は分隊員から運転を代わった。

 

――恐怖するがいい。ここはもう、残月の(ウェブ)だ。

 

 

 

 

 

 ジョニーはうんざりしていた。

 

「分隊長、そんな気ィ張らなくたって大丈夫ですよ」

「相手は弱小そのものでしょ?」

「うるさいぞ、静かにしてろ! 先遣隊のこと、リキッドから聞いただろ」

「トイレじゃない?」

「「「ハハハハハハハハハハハハハハハ…」」」

「……」

 

市街地に消えた大洗機甲部隊を捜索・撃破するべく、聖グロ機甲部隊は隊列を解き分散しているが、彼に宛がわれた隊員達のやる気のなさときたらない。

 確かに、県立大洗学園は今年度から戦車道を再興したばかりで、部隊は急造、練度も低く、戦車の塗装には意識の違いが顕著に表れている。安直な作戦といい戦車を捨てて逃げる戦車兵といい、この聖グロリアーナ機甲部隊の敵ではない。リキッドからの()()が来るまでは、ジョニーもそう考えていた。あのソリッド・スネークがいるといえども、バラバラで纏まらない彼らを率いて戦うのは骨だろう、とも。

 問題は、先遣隊と連絡が途絶えても尚、ジョニー率いるこの分隊の隊員達が相手を過小評価していることだ。

 ある意味では、彼らの言い分も尤もだ。常識的に考えれば、どんなに優秀な兵士でも一人では数の優位に勝つことはできない。しかしここ十数年間、殊にかのコブラ部隊の出現を境に、戦車道界には一騎当千の強者が数多く現れており、ソリッド、リキッドの二匹のヘビ(スネーク)もそれに該当する。…もし――確実にそうであるが――先遣隊が一人残らず倒されているのなら、数と練度に勝るこちらを圧倒するだけの能力を持った歩兵が、大洗にはいるのではないだろうか。

 

 「…ん?」

 

そんな時、ジョニー達は思いもかけないものに出くわした。

 

「あ、赤羽!?」

「ーーーっ! ーっ!!」

 

T字路を左に曲がったところで、先遣隊の一人である赤羽が、手足を縛られ口にビニールテープを張られた状態で道の真ん中に転がされていたのだ。戦死判定こそ出ていないが、この恰好では連絡を取ることもできまいと納得しかけて、

 

「っ!!」

 

ジョニーはそれと同時に、危険な予感がうなじを撫でるのを感じた。

 

「待ってろ、今助け――」

「待て、伏せろッ!!」

「え」

 

 赤羽を助け起こそうと走った隊員を止めつつ、アスファルトの地面へ横っ飛びに身を投げ出したが、もう遅かった。

 

「「「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!?」」」

 

爆音に混じり響く悲鳴、ふくらはぎの側面に点々と走る鋭い痛み。自分とその指示を聞いて伏せた者、兵員輸送車の中にいた者以外の全員が、一瞬のうちに戦死判定を受けた。戦死を免れた者の中にも、負傷判定により動きを制限されている者が多々いる。

 

「なんてこった…!!」

 

つくづく自分達は、相手を見くびり過ぎていたらしい。

 致命傷を避け、仲間が助けに来るのを待つ――スナイパーが使う手だ。今回は狙撃ではなかったが、敵兵そのものをブービートラップの囮として利用し、通過するには仲間を見捨てなければならないという精神的なダメージをも与え得る狡猾さは、ジョニーを心底震え上がらせた。

 だがそれと共に、ジョニーの頭にはある疑問が浮かんだ。

 

――あの爆弾は、()()()()()()()()()…?

 

彼は足の痛みに覚えがあった。一次爆薬によって地中から空中に飛び出し、二次爆薬により無数の鉄球を広範囲に撒き散らして敵を殺傷する跳躍地雷の一種、S-マイン。しかしこのドイツ製対人地雷は、点火蝕枝に約七キロの荷重がかかることで起爆する仕組みであり、助けに行った隊員は赤羽に()()()()()()()()筈なのだ。

 その疑問を晴らす為、ジョニーは今度こそ戦死判定の出た赤羽に向かっていった。

 

「ぶ、分隊長…?」

「ふむ…」

 

爆弾が乗っていた赤羽の背中から、千切れた導線のようなものが、左右の肩口と足に向けて一本ずつ伸びている。それぞれの先には、皿状に形成されたアルミホイルの取り付けられた、小さなコードレス電話が据え付けられ、アルミホイルは身体の左右で同じ方向、道を横切るように倒れた赤羽の左右を向くようになっていた。

 コードレス電話――

 

「――ッ!?」

「ど、どうかしましたか?」

 

絶句した。

 

 「…距離だ…マイクロ波だ。二メートル以内に近付くと爆発する」




難産でした。ここまでサクサク投稿し過ぎたのもありますが…
残月はとんでもないものを受け継いでしまったようです。

どう足掻いても原作アニメをなぞるか某歩兵道さんの二番煎じになってしまうので、第一次作戦の詳細な描写についてはまるまるカットしました。
でもそのせいで余計に原作キャラの出番が少なくなってしまうという…w
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