「ねーねーサンタさんはいつになったら来るの?」
目をきらきらと輝かせながら、二人は普段よりも高い声を出して服の裾を引っ張ってくる。
「どうかなぁ。サンタさんも忙しいからねぇ」
時間は夜の9時を過ぎたあたり。いつもなら既に夢の中にいるはずの時間にも関わらず、この子たちはこたつに入って漫画を読みふけっている。ミカンの皮は顔の高さほどまで積み上がっており、そろそろ崩れてもおかしくは無い。
「ふぁ……あ……」
「眠たければ寝てもいいんだぞ」
「……っ! いいや! 今夜こそサンタさんがプレゼントを置く瞬間を見届けるの! そうよねっ!」
「う、うん……」
鼻息荒く語る姉とは対象的に、弟の方はそろそろ飽きが入ってきているように思える。目をしぱしぱと瞬かせ、目をこする頻度も増えてきた。
風呂上がりにケーキをたんまり食べて、お腹が膨れれば遅かれ早かれこうなることは目に見えていたが。そろそろ寝かせてやった方が良さそうだ。
「いい子にしてればサンタさんが来てプレゼントを置いてってくれると言ったな。ただし、それはいい子にしている子にだけだ」
「……じゃあ悪い子には?」
「そうだなぁ……サンタさんがプレゼントを置いていった後に、悪いサンタさんが置いてあるプレゼントに呪いをかけてしまうのだよ」
「の、ろい……?」
おずおずと聞いてくるのは弟。姉は訝しげな目で――それでもこちらの話が気になるのだろう、言葉は挟まないで聞くだけだ――こちらを見てくる。ドラクエやらでファンタジーに触れている子たちだ、その言葉の意味くらいは知っている。
「そう。悪い子がその箱に触れた瞬間……」
そこであえて言葉を切る。ふたりは手を握り、私の言葉をおそるおそるといった様子で待っている。そこであえて笑顔を見せて、とどめの一言。
「聞きたい?」
ぶんぶんぶんぶん。髪の毛が隣の弟に当たるほどの勢いで首を振った二人は、蜘蛛の子を散らすようにだだだだと階段を駆け上がる。上の階からは「おやすみーっ」といつもの声が響いてきた。
翌日。叫び声で目が覚めた。
川の字の真ん中に寝ていたはずの二人が、いつの間にか布団から抜け出ていた。どこにいるのかと思いきや、箪笥の影。頭を半分出して、枕元に置いてあった箱をおっかなびっくり見つめている。
姉が後ろ、弟が前。見方によっては、姉が弟を盾にしているようにも取れる体勢。「先に行ってよ」とひそひそ声で弟の頭を叩けば、「だったらそっちが行けばいいじゃん」と返し、「やだ」と即答が返ってくる。
よほど昨日の脅かしが効いたのか、はたまたいい子である自身が無いのか、どちらにせよ、状況は見ているままでは進みそうに無かった。
プレゼントの隣に正座し、まずは弟に手招きをする。自分の顔を指差し、俺が頷くのを見ておずおずと近づいてきた弟は、プレゼントとは若干距離を置いて俺の前に正座をした。
「さて晃君。君はいい子かな?」
「はっ!…………ぃ。え、と……えぇっと……」
露骨に目を逸らされる。「は」までは言って、「い」までが言えないところを見ると、やましい事があるのだろうか。視線を下に向けた弟に、助け船を出してやる。
「サンタさんからの伝言を伝えよう。『プレゼントの箱を開ける前に、悪いことをしたのを全部正直に話せばその呪いも解けるだろう』と」
勢いよく顔を上げた弟は、どこか安心したような顔をしていた。
「ええっと…………。昨日、ケーキの中に入れる桃をつまみ食いしました……」
「母さんが探してた桃缶?」
こくり、と頷く。
「他には」
「……それだけ」
――よく言えました。合格です。
と言う代わりに、指を一つならす。
「はい、これで晃君の呪いが溶けました。プレゼントの箱を触っても大丈夫です」
そろそろとプレゼントの包みに触れる。硬かった顔がほぐれて、昨日見せた以上に、その目を輝かせて包みを丁寧に開け始めた。
「さて明里さん」
姉は手招きをする前に俺の前に正座をし、そして問う前に口を開いた。
「昨日食べたケーキの残り、こっそり冷蔵庫の奥に隠しました。今日食べる予定でした!」
「他には」
「……ッ、プレゼントが動いたら晃を盾にするつもりでしたっ!」
はっきりと言い切った。素直なのは実にいいことだ。――姉がすることでは無いが。
「後は」
「ありませんっ!」
言い切った後にふんす、と満足げな顔を浮かべる。
その目は、俺の手に向いている。いつ指を鳴らすのかと期待のまなざしが向いているのが分かる。
プレゼントを前にざんげができたことのご褒美に、こっちの呪いも解いてあげよう。
ぱちん。
部屋に小気味のいい音が鳴った。
しばらくして、ふたつの歓声が部屋に響いた。
「クリスマスイブの次の日さぁ、プレゼントの箱に手を付ける前に一年間の懺悔させられたんだよねぇ」
「何十年も前のこと、よく覚えてるな」
「そりゃあプレゼントの前でおねしょ報告なんてさせられたらそりゃあ覚えてるでしょうよ。墓まで持ってくわよ」
「はっはっは。そんな時もあったっけなぁ」
ある正月の日。
人数が増えたとある家の会話。