戦士の魂は君と共に   作:影のビツケンヌ

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捜索 ~Hidden somewhere~

 杏の言った「ない」という言葉が、校内に戦車がIV号しかないという意味だったのは、残月にとって救いだった。学園艦のどこかにあと数両の戦車が存在するらしく、最初の授業は戦車の捜索に充てられることとなり、残月もまた、現在ガイやみほ達と共に捜索活動に従事している。尚、歩兵の装備は倉庫にあったものだけで難なく全員分を確保することができた。

 …もし本当に他の戦車が一両たりとも存在しなかったなら、受け取ったM1911A1で杏の眉間に風穴を空けていたところだ(尤も、戦車道用の弾丸を使用している為殺傷能力は極めて限定的であり、比喩表現でしかないのだが)。

 

「余程気に入ったようだな」

「ああ…是非とも使いたい。ガイ、構わないか?」

「それ位は大丈夫だろう」

「恩に着る」

 

残月はそれを手にとって眺めているうちに、校外まで持ってきていた。ホルスターを身に付けていない為、拳銃を制服の裏ポケットにしまい込む。戦車道用の銃器は通常の銃器よりも規制が著しく緩く、戦車道を履修する生徒がこのように持ち歩いている程度では銃刀法には違反しない。グリップ(銃把)に戦車道用のものであることを示す刻印が彫られる他、マガジン(弾倉)とマガジン導入部の規格が通常の銃器とは僅かに異なる為、殺傷力のある弾丸を発射することはできないからだ。

 閑話休題。

 

「探すって言ったって、どこにあるっていうのよー!!」

「駐車場に戦車は停まってないかと…」

「だって一応は車じゃない…」

 

捜索は早くも暗礁に乗り上げかけていた。まずもって手掛かりすらないのだ。沙織の言う車両という共通点から、最初に学園の駐車場を訪れたが、当然ながらそこには乗用車がそこかしこに散在するばかりである。残月はガイとみほとをちらりと見たが、考えは浮かんでいないらしい。――いよいよ、本当に虱潰しに探すしかなくなってきた。

 

「じゃあ、裏の山林行ってみよ! 何とかを隠すには林の中って云うしね」

「それは森です…」

 

一番アグレッシブな沙織――“かっこいい教官が来る”と杏に唆されたのもある――に引っ張られるようにして、華、みほ、ガイとその隣の残月の順に移動を開始する。探し物をするにはあれこれ考えるよりも体を動かした方がいいというのには、残月も同意だった。この場合手当たり次第という言葉が最も似合う。

 

「よう、あんたが西住か?」

 

その時、ガイの後方から声をかけてくる者があった。ガイと残月、そして西住の名に反応したみほが振り返り、少し遅れて先を行く二人も振り返る。

 そこにいたのは、制服の上着を脱ぎ、代わりにポケットの多いオリーブドラブのベストを着た茶髪の男子生徒。顔立ちは残月に似て彫りが深く目も細いが、全体としてより冴えて引き締まっており、一方で纏う雰囲気はその飄々とした微笑のせいか、残月よりも柔らかく親しみ易さがある。

 

「そうだが、何か用か?」

「俺は古城(ふるき)志朗(しろう)。俺と、あともう二人仲間に加えて欲しいんだが…」

「俺は構わないが…もう二人?」

 

志朗と名乗った彼の言葉にガイが首を傾げると、彼は自分の背後を指差した。その先の木陰から、一人の男子生徒が癖毛の女子生徒の腕を掴んで引っ張り、ガイ達の方角に歩いてくる。

 

「大丈夫だって、俺がついてるから! 憧れの西()()殿()に吶喊してこい!!」

「えええ!? で、でも…」

 

男子生徒は身長こそ残月より僅かに低いが、骨太で筋肉質な為残月よりも一回り程大柄に見えた。隣の女子生徒と対比すると少々不安を覚える体格差だが、清廉潔白を絵に描いたような無造作で朗らかな顔はそれを打ち消して余りある。やがて二人は志朗の隣に辿り着き、一同を正面に見据えた。

 

「あ、あの…普通II科C組、秋山(あきやま)優花里(ゆかり)です! 不束者ですが、よろしくお願いします!!」

「同じく笠置(かさき)蒼莱(そうらい)だ。優花里と()()共々、よろしく頼むぜ!」

「「「…大佐?」」」

 

 

 

 

 

 自己紹介の後、草木を踏み分け移動しながらの沙織と華の説明で、転校したばかりの西住兄妹、当時学園祭を休んでいた残月の疑問は解消された。

 『大佐』とは、古城志朗に付けられた渾名(ニックネーム)である。彼は映画研究部の副部長であり、入部当初から発揮した類い稀な演技力で副主演俳優に抜擢された。特に昨年度の学園祭で放映された作品の一つ『メタルギア2』に於ける『ロイ・キャンベル大佐』は嵌り役とされ、その人気の高さから今でも『キャンベル』や『大佐』の名で通っているのだ。

 因みに、彼の再登場を望みメタルギアの更なる続編の制作を希望する声が噴出しているが、過去二作で主役を演じ脚本も書いた三年生が卒業してしまった為に、続編は絶望視されている。

 

 「――これは全て熟練した職人の仕事だぞ」

「レストマシンでの射撃なら、二十五ヤード、ワンホールも狙えるに違いありませんよ」

「しかし凄い銃だな…」

 

そんな彼は今、残月から渡されたM1911A1を舐めるように観察していた。その周りに優花里と蒼莱が群がり、目を輝かせながら一緒になって銃を覗き込んでいる。

 

「なるほど、熱意も目も本物らしいな。合格だ」

「あんたに認めて貰えるのは光栄だよ、『ソリッド・スネーク』」

「ガイでいい。歩兵の武器装備の整備はお前に預けるよう、生徒会に計らっておく。いい仕事をしてくれよ、‘大佐’?」

「もちろんさ。よろしく、ガイ」

 

 古城家は鉄砲鍛冶の家系であり、銃刀法が制定されてからはアメリカに出てガンスミスとなった。志朗の父もアリゾナ州フェニックスに住んでおり、志朗の元には毎月仕送りが送金されてくるが、三年前からその額が減り、学費の節約の為にこの大洗学園に入学した経緯がある。そして今回戦車道を履修するのも、その特典を更なる節約に利用したかったからであった。

 中学校三年間、彼は実戦に出ることはなかったものの、戦車道に関わっていた。訓練こそ受けていたが、親の影響で身に付けていたガンスミスとしての技術と知識を活かすべく、歩兵用装備の整備士としての活動が主であった。このことをガイに伝えたところ、ガイは手始めに残月の銃を見るよう指示。志朗はそれを喜んで――実は倉庫で見た時から気になって仕方なかったという――承諾し、今に至る。結果は二人の会話の通り。

 残月も、志朗の見識眼には舌を巻いていた。

 残月の45口径(フォーティファイブ)は、志朗曰く――

 まずフィーディングランプが鏡のように磨き上げてある。給弾不良を起こすことはまずないだろう。

 スライド(遊底)は強化スライドに交換されている。スライドとフレームの噛み合わせにもガタつきが全くない。フレームに鉄を溶接しては削る作業を繰り返して徹底的に精度が上げられている。

 フレームのフロントストラップ部分にはチェッカリングが施され、手に食いつくようだ。これなら滑ることはないだろう。

 サイト(照準)システムもオリジナル――3ドットタイプ。フロントサイト(照星)は大型で視認性が非常に高く、サプレッサーも邪魔にならない。

 ハンマー(撃鉄)もリングハンマーに替えてある。コッキングの操作性を上げ、ハンマーダウンの速度も確保する為だ。

 グリップセーフティもリングハンマーに合わせて加工済み。グリップセーフティの機能はキャンセルされている。グリップセーフティは銃の扱いに慣れた者には不評だからだ。

 サムセーフティ、スライドストップも延長され、確実な操作を可能にしている。

 トリガーガード(用心金)の付け根は削り込まれ、ハイグリップで握り込める。

 トリガー(引き金)は指をかけやすいロングタイプで、トリガープルは3.5ポンド程度。これは通常よりも1.5ポンド程軽い。

 マガジン導入部もマガジンが入れやすいよう広げられている。マガジンキャッチボタンも低く切り落としてあるから、誤動作も起こしにくいだろう。

 メインスプリングハウジングもより握り込む為にフラットタイプに、更に射撃時の反動で滑らないようステッピングが施してある。

 その上、スライド前部にもコッキングセレーションを追加してある。緊急時の装弾、排莢をより確実に行なうことができる筈だ。

 ――これだけのことを、志朗はすぐに暴いて見せたのだ。残月は彼を心から賞賛した。

 しかし、彼には疑問があった。

 

「ガイ、そのコードネームはいつ付けられた?」

「そうそう大佐、ソリッド・スネークって何?」

「二つ名か何かでしょうか?」

 

沙織と華は知らない様子だが、残月は“ソリッド・スネーク”がコードネーム――戦車道で一部の歩兵に与えられる名だということは、聞いた直後に理解できた。

 

「そうか、武部さんも五十鈴さんも知らないか。こういうのはこっちの二人が詳しい」

「西住ガイ殿は有名人なんですよ! 黒森峰学園に於ける特殊部隊『ヴァイパーコップフ』の隊長! 非公式戦では単独で超重戦車マウスを撃破した他、一切の対戦車兵器を使わずに地形を利用して敵戦車の身動きを封じたり、敵戦車内部に手榴弾を投げ込んで乗員に戦死判定を出すことで行動不能にするといった離れ業で知られています!!」

「ヴァイパーコップフは、部隊章にヘビが描かれている。同じくヘビを部隊章のモチーフにしている聖グロリアーナ学院の『サーペントテイル』の隊長であるキーマン――結城(ゆうき)イーライと対比して、隊長にはそれぞれ『ソリッド・スネーク』『リキッド・スネーク』というコードネームが付けられているんだ」

「…なんか、よくわからないけど…」

「凄い人、だったんですね…」

 

やや興奮気味の優花里と、それを補足するような蒼莱の解説に、沙織と華はひたすら圧倒されるばかりであった。二人が根っからの戦車(及び戦車道)マニアであることは、全員が志朗から聞いていた。

 戦車道に於いて、実際の軍隊に設けられる特殊部隊が初めて設立されたのは、今から八年前のことである。少数精鋭故のその戦術的優位性(タクティカルアドバンテージ)が示されると、戦車道を履修する多くの学校で次々と導入され、“鉄の掟、鋼の心”を標榜する黒森峰ですらその戦力を無視できないものとなったことから、そこでも五年前に特殊部隊『ヴァイパーコップフ』が結成されたのだ。公式大会の出場校には、今や特殊部隊を置いていない学校は存在しない。

 特殊部隊の隊員、特に隊長は慣例的にコードネームを名乗るが、特に大きな功績や戦果を挙げた者には、他校の部隊、有識者や戦車道愛好家(ファン)達によってコードネームが与えられることがあり、それは歩兵にとって最高級の栄誉とされている。

 ソリッド・スネーク――それが、ガイに与えられた名誉あるもう一つの名であった。

 

「お前は知らなかったろうが、去年は少し大暴れし過ぎてな。気付いたらそうなっていた」

「あはは…」

「…そうか」

 

肩を竦めるガイの態度と、その後ろのみほの苦笑いで、残月は全てを察した。中学こそ別々の学校に進学したが、戦車道を引退するまでは西住兄妹と連絡は取り合っていたし、幾度となく練習試合で矛も交えた。優香里に言われずとも、ガイの‘規格外’ぶりはそれで嫌という程思い知らされている。誰が言ったか、「世界最強の非常識人間」。

 

「……」

 

 だがそうなると、また新たな疑問が浮上してくるのだ。

 歩兵隊長が――残月の知る限り最強クラスの個人戦力の一人であるガイが抜けた穴を、ヴァイパーコップフは、黒森峰はどう補うつもりなのだろう。幾ら昨年度公式大会の敗因を作った――そう認識されているからこその‘流刑’なのだろうが――とはいえ、それを排除すれば強力なリーダーを失うことになる。彼の傍に優秀な副官がいたなら話は別かもしれないが、かつて自分と対峙した時にも見せていたリーダーシップや、その非凡な活躍からくるある種のカリスマ性を、代わりの者が発揮できるかはわからない。

 残月には、黒森峰が自分で自分の首を絞めているようにしか思えなかった。規律の維持、校風の維持に固執するあまり、最大の売り文句ともいえる戦車道の戦力を自ら縮小・退化させているのではないか。戦車道界に名を轟かす黒森峰、ひいては西住流の汚名返上の為、今年度大会では何としても優勝したい筈なのに。

 西住しほは、ソリッド・スネークという歩兵を――自分の息子を、どう考えているのだろう。

 …或いはその‘規律’を維持する上で、ソリッド・スネークのカリスマ性が()()()()()()のか――

 

「…堀切君?」

「…!」

 

 みほの声で、残月は我に返った。気付けば沙織と華、志朗は既にかなり先を歩いており、蒼莱と優花里は遅れた残月に歩調を合わせるみほと沙織達とのほぼ中間を行き、ガイは数メートル先で立ち止まって残月を待っている。

 

「どうしたの?」

「…考え事だ」

「考え事?」

「黒森峰は、本当に今年度の大会で勝つ気があるのかどうか…」

 

少し歩幅を大きくしてガイに追い付き、そのままみほの問いに答える。それに兄妹は訝しげな表情を醸したが、残月は気にせず続けた。

 

「…だが、どうでもいい。ここにガイとみほがいる限り、俺達の勝利も、そう難しくはない筈だ」

 

 どうでもいい。それは残月の本心だった。いずれにせよ、大会で順調に駒を進めていけば、恐らくは黒森峰とも相見えることとなるだろう。相手側の都合など関係ない。どこにどんな理由があってガイとみほを放逐したのだとしても、未だ黒森峰は大洗学園存続に立ち塞がる最大の敵にして脅威なのだ。それを崩す鍵が、今この場にいる。

 あとは、未経験者達をどう指導していくかだ。

 

「やった! あったよー!!」

「これは…38tか。軽戦車も悪くない」

「錆だらけだが、戦車は確かにあった。五十鈴さん様々だな」

「いえ、私は匂いを嗅いだだけですよ」

「38tといえば、ロンメル将軍の第七装甲師団でも主力を務め、――」




戦車の捜索自体はアニメとほぼ同じ展開なので省きました。
その分を解説と内面的描写に振り分けています。

というか、自分から地の文を取ったら何も残らないので…w
台詞やキャラクター同士の掛け合いを楽しみたい方はどうかいちいち堪えてください(某料理店風)
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