戦士の魂は君と共に   作:影のビツケンヌ

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既知と未知 ~Unforgettable sense~

 「堀切! マクドネル・ミラーだ。懐かしいな」

「マスター…どうして」

 

マスター・ミラー――マクドネル・ベネディクト・ミラーとの再会は、残月には西住兄妹の時と同等の衝撃があった。戦車道の教官は戦車兵部門と歩兵部門とでそれぞれ一人ずつの場合が多く、大洗にも二人の教官が来ることは事前に聞かされていたが、残月はかつての恩師が再び部隊を教導することになろうとは考えもしなかったのだ。

 会食から一夜明け更にその翌日、寝坊したみほがやや遅れて校庭に到着してから二十分、遅刻した二人の教官は空からやってきた。突如飛来した航空自衛隊のC-2改輸送機が、低高度パラシュート抽出システム(Low-Altitude Parachute Extraction System)により陸上自衛隊の10式戦車を空挺投下。学園長のフェラーリを轢き潰しながら――それを見た柚子は悲鳴を上げていた――現れた‘闖入()’が、戦闘服とパンツァージャケットに着替えた戦車道履修者達の前に移動したかと思えば、キューポラのハッチが開き、そこからヘルメットに制服姿の女性と、サングラスをかけた壮年の金髪の男性が躍り出てきた。

 その男こそが、残月が恩師マスター・ミラーその人なのである。

 

「特別講師の戦車教導隊、蝶野(ちょうの)亜美(あみ)一尉。同じく歩兵教導官、マクドネル・ベネディクト・ミラー氏だ」

「戦車道は初めての方が多いと聞いてますが、一緒に頑張りましょう!」

「安心しろ。訓練は易しくないが、乗り越えれば一端の戦士になれる」

 

桃が整列した全員の前で二人を紹介する。亜美とミラーは、並べば一目瞭然の体格差。自衛官でありながら一見華奢に見える亜美とは違い、ミラーはまさに筋骨隆々で、茶色の長ズボンにモスグリーンのタンクトップ、同色の指貫グローブを身に付け、全身から歴戦の猛者の気迫を放っている。二人の雰囲気は上手く相殺されてはいるものの、男子女子共に明らかに緊張している者が多数見受けられる。しかしそれが残月には懐かしく、そして頼もしくあった。

 その恰好からもわかる通り、ミラーは自衛隊の人間ではない。戦車道連盟から指定を受け、教導官としての資格を得た退役軍人である。戦傷による脳神経の障害で視力が低下、視野も著しく狭くなってしまい、十二年前にアメリカ陸軍を名誉除隊したと残月は聞いている(それでも目前に立つ相手を的確に識別し、近接格闘訓練すら行なうことができる彼の能力は、彼に師事した者の間でも謎とされている)。

 その時、女子達を見回していた亜美がみほに目を留めた。

 

「アレ? 西住師範のお嬢様ではありません?」

 

失念していた――自衛隊の中にも、‘由緒ある’西住流を修めた者は少なからず存在する。昨日の今日で早速みほに西住の呪いが牙を剥くことを、残月は考慮していなかった。

 

「師範にはお世話になってるんです。お姉様もお元気?」

「ああ…ハイ――」

「あ、あのっ!! 教官はやっぱりモテるんですか?!」

 

しかしそこで、沙織が強引に割り込んで亜美に質問を投げた。

 

「モテる、というより…、狙った獲物を外した事はないわ、撃破率は百二十パーセント!!」

「それで教官! 今日はどのような訓練を行うのですか?」

 

律儀に答える――回答になっているかはともかく――亜美に、優花里が更に畳みかける。何とか話題をすり替えようとする二人の行動に、残月は心底感心し、嬉しく思った。一昨日の話は自分でもかなり抽象的な感が否めなかったが、それでも彼女の友人達は、みほが西住の名にいい感情を持っていないことを察したのだろう。また今朝彼女達と会った時も、何事もなかったように接してくれたのを覚えている。――本当に、いい仲間を持ったものだ。

 

 「一週間後に他校との練習試合を行なうことはこちらでも把握している。お前達にはあまり時間が与えられていない。よって、これは本来邪道なのだが…」

「本日は本格戦闘の練習試合、さっそくやってみましょう!」

「そう、今回お前達には、自分に何ができ何ができないのか――戦場に於いて自分が如何に無力かを実感して貰う。それが終われば訓練だ。覚悟しておくように」

 

ミラーの説明が始まると、残月の意識はすぐに彼の言葉に向けられた。教官の言う通り、大洗学園は戦車道の強豪校が一つ聖グロリアーナ学院との練習試合を控えている。全国大会出場に向けて可能な限り実戦経験を積んでおきたい生徒会の狙いだ。それまでの一週間という僅かな時間を唯冗長な訓練――決して無意味ではないのだが、新兵はこれに意義を見出せない場合も多い――に費やすより、何かしらの目安や目標を持たせた方が、多少の高効率化には貢献するだろう。…たとえその手段が、訓練を経ることもないいきなりの実戦投入という‘荒療治’だとしても。

 残月にとっても、これはおよそ二年ぶりの実戦となる。この時に備えて私物の戦闘服や、()()()()()()()()()()()()()()()を持ち込んでいた。喜理恵に事情を話す以前からも、復活する戦車道に向けて鈍りを解消する程度の自主訓練は秘密裏に進めている。それでも心の片隅に燻る、らしくない不安。

 

「それじゃ、戦車兵と歩兵はそれぞれのチームと分隊毎にスタート地点に向かってね」

 

だが――

 

「かーっ、興奮してきたぞこりゃ!」

「今回は俺も出張るしかないらしいな…だが悪くない」

「さて、見ものだな」

 

 自分と同じ分隊に配属された蒼莱、志朗、ガイが闘志を滾らせているのを、残月は他人事とは言えなかった。戦車捜索後、倉庫にあった歩兵用の武器兵器を確認した時、ある対戦車地雷を発見したのだ。小学校で使い始めて以来M1911A1と同じかそれ以上に使い続け、中学校では残月一人の為だけに補給されていたもの。それを見た時、彼は胸の内に獰猛な衝動が吹き荒れるのを禁じ得なかった。そしてそれに懐かしさや、ある種の快感すら覚えていたのである。

 思えばそれは、かつても感じていた感覚。生来的な勝負事への余裕のなさが心臓に早鐘を打たせ、アドレナリンを産生する。それがかえって、原始的な闘争本能を呼び起こし、執拗に己を駆り立てる。

 ミラー教官がした経験談の一部が、脳裏を過った。

 

“戦場というものは人間の残虐性を引き出す。どんな育ち方をした兵士でも、戦場に投入されれば獣性が剥き出しになる”

 

なれば、これが己の‘獣性’か。――志朗の言う通り…“悪くない”。

 IV号にタンクデサントするガイ達三人と別れて、残月はその他の分隊員が乗る兵員輸送車に向かう。その中に積み込まれた対戦車地雷を四つ手に取り、分隊員達に言い放った。

 

「…いいか、俺がいいと言うまで、絶対に俺の邪魔はするな」

 

 

 

 

 

 「なあ先輩、なんで堀切はこっちに乗らないんだ?」

 

スタート地点までの道中、みほ達Aチーム駆るIV号の主砲を左脇に抱えるように座っていたガイは、背後でキューポラにしがみ付く蒼莱にそう問われた。ガイは迷わず答える。

 

「まだ準備が整っていないからさ」

「準備?」

「何の準備を? 見る限り、残月よりも準備のできていた奴なんていないぞ」

 

ガイの回答に、彼のすぐ前に座った志朗が更に疑問を重ねる。二人の言い分も尤もだと、ガイは思っていた。二人は恐らく、残月がガイに分隊長の指揮を中継する役割を任されたと考えたのだろう。無愛想とまではいかないが、あの無表情で口数の少ない残月が他の分隊員達に指示を出すような姿は、幼馴染にして親友たるガイをしても想像しにくい。このα分隊の指揮は、分隊員の満場一致でガイが担うことになっていた。

 ガイが残月をタンクデサントさせなかった理由は、それ程深いものではなかった。

 

「この試合だと、残月の真骨頂は発揮できない。本来あいつが得意としているのは単独作戦行動、それも潜入任務や破壊工作だ。ブービートラップの造詣も深い。特にIEDの作成には天性の才能がある」

 

ガイの返答と同時に、IV号の後方を走る兵員輸送車から、金属質の何かを繰り返し殴りつけるような、ガンガンという音が聞こえ始めた。

 

「作り始めたぞ」

「何だよ、作業がしたいだけか…しかし即席爆発装置か…」

「揺れる車内で改造とは、見かけによらず大胆なんだな」

 

 即席爆発装置(Improvised Explosive Devise)。あり合せの爆発物と起爆装置から作られた、規格化されて製造されているものではない簡易手製爆弾の総称である。手製爆弾はいつの時代にも見られるが、非正規戦においてその一種である路肩爆弾を組織的に活用したのは、第二次世界大戦でベラルーシの反ナチスゲリラが使用した事が発端とされる。その都度有り合わせの材料で製作される為に特定の形状や大きさ等の特徴などがなく、各々が独自に持つ知識や資材で製作されるが故のバリエーションの多彩さが、現代の戦場に於いてもその対処を困難にしている。

 戦車を含め戦車道で使われる兵器は、一九四五年までに試作が完了したものに限られている。ガイの知る限り、IEDについては特に規定はなかったが、戦車道用といえど爆発物を加工するという危険な作業や、実戦での不安定性を嫌って使用する学校は殆どない。それを安定して戦術に組み込むことができていたのは、かつて残月が在学し、練習試合で黒森峰中等部と鎬を削り合った無名校『山鹿学園中等部』程度なものだろう。残月のいない今、彼の技術はロストテクノロジーと化しているに違いない。

 

 「侮るなよ。あいつの作るIEDは設置型ばかりじゃなく、手榴弾のように携行できるものもある。威力も折り紙付きだ。あいつのIEDに耐えた戦車を俺は見たことがない。敵対していないのは幸運だろう」

「ええ…なんていうか、とんでもねえな」

「案外、俺達は凄い奴と友達になったらしい…」

 

そう、それは誰も真似しようとしなかった、彼だけの技術なのだ。

 

「嬉しそうだね、お兄ちゃん」

 

声に振り向くと、装填手用ハッチからみほが顔を出し、笑いかけていた。

 

「まあな」

 

 事実、ガイは感激していた。残月との共闘はおよそ五年ぶりになる。IEDの技術は当時どう足掻いても盗めなかったが、彼が独自に磨いた潜入の極意はガイに伝わり、今も生きている。西住としての歩兵の在り方に留まらない柔軟性を与えてくれた、ある意味で師匠ともいえる堀切残月という年下の男を、ガイは一人の兵士として、戦士として尊敬していた。そんな彼と再び肩を並べて戦うことができるのが、ガイはこの上なく嬉しかったのだ。

 

――…あいつなら、任せられる。

 

 間もなくAチームとα分隊は指定されたスタート地点に到着し、間を置かず残りの四チーム四分隊も到着の報が入った。上空で観測機に乗っている亜美とミラーが、全員の無線に指示を出す。

 

「皆、スタート地点に着いたようね。ルールは簡単。全ての戦車を動けなくするだけ。つまり、ガンガン前進して、バンバン撃ってやっつければいい訳」

「このバトルロイヤル形式では、護衛を担当する戦車が破壊された分隊も即行動不能となる。逆に歩兵は幾らやられようと負けはしない。ただし気を抜くなよ」

「戦車道は礼に始まって、礼に終わるの」

「一同! 礼っ!!」

「「「よろしくお願いします!!」」」

 

 挨拶の一瞬だけ金属加工の音が止まり、すぐに再開される。

 …余裕のなさだけが、玉に瑕だろうか。

 

 

 

 

 

 普通II科二年B組、大上(おおがみ)八枝(やえ)は退屈していた。

 

「…ハァ」

 

現代文の担当教師が急病で休み、非常勤の教師が監督する中での自習となったこの時間についてではない。教科書を流し読みしていれば自然に時間は過ぎていく。彼女はもっと根本的に、この学校に退屈していた。

 

「……」

 

 彼女は昔から射的が好きだった。縁日があれば母に貰った小遣いを全額注ぎ込み、景品の半分を掻っ攫う荒稼ぎをして帰ってきたものだ。その経験から、彼女はクレー射撃のような、銃を使ったスポーツに憧れていたのだ。また同じ理由で戦車道にも興味があった。

 しかし射撃競技を行なうには免許が必要で、それは二十歳以上でないと取得できないことを知り、彼女の望みは絶たれた。折角大洗で復活した戦車道も履修していない。歩兵に女性が殆どいない事実を、女性は歩兵になれないと誤解してしまっていた為である。

 かくして彼女は入学以来、同じ飛び道具という繋がりから、やりたくもない弓道部で形式張った弓矢の扱いに甘んじていた。あれよあれよという間に、今では副部長にさせられている。

 

「…ん?」

 

このまま成人するまで、やりたいこともできずに待つしかないのか――そう考えた矢先。窓側の最後部座席に位置していた八枝は、ふと目を遣った校庭に動くものを認めた。

 犬だ。背中側が黒、腹側が白の染め分け(カウンターシェイド)になった、オオカミのような大型犬。律儀に校門を潜り、軽い足取りで校庭を縦断して校舎に近付いてくる。そしてその口には、箱状の何かが入っていると思しきチェック柄の巾着袋を――

 

「あっ…!」

「? どうした大上」

「あ…えっと…」

 

思わず声を上げたことを少し後悔したが、背に腹は変えられない。

 

「――忘れてきたお弁当を届けに来ました。…ウチの犬が」

「犬が!?」

 

 後に彼女は語ることになる。「あの時DDがまっすぐ校舎に来ていたら、私の高校生活はつまらないもので終わっていたでしょう」と。




一話よりはマシですが、原作キャラがまるで動きません。
5000から6000文字を目安に説明と心理描写に重点を置くといつもこんなになります。

遂にDDまで出る始末。
大会での試合中のプロットは作っていないのでDDに参戦させるかは未定です。
戦車道の規定的に軍用犬使うのってありなのか?そもDD個人の飼い犬だし…w
まあ某歩兵道の人は馬とか象とか使ってるしいいのかな…?
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