機動戦士ローガンダム   作:J・バウアー

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烈竜篇
PHASE 0(1)鈍重


 地球連邦政府の成立から宇宙世紀が始まり、すでに三百年以上が経過していた。

 その間、人類は居住空間を地球の外へと広げ、月の軌道の内側にコロニー群そして月面都市を建設、宇宙開発省長官にホー=フェイリンが就任すると火星のテラ=フォーミング計画が立ち上がる。その後、紆余曲折を経て計画が実行に移され、長い年月をかけようやくテラ=フォーミングが完了しようとしていた。

 完了を目前に控える中、火星でクーデターが発生した。テラ=フォーミングが中盤に差し掛かる頃から工事が減少、作業員がダブつくようになり、労働単価が減少。所得格差が広がる中、火星総督府が生活環境維持のための費用を賄うために大幅な間接税引き上げを次々に敢行。火星居住者の生活が苦しくなって、連邦政府に対する不満が急拡大したことが、クーデターの発生を招いた。

 連邦政府は、クーデター鎮圧のために手を打ったものの失敗。火星の有力組織“アリップ”に火星自治共和国成立を認める代わりに、連邦政府の存在自体を否定するクーデターの鎮圧を要請。クーデター軍と共和国軍の内乱が始まった。

 そんな中、火星自治共和国枢密顧問官に、仮面を被った士官ロニー=ファルコーネ大佐が就任。宇宙戦闘母艦“ヴィーザル”の艦長となって、アステロイド=ベルトと木星圏を調査。一定の収穫を経て、現在火星への帰還の途についていた。ようやくの思いでアステロイド=ベルトまでたどり着き、通常通信が可能となったので、火星自治共和国軍とクーデター軍の戦況の詳細について事細かに収集した。そこで得た情報は、ロニーを唖然とさせるものだった。

「なぜ、こんな消極的な作戦をとっているのだ?」

 艦長室のモニターで共和国軍の戦力展開図を見て、ロニーは苦々しくつぶやいた。クーデター軍は戦力を集中させて、火星自治共和国の事実上の首都となっているカドモス=シティへ向け進軍している。それに対し共和国軍は、クーデター軍の本拠地であるウラノス=シティを遠巻きに包囲する形で軍を布陣しており、クーデター軍の鋭鋒を少ない地上軍と衛星軌道上に展開する第七艦隊で何とか防いでいる状態だ。共和国軍は防戦一方となっているにもかかわらず、遠巻きに布陣している地上軍を遊兵にしている理由が、ロニーには分からなかった。そこでロニーは、枢密顧問官の立場を利用して、共和国軍総司令官のルーデンドルフを呼び出した。ルーデンドルフから引き出した答えは、

「全方向から圧力をかけて、クーデター軍が自ら投降してくれるのを待つ」

で、ロニーはルーデンドルフのあまりの煮え切らなさに呆れ果てた。

「そのような策を採られる理由をお聞かせくださいませんか」

 苛立つ気持ちを抑え、平静を装ってロニーは尋ねた。対するルーデンドルフは、自分の専権事項に他者が介入してきたことへの苛立ちを隠さなかった。

「クーデター軍の兵站は貧弱だ。いずれ必ず息切れする。正面決戦をして味方の出血を大きくする必要性を感じない」

 当たり前のことを聞くなと言いたげだった。世界が共和国軍とクーデター軍の二者しかいないのであれば、ルーデンドルフの言うことは正しい。だが、現実はそうではない。そのことを、ルーデンドルフは理解しているのだろうか。ロニーは心配になった。

「申し上げにくいのですが、ウラノス=シティの包囲が出来上がって日が経つにもかかわらず、クーデター軍の戦意は旺盛で、味方は押され気味です。この状況を変えない限り、クーデター軍がカドモス=シティに達してしまう可能性を、決して捨てることができないと感じます」

「今のペースでクーデター軍が進撃を続けたとしても、カドモスに達するまで二~三年はかかる。そこまで、クーデター軍の息が続くとは思えん」

「二~三年は長すぎます。もっと早く決着をつけるべきです」

 ロニーの語気が強くなったので、ルーデンドルフは眉をひそめた。

「ロニー君、言いたいことがあるなら、はっきりと言ったらどうだ」

「では、申し上げます」

 ロニーは説明を始めた。内容は、いつぞやジーナに語ったことと同様だった。連邦軍の介入の可能性について、ロニーは執拗に強調した。

「我々に自治権を認めたばかりに、地球圏の各所で自治権要求運動が活発化しています。それを抑える手段の一つとして、我が火星自治共和国の統治能力に疑問符を投げかけ、それを口実にして連邦政府が大規模な制圧活動に出る。自治権要求運動に対する見せしめとして火星を蹂躙し、地球圏の活動家たちを震え上がらせる可能性は、十分にあり得ます。それを防ぐためには、どのような犠牲を払おうとも、一刻も早く内乱を終結させねばならないのです」

「………」

 ルーデンドルフは腕を組んで黙り込んだ。沈黙は一分ほどだったが、かなり長い時間にロニーは感じた。それなのにルーデンドルフが出した結論は、あまりに平凡なものだった。

「ロニー顧問官のご意見を検討する」

「少しでも早いご決断を願います」

 ルーデンドルフの煮え切らない返答に、ロニーは失望した。

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