アステロイドベルト・エリアベータ。木星へと至る航路上に設営された補給ポイントの一つとしてコロニー群を設営したエリアである。かつて、この地点の近郊にあった微惑星の一つにジオン公国の敗残兵たちが一大集団を築き地球圏への侵攻を行ったが、目的を果たせぬまま宇宙の塵となって消えた。当時は重要な補給ポイントとして賑わいを見せたのだが、熱核クロームエンジンを用いた航法が主流となってからは航行日数が大幅に短縮され、火星から無補給で木星へと至ることができるようになってからは廃れる一方。いつしかニュースにも取り上げられなくなり、アステロイドベルトに4ヶ所の補給ポイントがあることすら人々の記憶から消えてなくなっていた。
そんなエリアに久しぶりの来客が現れた。来客といっても、大金を落としてくれる観光客ではなく、将来有望な修学旅行生でもなく、投資が期待できるビジネスマンでもない、愛想とは程遠いしかめっ面の軍人であり、乗ってきたフネは、豪華客船とは程遠い多数の大砲を備えた戦艦であった。戦艦に乗る軍人の一人ジーナ=グリンカ曹長は、船務長のカタリナ=トスカネリ中佐と、大きな窓から外を眺めていた。
「薄気味悪いところですね」
窓の外に一基のスペースコロニーがある。だが、人が住んでいるようには見受けられない。太陽光をコロニーに採り入れる反射鏡は稼動を止めているようで、コロニー内は薄暗く中の様子がよく分からない。手入れをされているとは思えないほど、外見はボロボロ。遠目に見えるもう一基のコロニーも同様に感じる。カタリナもジーナと同じ感想を持ったようだった。
「こんなところに大勢の人が住んでいたなんて、信じられないね」
宇宙船の往来すら見かけない。人が住んでいることすら信じられないジーナは、
「ひょっとして、幽霊だけがいるのかなぁ」
なんてつぶやく始末。「幽霊」という言葉に、カタリナが飛びついた。
「そういえば、ジーナって霊を信じる人なの?」
このカタリナの問いかけに、ジーナは微笑んだ。
「真のニュータイプは、宇宙を駆け巡っている死んだ人たちと心を通わせることができるのだと、研究所の人たちは言っていました。昔はそれを信じていて、死んだ人たちと心を通わせていた気がしていましたが、今になって思うとそれは幻覚だったのだと思います。人類が発生してから何千億人以上も死んでいるはずなのに、そんな大勢の人が一気に語りかけてきたら、きっと頭がオカシクなってしまうでしょうね」
「ふぅん。それじゃ、ジーナはお化け屋敷、平気な人なんだ」
「それとこれとは、話は別ですぅ」
ジーナは口を尖らせた。高校に通っていた頃、友達と遊園地に行ったときにお化け屋敷に行ったことがあるが、あまりの怖さに早々にリタイアしてしまったことがあった。その話をトオルにすると、
「インベル大尉をぶっ飛ばす大胆不敵のジーナにも、怖いものがあったなんて意外だな。怖がっているところ見てみたいから、今度一緒に遊園地に行こうか」
大笑いするトオルの頬を軽くつねったことが、つい昨日のことのように感じられる。目の前にあるコロニーの不気味さは、遊園地のお化け屋敷の比ではない。お化け屋敷は苦手だが、友達と遊んだいい思い出が残っている。でも、あのコロニーに行っても、いい思い出が残るとは思えなかった。
ベータコロニー群には3基のコロニーがある。ロニーたちは、ヴィーザルに搭載されている艦艇では最大の揚陸艦“フリスト”に乗り込み、ベータコロニー群1バンチ“ランパス”に上陸した。すでに上陸する旨を伝えていたので、ロニーたちは丁重な出迎えを受けた。
「ようこそ、お越し下さいました。市長のスーリヤと申します」
スーツを着た老齢の男が笑顔でロニーに手を差し出し、握手を求めてきた。身なりはきちんとしているが、スーツはヨレヨレで、肉付きの悪さと頭頂部の薄さが残念だ。ロニーは差し出された手を握った。
「私が艦長のロニー=ファルコーネです。早速ですが、難破船の乗組員の皆さんをお返ししたいのですが、いかがすればよろしいでしょうか」
「難破した住民を救助してくださったこと、住民を代表してお礼申し上げます。本来であればこちらからフネを出して引き取りに伺うべきなのですが、大したフネがありませんので、1番ドックに接舷して頂けないでしょうか」
スーリヤ市長は深々と頭を下げた。“ランパス”上陸の1時間前、ロニーは軽巡洋艦の艦長とその乗組員たちに対し、難破船の乗組員だったことにして放免すると宣言していた。もちろん、
「余計なことを言ったり、性懲りもなく次に襲ってきたときは、容赦なく殲滅する」
と釘をさしてのことだったが。そんな事情を知る由もない市長に、ロニーは笑顔で答えた。
「軍人としての本分を果たしたに過ぎません。お気になさらないで下さい」
「ありがとうございます。大したことはできませんが、できるだけのおもてなしをさせていただきますので、どうぞこちらまで」
市長一行に案内されたのは、かなり古い年式のバスだった。自動扉が壊れているのか、スーリヤ市長自らが扉を開けて乗車を促した。周りを見渡してみると、ところどころ修理もされずに破損しているところがある。電灯も故障して明かりが点いていない部分がある。妙に薄暗いなと思ったのは、そのせいだった。
ロニー一行も乗り込んだところで、バスが発車した。コロニーの中央軸にある宇宙港を出てバスごと昇降機に乗り、コロニーの中に入った。
「…こ、これは」
ロニーは唖然となった。街がさびれきっている。建物は朽ちたまま。人の往来も少なく、まばらに歩いている人の大半が老人のようだった。たった3基×4ヶ所で合計12基のコロニーしかないのに、20基以上のコロニーを抱えるサイド1より多くの予算が割り振られている。なのに、何故こんなに街がさびれきっているのか。
「連邦政府から支給される交付金だけでは、コロニーを維持することすら困難なのです」
ロニーの疑問を察知したのか、隣に座るスーリヤが語り始めた。
「コロニーとコロニー内の建造物は、ほぼ同時に完成します。なので、老朽化は同時に進行します。本来であれば、きたるべき大規模修繕に備えて基金を作り、将来を見据えた産業振興策を立てておくべきだったのですが、かつての指導層は木星航路の補給ポイントで得られる収入に満足し、その収入が未来永劫続くものだと楽観視していたため、基金へ回すべき資金をむやみに投資へ回し、補給ポイント収入以外で稼ぐ方法も考えず、無為に時間を過ごしていました。結果、補給ポイントとしての収入がなくなると、若い人ほど別の場所へと移り住んでしまい、残されたのは老人ばかり。しかも、修繕基金を貯めていなかったばかりに基金はすぐに底をつき、生命維持にどうしても必要な装置を連邦政府からの交付金で修繕・取替えするので精一杯。それ以外の部分は放置するしかありません。人口が減ったこともあいまって、3基あるコロニーのうち2基を閉鎖しているのですが、それでもカネが足りない有様です。地球から遠い上に若い人もいなくなったので、地球の企業からは見向きもされません。せめて、補給ポイントとして栄華を極めていた頃に企業を誘致しておけば、若い人の働き口に困らなかったでしょうし、少しは市の財政も楽だったかのでしょうが…」
「……」
市長の悲哀がロニーに突き刺さった。ロニーは思う。人々の認識がいかにおかしいか。景気が上向きになっているのは、まさにその時の指導者が優れているからだと思いがちだ。それは違うとロニーは思う。景気が上向く前の人々が苦労した結果、景気が良くなっているのであって、景気がいいのは、まさにその時の指導者ではなく、景気が上向く前の指導者たちが優れていたからだ。そして、景気が悪化したのは、悪化する前すなわち景気が良いときの指導者が無策だった結果だ。なので、景気が上向きなときの指導者ほど、それを未来永劫続けるための努力をすべきなのに、人類の歴史上、そういう努力をした好景気の頃の指導者はほとんどいない。そして、景気の悪化を止められない指導者たちは、決まって屁理屈が詰まった言い訳をする。そしてそういう指導者ほど、部下には言い訳を許さず、そして責任を部下に押し付ける。自ら火の粉を浴びる覚悟を持った大胆な改革には及び腰になる。誰々に嫌われたくないから、誰々に迷惑をかけるから…政治指導者たちは大局を見据えて判断すべきなのに、何とか団体の会長とかしか見ていない。何とか団体の会長は、しょせん個人にすぎないのに。何とか団体の会長の言うことを聞いても、その会長の狭い取り巻きだけにしか恩恵が届かないのに。チャンドラ=ラオは地球連邦中興の祖と言われているが、それは彼の晩年であって、宇宙開発省長官になったばかりの頃は何度も流産しかけた第三期宇宙開発計画を何としても成立させるために奔走し、史上最低の長官と各所から罵声を浴びる苦労の連続だったと聞く。だが、チャンドラ=ラオが逝去したあと、どうなったか。のちの指導者たちは、彼が敷いたレールに乗っかっただけで、何もしていない。社会に歪みが出ても、彼らは自分の人脈作りにだけ奔走して何もせず、結果火星でクーデターが発生するに至った。景気のいいときの指導者どもが遊び呆けていた尻拭いを、何故しなければならないんだ。スーリヤ市長の瞳には、その思いが詰まっていた。
「もはや、経費の節減は限界です。収入を得るために様々な手を尽くしてきましたが、それも限界です。このコロニー群を完全に閉鎖する決断をしなければならない時期が迫ってきているのですが、住民の強制移住を命令する権限はありませんし、移住先で収入が得られる保証もなく、そもそも移住先すら決まっていません。地球への移住と住民の職業斡旋を何度も連邦政府内務省に陳情しているのですが、お茶を濁してばかりで全く話が進みません。地球から遠く離れていることもあって、相談する相手もおらず困っています。軍人である艦長に相談することではないのは、十分承知してはいるのですが、知恵を貸して頂くことはできないでしょうか」
市長の言葉には熱があった。そして、ロニーを襲った軽巡洋艦の艦長が決して口を割らなかった理由もよく分かった。だが、
「市長の思いは理解しました。ですが、私は一介の軍人に過ぎません。何とかするという保証は致しかねますが、できうる限りのことはしてみたいと思います」
「その言葉だけでもありがたいです。是非とも宜しくお願いします」
即答を避けたにもかかわらず、ロニーの手を握るスーリヤ市長の手は熱かった。
ロニーは、バスから降りると携帯端末でヴィーザルと連絡を取り、一番ドックへの接舷を命じたのち、同行しているメンバーとともに市長が主催した質素な晩餐会に参加した。会場は古く、料理も決して豪華なものではなかったが、久しぶりの来訪者に対する好意だけはひしひしと伝わってきた。
2時間もしないうちに散会となり、ロニーたちは一番ドックへと向かった。捕虜だった軽巡洋艦のメンバーは、すでにコロニー側へ引き渡されている。ロニーは“ヴィーザル”の搭乗口で市長と別れの挨拶を済ませると、艦長室へと向かった。そして、カタリナとハムザを呼びつけると、そこから丸々二日こもりきりになった。外部との接触は、食事をジーナに届けさせるだけで一切行わず、副長のラモンですら何をしているのか分からなかった。なお、この時に何をしていたのかをラモンたちが知ったのは、箝口令が解かれたあとである。
カタリナとハムザを解放したのち、ロニーは作成したデータを持って司令官室へと向かった。艦長室に入るロニーは火星自治共和国軍大佐としてだが、司令官室に入るロニーは火星自治共和国枢密顧問官としてである。ロニーは兜と仮面を脱ぎタカハシ=トオルの素顔をさらすと、司令官執務デスクの端末を立ち上げ、ある人物を呼び出した。
「お忙しいところ、恐れ入ります」
トオルの端末に映っているのは、火星自治共和国のナディア=レスコ主席だった。栗色のストレートヘアは瑞々しいが、エメラルドグリーンの瞳は疲れでややうつろになっているようにトオルは感じた。
「こちらの旅路は今のところ順調です。そちらの状況は、いかがですか」
「お久しぶりですね、タカハシ顧問官。こちらの状況は、あまり芳しくありませんわ」
ナディアの声は精気を欠いていた。一つため息をついて、ナディアは呼吸を整えた。
「我が方の再編が進んでいない隙を、クーデター軍に突かれました。アルゴス=シティに駐留していたメンツァー中将の第176師団が敗れ、クーデター軍の勢いが増してきています。ルーデンドルフ提督の指揮のもと、第七艦隊による周回軌道上からの空襲で何とか勢いを止めているという具合で、まだ反抗の糸口を掴めておりません」
「連邦政府の動きに変化はないのでしょうか」
「我々に火星を任せると言っておきながら、火星への遠征計画を進めているようです。ただ、遠征が実現するかどうかは分かりませんね」
「と、おっしゃいますのは?」
「私たちへの自治権容認が、地球圏にも影響を与えているみたいなのです。一旦沈静化していたサイド3の反政府活動が胎動を始めたのを皮切りに、各所で自治権を要求する活動が起きています。それに睨みを利かせなければならないので、遠征どころではなくなるのではないかと私は思っています」
「そうですか…」
トオルは胸を撫で下ろした。木星に行って交渉をまとめ上げたところで、肝心の共和国政府が消えてしまったら何の意味もない。
「アルゴス=シティの件は残念ですが、持ちこたえていると聞いて安心しました。ところで、閣下に提案があって連絡させていただいたのですが」
「そうだと思いました。何でしょうか」
ナディアの表情が明るくなった。と、トオルは感じた。
「我々は現在、アステロイド=エリアベータにいるのですが、ここの惨状は目を覆わんばかりです。何の魅力もないただの片田舎と、連邦政府が思っているからでしょうね」
トオルはスーリヤ市長から聞いた話と、艦長室で調べた連邦政府の資料をかいつまんで説明した。アステロイド=ベルトへの連邦政府の支出は、生活環境を維持するために最低必要なものだけで、産業振興や地域活性化につながる投資的なものは、名目だけの僅かな金額しか投入していないこと。そして投資的なものは、全額コロニー公社に流れているので、実際にアステロイド=ベルトへ行き渡っているかどうか分からないこと。アステロイド=ベルトに魅力を感じない若者が大勢いて、そのほとんどが別の場所へと移り住んでいったこと。残っているのは、移住しても生活ができるような能力を持っていないものばかりで、高齢化が著しいこと。予算がないことと人口の減少から、閉鎖しているコロニーが多数あること。地方自治体レベルでは地域を維持するのが困難なので、連邦政府へ幾度も働きかけをしているが、明確な回答を得られないこと。地方自治体レベルでは、地域の完全閉鎖を視野に入れていること。などである。
「以前は、木星航路の補給ポイントとして、そして鉱物資源獲得ポイントとして、アステロイド=ベルトは注目されてきましたが、今では熱核クローム航法の普及と、木星の衛星“エウロパ”と“ガニメデ”が新たな鉱物資源発掘先となったことから、アステロイド=ベルトは連邦政府から完全に見捨てられています。ですが、火星自治共和国としては、このアステロイド=ベルトの掌握こそ、重要な国策であると考えます」
「それは、何故ですか」
「火星より内側の内惑星系と、木星系を遮断できる場所だからです」
トオルは、ナディアのエメラルドグリーンの瞳を真っすぐに見据えた。もし、木星の第九艦隊を味方に引きずり込めなかったとしても、アステロイド=ベルトを掌握して艦隊を配置すれば、地球へ向かう木星からの船団を拿捕したり、追い返したり、破壊したりして、地球と木星を遮断することができる。あるいは、第九艦隊が敵対行為に出たとしても、アステロイド=ベルトを前哨基地にすることができる。アステロイド=ベルトを掌握すると、地球連邦政府に対して地政学的に有利な立場を手にすることができるのだ。
「アステロイド=ベルトの住民は、連邦政府が悪者となって減らしてくれました。しかも、不要なコロニーの閉鎖までしてくれています。もともと、木星船団の補給ポイントとして栄えていたので港湾設備も充実しています。住民を追い出しさえすれば、たいして予算をかけることもなく、すぐに鎮守府として利用できます。そして住民は、アステロイド=ベルトでの生活に限界を感じています。機会さえあれば出て行きたいけど、仕事も移住する場所すらない。ならば、火星自治共和国の斡旋で、アステロイド=ベルトの住民を火星で不足している農水産業従事者にしたらいかがでしょうか」
「なるほど。もともと連邦政府に反感を抱いている人たちだから、そこそこの待遇さえ与えれば共和国の支持者になってくれますね。さらに、安い値段で前哨基地も手に入る。願ったり叶ったりですね。ですが」
ナディアは咳払いすると、トオルをじっと見据えた。
「アステロイド=ベルトにどれだけの戦力を置けば良いとお考えですか」
「対峙するのは、木星船団とその護衛艦隊だけです。四つのエリアに一個戦隊ずつ配置すれば十分です」
「ということは、第七艦隊の20~30%もの戦力を振り向けることになりますね。火星の防衛力が著しく減退してしまうのではありませんか」
現在、クーデター軍にてこずっている火星本国の指導者としては、当然の主張だった。できる限りの軍事力を手元に置いておきたいというのは、古今東西を問わず国家指導者の共通の欲望だ。だが、ナディアがこういう疑問を投げかけてくることを、トオルは予想していた。
「もし、今すぐアステロイド=ベルトの自治体にこの提案を出したとしても、各方面への根回しや手続きに時間がかかるので、実行に移されるのは早くて二年後、全て完了するのは三~四年後でしょう。その間には、クーデター軍との決着はついていると思います。アステロイド=ベルトへ艦隊を配置することになるのは、クーデター軍との決着がついた後になります。ですから、共和国軍が仮想敵として考えるのは連邦軍ということになります。ところで、かねてから抱いていた疑問があるのですが」
今度は、トオルが咳払いをした。少し間を空けてトオルはナディアに尋ねた。
「火星自治共和国政府は、いずれ地球連邦政府と覇権を争うつもりなのですか」
あまりに露骨な爆弾だった。相手に野心があるのかなんて尋ねるのは、普通じゃありえない。だが、トオルの目には、相手に嘘を言うことを許さない真剣さがにじみ出ていた。さすがにナディアも、このトオルの質問、そして迫力に鼻白んだ。目をしばたたかせると、ナディアはゆっくりと答えた。
「私たちは、あくまで火星自治共和国です。将来は自治の文字を取り払いたいと考えていますが、それ以上のことは考えていません。地球圏のことは、地球圏に住む人たちが考えることであって、火星に住む私たちが考えることではない。これは、他の枢密顧問官の方々とも共有している理念です」
「それを聞いて安心しました。それでしたら、2~30%の戦力減は問題ないと思います」
トオルは資料を用いながら説明を始めた。要は、くしくも先程ナディアが言ったように、地球圏内部に爆弾を抱えている連邦軍が、全軍を火星に派遣することはできない。地球圏の人口と活動領域を考えても、最大で一個艦隊までとトオルは断言した。
「もともと火星には、第七、第八の二個艦隊があります。クーデター軍との戦いで消耗し、更にアステロイド=ベルトに戦力を差し向けたとしても、火星に一個艦隊以上の戦力が残ります。一対一、しかも連邦軍は遠路はるばる火星までやって来るのだから消耗している。十分に対抗できると考えます」
「なるほど、よく分かりました」
ナディアの目は晴れ渡っていた。
「タカハシ顧問官のご意見を、他の顧問官の方々にも諮ります」
「ありがとうございます」
画面のナディアに、トオルは深々と頭を下げた。